ようこそ孔明のいる教室へ 旧バージョン   作:tanuu

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天下における真の英雄は余と君のみだ

『三國志演義・曹操』


42.パーティー

「茶柱先生とのお話は済みましたか」

「ああ。時間を取らせたな」

「いえ、大した時間ではありませんから」

 

 綾小路の父親との対面を経て、我々はお互いに話をする必要性を認めた。その為、こうして会合をしている。そう言った話し合いを秘密裏にやりたい場合、この学校には適した場所が多い。

 

 だが話をする前に綾小路側から担任である茶柱先生と話をしたいからそちらを優先して良いかと聞かれた。拒否する理由も無いので好きにして欲しいと伝えたが、その話し合いが終わったようだ。

 

「綾小路君、君は本当はクラスを率いるつもりも、もっと言うのであれば目立つつもりもなかった。違いますか?」

「その認識で正しい。オレは普通の学生生活を送りたかった。尤も、この学校の日常は外では凡そ非日常だろうがな」

「無論です。日本中の学校がこんなだったらたまったものではありません。さて、話を戻しますが、そんな中でも君がクラスのために戦略を立てたのは茶柱先生が絡んでいると読んでいますが、如何でしょう」

「流石だな」

「野望を抱いている人には、隠しきれない気配があります。これでも無為に16年生きてきたわけではありませんからね。人を見る目は、そこそこ以上にあるつもりです」

「諸葛の言う通り、オレは5月になって早々茶柱先生から脅しを受けた。察しはついていると思うが、あの父親関連の脅しだ。後はお前の想像する通りだろう」

「教師が生徒を脅す、ですか。私としてはあまり愉快な事ではありませんね。たとえそれが他クラスであったとしても。君には何の罪も存在していないのですから。教職ともあろうものが……」

 

 自分の担任がそうでなくてつくづく良かったと思う。私がAクラスなのもあるかもしれないが。自分の生徒を脅すような教師を教師と認めるのは非常に腹立たしい。教員免許はただの免許ではない。誰かの人生を背負うためのモノだという自覚がないのか。思わず舌打ちをしてしまった。

 

「しかし、どうして茶柱……先生はそこまでAクラスに拘るのでしょうね。何かご存じですか?」

「詳しくは知らない。ただ、ここの卒業生とは聞いているが」

「なるほど……では彼女はまだ、ここに囚われているのかもしれませんね」

「と言うと?」

「彼女が在籍していた頃からクラス間闘争は存在していたのでしょう。そして、彼女は最後までAクラスにはなれなかった。きっと、凄く惜しいところまで行ったんじゃないでしょうかね。でなくばそこまでの執着は持たないでしょうから。時間がきっと、学生時代のままで止まっているのですよ。何と愚かな……こんな狭い世界の中だけに囚われるなんて。やはりここには問題が多い。こんな狭い箱庭を、我々はまるで世界の全てであるかのように錯覚している。いや、学校がそうさせているのかもしれませんね」

「外部との接触を断ち、より人間関係を固定化させて視野を学校内だけに狭める、という事か」

「その通りです。疑似的な社会を再現しようと試みている。退学とは実質死刑に近い。だから皆がそれを避けるようにさせている。実際には、ここを追われても生きる道など幾らでもあると言うのに。それなのにここを追われることが人生の破滅であるかのように煽っている。そうは思いませんか?事実ここで実力不足と判断された生徒が実際に世間で通用しないかと言われれば別でしょう。特別試験などでは、優秀な生徒も退学になる可能性があるわけですからね」

「確かに、多くの生徒にとってはそうだろうな……」

 

 綾小路は軽く嘆息する。彼からすればここを追われれば戻るのはホワイトルームとか言う施設だけ。それ以外に行き場は無い。最後の砦がここだった。でも、きっとそれは彼以外にもいるのではないか。居場所の無い者、ひどい扱いを受けてきた者。そんな人の最後のセーフティーネットがここである可能性は十分にあり得た。

 

