ようこそ孔明のいる教室へ 旧バージョン   作:tanuu

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<前回の解答>

問1 
(1)恩貸地制
(2)オドアケル
(3)メロヴィング
(4)クローヴィス
(5)ランゴバルド王国
(6)ヴェルダン・メルセン
(7)カロリング(朝)・ルネサンス

問2……ニーベルンゲンの歌。某世界を救う英霊のゲームのおかげで知っている方も多いのではないでしょうか。ジークフリートとクリームヒルトは出典がここです。ラインの黄金伝説もこの作品から来てますね。なお、アインツベルンの資金源はこの呪われた黄金だそうで……。

問3……シャルルマーニュ。戦艦の名前にもなっています。シャルルマーニュ十二勇士と言えば有名かも?ローランやアストルフォ、ブラダマンテ、ロジェロなどが仲間です。タタールの王、マンドリカルドもここが出典です。月の聖杯戦争に出ていたので、知っている方もいるかもしれませんね。

なお、全部教科書に載っているレベルです。問1は特に世界史選択受験生は必須で覚えないといけないゾ☆


39.願望

「自分は役立っている」と実感するのに、相手から感謝されることや、ほめられることは不要である。貢献感は「自己満足」でいいのだ。

 

『アドラー』

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

「Dクラスの人は私を呼び出す趣味でもあるんでしょうか」

 

 櫛田に空き教室で詰め寄られた数日後。テストを間もなくに控えたある日。放課後にこの前の部屋に来て欲しいと携帯にメールが入った。差出人は堀北鈴音。私は彼女に連絡先を教えたつもりは無いが、櫛田から聞いたのかもしれない。

 

 クラスメイトには作成した模擬テストを全員で受けるように指示を出して、一旦教室を抜けてきた。変な動きをしようものなら、目を光らせている真澄さんが対処してくれるはずだ。私も安心してこちらに来れるというもの。

 

 空き教室には櫛田と堀北、そして綾小路がいる。やはりと言うべきか、Dクラスを率いていく逸材たちだった。平田がいないのは意外だが、彼は彼でやるべきことがあるのかもしれない。

 

「私も暇ではないのですけれどね」

「それについては申し訳なく思っているわ。それでも、どうしても聞きたいことがあったの」

「はて、何でしょうか」

「あなたは何故、櫛田さんを私たちに協力するよう説得したの?その訳を聞かせて欲しい」

「何故、と来ましたか。しかし、どうしてそんな事が知りたいのです?貴女からしてみれば、どうにもこうにもし難かった人材が向こうからやって来た。これで櫛田さんを利用しつつ上に上がれる。万々歳じゃないですか」

「ええ。状況だけ見ればそうね。けれどそれがあなたに仕組まれたものだとするならば、話は別よ。誰かの作り上げた状況の中にいて、なおかつ自分にとって有利な状況になりつつあるならそれは警戒するべき。そうではないかしら」

「同意しますね」

「であれば、是非教えて欲しいものね」

 

 堀北は腕を組みながら私を見つめる。綾小路はいつも通りの顔で、状況を見つめていた。櫛田は不気味なくらい黙っている。その笑顔も、怒り狂った表情も今は無い。ただ、無があるだけだ。

 

「では、答えましょう。しかしその前に、私の質問にも答えて頂きたい。結局、あなた方2人は彼女の事をどこまで聞いたんですか?」

「ほぼ……全てよ」

「なるほど。では、彼女が中学生時代に愚かで凡俗なクラスメイトからの評価などという路傍の石より価値のないものに踊らされた挙句、パシリのような行いをして、ストレスを溜めこみよりにもよって電子の海という不特定多数に閲覧され将来的に自分を大きく苦しめる可能性のある世界に全黒歴史を投下し、それが案の定露見すると攻め立てられ保身のために文春砲もかくやの情報暴露を行いクラスを崩壊に追い込んだという何ともつまらない話を聞いたわけですね」

