ようこそ孔明のいる教室へ 旧バージョン   作:tanuu

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群れを飛び出しても生きていけるような人間が集団を作った時、その組織は強くなる。

『河上和雄』


66.改革の嚆矢

 低レベルだ。八神拓也は内心そう吐き捨てた。高度育成高等学校。名前に負けずさぞご立派な授業なのだろうと考えてはいた。しかし実態は違う。非常に簡単であり、眠くなるほど単純な授業だ。同じ年齢の生徒が驚くほど簡単な問題に悪戦苦闘している。これでもBクラスと上の方ではあるのだから笑わせる話だ。

 

 園児の中に大人が混じっているような錯覚さえ感じてしまう。時間の浪費にすら思えている。しかし別に暇では無かった。隣の席を観察する。おおよそ真面目な授業態度とは言えない。別に座り方や姿勢に問題があるようには見えなかった。だがそのノートにまともに回答が書かれているのを彼は見たことが無かった。

 

 諸葛魅音。2年Aクラスの首魁にして最初のオリエンテーションで月城より最も危険かつ最も才能あるホワイトルーム以外の生徒。綾小路清隆と同格。綾小路先生と共にホワイトルームを作りだした偉大な理論家の子息であることを告げられた諸葛孔明の従妹である。と、本人が名乗っていた。勿論オリエンテーションで聞いたような内容は省いてではあるが。

 

 そのノートはいつも何かの絵が描かれている。チラチラと視線をやってみれば、あまり芸術に関して審美眼がある訳でもない彼が惹きつけられるような、そんな絵が白黒で描かれている。恐るべきはこれがシャーペン1本で描かれたものという事か。巧拙くらいは芸術教育を受けていない彼でも理解できた。芸術家に見えてその装いは白衣。

 

 校則では制服以外を着てはいけないと書いてあるが制服の上に何かを着てはいけないとは書いていない。何でも教員で協議したらしいが、成績優秀でありかつ他人に迷惑をかけている訳でも無いこと、制服はボタンを閉めていないので見える事からまぁ良いだろうという事になったそうだ。くだらない、と彼は思った。そんなどうでも良いことに一々協議するなど時間の無駄だからだ。

 

 ノートには絵。しかし指名された際は即答している。教科書をほとんど見ることなく、答えているようだった。彼、八神拓也はここでやっと安堵、或いは喜びにも近い感情を抱いた。自分と同程度、少なくともこの授業に意味を感じていない存在がいたからである。

 

『綾小路清隆はもっと凄かった』

 

 呪いのようにこびり付いた何千回と言われたこの言葉。これを打破するべく自分はここにいるのだと彼は言い聞かせる。どれだけ結果を残しても。どれだけ努力しても。カリキュラム上の100点を満たしているはずなのに、彼らは120点を要求してくる。神のように崇める者もいたが、それは意味が無いと切り捨てた。自分は必ず結果を出して見せる。ホワイトルームの成功例として生きてみせる。

 

 では、何のために?その答えを彼は用意している。自分の存在意義を守るため。では、そうまでして守った存在意義に何の価値があるのか。それを彼は無意識に見ないようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 無機質な部屋。そこが彼の居場所である。ホワイトルームは何もなかった。文字通り、何もない。だからこそ、その生活に慣れている。物に溢れた生活は考えもしなかった。そのため八神拓也の部屋は何もない。最低限の家具以外は置かれていない。

 

 そこのベッドに横たわる。憎悪の炎は今日も消えていない。毎日のようにその炎は赤々と、いやむしろ毒々しく彼の心に燃え盛っているのだ。これを抑えることは出来ない。彼がそうするつもりもないのは、言うまでもないだろう。

 

「綾小路清隆」

 

 その名前を口に出す。砂を噛んでいるような、泥を食べているような感覚が口の中に広がる。名前をいう度に憎しみは、怒りは、憤りは募っていく。脱落者に対する同情などない。だが監督者が与えたカリキュラムで完璧を叩きだしても理不尽にその上を見せられるのは綾小路清隆のせいであると常々感じていた。多くの脱落者がその埋まらない差に絶望し、心を折った。いつしか残ったのは憎しみを抱く自分と、崇拝するもう1人だけ。

