『ニッコロ・マキャベリ』
選択は行われた。ギリギリではあるが過半数で龍園との同盟案が採択される。私は別になんでも良かったので、そうなるかという印象だ。攻撃的ではあるが、どんな手段を使ってでも勝とうとするガッツがある。それが龍園の良いところである。それを理解して、手を組もうという風に思った生徒も多いのだろう。
事実、彼にはある種のカリスマがある。一度どん底まで落ちても這い上がろうとしている彼に付き従う者も多い。石崎は心酔しているし、伊吹は反目しつつも実力を認めていた。平和主義者の椎名も、彼以外にクラスを上に持ち上げられる存在はいないという理由で協力している。Dクラス最後の希望の星。それが龍園翔という男だ。
「分かりました。皆さんの選択の結果、Dクラスとの共闘路線を取ります。早速今龍園君にコンタクトを取りました。他の案が良いと思った方もいらっしゃいますが、どうかご協力お願いします」
小さく頭を下げる。ちゃんと採用されなかった意見の方にも配慮を行っておくことを忘れない。それに、一之瀬と組む案も悪いものではないのだからなおのこと配慮は必要である。坂柳は、自分の案でもちゃんと一定数賛同者がいることに安堵しているようだ。旧派閥は関係なく選択していたので、あの頃の色は完全に払拭されたと思っていいだろう。良いことだ。
ここまで決まればやることは一つだ。龍園との交渉である。
連絡を入れてすぐに龍園からの返答はあった。この前の返答をしたいから場所を指定してくれと送ったら、すぐにでも教室に来てくれと返ってきた。私のことはそれなりに重視してくれているらしい。中々、彼らしからぬ好待遇だった。
「ダメもとで送ってみるもんだな。まさか本当に大物が釣れるとは思わなかったぜ」
龍園は目の前の教卓に腰掛ける。尊大な態度ではあるが、私を不快にさせないように気を遣っている雰囲気も感じる。
「それで? 俺の提案を受ける気になったか」
「ええ。しかし、交換条件が」
「分かってるぜ、お前の思惑は。坂柳の面倒もみろってんだろ」
「中らずと雖も遠からず、ですね」
「どこが違った?」
「君のDクラスと私のAクラスの同盟を行うこと。今回の試験では協力し、両者に益のある勝利を目指すこと。これが私の交換条件です。それが呑めるならば協力しましょう」
「ククク、そう来たか」
龍園は笑う。彼の予想も決して間違いではない。そういう要素がないかと言われれば嘘になる。しかしそれだけではなく、私たちは同盟をしに来たのだ。彼の表情から、私の提案に対する感情は読み取れない。
「ウチのクラスの連中も大分喜ぶだろうな。あの諸葛と組めると来たんだ」
「それは光栄ですね」
「だが俺はそう簡単に諸手を挙げて喜んだりはしねぇ。お前が俺たちを選んだ理由には見当がついてるからな」
「ほう? お聞かせ願えますか?」
「お前らは、いや正確にはお前はいつも同じ戦略で動いている。ひよりに聞いて良かったぜ。アイツが俺の感覚だけで捉えていたお前の戦略に、明確な名前をくれた。遠交近攻、そうだろ」
椎名ならばこういう言葉を知っていてもおかしくはないだろう。龍園に気付かれた、と言うより今まで誰も指摘してこなかった方がおかしいと言えばおかしいのだが。それでもこちらの戦略が見抜かれたという事実には変わりがない。
何をするか分からない。これはBクラスなどで言われている私と言う人物の人物像であり、戦略感だ。しかし実際には大きく違う。基本いつも同じ思考の下で動いている。今回もしBクラスと組んでいればその原則から外れることになったが、幸か不幸か外れることはなかった。
私の沈黙を肯定と受け取ったのか、龍園は話を続ける。
