星冠を戴く王女と試練の絆 作:ベル
「セレナ……セレナ……起きてピコ!」
「はい……?」
目の前で羽の生えた小さな妖精姿の生物がピコピコと浮かんでいる。
頭に小さな光の輪が輝き、驚いた私の声に合わせてその輪が青く瞬く。
アルテミスオンラインでは見慣れた存在。
プレイヤーのお世話役。
頭に小さな光の輪を乗せた輝くピコである。
「ピコ……」
は? 何で? 何でピコ!? ここは夢の中? ちょっとかなりリアルなんですけど?
「ピコ! お早うご主人様! ピコ!」
「ピコって……ここは私のマイハウス!?」
先ほどまでフレンドのルナといた場所だ。
「夢か」
「夢じゃないピコ!」
「じゃあ、お前は何なのぉ~~?」
「実はご主人様は……残念ながら死んでしまったピコよ」
「またまた御冗談を……」
「ご主人、憶えてないピコか?」
「いや、何を?」
頭の中ははてなマークでいっぱい。
最後のことがすぐに思い出せない。
あー、デートの約束、明日なんだけど……
ごめんね、死んだから次のお休みに……できねーよ!
ドーン、ていうすごい音が聞こえて……あれ、何だったんだろう?
「そのとき、ご主人様は感電死したのです、ピコ」
「ボルトストライクくらったのか……」
「即死ピコ」
ピコが首を振って頭を下げる。
申し訳ななさはみじんもない。
「どういう状況で……てかなんでここにいるの!?」
「ご主人様の魂がネットワーク回線を通じてここに転送されたピコ。ピコは神様からの指示を受けてご主人様にいくつかご提案があるピコよ」
「神様って誰や。おら」
「苦しいピコ……」
つい取り乱してしまった……動揺を隠せない。
私は掴んでいたピコを離す。
「時間がないピコ」
「何で?」
「これから定期サーバーメンテナンスがあるピコよ~」
「ああ、そうか……」
そういえば、とメンテのアナウンスがあったのを思い出す。
「メンテきたらどうなるの?」
「ご主人様の魂は肉体を離れて電気信号に変換されてセレナを媒体に存在してるピコ。今回のメンテで電源が落ちると、本来存在しないはずのご主人様の魂はバグと判断されて消去されてしまうピコ。不正アクセス扱いピコ。ちなみにセレナは消えないピコよ?」
「……嘘」
人生これからって時に?
デートは?
せっかくの彼氏は?
それがあっさりと感電死した挙句にゲームの中で消去されるなんておかしいよ……
「ご主人様の魂は、アルテミスオンラインのセレナに長年宿った情熱ゆえ、神々の試練に選ばれ、来たる災厄に立ち向かう者としてネットワークの狭間でこの世界に導かれたピコ!」
「そりゃ10年分……評価はされるべきよね……災厄? 何それ……クリアできるかな?」
思わずゲーム脳で反応してしまう。
「まあ、前向きにこれからの人生謳歌するピコよ」
「おま、今、死んだって言ったじゃんよ!? 生きるか死ぬか! どっち?」
ピコのほっぺを思い切り引っ張ってやる。思いの外伸びる。
「ぐぬぬ……だから提案があるピコ~ 今回の落雷でご主人様は死ぬ予定ではなかったピコ。だから転生することができるピコよ」
「ダメ、元の体に戻して! 私の人生返せっ!」
「無茶ぶりが酷いピコ。ボクは神様の伝言を伝えてるだけピコ~ おわびに比較的お得な条件で転生できるらしいピコ」
転生。
生まれ変わる。
28年の人生は……
「マジかぁ……」
感電死なんてひどい。
発見するのは会社の人か、家族だろうけど、どう思うんだろう?
でも始末するようなハードディスクは……落雷で全部消えたと思うしかない。
「ご主人、メンテまであと三分しかないピコ!」
「私のヒットポイントはもうゼロだってのに追い打ちか」
決断の選択はYESかNO。
いや、考える時間の余地はなし!