「……あなた、どこでそれを」

「調べれば幾らでも出てきますよ。インターネットは良いですねぇ。便利な時代になりました」

「外部との接触は禁じられているはずよ」

「ええ。ですから、私が調べたわけではありませんよ」

「それは、どういう」

「答えは人に聞く前にまず自分で考えて下さいね。誓って、校則違反はしていませんし、仮にしていても貴女にそれを証明する手段はない。録音なんてしていないでしょうし、通話状態でも無いようですしね」

 

 図星だったのか、堀北の顔が少し険しくなる。事実、私は別に違反はしてないという風に言い訳できる状況を作っている。たまたま櫛田の話を懇意にしていたモールの店員にしてしまい、興味を持った店員が色々外で調べ、それを私に教えてくれたというただ構図だ。これならば、私は何もしていない。会話しただけだ。櫛田の言ったように、生徒には漏らしていない。それにどの道櫛田は泣き寝入りするしかない。どう転んでも私の敗北はあり得ない。

 

「随分と言ってくれるね」

「事実でしょう?結局、貴女の人生は承認欲求に踊らされているだけじゃないですか。何て言うんでしょうね、こういうの。麻薬中毒者でしょうか。阿片窟に溜まってる中毒者と同じですよ。薬をキメる。気持ちが良くなる。切れると不安になったり快感が忘れられなくなる。そして薬を買う。やがて薬のために判断力を失い、その為だけに生きるようになる。この麻薬を承認欲求に変えたら同じでは?」

「……」

「まぁ承認欲求については否定しません。努力する上で大事なものであることは事実ですし、別に悪いことではありません。教育の観点でも、褒めるのは大事な事です。しかし、やり過ぎは何事も毒になる」

「あんたに私の気持ちなんて分からないでしょうね。大抵の事は出来たけれど、途中からどれも2番手以下に甘んじる羽目になった私が唯一すがれるのが他人に優しくすることだけだった。何でも出来て、人生完璧に行ってそうな奴に訳知り顔で説教されたくない!」

「では貴女に分かるんですか?常に100%を求められ、それが出来て当たり前と思われ、例え100%を達成しても120%、140%と求められ続ける人間の事が。屈辱と恥辱の中で泥を啜りながらも前に進むしかなかった私の気持ちが。分からないでしょう?だからこの手の話は無益なんですよ。どうやったって平行線で終わってしまう」

 

 綾小路は少しだけ、共感したような雰囲気を示している。彼のいた組織の全貌は未だつかめないが、彼ももしかしたら私と同じような環境にいたのかもしれない。だとしたら、少しは分かり合えそうな気がした。

 

「つまらない人生ですね」

「どうしてあんたなんかに論評されないといけないのよ」

「ただの感想ですよ。それを言う権利くらいあるでしょう?それに、貴女自身がつまらない過去だと思っているのでは?」

 

 彼女は無言だ。だが、その無言が何より私の言葉が事実であることを肯定している。

 

「一生そうやってどうでも良い多数からの評価だけを求めて生きていってください。薄っぺらくてつまらなそうですが、それはあくまでも私の感想、私の価値観なので、貴女からしたら価値のあるものなのかもしれませんね。だとしたら申し訳ありません」

 

 薄く笑いながらの謝罪に彼女は苛立ったように地面を踏みしめた。埃が夕暮れの教室に舞う。

 

「そうやっていればいつか、貴女が本当に欲しかった人からの承認が貰えるかもしれませんからね」

「は……?」

「疑問だったんですよ。ただの性格でそこまで捻じれるのかが。貴女にはもっと根本的に何か承認欲求をかきたてる原因があったんじゃないかって。ねぇ、堀北さん。不思議な話だと思いませんか?」

「何が、かしら」

「ヒントその1。櫛田さんは学級崩壊を起こす引き金となった」

「……?」

「ヒントその2。櫛田さんが学級崩壊を引き起こした際、彼女はブログに個人情報をアップロードしていた。しかも知っている人なら特定できるような程度の匿名性で。ヒントその3。櫛田さんは他人の個人情報をばらまいた挙句、誹謗中傷をした。ヒントその4。櫛田さんの行いは完全に社会倫理的に問題行為だ。ヒントその5。にも拘らず櫛田さんの両親が動いた形跡がない。ヒントその6。櫛田さんの件で学校から呼び出しがあった時に……」