「思えば、今までもずっとそうだった。お前と初めて接触したのは須藤の事件の時だったなァ。あそこで当時のDに味方したのは、俺の人物像を把握するためと、あの時はマジで弱小だった鈴音たちが潰れないようにするためだ。夏まではクラスの位置は変化しない。お前はそう踏んでまだ目立たないことを選んだ。まずはクラス内での立ち位置を確保する。優等生で頼れる第三者、と言う位置をな」
彼の分析は中々的確だった。その前に一之瀬に過去問を売りつけているが、それも自クラスを除いて一番金のある所から搾り取ったという見方も出来る。
「その後の無人島はお前にはラッキーだった。常識的な葛城はいたが、ぶっ飛んでる坂柳がいねぇ。そうなれば、坂柳に近い他の生徒なんざお前にとってすれば容易く誘導できる。積み重ねた成果と人望でリーダーになり、良い思いをさせて名声を不動にした。同時に俺の提案を蹴った。理由は想像する限り3つだ。1つは単純に前の須藤の一件で俺が信用できなかった。2つ目はデメリットが多すぎた。3つ目は、これが本命だろうが、遠交近攻をするための条件を達成するためにはどことも組まない選択が必要だった」
「条件、ですか」
「当たってるか?」
「さぁ。君の言葉で聞かせて欲しいものですね。今私が先んじて答えを言えば、どうとでも言い訳できますから」
「じゃあ言ってやるよ。お前が求めていたのは他クラスとの圧倒的な差だ。そして、クラス内での地位を一気にトップに押し上げるための圧倒的な成果。その両方を同時に達成するには、どことも組むわけにはいかなかった。Aクラスのポイントを一気に他クラスと引き離した上で、残りの3クラスを争わせる。そして利益を得る。遠交近攻ってのは要するにそう言うことだろ?」
他者の口から語られる自分の行動と言うのは面白い。そういう風に見られていたのかという面白さもあるし、相手がどこまで見抜けているかの指標にもなる。
「お前はそこでも上手くやった。あの時のDクラスは敢えて見逃しただろう? あそこでDが折れるとどうしようもなくなる。折れられては困る。だから見逃した。反面、俺と一之瀬は倒した。差を生むためにな」
「では、船上試験はどう説明しますか? あそこで私たちはポイントを得られませんでした」
「得られなかったじゃねぇ、得なかったの間違いだろ。敢えてそうした。俺の目を鈴音に逸らすために。要するに、連合を組まれるのを恐れた。だから鈴音達に肩入れして、ポイントを与えた。俺たちが泥沼の争いを始めるように仕向けるために、な」
ヘイト管理。一般にそう言われる行為だ。これが上手く成功したのがあの時だったと思っている。
「あの時は焦りましたね。珍しく下手を打ったもので、法則性の存在に気付かせてしまいました」
「薄々法則性があるだろうと勘づいてはいたけどな。お前のおかげで確信に至って、同時にお前のせいで大きく狂わされた。正確にはひよりがだがな。あれ以来微妙にアイツに頭が上がらない。思いっきり俺が騙された情報を伝えて、アイツが掴みかけていた法則性を台無しにしたからな……」
珍しく龍園に反省している様子があった。椎名は嫌味を言ったりしないだろうが、折角部下が良い感じにやっていたところを自分が騙されて台無しにしたのだ。他ならぬ自分が騙された以上、どこにも文句を言えないだろうからして、自分を責めるしかないのだろう。まぁ騙したのは私なのだが。
「あそこでクラスが逆転した。その後どんな展開になっても、お前は次に俺たちに味方しただろうな。そして運よく体育祭はおあつらえ向きの状況だった。俺と組んでこれまでの印象を改善し、BとCを叩く。無人島以来叩き続けたBとの差はかなり広がり、CとDは僅差のまま。その後もペーパーシャッフルで一之瀬を叩いて差を広げ、上手くコントロールを続けた。誤算があるとすれば坂柳が予想外にアホだった事と盛大に自爆したことだろうが……あれすらも上手く利用して身を切り印象回復をして、かつ戦力の離脱を防いだ。今や坂柳は牙の抜かれた犬。お前の命令にワンと鳴くだけの存在だ。それでいて頭は回るから、役にも立つだろうぜ。総じてお前はクラス間の状況をコントロールし続けた。学期末で負けたのはお前も予想外だったかもしれねぇが、アレは綾小路を舐めすぎたな」
