『グルーチョ・マルクス』
44.冬の山にて
楽しい冬休みは終わった。愛車が燃えたけれど、私は元気です。元気なんです。元気という事にしよう。まぁそれはさておき、年越しは割と楽しかった。色々テレビも充実していたし、おせちを食べたりもした。2人しかいないのに作り過ぎた感はあったが、余りは全部真澄さんの胃袋に吸われていったので問題ない。
3学期が始まって早速したことはクラス内選挙である。私は約束を守る人間。なので公約通りに選挙を実施した。と言っても他に名乗り出る存在もいないので不戦勝で終了したわけだが。これで残りの3か月間も私が指揮を執れることが確定した。
その後、荷物をまとめるように指示をされる。その数日後全学年が一斉に移動を開始した。12台のバスに乗り込み、出発すると説明されている。教師陣は、最初は五十音順で座らせようとしていたが山道を行くという話だったので乗り物酔いしやすい人の配置を優先させるように変更した。その後バスの席決めという修学旅行あるあるをやって、今に至る。
男女も分けようとしていた学校に抵抗した私はクラスの男子からある種のヒーローのような目線を向けられた。女子は苦笑していたが、嫌がっていた感じは無いので良いだろう。
現在、バスはどことも知れぬ山道――まぁ普通に長野県方面に行ってるので信越辺りが目的地なのだろうが――を走っている。十中八九特別試験であろうとは察しがついているのか、皆特に緊張している様子がない。負けても問題ない位置に居る以上、そこまで不安にはならないか。それに彼らにも私の庇護のもととは言え、勝ってきた自信がある。
「見慣れた顔が隣かぁ……」
「何?不満なわけ?」
「いや、別にそうじゃないが。偶には違う女子とも話そうと思っていたのだけれど」
「残念でした。アンタの隣、私以外いなかったわよ」
「は!?え、私嫌われてんの?」
「さぁどうでしょう」
「いや、どうでしょうじゃなくて、え、嘘だろ」
「少し、静かにしたまえ」
トンネルを抜けた先で先生が立ち上がり、添乗員よろしくマイクを持った。観光案内でもしてくれるのだろうか。勿論そんな訳ないだろうけれど。というよりさっきの真澄さんの言葉がチクチク刺さって気になる。
「これから君たちも薄々察しがついているとは思うが、特別試験の説明を行う。傾注するように」
資料をさっさと配りながら話が始まった。
「資料は行き渡ったな。……では始める。あと1時間もしないうちに我々はとある山中の林間学校へ到着する。部活に所属している生徒を除けば、普段の学校生活では上級生と触れ合う機会は少ないだろうが、今回の特別試験は学年の垣根を超えての集団行動を7泊8日の日程で行う。特別試験の名称は『混合合宿』というが……まぁ君たちに言わせれば名称はあまり興味がないだろう。一定期間学校外での生活となるが、流石に無人島ほど厳しいものではない。水も食料も、勿論寝床もしっかり用意されている」
流石に年度内に数回もあの規模の訓練……ではなく試験は出来ないか。外での生活は慣れているので別に苦では無かったが。
資料をパラパラとめくって脳内に叩き込む。部屋の写真や大浴場、食堂などが載っている。旅のしおりみたいで楽しい。特別試験についての文言もあるが、砂漠に放り出されるよりは全然楽なのでむしろ追加スパイスと化している。こういうイベントは個人的に好むところである。
「なお、資料は下車時に回収される。それまでに目を通しておきなさい。また、説明が早く終われば終わるほど、残された
コミュニケーション能力、大事なことだ。……真澄さん大丈夫かな?最近では女子の友達もいるようだが、元々はあまりコミュニケーション能力は高くないので心配だ。私は自信がある分野と言っても過言ではない。相手の求める事を推察して動けば、大体は嫌われない。簡単な事だ。
「目的地に辿り着き次第男女別に分かれ、お前達には学年全体で話し合い6つの小グループを作ってもらう。なお詳しい内容は5ページに記載しているので、しっかりと目を通しておくように」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<人数規定>
・1つのグループを形成する上で、その人数には上限と下限が定められている。その人数は学年及び男女を分けた総人数より算出される。
同一学年の生徒が、
①60人以上の場合……8人から13人
➁70人以上の場合……9人から14人
