外交官と幽霊は微笑をもつて敵を威嚇す。
『長谷川如是閑 「如是閑語」』
68.選択肢
<現状クラスポイント>
A……1434(諸葛)
B……799(一之瀬)
C……728(堀北)
D……526(龍園)
―――――――――――――――――――――――――
<忘れた人用無人島特別試験ルール>
<2年次夏季特別試験ルール①・グループ>
・最大6人までの大グループを組み、協力して試験に挑める。
・大グループは同学年内であればクラス不問。組まないことも出来る
・今日~7月16日までの約4週間、好きな相手を同学年内で2人まで選んで最大3人までの小グループを作れる
・男女割合は以下の通り
1『男子1人』
2『男子2人』
3『男子3人』
4『女子1人』
5『女子2人』
6『女子3人』
7『男子1人、女子2人』
・『男子1人、女子1人』、『男子2人、女子1人』は不可
・小グループ確定後の変更は不可
・特別試験開始後に大グループ結成が可能。パターンは基本自由
・大グループ結成条件は4人以上の大グループにおいては女子の割合が5割以上であること
<2年次夏季特別試験ルール②・リタイア>
・1人で試験に参加した場合、その人物が続行不可能になった時点で敗退
・3人でグループを結成した場合、最後の1人がリタイアするまで続行可能
・最後の1人が試験を上位でクリアした場合、報酬は途中リタイアの人員にも与えられる
<2年次夏季特別試験ルール③・報酬>
1位グループ……300cp、100万pp、1プロテクトポイント
2位グループ……200cp、50万pp
3位グループ……100cp、25万pp
上位50%グループ(1~3位含む)……5万pp
上位70%グループ(1~3位含む)……1万pp
※上位3グループが得るクラスポイントは下位3グループの学年から移動される
※クラスポイントに関しては人数関係なくクラス数で均等に分配される(四捨五入)
※ppは全員同額貰える。分配等は無い。また、プロテクトポイントも同様
<2年次夏季特別試験ルール③・※の補足>
・上位の報酬は下位3グループの学年から均等徴収
・徴収額は報酬額と同じ
・上位下位が同学年の場合は、最下位は100、下位から2番目は66、3番目は33
・足りない場合は学校が補填
<2年次夏季特別試験ルール・④・ペナルティ>
・下位3グループからは③とその補足の通りクラスポイントを徴収
・下位5グループに属する生徒は退学
・退学取り消しには600万ppを支払う
・支払い金はグループの人数で分割可能。最大人数のグループの際は100万ppとなる
・残金の無い者がいても、残金の足りている者は自分の分を支払えば取り消し可能
・試験開始後はポイントの貸し借りは不可
<2年次夏季特別試験ルール⑤・カードⅠ>
基本カード
・先行……試験開始時に使えるポイントが1.5倍
・追加……所有者の得るpp報酬を2倍
・半減……ペナルティ時に払うppを半減。所持者のみに反映
・便乗……開始時に指定したグループのpp報酬の半分を追加で得る。指定したグループと自身が合流した際は効果消滅
・保険……試験中体調不良等で失格した場合、1日だけ回復の猶予を得る(回復した場合試験再開可能)。ただし、不正による失格には非対応
特殊カード
・増員……所持者は7人目としてグループに存在できる。本試験開始後に効力を発揮し、男女の割合にも左右されない。当然報酬は得られる
・無効……ペナルティ時に払うppを0にする。所持者のみに反映
・試練……cp報酬を1.5倍に出来る。ただし上位30%以内に入れなかった場合グループはペナルティを受ける。増加分の報酬は徴収ではなく学校が補填する
<2年次夏季特別試験ルール⑤・カードⅡ>
・どのカードも同学年内ではトレード可能
・クラス内でのトレードは不可
・一度所有者を変更させると再トレードは不可能
・重複に意味はない