「綾小路君の実力に関して、君はどこまで?」
「詳しくは知らねぇ。だが俺は、俺と伊吹、石崎、アルベルトの4人は多少把握してる。なにせ、俺らは揃いも揃ってボコボコにやられたんだからな」
「そうでしたか」
龍園失脚の真相について、私は綾小路が絡んでいるということしか知らなかった。実際どのようにして失脚したのか、その詳細はいま語られている。あそこで龍園を見捨てたのは、その暴力性が強かったからだ。遠交近攻の原則はこちらでコントロールできる相手にしか通用しない。一之瀬と堀北はどうにでも出来るが、龍園のような存在は何をしだすか分かったものではない。だから一度排除することにしたという理由がある。
「だからお前は今回も俺と組むことを選んだ。違うか?」
「そういう理由もあります。一番大きいのは、私の生徒たちがDクラスと組むことを選んだからですが。さて、懐かしい話を色々していただきましたが、端的に言って受けて頂けるのでしょうか?」
「もとよりそのつもりだ。お前は俺たちのことを見捨てねぇ。何故なら、自クラスの生徒も一緒に巻き添えになるからなぁ。そういう状況なら、信用できる」
「何度も君を騙した私を?」
「騙された方が悪い。俺はいつもそうやって生きてきた。その騙される対象が俺であっても同じことだ。自分の時だけ嘆くなんてダサいことはしねぇ」
彼は彼なりに筋を通す。確かに、彼は裏切る隙を見つけたら裏切るだろう。だがこういう部分で言い訳したり恨み言を述べたりしない点は素直に評価するべきところだ。
「だが一応条件はある」
「そちらがお願いしてきたのにですか?」
「俺は元々お前だけを勧誘するつもりだったんだぜ。坂柳の面倒見てやる分、リターンを要求しても良いだろ。それに、断られたら困るのはお前らのはずだぜ?」
「一之瀬さんに話を持ち掛けるだけですよ」
「一之瀬と? 本気で組むのか? あのお人好し女はそれで言いくるめられるかもしれねぇが、感情論に支配された奴らは厄介だぜ。Bの連中、今なら俺とだって手を組むだろうよ。お前を引きずりおろす為ならな」
「そんなに、ですか?」
「あぁ、間違いないぜ。Bクラスはいつか叩いてやろうとかなり研究したからなぁ。よくよく探りを入れてる。程度に差はあれど、どことなくお前らに不信感を抱いてる。坂柳が大きいだろうがな。お前らは受け入れたようだが、坂柳が与えている心理的なマイナス要素は思ってるより大きいと思った方が良い。それこそ、俺たちの中にも坂柳がいるクラスと組むことに抵抗感を覚える奴はいるだろうぜ」
「謝罪行脚はさせたはずなんですがね」
「それで済んだら、今頃世界は平和だな」
言うことにも一理あった。思ってるよりも影響が大きかったことに今更ながら苦悩している。多分正解はあの投票で切り捨てることだった。しかし、それは私の信念が許さなかった。プライドなんていくらでもドブに捨てるが、一度でもクラス内で、例えあだ名であっても教師と呼ばれた以上、譲れない部分はあった。私の生徒39人を全員そろって卒業式に出席させる。それが私の為すべきことだ。
だからあそこで切らなかった。他にも色々理由はあるが。龍園が信用されにくいのと同じように、坂柳も信用されていない。それを抱える私もまた同等ということだろうか。私はそんな不誠実なことをしてきたつもりはない。契約は守っているし、約束は違えていない。基本は親切に、品行方正に振舞うようにしている。特別試験でやっていることは皆同じ穴の狢だろうに、私だけ妙に信用されないのは納得いかない感情があった。
「……まぁいいでしょう。呑める範囲かどうか、検討しますので取り敢えず言うだけ言ってみてください」