 

 天沢一夏は役に立たない。彼女は本気で綾小路清隆を退学にしようとしないだろう。何故なら彼女はアレを崇拝しているから。やはり自分がやるしかない。そこまで考えたところでインターホンが鳴った。自分を訪ねてくる存在に彼は心当たりが無かった。何か忘れ物をして、親切に届けてくれた存在がいるのだろうか。いかに低級な頭脳を持つクラスメイトとは言え、それには感謝せねばならないと思い、彼は余所行きの顔を作る。

 

 玄関のドアを開ければそこには自分を見下ろす存在が立っていた。見下ろすと言っても精々数センチの身長差だが、思えばホワイトルームに高身長の女子はいなかった。もしかしたらその素質がある存在はいたのかもしれないが、成長期を迎える前に皆いなくなったので分からない。

 

 赤みがかった髪。赤い目。赤い唇。赤い爪。赤に染まった身体に白衣を纏った少女が立っている。その名は諸葛魅音。先ごろ宝泉和臣を追い出した諸葛孔明の従妹。何故ここにいるのか。それを彼は分からないでいた。確かに席は隣だが接点はない。忘れ物を届けてくれるようには見えなかったが。

 

 不意に彼の脳内に此処へ来るまでのバスの記憶が蘇る。あの時、彼女は何と言ったのだったか。思い出そうとする彼を遮るように彼女は口を開いた。

 

「失礼します」

 

 家主の同意を得ず、彼女は室内に入ってくる。見られてマズいものは無い。しかしいきなりの行動に八神拓也は人生初の大混乱を味わっていた。ホワイトルームにそんな訳分からない行動をする人間はいない。ある意味で常識的な存在、画一された存在しかいないのだ。非常識はホワイトルームの存在そのものを指す言葉としては有効だが、その中で育つ子供には欠如する要素だった。

 

「ちょ、ちょっと」

「……随分と物が無いですのね」

「そうでしょうか。確かに少ないかもしれませんけれど」

「八神拓也さん。貴方はミニマリストと呼ばれる性質を持っておいで?」

「いえ、そういうつもりは……特にないですが」

「そうですか」

 

 彼女は持っていたファイルを机に置き、椅子を勝手に引き出して座った。帰れというつもりであったが言ったところで聞かなそうな雰囲気を醸し出している。こうなっては面倒だが付き合うしかないかもしれないと半ば諦めた。それに、綾小路清隆退学作戦においては事情を知っている数少ない同志でもある。加えて学校での態度も相まって交流を拒みたい人物では無かったのだ。

 

「あの、何の用事ですか?」

「治療です。貴方は(わたくし)の患者。必ず救わねばならない存在、神によって私の元に運ばれ、出会う定めであった方です。最初にお会いした際、そう言ったはず」

 

 この時の彼の心情はヤバいであった。彼は高度な教育を受けている。しかしその中に宗教団体の勧誘員の断り方はなかった。そもそも彼らの受けた教育内にある宗教は主要な物しかない。即ちキリスト、仏教、イスラム、ユダヤ、儒教、ヒンドゥーなどである新興宗教などの考えは知らない。未知の価値観、未知の存在に遭遇した八神の脳内はありていに言えばバグっていた。混乱しているのである。

 

 神、神とは何ぞ?Godなのか八百万の神的なものなのか。そもそも彼女は何なのか。治療とは何か。定め?何もわからない。彼が憎悪も全て放棄して帰りたいと一瞬でも思ったのはこの時が初めてであった。何なら一応の同志である一夏に助けを求めている。

 

 そんな風に目をぐるぐるさせている彼を見つめながら、諸葛魅音は軽く頷いた。彼女の目的は混乱させること。精神状態を少しずつ脆くしていく。作られている壁を1つ1つ剥いで行く。それが彼女のしたいことであった。彼女は八神の置かれた状況と彼に眠る憎悪や承認欲求を見たうえで、どんな人生だったかも想像している。