「なるほど」

「おや、綾小路君、分かりましたか?彼女が本当に承認を求めている相手。あくまで予測ですが、最も可能性の高いその存在の名は?」

「親、だろう?」

「その通りです。堀北さん、もっと推理力を付けましょうね。それはさておき、これが私の推理です。櫛田さんが本当に求めていて与えられなかったのは、櫛田さんの両親からの承認だった。興味がないのではない。貴女の両親は、言ってしまえばある種のネグレクトだったからでは?」

「……」

「離婚されてないという話を聞きました。それどころか、仲睦まじい夫婦だそうで。あれだけの事件があったのに。学校側が隠蔽したようですが、それでも他のクラスから話は漏れるでしょう。訴えられる可能性もあった。にも拘らず貴女の親は動いた形跡が無いようですね。卒業前だったため許されたものの、本来はとんでもない事態になりかねなかった。それなのにです。先程の堀北さんの問いに答えると、この情報は私の懇意にしているモールの職員が調べてきました。暇だったんでしょうね」

「……」

「貴女の親は、親になり切れてない子供だったんじゃないですか?いつまでも新婚気分。子供よりも互いを優先してしまう、そんな歪んだ家庭。私はそう推理しました。貴女の存在を認知はしている。食事や睡眠は与えている。暴力などはない。それでも貴女は家族というより、彼らからすればお荷物だった。違いますか?」

「……素直に言うと思う?」

「おっと、それもそうですね。まぁ、ただ1つ貴女を庇える点があるとすれば、貴女のクラスは貴女が暴露した方が良いレベルでヤバいってことくらいでしょうか」

 

 堀北も綾小路も、彼女が暴露したという話は知っていた。しかし、実際に何を言ったのかは知らなかったようだ。ブログは閉鎖されていたが、そこは流石電子の海。奥深くに眠っていた。それを見て、かつ部下からの報告書を見れば、恐るべき実態が書かれていた。あれを見た時は思わず戦慄したものだ。というか、人に言うなよ……という内容も多かった。

 

 詳しくは知らない両名は顔に疑問符を浮かべている。櫛田は察したようで乾いた笑いを浮かべていた。

 

「井上匠、某48人のアイドル握手会場にて乱闘騒ぎを起こし出禁。その後もストーカーまがいの行為を行う。江口実、万引き常習犯。遠山愛菜、パパ活。坂上紀里香、暴露された時点で妊娠3ヶ月。相手は同級生の雪永鉄平。長倉一郎、陰湿ないじめ行為を行う。なお、父親は会社でパワハラ、母親はママ友を虐め、弟もクラス内で嫌がらせをしていた。野口萌、学校の教師と不倫中。個人的にヤバそうと思ったものを挙げただけでこんなに。まだまだ小さいのを含めるともっと沢山あるみたいですね。どうです、堀北さん。母校が犯罪者と問題児の巣窟だった気分は」

「……最悪ね。筆舌に尽くし難いわ」

 

 綾小路ですらドン引きしている。気持ちは凄い分かる。堀北はどうせ中学校では一人だったのだろうが、それでも思い出はあるだろう。母校がこれと聞いて、愕然としている。

 

 この後の情報も多数入っているのだが……それはまぁ今回の大筋とは関係ないだろう。出禁少年は無事親に閉じ込められ、万引き犯は余罪が全部バレ逮捕。パパ活少女は性病で病院通いかつ親に勘当される。妊娠少女はなんとか出産するも虐待。これだけは流石に報告を受けた時点で見逃せなかったので保護するように動くよう指示した。その結果、虐待で書類送検。子供は無事我が母国の子供のいない夫婦の養子に入った。イジメ家族は一家離散。息子2人は引きこもり、父親は降格、母親は精神疾患で入院。不倫少女も大問題になったようだ。相手の教師はクビ。彼女も厳しい寮あり学校にぶち込まれた。