「保証金を出せ。本当は10人分要求したいが、5人分でいい」
「これはまた強欲な。それで、そちらは代わりに何を差し出してくれるんです。保証金がある種の人質であることは理解しました。そちらからも人質ないしは見返りがないと、クラスで袋叩きにあってしまいます」
「下位にいかなきゃ返って来る金だぜ?」
「とは言えです」
ここで力関係をどうするか。先ほどからの交渉は全部そこに集約している。どちらかが上になるのか、それとも対等な同盟か。同盟と言っても国力の差で対等性には変化が生じる。お互いに面子がある。龍園からしたら自分で要求した部分ではあるが、要求はクラス全体の同盟ではなかった。そうじゃない分どこまでこちらに譲歩を迫れるか。ここで面目を保ちたいはずだ。譲歩させたという事実で戦果とする気だろう。
こちらとしては組めないと困る、と言うわけでもないが、勝つための戦略を練り直さないといけない。手札の数が倍になるだけで出来ることは増える。そうでない場合と比べれば戦略の幅は広がる。龍園の話が事実なのかはさておき、Bクラスはウチのクラスが思っている以上に我々を好いていないのだろう。だとするならば、龍園とは組んでおきたい。この男の非道な手段も時には必要だ。
「分かった分かった。そこまで言うなら、これをくれてやる」
見せられたのはBクラスの網倉に配られていたはずの「増員」のカード。今日これまでの間に買収を済ませていたらしい。確認を怠った私のミスだ。そう簡単に売買される類のものではないと思っていた。それこそ、特殊カードは特に。
「どうやって?」
「100万払った。後は「半減」と「保険」のカードも何枚かトレードしたな。一之瀬は安全策に奔走してる。簡単に渡したぜ。退学になる確率を減らせるなら、ってな」
「そうでしたか」
「最初は苦労したなぁ。だがやれ成長幅がないだの、もう後がないだのネチネチ責めたら音を上げた。よっぽど鈴音に迫られてるのが堪えたんだろうな」
これがあれば確かに大きい。人員を1人増やせるだけと言えばだけのカードなのだが、人数がある程度ものをいう場合、一気に強大な戦力になる。これを売り払うとは、Bクラスはそこそこ追い詰められているようだ。実際、Bクラスはここの所ずっと負けている気がする。坂柳の一件だって、私が介入しなければどうなっていたことか。これは付け込める隙がありそうだ。
「いいでしょう。これを対価にします。ここはこちらが退いてあげますよ。坂柳さんが思ったより足を引っ張っている現状を認識できただけでも十分です」
「決断が速くて助かる。契約は成立だな」
「えぇ。資金送付はちょっと待っててください。共有口座とかないので、取り敢えず皆から均等に徴収しないといけませんから」
「民主主義とやらの重大な欠陥だなぁ」
「強いから許されるのですよ。こういう面倒くささも」
「まぁいい。待ちはするが早めに送れ」
「それは無論ですとも」
「取り敢えず、坂柳と組ませる相手を探してるんだな?」
「一番何とかしないといけないのはそこでしょうしね」
下手な相手と組んでも上手く行かない可能性が高い。一定数以上の基準をクリアしていてくれないと困るのだ。現状クラスメイトを見捨てない選択を継続しているので、ここで坂柳の扱いを悪くするわけにはいかない。あんなんでも大事な戦力なのだ。本人も今回は頑張る気になっている。ここで下手に機嫌を損ねたくない。
それに、優秀ではあるので上手く組み合わせればいいチームを作れるだろう。
「誰を出せる」
「皆、どこに出しても恥ずかしくない戦力ではありますが、強いて言えば……葛城君、橋本君、鬼頭君、真澄さんが一番強い戦力陣でしょう。間違いなくウチのクラスの第一線です。第二陣もとなればもっと出せますが」