 

 だがそれを言ってはいけない。ここでするのは交渉ではなく治療。八神拓也自身が自分で口を割り、己の半生や内面について語るようにしないといけない。全てはその為の手段であった。

 

「治療?僕に何の治療が必要なんでしょうか。僕は健康ですし、そもそも諸葛さんは医療従事者では無いはずです」

「私は精神科医ですの。正確にはカウンセラーも兼ねていると言った方が良いかもしれませんけれど。そして貴方は間違いなく病です。それは身体の面ではなく、内面。心の病を貴方は抱えている。故に貴方は健康ではありません」

「……もし本当にそうだったとしても、諸葛さんにどうこうしていただく謂れはありません」

「そちらからすればそうかもしれませんわ。けれどここで貴方を見捨てては神よりの使命に背くことになります」

「…………神」

「ええ。神です」

「……」

「貴方は患者です。私がそう決めました」

「そんな無茶苦茶な……」

 

 彼は若干泣きそうだった。自分が何をしたというのだろう。何でこんな目に。そう思い始めている。けれど同級生の前で弱みを見せるのはマズいと踏みとどまり、対応を試みる。手を挙げる訳にもいかない。相手の実力は未知数だし、何より1回腕をまくったのを見たことがある。細い腕であったが筋肉はついていた。加えて剣を握った人間に特有の手をしているのを確認している。手練れであるのは分かっていた。

 

 そして色々考えた末に彼がとった戦略は諦めるであった。ここでどうこうしても向こうの気が済むまでは帰る気配がない。ならば諦めて言う事を聞いていればそのうちどうにかなるだろう。ひどく受動的ではあるが、こうするほかはないと彼は考える。そして実行することにした。

 

「……分かりました。僕が心を病んでいて、それを諸葛さんが治療するというのは千歩ほど譲って良いとしましょう。で、どうやって治すんですか。見ず知らずであり、信頼関係もない貴女が。言っておきますが、僕は貴女を信頼しませんよ。例の件で呼ばれているので能力の信用はしていますが」

「最初から無条件に人を信じているとすれば、それはそれでまた別の問題です」

「で、何をするんですか」

「会話をします。全てはそこから」

 

 そういうなり彼女はペンを持った。何かが記されている紙に文字を書き始める。そして口を開き始めた。

 

「名前は」

「……八神拓也」

「誕生日は」

「11月13日」

「血液型は」

「A型」

「年齢は」

「15歳」

「趣味は」

「……」

 

 尋問のような簡単かつ単調な質問に拍子抜けしつつ答えていると突然答えに窮する質問が出てきた。趣味。趣味は何だろう。そもそもホワイトルーム生に趣味は存在しない。強いて言えば天沢一夏には綾小路清隆を拝むという趣味があるが、アレはもう若干宗教の域なので趣味という訳でもない。対外的に示せるような趣味を彼は持っていなかった。

 

「では、貴方がここへ来た理由は」

「それは勿論、高度育成高等学校で望む進路を得るためです。他の人だってそうでしょう」

「好きな人は。いなければ尊敬している人でも」

「いる……けれど貴女に言う筋合いはないです」

「嫌いな人は」

 

 そう問われたとき、自分でも気づかないほどに彼の顔は一瞬だけ歪んだ。ひどく醜く、ひどく傷ついたように。

 

「嫌いなその人を嫌いな理由は?」

「…………」

「医者は守秘義務は守りますわ。特に患者の個人情報と診察で知りえた内容は」

「何をしても僕の上を行く。だから憎んでいる。それだけです。貴女には関係ないでしょう!もう十分では?そろそろ帰って欲しいのですが」

「良いでしょう。また来ます」

「もう二度と来ないで欲しいですが」

 