・特殊カードは各学年に1枚しか配布されない=1つのクラスに3つが集中する可能性アリ
<2年次夏季特別試験ルール⑥・坂柳>
・2年Aクラス坂柳有栖は『半リタイア』という形で参加する
・島を移動は出来ず、スタート地点とその周辺にて生活する
・意見を求められれば返答可能。課題への挑戦も可能
・坂柳がグループ最後になってしまった場合は問答無用でそのグループの敗退決定
・上記により、1人での行動は不可能。最低2人以上の大小どちらかのグループで行動
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かくして、坂柳の受け入れは決定した。しかしながらこれは序章に過ぎない。ここからどういう戦略を取っていくのかで状況は大きく変化するだろう。しかも前回の無人島では私が大きくフォロー出来た。けれども今回はそうではない。多くの場面で自力で動いてもらわないといけない部分が出てくる。また、単純に不利な要素である坂柳。これを解決する手段を上手く見つけないといけない。
確かに、坂柳を本人の意思に反して置いていくことはできた。だがそれをすれば彼女からの印象は悪くなる。また、折角曲がりなりにも戦力である彼女を上手く使いこなせるようになるための手段を一つ失いかねない。それはあまり好ましい事態ではない。だからこそ両方の選択肢を天秤にかけて、参加させる方を選んだのだ。
次に決めるべきは他クラスの扱いだ。則ち、こちらが独立独歩を行くのか、或いは他クラスと同盟を結ぶのかという話になる。そしてAクラスが最も恐れるべきは、他の3クラスが連合して襲ってくること。これまでの試験ではそういった可能性を排除するべく動いていた。おかげさまで、今のところそういう事態にはなっていない。これは連合を組めるような試験がほとんどなかったことも幸いしているが。
現在の状況ならば、連合を組まれても問題ないとは言える。しかし、そうならないに越したことはない。わざわざリスクを取るよりも、実入りの多い選択をするのは当然の行動だ。
取り敢えず、カードが配られるのを待つしかない。これが結構大きな戦略要素になって来ると踏んでいるので、あまり軽率には動けないのだ。
「ひとまず、カードが配られるのを待ちます。その間、多くの連絡が来るかもしれませんが、全て保留状態にするようにお願いします。どうしても緊急性の高い場合は、必ず私か真澄さんにご一報を。すぐに対処します。よろしいでしょうか」
「「「はい!」」」
「では、今回は解散です。今年は私が皆さんを先導出来ないので、去年のような楽しい環境……というわけにはいきません。大変申し訳ない限りですが、出来る限りのサポートはしますのでご安心ください。まずは……サバイバルの知識入手からしますか。我々に向いているのは、頭脳労働ですから」
軽い笑いが起き、取り敢えずの話し合いは終了になる。これで軽率な行動は防げるだろう。まぁそんなことをする愚か者はもういないと信じているのだが、だからと言って念を入れないかと言われればそれはまた別の話だ。しっかり釘をさす。
放課後になると、一斉に携帯が鳴りだす。電話、メール、その他。どんな手段を使ってもAクラスの人員を確保したいという意思の表れだろう。主にうるさくなっているのは葛城や橋本など割と交流の広い人員。とは言え、彼らのような中心人物でなくても連絡を取ろうとしている人は多い。まぁ、あくまでOAAの数値ではあるが、平均が(坂柳以外)B評価なのは普通に偉業であると思っている。
そういう存在の集まった集団だ。欲しいと思うのはどこも同じだろう。何なら、私にすら勧誘のメッセージが来ている。決して数は多くないが、連絡先を交換している人間からは幾つか届いていた。とは言え、そんなにガツガツしたものではなく、あくまでもどうかな……?程度のものであるが。
と思っていたら一件だけそうじゃないのがあった。