「いや、それでいい。坂柳と組ませるのは……俺のところからは石崎と木下を出す。そっちは神室と橋本、鬼頭、後誰か女子1人出せ。石崎と橋本は合宿で同じ組だ。意思疎通は出来る。お前の右腕は調整力がありそうだからな。坂柳相手でもどうにか出来るだろ。石崎は馬鹿だが役には立つ。使いこなせるか?」
「大丈夫でしょう。坂柳さんと真澄さんなら何とかしてくれるはずです」
「そりゃ頼もしい。学力面ではどうだ。体力では橋本と石崎でどうにでもなるだろが、坂柳と神室以外は使えるか」
「橋本君も優秀です。というか、Aクラスに学力面で心配な生徒はいません」
「そうかよ」
「ええ。で、あと一人女子ですか……」
坂柳と相性が悪くない、つまりは含む所のあまりない人。女子のリストアップをしていくが、大体ダメだなぁ。西川なんかは優秀だが、坂柳を引きずりおろして真澄さんをトップにしろと直談判してきた人だ。相性がいいわけがない。となると、クラス内でも交友関係の少ない山村か、変人だが取り敢えず優秀な森下あたりになる。どっちかにしよう。
学力面ではどうにでもなる。体力面で決めようと思ったが、あんまり変化がない。……もっと運動するように言った方が良いかもしれない。坂柳との関係を考えても悩む。山村が坂柳をどう思ってるのかが読めない。あんまり嫌いではないようだが……。だが森下はもっと読めない。なら山村にする方が無難か。
「決まりました。山村さんを出します。これで小グループを2つ作れるので、合わせて大グループにしてしまいましょう。ここで増員カードで鬼頭君辺りを投入すれば良いでしょうね」
「ああ。坂柳・神室・橋本で1つ、石崎・木下・山村で1つ、そこに「増員」で鬼頭を足して7人の大グループが組める。これだけいれば何とかなるだろ」
「まぁ凡その出来事には対応できそうですね。あぁ、それと山村さんと真澄さんの交代をお願いします」
「分かった」
頭脳面は問題ない。体力面でも動けるヤツが多い。鬼頭は戦闘も出来る。私の腹心である以上狙われるリスクのある真澄さんや、一番弱い坂柳を守れるだろう。最初小グループからどうやって大グループを組むのかが分からない以上、最悪合流が遅くなることも想定している。そう考えたときに、山村を他クラスだけの所に放置するわけにもいかない。コミュニケーションが終わる。坂柳と橋本に任せる方が楽だろう。本人も周囲も。真澄さんは上手く調整できるはずだ。信じてるぞ。
「1位から3位まで全部取れるようなグループを作るぞ」
「アレ本気で言ってるんです?」
「あぁ」
「最強編成を組むのは構いませんが、下の方の人のことはどうするんです。主に君のクラスの」
「何のためのAクラスだ。それくらいできるだろ」
「それは無論ですが……」
龍園も勝つためにはこちらにとことん頼る事にしたようだ。別にそれは構わない。正直、今回の試験でとんでもないことをしない限り退学することになるのは他クラス・他学年であると思っている。危ないのは多分3年生だ。南雲しか司令塔がいない3年は、南雲が動けなくなると詰む。そして今回は学年ごとの対抗戦と言う性質もある以上、南雲は堀北・綾小路・私・龍園・高円寺・一之瀬などなどから排除するべき対象と捉えられている。
南雲による絶対王政は牙の抜かれた民衆を生み出した。そんな存在に負ける気は毛頭ない。
「本気でやるなら残り2つの大グループですか。ともすれば、葛城君と……戸塚君を推薦します」
「戸塚ぁ? あの葛城の腰巾着が役に立つのか?」
「最近は成長著しいですからね。元々相性がいい2人です。連携して動けるでしょう」
「なら良い。お前のクラスのことはお前が一番知ってるだろうからな。そうなれば俺はひよりを出す。だがアイツは動けない。カバー役は……伊吹だな。単純だが動ける。後は西野を入れておけばいいだろ」
「西野さん、ですか」
「あぁ。クラスじゃあ孤立気味だが、動けないわけじゃねぇ。俺に意見する度胸もある。椎名と葛城、一応戸塚で頭脳面を抑えて、西野と伊吹に動かせればいい」