 彼女はあっさりと引き下がった。彼の予想に反して、彼女はすぐに席から立ち上がり、荷物をまとめて部屋を後にする。彼は拍子抜けしたような気分で頭を左右に振った。今まで見ていたのは悪い夢だったと思うようにして彼はベッドに倒れこんでそのまま寝た。精神にどっと疲労がのしかかり、食事をする気分では無くなっていた。もう何もないだろうと思い彼は目を閉じる。

 

 ――――翌日も来た。その翌日も。その更に翌日も。ずっと話すのはたわいのない質問だけ。時折核心に近いことを聞こうとして軽く答えて追い払う。1日目と同じような展開の繰り返しだった。八神拓也はむしろ逆にストレスを貯めていた。治療どころの話ではない。何でこんな目に。そんな思いを抱きながら寝る日々。流石に顔色が悪くなってきたのを一夏に心配されたが適当にあしらってしまった。何となく、相談したら負けのような気がしたからだ。

 

 そしてのその日も彼女は来た。もう拒む気力すら無くなり始めていた。人は予想外の異常が続くと段々とそれを正常と思うようになる。ストレスを避けるためだ。そして彼の心情も今まさにそんな様態だった。まさかそれが全てそういうシナリオ通りとは知らずに。疲れ切った彼は尋ねる。

 

「今日は何の質問ですか……」

「今日は質問ではありません。私と、従兄の話です」

 

 そう前置きして彼女は話し始めた。彼女と従兄である諸葛孔明は育った環境こそ違うものの、お互いにずっと上を向くことを義務付けられていた。それは彼でいう綾小路清隆のような目標値がいるのではなく、目指すべき到達点も分からないまま、ずっと120点を要求され続けてきた。彼女と従兄の祖父はそうして2人を育てた。そういう話を淡々と彼女は語る。

 

 もちろん肝心な部分は弾いている。自分の異常な性質、孔明の特殊過ぎる環境や経歴。それらを全て除きつつも要点だけを話す。全ては共感を得るために。彼が嫌っている人物がいて、おそらくそれはこの学校にいる。その対象におおよその見当はついていた。だからこそ綾小路清隆と接触を図った。気付いた理由は例のゲームの説明時。僅かに彼は表情を歪ませた。本当に僅か、それは殆どの人間は気付かない皮膚の下の表情筋の動き。それを察知して彼の思考を読み取ったのである。

 

 同情させる必要はない。しかし同じような境遇であったことを話すのは共感を誘う常套手段であった。連日の訪問と混乱でホワイトルーム生である――尤も彼女はそれを知らない――はずの彼ですら精神を疲弊させていた。憎しみは存外に心を疲れさせる。それも激しく毎日のように憎悪していればなおのこと。ホワイトルームのような場所ならば生きる糧になるだろうが、別にそうしなくても生きられるイージー空間に放り込まれた彼の憎しみは、存在意義を失い宙ぶらりんになっていたのである。

 

 そして彼は思ってしまった。可哀想などではなく、それは大変だろうと。彼は知っている。まだ綾小路清隆を目撃する前。彼は綾小路清隆という存在などありはせず、教官たちが作りだした架空の存在ではないかと疑っていた。その疑いは察知されすぐに訂正されることとなるが、それまでの僅かな間だが彼は思っていたのだ。もし存在しない架空の人物だったとしたら、頂などなくてずっと上を目指さないといけないのか、と。その絶望と苦しみを一瞬だけ彼は思い出した。否、思い出してしまった。それが罠だとも気付かずに。

 

「まぁ、気持ちは分かる。上り続けるだけなのは、確かに大変だ」

「貴方にも、その経験がありますか?」

「……まぁ、そんなところだ。尤も、僕の場合は越えなければならない存在が実際にあったけれど」

「それは、綾小路清隆ですか?」

 

 突然突かれた真実に彼は固まる。

 

「な……何を……」

「見ていれば分かります」

 

 その動揺は答えを示しているようなものだった。彼は激しく動揺した。見抜かれるはずなどないと思っていた。実際ほぼ全員、綾小路清隆本人すら気付けていなかった。それほどまでにその憎悪は隠せていた。諸葛魅音がおかしいだけである。この精神関連に特化した少女は彼の見えないはずの心理を見ていた。