「もうわかったわよ! 転生でも何でもしてあげるっ! 早くして!」
「了解ピコ~! 天界でゆっくり説明受けてね、ご主人様」
そして私は何だかよく知られているシチュエーションで転生することとなったのだった。
●転生の条件
私の前にふわりと輝く銀色の髪、頭上に光の輪を浮かべた女神アルテミスが現れる。
アルテミスONLINEの本神、優雅な微笑みがまぶしい。
傍らでピコがピコピコ浮かんでる。
「え? あなたってアルテミス!? なんでここにいるの!?」
「ふふ、セレナ、驚くのも無理ないわ。私はこのゲームの本神、貴女の新しい冒険を導くために来たのよ」
「ピコ! ご主人様、めっちゃビックリピコ!」
「ところで私を選んで何させたいわけ? それに、異世界のことはよくわからないんすよね。どんな世界なの?」
「そうね、アルテミスONLINEの魔法理論があるあなたにも馴染みがある世界観よ」
「まんまアルテミス世界じゃないの?」
「星の輝く魔法が織りなす大地、古の魔力が蠢く世界……そう、あなたが冒険した時代から500年は過ぎているわ。かつての星の戦士たちの活躍も今や星の空の彼方の物語となっている」
「あれま……時代が違うのね」
「でも、今は私の力は完全に及ばせられないの。かつて貴女がゲームで協力してくれたように、私に力を貸して!」
アルテミスONLINEのメインクエストで登場したアルテミスは、ゲームの中じゃもっと女神らしかったけどな……
「私が神様のアシスト役か」
「いいえ、あなたが主役よ。ふふ、あなたの自由意志で決めてちょうだい。あなたの情熱は私が一番よく知ってるもの。世界でどんな立ち位置を決めるかはあなたの意志。でも私は知ってる、あなたは正しい選択をするって」
「マジか、めっちゃ責任重大じゃん!?」
「ピコ! ご主人様、神様のパートナーなんて素敵ピコ!」
でもちょっとだ不安が募る。
「不安しかないけど……どの道引き返せそうにないし、まぁ、行くしかないよね」
「あら、賢明ね。貴女なら試練を乗り越えられるわ。どんな力を望む?」
「ピコ! チート狙いピコ! 望む力を三つ持っていけるピコ!」
「うわ……定番だなぁ……」
まあ、言ったもん勝ちよね、この世界?
「まず1つ目は……セレナの全データ持ち越し!」
「完璧よ。10年分の情熱が詰まった力、まるごと持っていけるわ」
「ピコ! 超強いピコ!」
「うーん軽い……」
2つ目は……
「2つ目は、クラスチェンジ自由! 戦闘中でもチェンジ可能!」
「戦略家ね。戦場で姿を変えるなんて、許可するわ!」
「ピコ! 戦闘有利ピコ!」
最後の3つ目はきわめて個人的な所有物だ。
「3つ目はマイハウス【特大】! アイテム保管場所確保に、魔法の研究もできて、仲間との拠点にも使える!」
「1億ガネルの城、さすがのこだわりだわ。認めましょう」
「ピコ! 豪華すぎピコ!」
「条件ありまーす!」
「あら、何かしら?」
「ゲーム内のミニマムシステムでちっちゃくして持ち運び可能にして!」
「ふふん、それくらいはピコの魔法の範疇ね」
「冒険者お助け妖精の得意分野ピコ!」
一番拒否られるかと思った案件通ったわ……
「ハウスの維持は?」
「ゲーム内の金貨で維持可能よ。向こうの世界の同等の黄金でも構わない。通貨の概念は今も変わらないわ」
「まあ維持費は10年分のへそくりがあるから行けそうかな?」
ゲーム内通貨は金貨数億ガネルあるから平気だろう。
「セレナ……ところで名前変えるの面倒だし転生先もセレナでいいわよね」
「さりげなくものぐさ本性出してきやがりましたよこの女神……まあいいけど」
「えっと、素敵な選択ね! セレナの輝きを新しい世界でも放ってねー」
「ピコ! 名前バッチリピコ!」
名前のこだわりは維持で次!
「レベルは?」
「1から。でもこれまで育てたことのあるクラスなら経験値10倍、ほぼカンストしてるから100までイージーモードよ」
「ピコ! 速攻カンストピコ!」
「マジ!? 生まれて初めて神様に感謝!」
「私はアルテミス、感謝は私にね」
「あ?」
つい頬を引っ張ると、「まあ! 頬はダメよ! でもその元気、試練にぴったり」
「ピコ! ノリノリピコ!」
「セレナ、行くわよ。試練も災厄も、貴女らしく乗り越えて。試練の果てで力を貸してくれたら、また会えるわ。ピコを頼ってね」
「ピコ! しっかりサポートするピコ!」
「また会えるの?」
「ふふ、冒険次第よ……あなたらしい物語を創るのよ。それまではピコを代理人に頼ってね」
「あっちでもよろしくピコよ!」
アルテミスが微笑んで消えていく。
ピコが「冒険スタートピコ!」と跳ね、光に包まれ、異世界へ転生を果たす。
心残りは彼氏との初デート。映画のチケット、予約してたのになぁ……
◆
「感電死して異世界に転生することになったセレナ! アルテミスのチートパワーで押し寄せる災厄と試練を乗り越えられるかな? 次回お楽しみ! ピコ!」
感電死で転生のセレナ、10年分の情熱でゲーム内の力の持ち込みを選んだ!
ピコの応援と彼氏への未練を胸に、冒険の第一歩へ。
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