 

「だからと言って個人情報を勝手にネットに掲載した挙句誹謗中傷していい理由にはなりませんが……その後の結末を見る限り、いずれこうなっていそうではありますがね。これが日本の進学校ですか。末恐ろしいですねぇ。私のド田舎中学の秘密なんて、裏山にエロ本隠してるとかその程度でしたから尚更。都会は怖いなぁ」

 

 冗談めかして言ってみるが、誰も笑わない。そりゃそうだと思いつつ、話を戻した。エロ本隠してたやつが灘行ったんだから世の中は分からない。頭いいならモテると思ったようだ。……あそこは男子校だと言い忘れていたが、大丈夫だろうか。

 

「さて、随分と話が逸れてしまいましたね、申し訳ない。聞きたかった事は聞けたので満足です。ですからお答えしましょう。何故櫛田さんを説得したのか、についてでしたね。答えは簡単。Dクラスにまとまって欲しかったからです。内憂外患のどちらかを取り除くなら、内憂の方が楽ですからね。外とはどうあっても争わないといけないのがこの学校ですから。獅子身中の虫を益虫に出来るなら、万々歳では?」

「何のために、私たちをまとめさせるの?」

「Cクラスの、もっと言えば龍園君の相手をしてもらうためですよ」

「だろうな」

 

 綾小路がここで口を開く。

 

「綾小路君、あなた分かっていたの?」

「何となくだがな。諸葛は櫛田の情報を売る時も条件としてCクラスを相手するように求めてきた。だから諸葛の狙いはオレたちにCの相手をさせることなんじゃないかと予測していた」

「そんな取引が……聞いてないわよ」

「今言った」

「綾小路君、あなたねぇ。……まぁ今は良いわ。CクラスとDクラスを争わせる。それがあなたの狙いなのね、諸葛君」

「その通りです」

「下位クラスどうしで足を引っ張り合わせ、その隙に自分達はBクラスを蹴落としながらいれば楽だからかしら」

「そういう思惑がないとは言いません。しかし、本質的にはもっと違います。ほら、Cクラスって一部を除いて大体暴力的で柄が悪いでしょう?私の部下は武道の心得が無いので襲われたらひとたまりもないんですよ。だから龍園君たちの視線をDクラスの皆さんに向けて貰いたいのです。ヘイトコントロールってやつですかね。ちょっと違うかな?」

「私たちが利用できるから、という事ね。けれど意外ね。あなたがクラスメイト達を守るなんて。失礼だけれど……もっと利己的だと思っていたわ」

「達?あぁ、失敬失敬。勘違いさせてしまいましたね。私の指す部下はクラスメイトではありません。真澄さんただ1人です」

 

 誰も何も話さない。堀北は唖然としたような顔で私を見つめている。その瞳に写る感情は驚愕か、それ以外か。何れにしろ、私という虚像を見たようだ。私は、多くから求められている諸葛孔明という人間を演じているに過ぎない。だが、最早それが自分になってしまった。過去の自分、無垢だったころの自分がどんなだったかなど思い出すのは不可能だ。

 

 それでも私は構わないと思っている。多くが私にかくあれかしと望んだのならば私がそれに応えれば良い話だ。それは私のやりたいことであり、するべきことだ。ストレスなど感じる事も無い。仮面をかぶっているという点では同じでも、櫛田と私の決定的な差はここだろう。彼女は快のために、私は特にそういう理由は無く、そうしている。人が誰しもそうしているように。

 

「最低な人」

「貴女に言われるとは心外ですね、櫛田さん。クラスを裏切った人が言う台詞ではないと思いますが。しかし結果的にはそれが貴女を前に進ませることになったのかもしれませんけれど。途中で折れて貰っては困るので1つだけアドバイスをしましょうか。比べるべきは周りではありません。本質的に比べるべきは、昨日の自分です。それより少しでも前に進む。それが人が人生で行うべき行為ではないかと私は思っています」