 

「あぁ……あぁそうだ!僕が憎いのは、殺してやりたいのは綾小路清隆だ!あいつを殺す。絶望させながらここから追い出す!そうすれば僕が1番だ。僕が認められるんだ!僕が存在できるんだッ!!」

 

 見抜かれた動揺、最近のストレス、長いこと募らせ、誰にも見せられなかった憎悪。溜まった複数のよどみは、今怒鳴り声と共に放出された。この寮は壁が分厚く、怒鳴っても隣室には聞こえない。それも彼の心理的ハードルを下げていた。荒い息を吐く彼を、赤い少女は白衣のまま見つめている。その手はカルテに色々と書き込んだままであるが、その文面を一切見るとこはなく彼女の瞳は彼を見据えている。

 

「分かりました」

「は?」

「では、綾小路清隆を退学させる方法を考えましょう」

「結構だ。僕1人でやらなければ意味はない」

「確かに1人でやるのは立派ですが、周りを動かせたというのも結果的には貴方の力では無いでしょうか。そちらはもっと立派だと私は思いますの」

 

 彼女は決して八神拓也という人間を否定しない。行動を否定しない。別の選択肢を提示するだけ。それも戦略の1つ。否定するのは精神治療において悪手だ。統合失調症患者の治療でもよく言われることだが、否定すると相手はより意固地になってしまう事がある。だからこそ否定はせずに対処するのだ。

 

「今日はここまでといたしましょう」

「もう帰るのか?」

「お嫌ですか?」

 

 彼女の目が真っ直ぐに彼の瞳を見る。彼はそれに暫く魅入られつつもすぐに回復した。何故引き留めるようなことを。あんなに来ないで欲しい、さっさと帰って欲しいと思っていたのに。ほだされたのか。自問自答しながら彼は見送った。

 

 人は弱みや秘密を見せた相手を信用しようとする傾向がある。そうしないと自分が不安だからだ。信用したい。信じたい。そうでないと自分の隠したいものが明らかになってしまう。そういう心理から信じようとする。結論、人は見たいものしか見ないし、信じたいものしか信じない。彼の理性は信用するなと叫んでいる。感情は憎悪を見せてしまった以上信じるしかないと言っている。

 

 情緒も感情もぐちゃぐちゃだ。加えて平時の学校生活でも何かと世話をしないと生きていけない雰囲気を感じている。見捨てるのも後味が悪いのと外である為世間体もあった彼は色々しているが、そのせいで振り回されてばかりだ。何が何だか分からない。ああいう人種の対応の仕方をホワイトルームは教えなかった。何も分からなくなった彼はまたベッドに倒れこんだ。もう何回目かも数えられなくなりながら。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 2年Aクラスのペア決定は終了した。大半は1年A~Cクラスの上位層と組んでおり、真澄さん、葛城、坂柳、的場、山村の5名もDクラスの学力最下位層と組んだためにペアは決定している。彼ら5名は確かに勝ちに行くには良くない選択を指せたように見えるかもしれないが、それ以外の大多数が5名の結果を上書きできる組み合わせになっている。故に問題ない。

 

 そして私だが、どこからか誘いが来ると思っていたが誰1人として来ず。1年Dクラスに関しても全員ペアを完成させていたので悲しいなぁと思いながら瑞季と組むことにした。ここは完全に勝ちに行く布陣、満点狙いの上司&部下コンビである。これで全ペアは決定し、我がクラスに関してはペア決めをいち早く終了させた。やるべきことは点数の底上げであった。

 

 これに関する授業を学年別に行わないといけない。やり方を変えたり、各人の状況や適性を考えて作らないといけないので非常に面倒ではあるが、これをやることで勝つ確率をより増やせるのであればやらない訳には行かないだろう。それは理解しているのだがやはり疲れるもので、授業後の休み時間は死体みたいになってボーっとしている時があった。

 

 そして5月1日を迎える。今回の特別試験、その結果を知る時がやってきた。先生が入室してくる。

 