「さて、肝心な話に入りましょうか。私たちは協力できる余地がある。そう思うのですが、如何でしょうか」

「同意する。1人で戦うのは非効率的だ。目的を同じくする者がいて利害関係が一致しているのならば共闘するべきだろう」

「賢明なご判断感謝します。では、すり合わせていきましょうか」

「ああ」

「まず、情報の共有。これは普段の事は結構ですのでホワイトルームやそれに関連すること。これをしっかり共有しましょう。特に来年度以降は必須になるはずです。誰が味方で誰が敵なのか。それを見極める必要がありますし、共に狙われている者同士手を取り合った方が良い。3人寄れば文殊の知恵とも言います。我々は2人ですけどね」

「分かった。情報があったらすぐに共有することにしよう」

「そして互いに危機に瀕したら救援する。また、何らかの作戦を思いついたら共有し実行する際は協力する。相互安全保障条約のような形でいかがでしょう。ただし、普段は無関係を装うというのでいかがですかね」

「問題ない。オレとしては味方がいる以上に心強い事は無い。その上、諸葛ならばホワイトルームからの刺客にやられる可能性も少ないだろうし、襲撃されても対応できるだろうからな」

「そこはご信頼頂いて構いませんよ。私はこの件に関してはクソ親父……失敬父親の贖罪も兼ねて綾小路君の味方です。違約時には自主退学、そして契約期間は明確にホワイトルームの脅威が去ったと双方が合意した時。それでよろしいでしょうか」

「構わないぞ」

「特別試験に関しては……どうします?」

「オレは普通と同じ、つまり特にここにおいては遠慮をしない方向で良いと思っている。自学年で完結するならなおのことな」

「分かりました。では契約書を書きましょう。信頼というのは目に見えた方が良いですから」

「そうだな。オレも父親には現在進行形で困らされている。感情面で共感してる。契約の件も承知した。サインしよう」

「後で作成した紙を送りますので印刷してサインしておいてください。私がサインし次第、共同で証人に提出しましょう。証人は……理事長でも使いますか」

「理事長は味方なのか?オレはお前のクラスで理事長の娘の坂柳に狙われているんだが」

「なんですって?あの小娘、よりにもよって面倒な……」

 

 思いっきり悪態を吐いた私に綾小路はそこまで言わんでも……という顔をしている。

 

「ま、まぁ理事長は味方じゃないですかね。少なくとも敵ではない。証人としては機能すると思います」

「分かった。ならばそれで行こう」

「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそ」

 

 握手をして、まだ前段階ではあるが契約はある程度完了した。この後、契約書を書いて提出すれば契約は完了だ。厄介な問題にはある程度対応できるようにはなるはずだ。そしてこちらは綾小路には分からない場外戦闘をやるつもりでいる。まずは死んだという執事の息子で現在困窮中の青年を()()する。その後は幼馴染を引き込めれば万々歳だ。

 

「めでたく契約が半ば完了したわけですが、坂柳さんの件についてお聞きしても?」

「アレは体育祭が終わった後だったな。お前のクラスの女子に呼び出されて付いて行った先の特別棟に坂柳がいた。そこで8年と243日ぶりという言葉を吐かれた。誓って言うが、オレに坂柳と会った記憶は無い」

「怖っ!ストーカーの発言じゃないですか……。怖いなぁ。我がクラスからストーカー加害者が出るとは嘆かわしい。坂柳さんに代わって謝罪いたします」

「普通に少し不気味だった。しかも一方的に自分だけが知っていると言っていたな」

「ギルティィィィ!!どう考えても有罪じゃないか!何てことしてるんだよ……」

「何か宣戦布告のような事をしていたが、まさかと思うがお前の指示ではないよな」

「あれが私の指示を聞くタイプに見えますか?」

「なるほど。愚かな質問だった。忘れてくれ」

「勘弁してくださいね全く。あんな部下願い下げです。全く……誰彼構わず喧嘩を売りまくるから呪われるんですよ。分かりました。我々における唯一の不安要素である坂柳はAクラスリーダーの責任で以て処分しておきます。暫くかかるでしょうが、出来る限り手出し無用でお願いします」