③80人以上の場合……10人から15人
・最低でも『2クラス以上の混合』が必須である。どのクラスから何人ずつ集まっても構わないが、絶対ルールとしてクラス構成は2以上が必要である。そして、グループ結成は話し合いにより満場一致の、反対者のいないものでなければならない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
我々の場合は退学者がいないので80人以上の場合となる。1グループに最低10人か。結構な大所帯になる気がする。問題なのは他クラスと組んでの物であること。体育祭の時以来だが、あの時は龍園とだけ協力すればよかった。しかし、今回は全然知らない誰かと共に過ごさねばならない。人によってはそのストレスは結構なものになるのではないか。
「特別試験の結果は林間学校最終日に行われるテストによって決められる。内容は資料に記載してあるのでチェックしておけ」
道徳、精神鍛錬、規律、主体性の4つを試験するらしい。……道徳?私に無いものだ。チラリと隣を見れば目があった。同じことを考えてるらしい。思えば道徳の無い2人組だ。普通に酷いコンビである。
「6つの小グループは一心同体で、いかなる理由であっても脱退及びメンバーの入れ替えは不可能だ。もし仮に途中リタイアする生徒が出れば、グループ全員でその穴埋めを行い1週間を乗り切らなければならない。小グループは今回の試験期間限定の臨時のグループだが、様々なことで共同生活をすることになるだろう。授業を一緒に受けるだけではない。炊事、洗濯、清掃、入浴、就寝。すべてがそのグループとして行動する。当然、連帯責任も伴う」
まぁ要するに軍の訓練学校みたいなもんだろう。問題ない。
「そして、1年生の中で6つの小グループを作り終えたら、同じく6つの小グループを作った上級生と合流し、最終的に1~3年からなる6つの大グループが出来上がるというシステムだ」
コミュニケーション能力を重視すると謳うだけあり、かなりコミュニケーションが大事な要素になってくるのは疑う余地も無いだろう。この学校の特別試験は微妙にピントがズレていると思ってはいたが、今回は割としっかりしているように思う。大事なことだけれどあまり積極的には磨きにくい技能を磨ける場所を用意しようというのだから。こういうのは強制的にやらざるを得ない状況にした方がかえって良かったりもする。
「肝心の試験結果は、大グループのメンバー全員の『平均点』で評価される。そして1~3位の大グループには生徒全員にプライベートポイントが支給され、クラスポイントが与えられる。逆に4位~最下位になった場合はペナルティを課されるが、詳しい内容は資料に記載してある。見ればわかると思うがあながち少数精鋭がいいとも限らない訳だ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<ポイント表>
1位…各員にそれぞれpp1万、cp3
2位…各員にそれぞれpp5000、cp2
3位…各員にそれぞれpp3000、cp1
4位…各員からpp-5000、cp-2
5位…各員からpp-1万、cp-3
6位…各員からpp-2万、cp-5
・仮にポイントがマイナスになる場合、累積赤字として記録される
<報酬倍率>
小グループごとに計算。
2クラス構成……1.0倍
3クラス構成……2.0倍
4クラス構成……3.0倍
09人構成……0.9倍
10人構成……1.0倍
11人構成……1.1倍
12人構成……1.2倍
13人構成……1.3倍
14人構成……1.4倍
15人構成……1.5倍
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「見てわかるように、報酬が最大となる理想値は『4クラス構成』『15人構成』を両方満たした上で、その小グループで自クラスが最大人数となる12人にすることだが……ただし、順位が低かった場合のマイナスも同じく報酬倍率によって変動するので注意が必要になってくる」
計算が面倒な試験だ。これを計算しつつ何とかしないといけないのは控えめに言って面倒すぎる。12人を同じクラスかつ他クラスから1人ずつで構成された小グループが、1位になった場合の168ポイントが理論上の最高の数値となるだろう。これを目指すのはなかなか難しいだろうから現実的なラインで妥協するべきだろう。多少マイナスになってもあまり痛くは無い。