「やっぱりウザい。説教くさいし、同学年の癖に腹立つ。絶対その場所から引きずり降ろしてやるから」

「出来ると良いですね」

「その為にわざわざ堀北とでも手を組んだのに、降ろせないなら意味ない。絶対諦めないから」

 

 目つきは変わっている。ただ盲目的に憎悪に突き動かされ感情的に行動していた時の様子は鳴りを潜めている。未だに憎悪は変わっていない。怒りも憎しみもまだ消えてはいない。それでも前を向くようになった。過去から逃れることは出来なくても、それと共に生きていくことは出来る。

 

 本質的なところでずっと彼女は過去を生きていた。あの日、全てが露見した日から彼女の時間は止まっていた。成長も無く、進歩もなく、ただ怒りと憎しみを抱え、その捌け口を探していた。それがたまたま堀北だっただけの事。もし違う人物でも同じような方法を取っていただろう。

 

 成功と言って良いだろう。これで櫛田の問題はある程度片付いた。火種が消えたことで、Dクラスは安心してCとの戦いに専念できる。龍園がこちらにちょっかいを出す余裕が無いように拘束していて欲しいものだ。いや、どう転んでも拘束することになる。今のままなら挑み続けるから。もし逆転したら今度は龍園が挑み始めるだろうから。Aクラスにちょっかいをかけても上には行けない。龍園ならば目の前の敵を排除することを優先するだろう。

 

「話したいことは以上ですか?」

「ええ。聞きたいことは聞いたわ」

「それではご健闘を祈っていますよ」

「……せいぜい足元を掬われないように気を付ける事ね」

 

 堀北も勉強会の教師役があるのだろう。足早に去って行った。綾小路もそれに続く。最後に教室を出ようとした櫛田に向かって私は言葉を投げかけた。途中であきらめたり投げ出して楽な方へ走らないようにさせるための言葉を。

 

「良い目をするようになりましたね。過去に生きていた状態からようやく脱せたという訳ですか。そっちの方がよっぽど人間らしい。ようこそ、現在へ。私を追い出せるように頑張って下さいね」

「チッ!!」

 

 思いっきり凄い舌打ちをしながら彼女は去って行った。それでも闘志が燃えている。暫くはしっかりクラスのために奉公するだろう。綾小路と堀北という監視役兼共犯者みたいな存在がいるので、これまでのように裏切ったりは出来ないはずだ。

 

 Dクラスへの布石は撒いた。Cクラスの龍園は必死にDクラスの参謀役を探そうとしているだろう。それに時間がかかればかかるほど良い。その間は少なくともこちらには来ないからだ。Bクラスとつるんでいる2年生に注力できるようになる。クラス間闘争の楽な逃げ方は他クラス同士で足の引っ張り合いをさせ、団結を阻止し、その間全力で戦力差を引き離すことだ。こうすればどうあっても勝てるようになる。

 

 ほぼ99%が計画通りに進行している。このままいけばしばらくは安泰。3年生向けの外交戦に注力できるはずだ。埃の舞う教室を後にする。西日だけが変わらず教室内を照らしていた。廊下に出れば、少しだけ寒くなってきた空気が肺を刺激する。少しばかり機嫌がいい。時計を見れば、模擬テスト終了まで後数分。何事も無かったかのように戻って解説を始める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上で一区切りにします。一旦休憩入りましょうか」

 

 空き教室の一件から数日後。テスト前の最後の追い込みという事もあって、クラスメイトは必死だ。今回のテストではどんな問題が出てくるか分かったもんじゃない。なので万が一が無いようにするためには必死になってやるしかない。3年と同盟を組んだことがここでも生きてきて、彼らがペーパーシャッフルをした際に出された問題を貰う事も出来た。当時の3年Bクラスが作成した問題のため、当然難しい。なお、坂柳には3年から貰ったとは言っていない。南雲と繋がっている奴に同盟の情報など渡せるものか。模擬テストやこれによって大分強化されている自信はある。どう頑張ってもBクラスがウチのクラスから退学者を出すのは不可能だろう。

 

「何か話でもしましょうかね」

 