「分かりました。それで行きましょう。Aの2人とDの3人で小グループとします。それで、最後の1つは?」
「ド本命だ」
「と言うと?」
「俺とお前だ」
「2人だけでずっと突破する、と言うことですか」
「そうなるな。だがお前と俺なら勝てる。そう言ったはずだ。必ず勝てる。体育祭でお前の能力の一端は垣間見た。それを踏まえての提案だ。Aの最強と、Dの最強。勝てない道理がない。違うか?」
「……良いでしょう」
「成立だな」
<A・D連合>
龍諸G……龍園翔・諸葛孔明
坂柳G……坂柳有栖・山村美紀・橋本正義
石崎G……石崎大地・木下美野理・神室真澄
鬼頭G……鬼頭隼
葛城G……葛城康平・戸塚弥彦
椎名G……椎名ひより・伊吹澪・西野武子
うち、坂柳G・石崎G・鬼頭Gは1つの大グループ、葛城Gと椎名Gで1つの大グループ
その後も他のグループを詰めていく。まだどこも決まっていない状態だったので、スムーズだ。私から返事があった時点で、龍園は自クラスに誰とも組むなと厳命していたらしい。どんな展開になっても良いようにという備えだろう。用意周到なことだ。相変わらず行動と判断が速い。優秀な兵士になれるだろう。
大分遅くまでかかったが、完成することができた。男女比のバランスなど、細かいルールに苦戦する羽目になったが、何とか出来上がった。これならばなんとかなるだろう。勝ちに行くためのチームと退学阻止するためのチームという感じで露骨に分かれているが、その分戦略は立てやすい。
ウチのクラスの運動できない勢には、Dの運動◎勉強×な生徒を組み合わせた。逆に、Dの勉強◎運動×勢にはウチのクラスの運動できる勢を組み合わせている。足りないところを補い合いながら協力し合う。そういう取り組みが出来れば確実にそこそこの成績を残せるであろうグループ分けだった。
私が少し意外だったのが、龍園はしっかりクラスメイトの状況・人間性・能力・精神性などを把握していること。人間関係の理解もかなりしているようで、決して単純なOAAだけの数値を見ているわけではないことがよく伝わってきた。一度どん底に落ちたことで、統率者としての能力が開花し始めているのかもしれない。
「……出来たな」
「えぇ」
「お前に思う所が何もないわけじゃねぇ。だが、勝ちに行くぞ。調子に乗ってる1年も、南雲以外大したことない3年も敵じゃねぇ。お前と俺で、潰しに行く。いいな」
「それは構いませんが、君が私に付いてこられるかどうかが心配ですね」
「うるせぇよ。お前の方こそ付いてきやがれ」
「それだけ言えるなら問題ないでしょうね」
龍園はニヤリと笑う。それに合わせて私も静かにほほ笑む。どちらからか分からないが、ほぼ同時に手は差し出され、今この時だけの、しかしながら強固な同盟が結ばれた。
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1年Aクラス。混沌とした1年生の中でも、見かけ上の平和を保っているクラスである。一応のトップは石上京。決して目立つタイプではなく、むしろ参謀タイプの男だ。彼が仕切っているということになっているAクラスだが、実態はそこまで強靭な政権ではない。足元に、彼からすれば味方とも敵とも取れない人間がいる。それも、不気味な態度のままで。
「君はこれからどうするんすか?」
猫のようだ、と彼は最初思った。ショートヘアの少女はしなやかな動きをしながら彼に問う。無人島での試験が知らされてからどういう戦略を取るのか。おおよそ学年で一致して動くことになるだろうと彼は踏んでいる。おそらく退学者は3年生だ。南雲一強の状態はその他の弱体化を招く。奇しくも、2年Aクラスの首魁と同じ感想を抱いている。
「どう、とは?」
「言葉通りの意味っすよ~」