「了解した。なるべく早めで頼む」

「今年度中にはどうにかします。あんな爆弾を次年度に持ち込むなど冗談じゃない」

 

 結局、彼女と私は不俱戴天。共に並び立つことは出来無いのだ。もし私が今の地位から降りれば待ってましたとばかりに復讐が始まるだろう。葛城など最早眼中に無くなり、私……いやまずは真澄さんが真っ先に此処を追われる。そうして私を痛めつけ、苦しませ、屈服させて支配するだろう。駒として扱い私の尊厳を傷つけて欲望を満たすと見ている。

 

 正直、彼女に出来る程度の尊厳破壊など、とうの昔に経験している。何処までも平和な国に生きてきたお嬢様には絶対想像もつかない人権などない世界にいたのだから当たり前だろう。とは言え私1人ならばともかく部下がいる以上、それに巻き込ませるわけにはいかない。私には真澄さんを使っている以上、彼女を無事に卒業させる義務がある。

 

 坂柳は支配。私は教導。この2つには隔絶したものがあると思っている。どちらもある種の傲慢さがないと出来ない事だろう。結局、誰かを導くというのは必然的に上下関係を発生させる傲慢なシステムであり思考だからだ。だがしかし、私は後者でありたいと思っている。少なくとも、そちらの方が幸福になれる人間の数が多いと思っているからだ。この学校においては、それが顕著であるとも思っている。

 

「あの坂柳の事です。このままなにもしないでいられるほどおとなしい存在ではありません。必ず、行動を起こすはずです。それを以て叩きます」

「派閥があったと聞いていたが、現状はどうなんだ」

「もうほぼ存在しません。仲良しグループくらいなものでしょう。坂柳派の数少ない人間の1人は既にこちらとの二重スパイを始めました。抜かりはありません」

「崩壊寸前のようだな。それならばオレが手助けすることも無いだろう。クラスポイント獲得に邁進できる訳だ」

「なおも、Aクラスを目指しますか」

「ああ。オレはそうすると決めた。堀北も、須藤も、他の奴らも少しずつ成長してきているからな」

「我々との差はかなりのものですが?」

「絶望の中でも希望を見出せないという事は無いはずだ。不可能でない以上、挑戦するまでだろう」

「……なるほど。それは大変素晴らしい。私も同じ考えです。どんな暗闇の中でも、進み続ければきっと闇の晴れる場所があるはずですからね」

 

 そうだとも。きっと希望の大地はあって、そこに行くことは出来るはずだ。人ですら無かった我々が、人になれたように。

 

「だが意外だな。お前が坂柳にそこまで悪感情を見せるとは。オレの勝手な思い込みかもしれないが、お前はあまり他人に悪感情を抱かないタイプだと思っていたが」

「そんな事ありませんよ。私は聖人君子ではありません。好きな人も、嫌いな人もいます。普通の人間ですからね?……人を無闇に傷つけても何の得も無いんですよ。むしろ友好的に接して、力を最大限活かせるようにして、自分の意思で共に戦って貰った方が良い。誰かを害するのは最終手段なんです」

「恐怖による支配は最終的にその恐怖が薄れると瓦解する、という事か」

「その通り。それに、自分の意思で戦ってる人って言うのは戦意が高く、そしてしっかり戦いますからね」

 

 無論、この学校にいる人間を皆殺しにせよと言われれば言葉通りに実行できるだろう。これは別に真澄さん風に言うならイキっている訳ではなく、まごう事なき事実だ。だからこそ、力を行使できる能力があるからこそ、その扱いには慎重にならざるを得ない。殺せば一発なのに、とか頭の中では思っていてもそれを声に出したり実行したりは決してしない。思考実験だからこそできる事なのだ。

 

 平和に戦ってこそ、私の腕も磨かれるというもの。優雅に華麗に。それがきっと、勝利する以外にも大事なことだ。だからこそ、今まで思い通りになる人しか近くにいなかった温室育ちのお嬢に負けてたまるか。子供のような無邪気さで遊んでいい時代はもう終わりだ。我々は大人にならなくてはいけない。夢からは覚める時だ。自分に都合のいい箱庭(ワンダーランド)にいた少女(アリス)の最後は目覚めが必要なのだから。物語がそうであったように。