「また、最下位になった大グループにはペナルティとして退学措置が取られる。しかし退学になるのは最下位かつ学校側の用意したボーダーラインを、小グループの平均が下回ってしまった場合に限る。そしてボーダーを下回った場合、小グループの『責任者』は退学となる。ちなみに責任者は予め小グループ内で話し合って選任してもらう事になる。また退学になった責任者は、グループ内の人物1人を連帯責任として退学を命じることができる。わざと赤点を取ったり試験をボイコットしたりなど、平均点のボーダーを下回った原因の一因であると学校側から認められた生徒のみに限るがな」
あ、南雲はこれを知っていたのか?大グループが最下位、かつ小グループが平均割れにするには、小グループの中に足を引っ張る存在が複数必要だ。かつリーダーを南雲の息のかかった人物にすれば罠の出来上がりとなる。
まずは橘茜を孤立させる。これは簡単だ。資料によればグループ分けは男女別。堀北学は介入できない。誘導してしまえばいいだけの話。この誘導のやり方なんぞは無限にある。その場その場での適応力も問われるが、それが出来ないほど愚かだったら3年の終わりまでは生き残れない。そして従来の堀北学なら女子を守るべく責任者にはさせなかっただろう。責任者は圧倒的にリスキーだからだ。グループ全員が言う事を聞かなければ簡単に最下位になって退学になってしまう。
しかし、仮に責任者にさせなくてももし3年B~Dの全てのクラスが南雲の支配下だったら。どうあがいても橘茜は退学だ。イジメに近い行為を受けても証拠も無い。それによって集中力や気力を削ぎ、能力を落とし、ボーダーを割らせる。更には責任者には別のクラスの人間、恐らくBクラスの生徒がなり、最後には足を引っ張ったとして退学させる。こういう方程式だろう。
Bクラスの責任者は南雲の金で救済される。この密約でBクラスは契約に乗った。まだCとDが自分達の側だと信じているだろう。そして、それを前提に行動するはずだ。
だがそうはいかない。3年Dクラスは屈した。Cは交渉の結果Bを引きずり下ろすべく動いてくれる。まずAクラスの女子を1人でグループに入れない。そしてCとDの人数配分にも気を配る。これが必要だろう。
後はまぁ3年生に任せるしかないが、よっぽどのことがない限りBクラスも動けなくなり、これで勝てるはずだ。幸運なことにCの指導者である綾瀬は女子。私と話した人間がいるのは心強い。どうしても命令では伝言ゲーム的な要素のせいで正しく意図が伝わらない可能性もあるからだ。Aクラスも堀北学からの指令で動くだろうし、まぁそうそう問題は発生しないはず。
Bクラスが南雲に接触しないように他クラスで見張ればいい。破れかぶれで小グループにいるBクラスの面子が全員足を引っ張ろうとしても、他が優秀ならば相殺してしまう。
「責任者を務める生徒のクラスのグループ報酬はさらに2倍されると言うメリットもある。慎重にリスクとリターンを考える事だ。そしてもう一つ重要なことだが、退学者を出してしまったクラスには相応のペナルティが課される。内容は常に変化するが、今回の試験では退学者1人につきクラスポイントが100ポイント減少することになる。救済にはいつも通り300クラスポイントと2000万ポイントが必要だ」
これであくどい手段を規制しているつもりらしいが、金ならふんだんにある南雲には通用しない戦略だ。彼はクラスポイントが下がってでもAクラスを引きずり下ろしたい勢力はいっぱいおり、それらは金で釣れると思っているだろうから。実際はもうその引きずりたい勢力の3分の2はこちら側な訳だが。
「説明は以上だ。目的地までもうあと1時間ほどだが、この時間をどう使うのかは自由だ。先程言った通り資料は到着後に回収する。それから携帯電話は1週間使用禁止、同じく後ほど回収する。私物の持ち込みは食料品を除いて持ち込み自由だ」
これからはクラスの方針を定めつつ、3年生と連携しないといけない。携帯が使える間にやれることをしておく必要がありそうだ。しかし携帯没収は面倒くさい。連絡を取るのがかなり難しくなった。なんとか工夫してやっていくほかないだろう。
注意すべきは南雲の犬、坂柳がいること。真澄さんへの諸々と3年生への連絡はすべてバス内でかつメールでやる必要がある。坂柳がいなければ電話もできたのだが。