『俺とお前が組めば最強だ。もし組みたければ受けてやる』
まるで呂布が言いそうなセリフではあるが、まんまこのままの文章が送られてきた。差出人は……龍園。どうやって連絡先を手に入れたのか、多分誰かに聞いたんだろう。椎名あたりとは交換していた覚えがある。前の投票試験の際にやり取りが必要だった関係で、あそこにいたメンバーとは交換している。椎名以外だと石崎と伊吹か。
これはアレなのだろうか、新手のツンデレ?お前がどうしてもって言うなら、組んであげなくも無いんだからねッ!みたいな。全然可愛くない。むしろゾクッとした。龍園の声帯で再生してしまったからだろう。疲れてるのかもしれない。
そんな話を夕食時にしたら、真澄さんには真面目に心配されてしまった。
「大丈夫……? ちょっと疲れてるんじゃない?」
「いや、そんなことはない、と思いたい」
「ツンデレ龍園とか誰得なこと、疲れてるか頭おかしくないと思いつかないと思うけど……あぁ、後者?」
「酷い扱いだ。それはそうと、キミの所には連絡は来たのか?」
「まぁ、数件。年明けの試験あったでしょ。あそこで同じグループ組んでた子から、一緒にどうですかって。ちゃんと保留にはしてある。そっちも、一之瀬とかから無いの?」
「一之瀬? 連絡なんかしてこないと思うぞ。多分学年で一番私の事が苦手だと思うぞ。いっつも大体Aクラス絡みでひどい目に合うか苦しんでるし。学年で協力する、みたいなアイデアも出してこないと思う。現在そんなこと言ってられる状況じゃないし、あと少しでBになれる堀北たちはまず間違いなく拒否する」
もう少しで追い落とせるのだ。それこそ、今回の試験結果次第ではついにBクラスに上がれる。突き放すことができれば、後はAクラスを目指して戦うだけになる。そうなれば、堀北からすれば万々歳だろう。
「それもそっか」
「無能ではないしむしろ優秀ではあるんだが、殻を破れない人間だな、彼女は。だからいつまで経っても同じ戦略を繰り返す。王道しかできないから、足元を掬われる。善性の人間だから、悪意に弱い。坂柳のせいで多少は成長せざるを得なかったようだが。……そう考えると、アイツも余計なことしてくれた。あのまま弱いまま生かさず殺さずでいければ楽だったのに」
私の愚痴を若干引きながら彼女は聞いている。悪人ではない、というより真澄さん自身も割と人間性は善よりだ。やっていた行動はあんまり庇えないところではあるけれど。
「で、そっちはどういうグループ組むの?」
「……まだ迷い中だ。というより、全体やクラスの状況を鑑みて動くしかないだろう」
「文字通り最強戦力だし、多少の不利益は無視してでも誘う価値はあるんじゃない? 龍園もそう思ったから誘ったんだろうし。ソロプレイで行く?」
「それもアリだとは思う」
私の答えに、彼女は少しだけ寂しそうな顔をする。だが、ソロで活動して1位を勝ち取れば、私からすれば結構美味しい状況だ。300のクラスポイントにプロテクトポイントも手に入る。統率者として矢面に立つことも多い以上、退学を防げるに越したことはない。尤もそんなヘマをする気は毛頭ないが。どちらかと言うと、狙い撃ちされそうなのは真澄さんや葛城のようなポジションだと思っている。将を射んとする者はまず馬を射よ、と言うことだ。なお、グループで1位を取れば全員プロテクトポイントを貰えるので、Aクラスだけでグループを組んで1位になれば、クラス内にかなり残機を作れる。
「ふーん、そっか。また去年みたいにコンビで行けたら楽しそうだと思ってたけど、残念ね」
「と言うか、男女の1対1はルール違反だろ。あぁ、坂柳を入れると?」
「そういうこと」
「楽できるからとか思ってない?」
「う~ん、ちょっとだけ思ってる……かもしれないわね」
どっちとも取れるような表情をしながら、彼女は小さく笑った。
「1年生はどうするの?」
「取り敢えず、向こうに相談されたら動く形にしようと思っている。何でもかんでもこっちから介護するのはあまりよろしくない。まぁ十中八九、Dクラスは相談してくるとは思うが」