 

「オレはそろそろ行こうと思う」

「長話してしまいましたね。では健闘を祈っています」

「お互いにな。……そうだ、最後に聞きたいんだが良いか」

「何でしょう」

「女子へのプレゼントは何がいいと思う。1年生に名高き孔明先生にお知恵を拝借したい」

「えぇ……」

「他に頼れそうな人がいない。頼む」

「……関係性は?」

「友人……では無いな。協力者、か?」

「あ、ダメだこれ。名前は?」

「軽井沢だ」

「軽井沢さん……お宅のクラスの金髪ポニーテールの子ですよね?」

「それで合ってる」

「う~ん、あの手の子かぁ。難しいですねぇ……」

 

 ギャルっぽい見た目なのでそっち方面が良いのかもしれないし、意外と趣味は全然違う方向かもしれない。これは難題だぞ。特別試験の方がよほど簡単だ。全然知らない女子へ送るプレゼントを考える。これはかなりの難しい問題と言えそうだ。 

 

 指輪……は結婚するときに送るヤツだし却下。私に送る相手はいない。クソ。まぁ良い。次だ次。ネックレスとかか?いや、それもそれで少し高価すぎるか。ぬいぐるみは好みが分からない。コスメは肌に合うか分からないし、口紅は「貴女にキスしたい」という意味になると真澄さんが読んでいた雑誌に書いてあった。知らんよそんなの。ホワイトデーのお返しといい、日本人は物に意味を持たせ過ぎだ。後、書いてあることが情報源によって違うのも何とかしてくれ。

 

「髪留め……とかですかね?すいませんあんまり相手の好みが分からないので具体的なアドバイスが出来ませんが。まぁ後は無難に好きそうなお菓子を送ればいいと思いますよ」

「助かった。恩に着る」

「い、いえ……」

 

 心底感謝した様子で綾小路はいそいそとケヤキモールへ行ったが、これ、大丈夫だろうか。もし何かマズかったら軽井沢さんに申し訳ない。大丈夫じゃなかったらごめんなさい。先に頭の中でイマジナリー軽井沢さんに謝っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬休みが近付いている。少し浮足立った雰囲気が教室を満たしていた。さもありなんと思う。ペーパーシャッフルは終わり、特に後顧の憂いなく休みに入れるのだから。お正月もあるので、イベントごとに盛り上がる気持ちは理解できた。私の場合は新年ではなく春節の方が重要なのだが、日本ではなじみのないイベントなのかあまり取り上げてくれない。爆竹を買っておくとしようか。

 

「クリパ参加希望は早めにお願いしまーす!」

「2名追加でよろしく」

「は~い。孔明先生と神室さんね。OKです!」

 

 どこのクラスにもこういうイベント好きはいるもので。放課後の教室ではメンバーリストの作成をしている。予約に必要なんだろう。交流することは大事な事なので、クラスの統率者として顔を出さない訳にはいかない。

 

「私、まだ何も言ってないんだけど」

「来ないのか?イタリアンらしいぞ」

「……行く」

「じゃあ問題ないだろう?」

 

 食べ物に釣られたのがまるわかりの沈黙だった。元々することないと言っていたのだから暇人だったのだろう。勿論しっかりマンツーマン冬期講習は用意しているが、流石にクリスマスと正月くらいはお休みにするつもりでいる。受験生でも無いのだから少しくらいはのんびりしたって良いだろうと判断した。

 

 メニュー表を早速眺めている気の早い真澄さんと話していると、携帯にメールが入る。差出人は橋本。メッセージには『龍園とCクラスの抗争。メンバーは高円寺、綾小路、堀北など。姫さんが介入し始めている。休憩スペース』と書かれている。龍園がしびれを切らしてCクラスの黒幕を探し始めているのだろう。直接的な介入まで始めたという事は、我慢の限界に来たのか、軽いジャブなのか。もしくは高円寺が黒幕ではないと確信するための手段なのか。何れかだろう。どっちにしろ、綾小路が龍園の追い求める存在であると知っている私から見れば少し滑稽な動きだった。