マイクを貸して貰い、指示を出す準備をする。と言っても他クラスがどう動くかはまだ未知数なところが多い。龍園が失脚したのは事実のようなので、より一層戦略が読めなくなった。コミュ力の低い綾小路は恐らく自分がこの試験でほぼ役に立たないと自覚しているだろう。勿論やるべきことはそつなくこなせるだろうが。まぁしかし、勝つための戦略を打ってくる可能性も高い。なかなか判断が難しいところだ。だが大事なのは無事にやり過ごすこと。勝ちに行くのはついでだ。
「では皆さん、これより作戦説明に……と行きたいのですが今回は女子に関しては私が監督できません。思う通りに進まない事も多いでしょうから、女子に関しては別の方に指示をお願いすることになるでしょう。主にグループ分けに関して、ではありますが」
「私に、やらせては頂けないでしょうか」
心中に屈辱を隠しながら、坂柳が手を挙げる。そうだろうなぁ、としか言いようがない。そうするしか選択肢が無いだろう。このままフェードアウトすると言う最悪の展開を防ぐためにも、そうするしかないのだ。
「……大丈夫ですね?」
「問題ありません」
「では、一切をお任せします。くれぐれも、あまり過激な事はしないように」
「……分かっています」
私は釘を刺したからな。ただ、まぁ彼女の能力値自体はかなり高いものがある。なのでまとめ役をやらせること自体はそう悪い事ではない。問題はどこまで南雲派とつるんでいるのかと言うこと。橋本の連絡ではそれとなく聞き出したところ特に今回の特別試験に関しては坂柳は何もしていなかったらしい。という事は完全に駒として放置されていると見るべきか、橋本達にも伝えなかったと見るべきか。そのどちらかであるのは確定だ。小グループは別にどうなってもまぁ何とかなる。だが大グループが肝心だ。
真澄さんに味方が誰かは伝えている。後者だったとしても対応は可能だろう。後は彼女を信じてどうにかするしかない。大グループ形成の際は3年生に頑張ってもらうとしよう。坂柳が何かを言おうとしても奥の手必殺の年功序列を持ち出せばいい。伝家の宝刀ではあるが、1年生には効果があるのは間違いないのだから。
戦略はある程度固まった。メールも送りまくっているし、真澄さんへ伝達事項も全て伝えた。後は他クラスの動きを見るだけだ。
携帯を没収されバスから降りれば寒い風が吹き寄せてくる。雪山に囲まれている森の中にその宿泊所はあった。物語ではこういう閉鎖空間で殺人事件や怪奇現象が発生すると相場が決まっている。そのどちらも無い事を祈っていよう。
本棟と別棟に分かれており、前者を男子が、後者を女子が使用するという事だ。また、その2つへの行き来は禁止されており、男女が交流する場は1日1時間だけの昼食時だと言い渡された。男子諸君は露骨にがっかりしている。そこまでか……?と思いつつも、そういう要素とは別であるが不便ではあると思わざるを得ない。戦略上もあまり歓迎できない規則だ。
男子の戦略は降りて、男女が別々になってから話すつもりだ。何故ならバス内だと坂柳がいるから。南雲に筒抜けになってはたまったものではない。そう思っていると、葛城が寄ってくる。
「諸葛、提案があるのだが良いか」
「どうしましたか、葛城君」
「今回のグループ分けだが、強引に守りに入る事を提案する」
「と言いますと」
「まず、14人Aクラスだけで固まったグループを作る。そこに1人だけ受け付けると言い、しかもどんな成績でも巻き添え退学にはさせないと約束する。そうすればどこのクラスも成績不安の人間を送りたいと思うだろう。退学の可能性のある生徒はこぞって志願する。もしくはしたいと思う。それを押しとどめるのは神崎や龍園のいないDクラス、それに平田などでは難しいだろう」
「逆に反Aクラス連合を組まれる可能性がありますが?」
「それならそれで構わないだろう。積極的に音頭をとれる龍園はいないに等しい。そんな状況でなし崩しにトップが妥協して組んだとしても下まで意志の共有は出来ない。裏切ったり抜け駆けしないか猜疑心を捨てきれず、まともに足並みを揃えることは難しくなるだろうし、ましてやこれまでいがみ合ってきたクラス同士だ。放っておいても勝手に反発し合うだろう」
「なるほど、そこまで考えているのであればよろしい。今回の指揮は君が執って下さい。任せます。ただし、責任者もやる事。よろしいですね?」
「俺に任せるので構わないのか?」