彼らは良い盾になる。南雲本人は、私とはサシで勝負したいと言っている。他クラスや他者は退学させない。実力勝負なのだと。それをどこまで信じるのかという問題はあるし、全部鵜吞みにするのはお人よしのすることだ。一之瀬じゃないのだから、私は常にリスクを考えて動く。Dクラスは保険だ。だが、勝たせておかないと、飴にならない。
また、1年Aクラスに関しては誰も把握していないこちらのスパイが存在している。彼ら彼女らがどういう行動を取ろうと、全部筒抜けだ。ちょっとズルい気もするが、あくまでもこちらの都合が良いときに使う存在である以上、我々と利益対立を起こさない限りは不干渉で行くつもりだ。もし瑞季がAクラスを勝たせたいと思うなら、そうすればいいと思っている。そこにまで手を出す気は無い。
私の指示にさえ従ってくれればいいのだ。尤も、彼女を操縦できるかどうかは他のクラスメイト次第だろう。Bクラスは……まぁ、ウチの従妹殿は新しい
「そう言えば、八百長する?」
「しない。リスクが高いし、リターンが少ないし。そもそも、ウチの生徒は真っ当にやって退学を心配するスペックだし」
「それもそうね」
八百長というのは、人柱用意作戦ともいえる。退学するのが下位5グループならば、あらかじめ人柱を決めておけばいいという寸法だ。最初にリタイアさせるのである。とは言え、これをすると多額の金が飛んでいく上に、報酬面でも損が多い。良い戦略とは思えない。金だけ余ってて、かつ退学のリスクが多いなら話は別だが……そんなクラスはない。
「今年も同じ船……じゃないわよね、人数的に。美味しいお店あるかな……」
「お前そればっかだなぁ!」
こっちが真面目に色々考えているときに、食い物の心配をされては何とも気が抜ける。そう言えば、去年の船でもラーメンだの中華だの色々バクバク食べていた。全く体重が増減していなかったようで、軽く恐怖を覚えた気がする。その身体のどこに吸収されているのだろうか。
ちょっと気が抜けたが、それがかえって良かったのかもしれない。少々疲れていたのは事実のようだ。自分を含めて40人分の思案をしていたからだろう。弱くなってしまったものだ。昔は何日も連続で大規模作戦に従事していたというのに。とは言え、これが普通の感覚なのかもしれない。なのだとしたら今だけしか味わえないこの感覚も、得難い経験のように思えた。
翌朝。メールを開けば、学校からの通知が来ている。カードの配布だった。私の配布されたのは「追加」のカード。カード効果は所有者の得るプライベートポイント報酬を2倍にするというもの。もし1位を獲得できたならばかなりの効果を持つカードになると言えるだろう。
その他では、真澄さんは「先行」、葛城は「半減」、坂柳は「保険」という感じである。なお、特殊カードの行方に関して言えば、カードを所有する生徒は7人目としてグループに存在できる「増員」はBクラスの網倉麻子、ペナルティ時に支払うプライベートポイントを0にする「無効」はウチのクラスの矢野小春、そして特別試験のクラスポイント報酬を1.5倍にする権利を得るが上位30%に入れなかった場合グループはペナルティを受ける「試練」は綾小路が手に入れた。
綾小路の持つカードはリスクが高い。しかし、実力のある生徒ならばむしろプラスに働くだろう。私が欲しいくらいだ。彼はトレードには応じないだろう。クラスのために貢献する姿勢を見せている以上、譲るというのは考えにくい。「試練」のカードは勝てる自信のない生徒には渡してはいけないし、勝てる自信のある生徒にもなおのこと渡してはいけないカードになっている。
いずれにしても、カードは配られた。手札が揃った以上、交渉に移らねばならない。しかし、ウチのクラスは――私がそうしたのだが――民主主義だ。どうするかの大枠の選択は、彼らに委ねる必要がある。まずは民主主義らしく、会議といこう。