「既に知っての通り、これより特別試験の結果発表を行う。こちらから前にも表示するが、手元のタブレットでも確認できるのでそちらを推奨する。では、行うぞ」

 

 画面にパッと結果が表示される。今回は変則的な5教科5科目。しかも100点満点中の10点ほどは高校範囲からも逸脱していた。ハッキリ言ってこれは定期試験としてド三流と言わざるを得ない。100点阻止問題は大いに結構。しかしそれは既存の学習範囲から出さないでどうする。高校範囲であっても学年が違うものもあった。腹立たしい。受験に全く役に立たない辺り、前に真澄さんに話した疑念は正しかったことがほぼ証明される。

 

 もうやめた。学校に勉強面で期待するのは完全に諦めよう。別種のカリキュラムを別途作成するしかない。そうでもしないとろくでもない人間を送り出すことになってしまう。習ってない問題を出してどうするんだ、馬鹿なのかと心中で罵りながら回答をした嫌な記憶が蘇る。

 

 結果は以下の通り

 

 

 

<特別試験・総合順位>

 

1位・2年Aクラス……平均790点

2位・2年Cクラス……平均700点

3位・2年Dクラス……平均685点

4位・2年Bクラス……平均673点

 

 

<5月1日時点のクラスポイント>

 

A……1434

B……799

C……728

D……526

 

 となっている。Bクラスはそろそろ崖っぷち。Aクラスは問題なし。CはもうすぐBが見えてきて、Dはさして伸びていないがまだまだ可能性はある。平均点から言えば私の授業のおかげだけとは言わないが、それも上手く作用したのか圧勝だった。学力レベルはかなり高まっている。

 

 そして個人間の順位もかなり面白いことになっている。各教科に満点が存在しており、90点台も少ない中存在感を大きく放っている。

 

 

<最高得点獲得者>

 

国語……100点 諸葛孔明

数学……100点 綾小路清隆/諸葛孔明

英語……100点 諸葛孔明

社会……100点 諸葛孔明

理科……100点 綾小路清隆/諸葛孔明

 

 

 綾小路は理数系という事で売り出すつもりなのか、理科と数学を満点獲得で締めくくった。それ以外の教科の点数も90点台を獲得しており、実力をこれから発揮していくという意味での宣戦布告に近い形と言えるかもしれない。

 

 他の生徒を見てみれば、総合点順位も面白いことになっている。

 

 

<2学年総合点順位>

 

1位……諸葛孔明      500点

2位……綾小路清隆     490点

3位……坂柳有栖      475点

4位……葛城康平      450点

5位……堀北鈴音      444点

5位……幸村輝彦      444点

6位……一之瀬帆波     435点

7位……高円寺六助     430点

8位……神室真澄      428点

9位……椎名ひより     420点   

10位……的場信二      415点

 

 今回のやっていることがしょうもないくせに問題だけはやたらと難しいハッキリ言ってろくでもない試験であったが真澄さんはよく頑張ったと思う。前回の1年生最後の試験の時より順位を1つあげている。これは目には見えにくいが着実な成果だろう。428点という事は単純計算で各教科約85点。ミスしてはいけないところをほとんど落とすことが無かったという事実を示している。最後の10点は無理ゲーと言って差し支えないが、そうでない20点分くらいも相当難しく出来ていた。そこも答えられているのは合格点と言っても過言ではない。

 

 前回の試験に主に自業自得で出れなかった坂柳はしっかり3位を確保している。でも君綾小路に勝とうとしていた割には点数全然届いてないじゃないか、と心中で思ってしまったが、まぁ良いだろう。他よりは出来ている。そもそもフィジカル面で期待が出来ないから勉強面で役に立ってくれるだろうと生かしているのだし、ちゃんと点数取ってくれないと困る。ランキング上位にいなかったらどうしてくれようかと思っていた。

 