「ええ。ただし、残った6人に関してはメンバーを私に指定させてください。他クラスと組ませることで成長を促進させたい生徒がいます」
「分かった。元々譲ってもらっている身だ、とやかくは言えない」
攻撃的な保守が出来るようになっている。この戦略はかなりいいものだし、リスクについても考えられている。元々今回の試験でポイントを無理に稼ぐことを考えていなかったのでこの保守的な戦略は大いに評価したい。私も似たような事をして安全に終わらせる気でいた。
学校側の準備が出来たようで、壇上に立った先生から指示が下される。
「ではこれより小グループを組むための場と時間を設ける。学年別で話し合い全部で6つのグループを作るように。大グループの作成は午後8時から行うことになっている。ちなみにだが、大小問わずグループの作成において、我々学校側が関知することは一切無いと補足しておく」
これを合図に各クラスがまとまる動きを見せた。我がクラスも私を中心にまとまりを見せる。
「まず、先ほど葛城君が大変いい提案をしてくれました。それを採用することとし、今回の試験に関しては彼に任せる事にします。皆さん、しっかり指示に従ってください。それではお願いします」
「ああ。今回諸葛に指揮権を移譲して貰った。早速指示を出す。まずはこれから名前を呼ぶメンバーで1つに固まってくれ。その他はまたその時話す」
14人の集団が出来上がり、その動きに他クラスが注目する中、葛城は大きな声を出した。
「見ての通り俺達Aクラスは、この14人で1つの小グループを組む。どこかのクラスからあと1人加わればグループの規定を満たすので、加入希望者を募集する!だがそれだけでは不満も出るだろう。これより5分だけ時間を設ける。その際に此処に加入した生徒は何があっても道連れの退学にさせないと誓おう。無論、故意に点数を下げない場合においてのみではあるが。そしてそれ以外の6人はどんな配置になっても文句は言わない方針だ」
ざわめきが場を支配する。その間、突っかかってくる者もいるが葛城は全てドンと構えて無視していた。次第に流れはAクラスの主張に従った方が良いというものに変わっていく。それはそうだ。誰だって退学したくはない。そこに現れた安全圏。ここへ入りたいと主張する者も多いだろう。CとDは元々の生徒層に不安があるため、一層その傾向が強いように思えた。
Aクラスが民主制なのは知られている話だ。なので、私以外が指揮を執っていたとしても不思議には思われない。しかも葛城は事実上のナンバーツーである。であれば不自然さは無いだろう。最終的には神崎、平田、金田の話し合いで希望者を募り、1人だけ抽選でこちらへ来ることになる。
じゃんけんの結果、Cクラスの山内という生徒がこちらに加入することになった。私は良く知らない相手だが、まぁここに来るのを希望したという事はさして成績が良くないのだろう。1つ言う事があるとすれば、挨拶くらいはしようか。こうしてまず1つ出来上がる。私はこの14人の中で葛城に任せっきりでのんびりできる。6人の方に行っても良かったが、一応目的を持って6人には加わらなかった。
「これで残った我々が好きにグループを作れるわけですが……彼等のようなグループの組み方はせず、4クラス複合を提案します」
「奴等の提案を飲んだ以上そうするべきだろうな」
「勝ちに行くなら必要なことだね。それには反対しないよ」
金田の提案に神崎と平田は同意している。綾小路は顔が半分死んでいた。いや、いつも死んでいるのだがいつも以上に死んでいる。あまりこういうコミュ力が問われる試験はしたくないのだろう。それに、彼個人の心情を除いても、彼はCクラスの男子から殆ど戦力として見られていないことも知っている。だからこそ、あまりこういう場でイニシアティブをとれない。まず何より退学させないこと、しないことが大事なのがCクラスにとっては大事なことになる。その為にはAクラスの方針に意を唱えない事を選んだのだと推測できた。
それに、綾小路に関してはまだそこまで多くの生徒に知られているわけではない。この場での主導権は握りにくいものがある。
「12人を自クラスから出し、残りに3人にそれぞれ埋め込んでいくという形でどうでしょう」
「分かった」
「1回それで組んでみようか。問題があればすぐに解散して修正すればいい話だからね」