放課後に時間を作ってもらい、皆を集める。
「各クラスの動きが本格化する兆しがあります。今後Aクラス包囲網を組まれてしまった場合、事後対応は困難になります。そこで、もし組むのであればどこのクラスがいいのか。或いは独立独歩で進むべきなのか。意見を問いたいと思います」
どんな選択を取るのかは、彼らに委ねられている。あまりマズイ方向であれば私が軌道修正をするが、そう言うことが必要なクラスであるとは思っていない。私としては、選ばれた選択のもとに戦術を組み立てる。よって、どういう道が選ばれたところでさして不都合はない。最初に手を挙げたのは葛城である。今や私に次いで男子では二番目の地位にいる男だ。
「はい、葛城君」
「俺は……珍しいと思われるかもしれないが、Dクラスと組むことを提案する」
「……それはまぁ、何とも」
クラス内も若干驚いた顔をしている。彼は元々堅実な選択を好む。常識的な選択、王道の判断。そういうものに長けている。創業者向きではないが、二代目三代目としては最適な人材だと常々考えていた。だが今回提案された選択は普段とは打って変わって大分リスキーなもの。龍園と組むというのはそういう考えだ。
「似合わない提案とは思うが、理由はある。まず大きいのはDクラスの現在の立ち位置だ。BとCのクラスポイントが700台で拮抗する中、500ほどであるDクラスは少々出遅れている。龍園としてはこの状況を打破したいはずだ。無論、Aクラスを狙いたいだろう。しかし現状としてはまず目の前のBとCを撃破しないことには始まらない。だからこそ、まずは堅実に、目の前の敵を排除する。こういう説得を行うことは可能なはずだ」
遠交近攻の考えから言ってもそれは間違いではない。Dクラスは最も脅威にならない位置にいるクラスだ。だからこそ組むことでこちらの不安要素を消し、BとCを両方撃破できる可能性を手に入れられる。挟み撃ちと言うわけだ。実によい判断と言えよう。龍園の現状を的確に分析している。ここいらで成果の欲しい彼の状況には渡りに船だろう。
「他にもある。Dクラスの人員の特徴だ。Dクラスは、お世辞にもあまり勉学に秀でてはいない。しかし、体力的には自信のある生徒が多い。反面我々Aクラスは頭脳面で自信のある生徒が多いだろう。組み合わせるとすれば、最適な人員だ。また、昨年の体育祭での共闘経験もある。他クラスよりは気心の分かる部分もあるのではないか」
お互いにやや欠けている部分を補いあうという説明。これも良いだろう。特に、去年共闘した経験があるのは強い。なんだかんだ、龍園のクラスとはそこまで因縁がない。何度も絡まれた堀北たちCクラスや、一之瀬のBクラスとは違い、私と龍園が戦ったのは須藤冤罪事件と無人島、船上試験くらいだろうか。確かに龍園と私との間には因縁があるが、クラスで考えればそこそこ良好な関係かもしれない。
龍園は含む所もあるかもしれないが、アイツが退学を免れたのは私が一之瀬をおど……説得したからだ。その際の契約で南雲対策に協力するというモノがある。これを使えばいい。学年ごとの対抗戦と言う要素も含んでいる今回の試験では、契約条項の発動に問題はないはずだ。
「龍園に普段から使われている彼らは、指令に素直に従うという点では4クラスでも抜きんでているように思う。坂柳や諸葛の指示にも上手く動いてくれる可能性が高い。以上が俺が提案する根拠だ」
「なるほど、ありがとうございました」
堅実な彼らしからぬ作戦ではあるが、よい提案だったように思う。現に、私の元には龍園から誘いが来ている。これを受ける条件として、クラス単位で組むことを持ち出すのはそう悪い選択ではないだろう。口説き落とせる自信はあった。
「他に案のある方は? はい、どうぞ」