「それを言うなら、俺は君の方こそどうする気なのか聞きたいですね。もっと言えば、君が本当に俺たちにとっての味方なのか、ということです」
「疑ってるんすか? ひっどいなぁ。私、何かしたっすかね」
「Dクラスの七瀬。そしてそこを実質的に支配する2年Aクラスの諸葛孔明。この2人とは同郷だそうですね」
「そんなの、よくある話じゃないっすか」
「えぇそうです。ですが、君は関係が深い。警戒せざるを得ないでしょう。君が実は、あの両名のスパイなんじゃないかってことをです」
「いやいやいや」
少しオーバーなくらいに否定しつつ、陸瑞季は答える。その顔に浮かんでいる笑みは、どういう感情に由来するものなのかさっぱり分からない。怒っている、誤魔化している、考え過ぎだと思っている。色々な想像は出来るが、核心に至る要素を行動から見いだせない。けれど、石上にはどこか信用できないように思えた。
「私、しっかり勝利に貢献してるんすけど? 前回も、前々回も」
1年生は短期間に2回の特別試験があった。最初のは学年初めの2年生とペアになる試験。そして無人島に入る前にもう1つ。どちらもAクラスは勝利している。それも、この陸による少なからぬ貢献によって。
石上はOAAの数値を思い出す。
1-A 陸 瑞季(くが みずき)
1年次成績
学力 A+(95)
身体能力 A+(96)
機転思考力 A-(83)
社会貢献性 B(70)
総合力 A(88)
押しも押されぬ優等生だ。学力は自分と同じ。身体能力はずば抜けている。機転も効くし、友好関係も広い。その結果、自分の政権が揺らぐ原因のナンバーワンになっている。もし石上が何かをミスすれば、たちまち主導権は彼女に移譲されるだろう。そして、彼女の主張する自己の貢献度に関して、彼は何も言い返せない。
だが、疑いの目を向けることを止めてはならないと思っている。彼女が敵か味方か。それを見分けるのにはまだ時間がかかる。それゆえに、石上は彼女を中間地点に置いていた。則ち、敵でも味方でもない位
置である。これは彼女を敵とするには証拠が足りないからでもあり、それよりも警戒するべき相手が何人もいるからと言うこともある。主にBクラスの八神や諸葛魅音、同じクラスの天沢など去就の読めない人物も何人もいる。
尊敬する綾小路先生は言った。諸葛孔明には気をつけろと。彼の父親はかつて綾小路先生の協力者であり、その後に裏切った存在と言われた。その後、諸葛孔明の父がどうなったか、石上は知らない。だが、とにかく孔明に気を配らないわけにはいかない。だからこそこの自称同郷の同級生が本来ならば重宝できるはずなのだが、いまいち信用できないでいた。
「ともかく! 頼みますよ。次の試験では君の能力が絶対に必要になるんですから」
「勿論っすよ。Aクラスのクラスメイトとして、ちゃんと働くっす」
ニコニコと笑いながら、彼女は言う。その裏に、自クラスのことなどどうでもいいという感情を隠しながら。彼女にとって大事なのは自分の主。と、それに命じられた護衛対象である七瀬。それ以外は割とどうでもいいし、任務に関係ない。ただし、孤立すると不都合であることはわかっているので明るく振舞っているだけだ。
そうとは知らず、石上はとりあえずは丁寧な対応をする。彼はまだ、彼女への興味を捨てていない。だからこそ丁寧な応対をするのだ。その自身の興味具合で応対が変わるある種の社会性の無さも見抜かれているとは知らずに。
考えを巡らせる石上を、陸瑞季は冷たい目で見降ろしていた。その口元には、見せかけの微笑を浮かべながら。
この世界線の一之瀬さん、堀北さんに迫られている、孔明に全然勝てない、折角コネクションを作ろうとした一年生も横から掻っ攫われる、龍園に嫌らしく責められる、最初の特別試験で平均点最下位でCやDにすら負けるなど、結構散々な目に遭ってますね。だからカード売ったわけですが。