3クラスの首脳は話し合い、一旦グループ分けが行われる。そして、一応の仮と言う形でグループ番号1~4まで出来上がった。グループ1はAクラスが14人でCクラスが1人、責任者は葛城。グループ2はBクラスが12人でその他から1人ずつ、責任者は神崎。グループ3はCクラスが12人でその他から1人ずつ、責任者は平田。グループ4はDクラスが12人でその他から1人ずつ、責任者は金田。残りは20人。その内訳はAが3人、BとDが6人、Cが5人だ。この余り物たちで2つグループを組むことになる。
問題は龍園をどこに入れるかであり、それで凄い揉めていた。これ、結構本人のメンタル的に厳しいものがあるのでは……と思う。まぁ龍園がそんな程度でへこたれるような人間には見えないが。揉めに揉めたが引き受けてくれるグループが現れたため、龍園は引き取られていった。何だろう、修学旅行とかで嫌われている生徒が最後までたらい回しにされるアレに見える。
Aクラスからの残りには戸塚と橋本がいる。後1人は純粋にコミュ力に問題があっただけ。別に能力が低い訳ではない。戸塚&橋本コンビ以外のAクラス14人に入れなかった面子4人は皆同じ条件で残している。それは何か。答えはコミュ力向上である。
この試験で学校側が重んじるのは勿論コミュニケーション能力、そしてその向上だ。折角機会があるのだし、それを活かさない手は無いだろう。コミュ力の低い生徒には荒療治にはなるがこうして他クラスが圧倒的多数の空間に放り込んで鍛えてもらおう。他クラスを利用して自クラス生徒の能力向上を図っている訳だ。無論、Aクラス内で平均的な生徒なので成績面で問題など起こさない。退学になるべき対象とはならない。ここでAクラスから退学者を出して私に恨まれるリスクを背負う者はいないし、まずAクラスの生徒は責任者にならないので神崎、平田、金田の誰かが退学になる必要がある。
それを救済するポイントはどこのクラスも持っていないはずだ。リスクに対してリターンが無いに等しい。やる訳ないだろうと言うのが私の計算である。
それに、ここで出来た人間関係が今後役に立つかもしれない。葛城が14人で固まる事を提案した段階で、4クラス複合グループが出来る事はある程度予想できた。それが1番他クラスにしてみれば合理的な選択だからである。なので、こうして6人の選別を行った。そして最後に戸塚と橋本がセットで余るのも目に見えていた。戸塚は葛城派が健在だったころに散々他クラスを見下して回っている。評判がいいはずもない。橋本は坂柳の手下というイメージが強いため、同じく警戒されている。なので、選ばれないだろうと踏んでいた。そして現にそうなっている。
なのでいっそのことコンビになってもらい、橋本に戸塚の改善を任せようという狙いがある。そうしないと戸塚がいつまで経っても変化しない。それでは困るのだ。退学はされたくないが、足を引っ張って貰っても困る。同じ足を引っ張る存在でも坂柳はまだ頭脳面で優秀だ。坂柳から頭脳を取り、運動を平均値になるように少し足したのが戸塚である。う~ん微妙。Aクラスではあるが、勉強でも他クラスの優秀ないし中堅の生徒に後れを取っている。困ったものだ。最近は大人しいが……。
そうこうしているうちに、残った3人の内1人が引き取られていき、戸塚&橋本コンビが見事に残った。最後に彼らと組んだのは綾小路である。他にも高円寺や幸村という成績優秀者のいる面子だ。Dクラスのメンバーだと龍園の元側近である石崎と山田がいる。Bクラスは特筆すべき生徒がいない。B以外は結構目立つ面子だろう。
この綾小路たちがいるグループのメリットは少数精鋭である事。何だかんだそこそこの連中が集まっている上に綾小路もいるので勝ちに行くならこの態勢が一番いい。しかも、Cクラスは3人いるので報酬もAやDより多く確保できる。大グループ次第ではAクラス14人で固めたウチよりも高い報酬が手に入る。責任者は幸村がやるようだし、勝てればCの報酬は更に増えるのだ。これはこれでいい戦略だろう。
こうして全グループが出来上がった。教員へ報告が終わったタイミングで近付いてくる人影が1つ。
「意外に早くグループが作り終わったな。ちょうど時間もあるし、これからすぐに大グループも作らないか?」
金髪は良く目立つ。こうしてイニシアティブをとれるのは1人しかいない。南雲だ。しっかし面倒なのがやって来た。これの相手が今回の本命。顔を見ると少しげんなりした気分になってくる。無性にため息を吐きたくなった。