次に手を挙げたのは坂柳だった。彼女は彼女でクラス内での地位を再度向上させたいと思っているだろう。少なくとも、今の状況はヒエラルキーの最下層だ。あんまりクラス内に友達がいない、ないしは全くいない存在より下である。自分でやったことのツケなので、そこは甘んじて受け入れて欲しい。ただ、努力して再度向上を狙う分には止めはしない。方法次第ではあるが、成長の証として受け入れておこう。
「私はBクラスを提案します」
なるほど、そう来たか。
「お前が言うの? という感想はその通りではあるのですが、一之瀬さんと組むメリットはあります。まず、彼女も現状に焦りを持っているであろうことです。堀北さんの追い上げ、また龍園君も油断はできず、Aクラスへの道も遠い。彼女自身が思うより、堀北さん達に迫られているというのはBクラス内での心理状態に悪影響を及ぼしているはずです。なにせ、元々0ポイントまで落ちた、最悪のクラスだったのですから」
人間心理の良くない部分を考えさせれば彼女は一級品だろう。褒めているつもりである。善性のある一之瀬だが、クラスメイトもそうとは言えない。なにせ、私が無差別噂爆撃の黒幕であるという根も葉もない陰謀論を信じている者が一定数存在しているのだから。また、あんなことがあった後でも割と平然とこちらに接しようとしている一之瀬に対し、Aクラスに感じている悪印象を隠さないBクラスの生徒は多い。
つまり、そういう部分から坂柳は彼らの持っている決して善ではない部分に気付いたわけだ。人は見下せる存在に、無意識或いは意識的に安心感を抱く。自分がそこに堕ちることはない、と思えば安堵できる。しかしかつてはそういう対象だった元Dクラスが今や自分たちを脅かさんとしている。この現状は、果たしてBクラスの生徒にどう受け取られているのだろうか。
そう考えたときに、坂柳の言説は大いに説得力を有している。意識的ではなくても、かつては下だった存在に追い落とされそうな状況に焦りを抱く者は多いだろう。意識的ならば猶更説得がしやすい。
「また、Bクラスは元々のスペックが高い生徒が多いです。無論、Aクラスには劣りますが、それでもCやDよりは上でしょう。それはつまり、退学のリスクを心配する生徒が少ないことを意味します。頭脳面や行動面で、持ち合わせている能力が影響を与えることは言うまでもない以上、安全策であると言えます。もっと端的に言えば、介護する必要がないということですね」
介護が必要なのはお前では? と少し思ったが、顔には出さない。今は真面目な話をしているのだ。そういうことを表情に出して、印象を下げる必要はない。
「次に、彼女には『信頼性』があります。少なくとも、隙を見せれば噛みつく龍園君や、そもそもクラスとして一体感があるとはそこまで言えない堀北さんよりも、ずっと。契約をするという点で、これは大きなことでしょう」
まぁ、一理ある。彼女は私と一之瀬の間に元々存在していた南雲対策の契約を知らない。知らない以上、そう思っても無理はないだろう。もしあそこでの契約違反がなかったら完璧だったのだが。個人的には、利益さえ見いだせれば強力な味方になってくれる分だけ龍園の方が信頼できる。
昨年の体育祭でも、我々は利益対立をしていなかった。そのために共闘し、しっかりと成果を出せた。反面追い詰められて南雲に懐柔された一之瀬は……ちょっと微妙である。
「加えて、私のせいで失墜してしまったAクラスへの信頼をここで取り戻すことで、印象回復が行える可能性があります。共闘し、共に行動する中で信頼が生まれるのではないでしょうか。去年私がいなかった無人島試験のように」
お前が言うの……? の連続ではあるが、確かにその可能性もある。と言うより、でっかいブーメランを何度も投げている彼女だが、ここではもう開き直ることにしたらしい。ここまで開き直られると、いっそ清々しい。私も若干苦笑しながら聞いている。他のクラスメイトも呆れ半分だがしっかり聞いてはいる。