 

 綾小路からSOSは来ていないし、何らかの介入は本来しなくてもいい案件だが、そこに首を突っ込んでいる存在がいる。坂柳は私と綾小路が繋がっていることも、親世代の因縁がある事も知らない。知っている情報はホワイトルーム関連だけ。でなければ自分と綾小路の関係に介入するなと警告するはずだ。綾小路の話を聞く限り、坂柳は彼を一方的にライバル視している。そして同時に自分だけが秘密、つまりは綾小路の実力を知っていたいという欲望も持っていると見るべきだ。

 

 龍園が多くの前で彼女の隠したい事実に気付かないよう妨害しに来たという事だろう。無視も出来るが、坂柳関連に対処しないと綾小路の不信を買う可能性がある。であれば、一応様子は見に行っておいた方が良いだろう。もし万が一問題が発生したら対応しないといけないのもある。

 

「ちょっと問題が発生した。少し出る」 

「どこ行くの?付いてく」

「……いや、君は来ない方が良い。何があるか分かったもんじゃない。相手は龍園だ。どんな手段に出るか分からない。他の面子は自衛できるが、君はそうじゃないだろう?」

 

 坂柳?橋本と鬼頭が何とかするだろう。私は助ける気は無い。自業自得だからだ。

 

「でも!」

「今日は卵の特売日だ。買ってきてくれ」

「……」

「信頼していない訳じゃない。ただ、心配なんだ。分かってくれ」

「……分かった。行ってくる」

「ああ。頼んだ」

 

 さて、クラスの代表として、坂柳が勝手な事を言わないか監視しに行きますか。宣戦布告とか調子に乗ってされたらたまったものではない。

 

 

 

 

 

 

 私が到着したころにはこの奇妙なパーティーはなかなかの盛り上がりを見せていた。高円寺は龍園たちを全員倒せるという発言をしている。彼については謎が多いものの、基本自由にしているのであまり優先度は高くなかったが、実力はあると見ている。なので、この発言も嘘やはったりでは無いのだろう。

 

「どうやら私が君の言う黒幕だという誤解は解けたようだねぇ。おや、もう1人追加のギャラリーも来たようだ」

 

 気配を消していたつもりは無いが、察知能力は凄まじいものがある。なかなか見抜けるものではないと思っていたが……高円寺の警戒レベルを上げる事にした。もしかしたら綾小路と同等ないしそれ以上の可能性もある。ともすれば私にとっても脅威だ。暴力的では無い事が救いか。

 

 堀北は私の登場にはあまり動じなかった。後ろには須藤もいる。綾小路はいつも通り。視線は1度交わったが、普段は没交渉の契約だ。特に互いに反応はしない。Dクラスの面子としては龍園の他に石崎たちがいる。Aクラスは坂柳と橋本、鬼頭がいる。坂柳派最後の面子だ。山村は呼ばれなかったらしい。まぁここにいても戦力外だろう。

 

「おやまぁ大した洞察力ですね」

「チッ面倒なのが来た」

「招かれざる客のようですが、ご心配なく。今回は龍園君の邪魔をするつもりで来たのではありません。クラスを預かる者として、クラスメイトが何とも不気味な集会に参加していると道行く人に聞いたものでして。であれば、一応様子見という訳ですよ。それと、こうしてご挨拶するのは初めてですね。私、姓は諸葛名は孔明。以後よろしくお願い致しますよ、高円寺君」

「ふむ。礼には礼を以て返さねばねぇ。私は高円寺六助だ。こちらこそ、君とは1度話してみたかったものさ、ミスター諸葛」

「これは光栄なお言葉。それはまたの機会にでもゆっくりと。今はそれどころでは無いようですから」

「あぁ、そうするとしようじゃないか」

 

 龍園は一応話終わるのを待っていたようだ。意外と律儀な奴である。坂柳は若干キツイ目線で睨んできている。舌打ちでもしそうな雰囲気だ。

 