 他の生徒も多くが高得点を確保している。そもそも赤点になると思っていた生徒などいないだろう。それにしてもいい結果だ。学力面ではやはり問題ない。後はこれを役に立たない学校のカリキュラムから受験に役立つカリキュラムへと変更を加えていくだけの作業となる。尤もそれが一番面倒くさいし、この試験の解説を作成するのもすごい大変なのだが。大学範囲とかはもう無視しよう。どうせ解けないし受験にも出ない。意味が無いのでやる必要が無いとあまり言いたくは無いが、取捨選択は肝要だ。

 

 今回の試験において上位の生徒でも問題文の意図すら理解できていない様子が見られた。だとすると、Cクラスは大変なことになっていそうだと想像がつく。綾小路は何故満点を取れたのか。その実力は本当はどうなのか。その辺の対応に追われることとなるだろう。

 

 先生は満足げな顔だ。彼は基本特別試験のたびに満足そうな顔をしている。してなかったのはクラス内投票の際だけ。学年末でも敗北から学ぶこともあるだろうと良い顔をしていた。1回の敗北で終わるようなクラスではないと思っていたからだとは思うけれど、その想いが今回間違っていなかったと証明された形になる。他クラスとも差があるし、先生としては文句なしなのだろう。

 

「非常に良い結果であったと思っている。慢心することなく次の試験に挑むように」

 

 そう言い残して先生は去って行く。非常に気分がよさそうであった。それを横目に見つつ、私は壇上に立つ。

 

「まずは今回の試験、お疲れ様でした」

 

 ねぎらいを残す。定型文に近いが、こういう定型文を怠ると良くない。

 

「さて、結果は勝利となり非常に良いことなのですが……私はこの学校のカリキュラムというか進路関連に著しい不安を覚えまして」

 

 クラスメイトの多くが疑問符を浮かべている。そもそも授業を受ける側はカリキュラムとかを気にする余裕が無いことも多い。というのも、与えられた課題に精一杯だからだ。しかし教える側はそういう訳にも行かない。坂柳の方を見つつ話を進める。素晴らしいことに彼女は教卓のド真ん前。不人気な席をくじ引きで引き当てていた。

 

 というか、カリキュラム関連で坂柳理事長に言いたいことが死ぬほどあるのだが。後お前は娘を入学させるな。もう敬意の欠片もない。こんな厄ネタを押し付けおってからにと思っている。もうこの際月城と一緒に頑張って学校改革したい。南雲はあと半年くらいで生徒会長を終えるし、そもそも奴は信用ならない。喧嘩容認とか言っている時点で終わりだ。

 

 となると次の生徒会長は現状葛城か一之瀬だが、私としては葛城になって欲しい。理由はまぁ、裏から色々出来るからだ。それはともかく、葛城は理論的な行動も出来る。私が感じている学校の問題点を話せば理性的に理解してくれる可能性が高い。後は坂柳理事長の息のかかっている訳がない月城と協力すれば上手くこのヤバイ監獄を改造できるかもしれない。

 

 というより理事長……あんた、娘を勝たせるためにこのクラスに入れたな?私がいれば勝てると思っただろ。理事長も我が父に世話になっていたようだし、その息子なら問題ないと思ってAにしたのが運の尽き。あなたの娘は今までモラルの高さに守られていただけです。後、天才を名乗るのを容認するなら大学の教育までは終了させておきましょう。

 

「取り敢えずといたしまして、ここで『先生』と呼んでいただき、かつ教鞭をとっている身としては看過できない状態なのです。あぁ、皆さんに瑕疵がある訳ではありません。これは学校の問題です。という事で……これより進路面談を実施します。対象者は全員。希望の職種と大学名を考えておいてください。日程は追ってご連絡します」 

 

 教師としては全員望む進路に行けるように最大限努力することが必要なのだ。その為には現体制では問題しかない。少なくとも現体制を作り上げた理事長には戻ってもらっては困る。綾小路には申し訳ないが、月城を続投させるための戦略を考える必要が出てきた。とりあえず最初にやる事は――――坂柳理事長の停職期間の延長だろう。具体的には後2年ほど。大丈夫ですよ、お父さん。娘はちゃんと私が更生させますので、安心してくださいね?

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