「最後になりますが、一之瀬さんは龍園君に比べて説得が容易です。彼女は善人ですが、それ故にいくつか弱点を持っている。追い詰められたときに、フルスペックを発揮できないのが最大の弱点でしょう。後はクラスメイトを思うあまり大胆な策に出れないことも。かと言って、そんな作戦を取らなくても良い状況、戦う前から勝敗の決するという状況を作れないこと。根回しが苦手なこと。悪意のある選択肢を選べないこと。等々色々あります。特に追い詰められた際の対応が出来ないという点は自覚しているはず。これらを突けば、説得は容易です」
何と悪辣な。しかしそういう所をチクチク突いて交渉を行ってきたであろう人物が言うと説得力が増していく。実際、私が一之瀬と交渉するのであれば、坂柳の言ったようなことを使うだろう。私は絶対に諦めたりはしない。どん底でも、最後の最後まで希望を見出そうとする。相手に一矢報い、噛みつけるチャンスを伺うだろう。なぜならば、それが私の生き方であり、これまで行ってきたことだからだ。
どこかで諦めていたら、今の私はいない。軍の機械として、あのクソ爺の駒として消費され続けていただろう。少なくとも、今のようにクラスメイトと青春を謳歌することはできなかった。真澄さんと出会うことも無かったはずだ。……何故そこで彼女が? 自分に問うた疑問の答えを出す前に、坂柳は言葉を続ける。
「彼女の弱点をお話ししましたが、普通にしていれば優秀な人です。諸葛君や葛城君、神室さんなどと組んでしまえばかなりの戦力になります。また、諸葛君がいれば彼女の不得手な部分のカバーも出来るでしょう。あまり他クラスが引き受けたくないであろう私と同じグループというハンデも、彼女ならば受けてくれる可能性があります。あぁ、そうです、忘れていましたが、Bクラスの網倉さんは「増員」のカードを持っています。これを活かせば、より強力なグループを作成できます。以上がBクラスを選ぶ理由です」
自分が弱点であり、ある意味ではお荷物であるという状況をしっかり理解して、それを自分でリカバリーする提案をしている。これは成長の証と見ていいだろう。自分の弱い部分をしっかり見つめることができて、かつクラス全体に利益のある提案をしている。
何と言うか、今回は普段とは変わった提案だった。保守的だった葛城はリスクのある選択を、攻撃的だった坂柳は安全性の高い選択を。お互いに今までしてこなかった提案だ。これも私は成長と思っている。今までとは違う視座で、これまでの自分の取らなかった選択を出すというのは多角的にモノが見られるようになった証だ。大変喜ばしい。
それに、元々この民主主義システムは二大政党制を意識している。保守的な葛城と攻撃的な坂柳がそれぞれ案を提示し、それ以外も交えつつ議論を進める。そういうシステムを目指していた。坂柳の失墜でそれは機能不全になっていたが、今ここに機能し始めたと言っていいだろう。やはり、民主主義はある程度の文明と民度と知識がないとダメなんだと再確認させられた。
提案する内容の方向性が攻撃的であれ保守的であれ、違う意見が2つ出ることが大事なのだ。しっかり進歩していることに感動を覚える。
「他に何かある方はいますか? 意見・質問・疑問・反論など。はい、どうぞ」
「2人に質問なのですが、Cクラスを提案しない理由は何ですか?」
的場が質問する。彼は実は学力ランクで上位にいる猛者である。
「では、まず葛城君からどうぞ」
「俺は龍園以上にリスキーと感じた。あのクラスには高円寺がいる以上、完全な共闘は期待できない。そう考えた場合、クラスが少なくとも1つの意思の元に動いてくれるDクラスの方が制御もしやすく、協力もしやすいと考える。堀北は優秀ではあるが、あそこは多頭制であるように思う。やや不安材料が多いという印象だ」
「ありがとうございます。次に坂柳さん」