「話は終わったか?最後に俺の質問に答えてもらおうか。お前らのクラスの背後にいるのは誰だ」

「それに答えてあげても良いが……」

「少し、よろしいですか?」

 

 龍園の問いかけに答えようとした高円寺を遮るように坂柳はベンチに座りながら口を挟んだ。

 

「面白いお話をされていますね。Cクラス内にDクラスを邪魔する存在がいるとか。ドラゴンボーイさんが探しているという噂は聞き及んでいましたが、本当の事なのですか?」

「黙ってろと言ったはずだ、坂柳。次その呼び方をしたら殺す」

「ふふっ。気に入りませんでしたか?素敵なネーミングだと思いますけど。すみません。どうも私の理解の及ばない事が起こっているようでしたので、つい」

 

 またそうやって挑発する。龍園が本気で殺しに来たらどうするつもりなんだろうか。学習しないヤツだ。私への対抗心で頭がいっぱいなんだろうか。夏の一件で少しは反省したと思っていたのだが、私の思い違いだったようだな。

 

「それは理解できない側の知力の問題なのでは……?」

「クハハハハ!言われてるぞ坂柳?」

「……」

 

 青筋立てている坂柳は一瞬憎悪の籠った目線でボソッと漏らした私を見てくる。これでも少しは君のために言ったというのに。案の定龍園の怒りは少し鎮静化している。龍園を馬鹿にされて苛立っていた石崎たちもだ。

 

「ゴホン!ともかくあなたは自分のプランが何者かに見抜かれ敗れてしまった。それだけの事ではありませんか。他クラスの邪魔をするのは不思議な事ではありませんよね?生憎我がクラスはそのような方針はあまり取っていませんが……。正体を隠すのも立派な戦略です。こうして無関係の生徒を詰問するような事をするべきなのでしょうか。見苦しいと思いますが」

 

 私の読み通り、坂柳は綾小路の事を秘匿したいと思っている。だから高円寺を遮り、龍園を挑発している。

 

「俺の計画がXのせいで狂ったのは認める。だが問題はそこじゃない。裏でコソコソ動いている奴を表舞台に引っ張り出すための行動だ」

「恐喝まがいの仕草も、戦略の内だと?」

「そうだ。必要なら暴力も辞さない。俺は俺のやり方で楽しむだけだ」

「だとすれば見苦しい上に無能であると宣言しているようなものではありませんか?」

「少なくとも見苦しい上に無能なのは俺じゃなく、お前じゃないのか?」

「なんですって?」

「俺はクラスの王としてここにいる。鈴音やCの奴らも大なり小なりクラスの運営に関連しているだろうよ。Bはいねぇが、Aの代表はそこで代表みたいな顔してしゃしゃり出てきているお前じゃねぇだろ。諸葛が言うならともかくリーダーにすらなれなかった負け犬に、無能だの見苦しいだの言われる筋合いはねぇなぁ!間抜けな坂柳さんよぉ、自分が上手くいかない鬱憤を俺で晴らすのは止めて欲しいもんだな」

「……聞き捨てなりませんね。ドラゴンボーイさん風情が私に――――」

 

 キレ気味にそう発言した坂柳の言葉が終わる前に龍園は素早く坂柳へ距離を詰める。やりたいことはわかった。今動けば助けられるが……まぁ良いだろう。鬼頭と橋本がいて何もしないという事はあり得ない。放置して良いはずだ。瞬時に判断し、動かないことにする。

 

 強烈な蹴りに割り込んだ橋本が吹っ飛ばされる。あれは痛そうだ。かなり本気の蹴りだったと見える。コンクリートの地面の上で悶絶している橋本。急所じゃなかっただけまだましだったと思うべきだろう。鬼頭も流石に見過ごせず、手袋に手をかけながら戦闘態勢に入った。

 

「もう1度呼んだら殺すと言ったはずだぜ?」

「いい加減にしなさい。今のあなたの行動は大問題よ」

 

 堀北が静止に入る。が、坂柳はそれを無視して橋本に話しかけた。

 