 グデーッとして疲れている死屍累々を見ながら提案する。こうやってブレイクタイムを入れないと集中力が続かない。ずっと机に向かっているのは極一部の変人を除いて大変難しいものだ。

 

「Cクラスの男子が2年生と付き合い始めた話とかします?」

「あ~それ聞いた~」

「結婚するって息巻いてるらしいね」

「弓道部の奴だろ?」

 

 がやがやと話し始める。こういう恋バナというかゴシップは学生ならなおの事大好物だろう。現に食いつきが良い。まぁ興味なさそうな人もいるが。

 

「あぁ、結婚したいと言ってるのは知りませんでした」

「孔明先生、それ結構前に出たネタだよ」

「情報遅くない?」

 

 その手の話の仕入れ先が真澄さんしかない上に、彼女はあまりそういう話をしない。なのでどうしても遅くなってしまう。

 

「う~ん悲しいなぁ。結婚願望ある人、挙手!……挙げにくいか。誰もいないんですね。困ったな、話が展開できない」

 

 おどけたように肩をすくめれば、笑いが起きる。

 

「今から考えるのは難しいかもしれませんが、人生の中での大事なイベントなので人生設計する時にはしっかり考えた方が良いとは思いますよ?少子高齢化を食い止めるべく頑張って下さいね。でも社会制度がなぁ……。まぁまずは相手を探すところからですけどね。私のところに嫁いでくれる人は誰かいませんかね」

「「「!?」」」

「どうしました?」

「え、結婚願望あったんだ」

「いや、ありますよ?普通に。私だってねぇ、幸せな家庭生活くらい送ってみたいと思ってるんです」

 

 あ……という感じの空気が漂った。そう言えば、私の両親が既に死去している話はしていた。どうも気を遣わせてしまったらしい。実際はそんなに気にしてはいないのだが、そういう経験をした生徒は少ないはずなので、どういう顔をしたらいいのか分からないという感じだろうか。

 

「さて、話はこれくらいにして再開しますよ。私の話はこの辺で良いでしょう」

「「「ええ~~」」」

「しのごの言わずにやる!」

「「「は~い」」」

 

 口では気だるげでも一度ペンを持って問題をやったり話を聞き始めた時は真面目なので助かる。切り替えが上手いというのも、学習上大事なことだ。そして切り替えが得意な人は勉強もできる事が多い。自己を律せるのは大事なことだ。

 

 

 

 明日はいよいよ本番なのでかなり遅くまで授業をやり、今日は解散となった。軒並み高得点を取れるだろうと踏んでいる。むしろそうなってくれないと困る。こんなところ、しかも学力という我々が最もアドバンテージを持っている状況で敗北などするわけにはいかない。しないように万全を期してきたつもりだ。

 

 教室内では結構な人数が教え合ったり質問しあったりしている。健全な勉強環境だ。逃げようとした坂柳も他の生徒に捕まってこき使われている。普段あんまり役に立っていないのでこういう時くらいは仕事をしてもらおう。コイツは南雲と繋がっているが、しばらくは泳がせておくことにしている。

 

 南雲と繋がっているという情報源は橋本だ。見切りをつけたのか、情報提供をすることで私に協力する姿勢を見せている。彼は能力もあるし、諫めたうえでの坂柳の行動だったらしいので大義名分も立つだろう。信頼は出来無いが、その能力は信用はしても良いはずだ。

 

「お疲れ」

 

 信頼も出来る方の部下が話しかけてくる。彼女もしっかり頑張っていた。まだ他人に教えられるほどではないし、もっと言語能力や説明能力を高めてもらう必要があるが、それでも初期に比べれば格段な進化だと思う。順当に成長しているので、将来も安泰だ。進学したい学校は特に無いと言っていたので現段階ではあるが幾つかピックアップしている。

 

 正直日本の大学でも良いのだが、出来れば海外に挑戦して欲しいと思っている。日本の大学には日本の大学の良さがあると思うのだが、入った後に実りのある生活をしている学生が多いとはあまり言えない。英語力を鍛えるならば海外に行った方が良いのは確実だろうし、イギリスかアメリカで考えている。個人的にはイギリスの方が良いように思うが、その辺は本人の好みだろう。