「はい。私は葛城君の仰った理由に加え、元の能力面での低さを不安視しています。確かに、平田君や綾小路君、堀北さん、櫛田さんなど優秀な生徒もいます。いまだ底知れぬ高円寺君や体力面では須藤君なども。ですが、そう言った一部の生徒以外ではあまり秀でているとは言えません。今回の試験が様々な能力を問うと言っている以上、そう言った一芸に秀でた生徒にも組む利点はあると思いますが……それよりは全体的な平均値の高いBクラスの方が安全であると考えた次第です」
2人の説明は的を射たものだった。確かにCクラスは一芸に秀でた者も多くいる。しかし、学力面や体力面では他クラスより劣った生徒がいまだに多い印象だ。戦略・運・実力者の努力などでBクラスを伺う位置にいるが、抜本的な改革をしないとAクラスになる、或いはAクラスになっても維持することは難しいだろう。
高円寺という不安要素、全体的な総合スペックでの問題点等々。これらを加味すればあまり組みたくない相手と言うのも納得できる。個人個人で引っ張って来る分にはいいのだが……警戒されている以上堀北あたりに止められる可能性が高い。下を恐れる一之瀬、目の上のたん瘤を見ている龍園と違い、一番Aクラスを貪欲に見続けているのはCクラスの可能性すらあるのだ。
「両名、ありがとうございました」
教壇に立つ私の後ろにあるホワイトボードには、真澄さんがこれまでの両名の主張をまとめて書き込んでいる。目茶目茶整理されていて見やすい。メリットデメリットも両名の話の中から考えだして書いてくれている。これまでずっと書記をやってくれていたので、手慣れたものだった。
「真澄さんもありがとう」
「どういたしまして」
彼女は一歩下がって、教室の横に立つ。そして軽く手を挙げた。
「そう言えば、意見良い?」
「どうぞ」
「Aクラス内で全部完結っていうのもアリだとは思う。一応、選択肢としてね。あんまり私自身が賛成するわけじゃないけど、そういう選択肢も出さないわけにはいかないだろうし」
そう言いながら、彼女は自分の意見を書いていく。
「他クラスと組んだ方が選択肢は広がるけど、やっぱり報酬の面では劣ってしまう。他にも、こちらの手の内がバレやすくなったり、裏切られる可能性もある。そう考えたときに、気心知れた人間だけで構成されたグループで行動した方が互いにやりやすい、と言うのはあると思う。坂柳の言葉を借りるなら、総合力が一番高いのはAクラスのメンバーであることは疑いようがない以上、変に他クラスの介入を許すよりも自分たちでまとまって行動することにも一定のメリットはあるんじゃない?」
これも勿論選択肢としてはアリだ。手札の数が減る以上、戦略の範囲が狭くなるが、その分私の意思を反映しやすい。龍園や一之瀬などと諮って物事を決定する必要が無くなるというのはメリットになりうるだろう。とは言え、これは私はあまり好む選択肢ではない。クラスポイントの差に余裕がある以上、他クラスと分け合う形でも確実な勝利を得た方が良いという思いが、報酬の量に関するメリットを上回っているからだ。
「だけどやっぱりリスキーではあるし、他クラスと組んだ方が出来ることの幅は広がると思う。そのメリットデメリットの判断は、任せるしかないわね」
そういうと、真澄さんは一通り意見を書いてまた元の定位置、すなわち教室の横側に戻った。取り敢えず、意見は割と出揃ったと思っていいだろう。今日中に決めて行動しないことには、恐らくグループが組まれてしまう。ここで決を採る必要がある。
「それでは、皆さんに問いましょう。この大きな試験で我々がどう振舞うべきか。考える時間がもう少し欲しいという方は?……いませんね。では、決を採ります!」
発売されてから少し空いたのでもういいよね、ということで、冒頭の言葉です。絶対許さねぇぞぉ!世間的にはわき役でも、ガチ推し勢はいるんだよ……うぅ……。この世界では絶対卒業させてあげるからね、真澄さん!
買って、大学帰りの電車の中で読み、リアルに泣いてました。ずっと泣いてて、マジ不審者だったと思います。それくらい思い入れがあったので……。まぁおかげでもう一回書こうと思えたのですが。