「今、何か問題行動がありましたか?橋本君」

「いえ……自分が勝手に転んだだけです」

 

 強がりつつも痛そうな橋本に手を差し出し、助け起こす。

 

「大丈夫ですか?折れてないと良いのですけど。触った感じは大丈夫そうですが、後で湿布を貼っておきましょう」

「助かるぜ……」

「君の主はああ言ってますがどうしますか?もし訴えるのならばどうにかしますが。あくまで決定権は私にありますので」

「……いや、俺が転んだだけだからな。龍園は悪くないさ」

「君がそれで良いのなら構いませんが。異常があったらすぐ病院へ。私も診察は久しぶりなので如何せんどうもね」

「あぁ、そうさせてもらう」

 

 一連のやり取りを見ていた高円寺がつまらなそうな顔をしている。これまでの茶番劇は彼のお気に召さなかったらしい。

 

「退屈な顔ぶれだねぇ。現状、私に届きそうなのがミスター諸葛しかいないとは。嘆かわしい」

「龍園君に引き続きあなたまでもですか、高円寺君。私を挑発したいのでしたらお好きにして頂いて結構ですが、根拠は示して欲しいものですね」

 

 堀北は「なんて人たちなの……」と呆れ、動揺してしまっている。変なところで彼女は常識的だ。いや、我々が異常なだけか。坂柳はあっちこっちに苛立っていて大変そうだ。後で精神鎮静薬でも処方するべきかもしれない。医師免許がこんなところで役に立つとは思いもしなかったが、これも人助けだろう。心臓発作で死ぬ前に助けないといけない。

 

「私の発言が気に入らないのかい、リトルガール。事実を言ったまでさ。根拠など示す必要もない。私がそう思った。それで十分なのだからねぇ」

「ククク、リトルガールか。なかなかどうしていいネーミングセンスじゃねぇか」 

 

 龍園は心底楽しそうにしている。鼻で嗤いながら坂柳を見下した。

 

「高円寺君、あなた英語の使い方を間違えていますよ?私は幼女ではありません」

「ふっふっふ。それを決めるのは君ではなく私なのだよ。間違った用法ではないさ。君がガールないしレディと呼ぶに相応しい年齢と体型になれば、そう呼ばせて貰うだけだからねぇ」

「それこそ誤りですよ。用法としてはリトルガールは小学生の女の子にしか使わない言葉です。この世界はあなたの好き勝手が許されるように出来ている訳ではありません」

 

 う~んブーメラン。

 

「常識に捉われないのが私の流儀さ」

「実際坂柳の発言はどうなんだ。なぁ孔明先生よぉ?」

 

 龍園はとことん坂柳をイジメたいようだ。鬱憤が溜まっているのだろう。少しばかり同情する。それはそうと、質問には答えるべきだろう。あくまでも私は英語の解説をしているだけなのだから。

 

「事実10歳くらいまでの女子をリトルガールと呼ぶようですね。ただし、上限が決められておらず、未婚であるのならばガールと呼べるため、後は使用者の感覚によるものでしょう。辞書を引けば少女と和訳されていますので、テスト等で少女と呼ばれる年代に使用しても誤答とはならないと思われます。また日本語の辞書において少女とはふつう7歳前後から18歳前後までの、成年に達しない女子を指しますし児童福祉法第四条の三でも同様に言われています。一概に間違い、とは言えないというのが質問の回答でしょうか」

「クハハハハ!ア~ッハッハッ!」

 

 龍園は笑い過ぎて過呼吸を起こしそうになっている。堀北がドン引きした目で見ていた。残念でもないし当然だろう。

 

「笑い転げてるのは好きにしてくれればいいが、私は用があるのでそろそろ失礼するよ」

「待ってください、せめて発言の訂正を」

「君がAクラスを率いるようになったのならば訂正を検討してあげようじゃないか。それはつまりミスター諸葛が敗北したことを意味しているのだからねぇ。もう良いだろう、ドラゴンボーイ」

「……ああ、もう良いぜ。お前は今日片付けておいてよかった。行け」

 