 

 また、彼女は芸術系に造詣があるので、今後部活等で描いた作品が成果を出したのならば芸大を目指すのもアリだと思っている。それはそれでまた別の勉強が必要になるが、しっかり努力できるようになっている今の感じから見るにそんなに心配してはいない。

 

「そちらも、よく頑張っていたな。後は結果を出すだけだ」

「それを言わないで。こっちも結構戦々恐々って感じなんだから。アンタみたいにいつでも余裕綽々じゃないの」

「私だって余裕綽々ではないさ。いつだって緊張感をもってテストには挑んでいるつもりだ。つまらないミスなんてしたくないからな」

「慢心しないのは良いんじゃない?人間味ないけど」

「失礼な。私はしっかり人間だ」

「そう?」

「そうだとも。現に私より頭の良い人はいる。もしくはいた」

「へぇ~。誰?」

「私の知り合いと母親」

「お母さん、か」

「私も詳しく知っているわけではないけれど。世界トップクラスに優秀だったらしい。らしいというのは人から聞いた話だからそう言うしかない訳だが」

「どんな人だったの」

「どんな……か。言われると困るが。写真ならあるぞ。随分前のだけれど」

「見たいかも」

 

 彼女は珍しく興味津々と言った様子で私の顔を見た。その目には期待の炎がランランと灯っている。何かをお願いされるのは珍しかったので、教室内とは言え別に見せても良いだろうと思い携帯を開いた。画像フォルダの中に転送した写真が入っている。残っているクラスメイト達はどこか興味ありげに耳だけ傾けているのが気配で分かる。とは言え、知られても不都合はないだろう。

 

「はい、これ。私がまだ3歳くらいの時だから……丁度24歳とかか」

「…………マジ?え、これは怖い」

「何が」

「ちょっと顔良すぎない?」

「さぁ、自分の親なのでその辺はなんとも」

 

 母親に似ているとは言われることはあるが、自分では分からない。それを思い出した彼女は少しだけ気まずそうな顔をした。隣からチラッとのぞき込んでいた坂柳の顔は死にそうになっている。「負けました……この顔にはどうやっても勝てない……」と生気のない顔で呟いているのが普通に怖い。

 

「ちょっと暫く夢に出てきそう」

「そんなに……?」

「それはそうと、Bクラスには勝てそうなの?」

「ああ。勿論。これで負ける事は無いだろう。平均点は凡そ50点前後になるように設定してある。ボーダーには届くかはギリギリだな」

「作戦通りって訳ね」

「そう言う事だ」

 

 確認した彼女は私の耳に口を寄せて囁く。

 

「一之瀬に契約破りのペナルティは無いの?」

「無い。そうすればそうするほど、勝手に向こうが罪悪感を抱いてくれるだろうからな」

 

 約束破ってお咎めなしってのはどうかと思うけど、と言いながら彼女は口をとがらせる。耳がぞわっとして変な扉が開きかけたので今後は勘弁してほしい。ASMRが流行る理由が少し分かった気がした。 




<今回は英語表現。簡単な英文和訳です>

問:以下の英文を日本語に直しなさい。なお、辞書の使用を認めます。

(1)
This last one at least, if words are to have any precise meaning, we must confess to be unbeautiful, or ugly.

(2)
These musicians are not conscious of conventional instrumental technique until the later stage of learning, if at all.

こんな感じで英語表現のテストは辞書使用可能な問題で構成されています。Bクラスへの恩情問題なので、簡単ですね!



孔明の母親のイメージはAtlach=Nachaというゲームの比良坂初音というキャラクターをイメージしてます。そっくりって訳では無いですが、創造する際のキャラメイク時にはこの子を参考にしました。大体こんな感じって思って頂ければ。

次回で今章も終わりです。次章は……7巻でAクラスにあまり動きがないので、かなり短いかも。ただし、例のあの男が出てきます。
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