 龍園も高円寺と接する時だけ少しげんなりしている。さしもの彼も非常識という武器を持っている高円寺の相手は疲れるようだ。

 

「ああ、そうだ。堀北ガール」

「わ、私?何かしら」

「私は今後もクラスに関わる気はほぼ無いが、もしミスター諸葛と戦えそうな時があるのならば呼びたまえ。その時は力を貸してあげようじゃないか」

「!?……期待しておくわね」

「そうするといいさ。では諸君、シーユー」

 

 嵐のように去って行く。多くを引っ掻き回せるだけで彼は既に力がある。どんな方法であれ場を支配できるのは強い。龍園は怒り心頭の坂柳を無視するようにCクラスに話しかけた。

 

「もうお前らにも用はねぇ。好きにしな」

「龍園君、あなたの行動は常軌を逸しているわ、理解に苦しむわね」

「だったら俺の行動は正しいって事だな。俺は今日で大分候補を絞り込んだ。お前の背後にいるのが誰なのか。黒幕っぽく見える奴が本当にそうなのか」

「あなたが何を言っても聞く耳は無いわね。付き合わされるだけ時間の無駄だもの。それよりも今後、クラスメイトに近付くのは止めてもらっていいかしら」

「それは俺の自由だな。だが安心しろ。もうすぐ終わる。それになぁ鈴音。俺は何も違反していないぜ」

 

 ルールを意に介さない人間がそれを盾に使う。一見矛盾しているようだが、実は正しい。法を破る者は、法を熟知していないといけない。何が良くて、何がダメなのか。それを知ってから動くのが真の脱法者だ。

 

「フィナーレ、楽しみにしている。軍師野郎、お前もだ。俺は絶対に諦めない。必ずお前を引きずり下ろしてやるぜ」

「お好きにどうぞ」

「張り合いのない奴だ。だからこそ、その顔に驚愕を浮かべさせてやりたくなる」

 

 ニヤッと笑いながら龍園は結局坂柳を見向きもせず、去って行った。どう見てもブチギレている坂柳とその可哀想な取り巻きを放置してCクラスの面子は帰り支度を始めた。綾小路は龍園の中で全ての準備が整ったことを察したのだろう。これは龍園の遠回しな宣戦布告だ。事態は動くだろうが……後は綾小路に任せるべき案件だろう。

 

「では橋本君、お大事に。鬼頭君もあまり無茶はしないで下さいね。南雲会長の方針がどうであれ、身体は大事な資本ですので」

 

 橋本は軽く手を上げ、鬼頭は頭を下げる。坂柳派の崩壊は近そうだ。

 

「坂柳さんもあまり挑発しないように。今度人形案件になっても私は助けませんよ」

 

 急に顔を蒼くした坂柳を見て、そんなに怯えるならやらなければいいのにと思う。が、これはもう生来の気質なのでどうしようもないのだろう。ベンチで膝を抱えて震えているリトルガールを置き捨てて、私もCクラスの面子と共にこの場を去る事にした。

 

「そう言えば須藤君、さっき鬼が左手にいる漫画の話をしていましたが、アレ読んでたんですか?」

「あ?あぁ、そうだぜ」

「結構ホラーな回もありましたよね、アレ」

「なんだ、諸葛も読んでたのかよ。お前はそう言うの読まないタイプかと思ってたぜ」

「いえいえ、意外と漫画やアニメは見てる方ですので。ワンピースとかも読んでますよ」

「マジかよ!」

「大マジです。……綾小路君、話に入れなくて寂しいのはわかりますがその顔は止めて下さいね。今度貸してあげますから。全巻持ってますので」

「本当か?助かる……」

「ところで推しは誰です?私はゆきめさんも割と好きですが、いずなさんも結構いいなと思ってました」

「分かるぜ!」

「なるほど、こういう感じの漫画なのか。勉強になるな」

「これがAクラスリーダー……嘘でしょう……」

 

 話がはずんでいる我々男子の後ろでガックリしている堀北が印象的だった。この後漫画の話をしていたら遅くなり、卵を買いに行かせた真澄さんの雷が落ちることになるとはこの時思いもしていなかった。

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