星冠を戴く王女と試練の絆   作:ベル

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【05】雷鳴の姉妹、嵐の序曲

 すくすくと王宮で成長し、5歳になったが、いまだチート能力全開とは行かない感じだ。

 ──これは、まだ体も動かせなかった頃のピコとの会話。

 

(まずは、体がちゃんと成長しないことには力は授けられないピコ!)

(クラスチェンジくらい、いいでしょ!)

(そうしたいところだけど、まずは基本となるノーマルクラスのレベルを上げるピコ)

(うわぁ……懐かしいなあ。クラス解放されるまでの序盤だけのやつ)

 

 レベル10まで、ファイター/キャスター/ヒーラー/スカウト/レンジャーなどの基本ノーマルクラスを選択。

 クラスチェンジのクエストを経て、ようやくまっとうな舞台に立つのがアルテミスオンラインの基本である。

 

(というわけで、ノーマルクラスを選択するピコ)

(まあ、定番だよね。ここはキャスターと行きましょう)

 

 クラス「クロマジスト」は、攻撃魔法を中心とした、マジックキャスター。

 その基本であるキャスターを選ぶ。

 セレナとして活躍したアルテミスオンラインでは、一番慣れたクラス選択と言える。

 

(まずは動けるようになったら魔法の基礎を鍛えるピコ。経験値を貯めて10にするピコ)

(わかってるって!)

 

 

 そして──5歳の現在、練兵場にある鍛錬用の木人が弾け飛び、黒く焦げて残骸をさらす。

 

「やったっ!」

 

 それを見守るのは、あぜんとする魔法学院の職員と、安全のための護衛についた兵士たち。

 

「もひとつ! 「ボルトショット」っ!!」 

 

 初級魔法の白雷が破壊した隣の木人を同じように破壊し、人々の目に鮮烈に焼き付ける。

 

「もひとつ、どーんっ!!」

 

 あはははっ!! 魔法使うの気持ちいーっ!

 

「これが雷神の加護! サンダーボルト系の出力ヤバイなぁ~」

 

 練兵用の木人はただの木の人形ではなくて、ある程度、物理的、魔法的耐性を施されていて、「ボルトショット」ごとき初級魔法で壊れるような代物ではない。

 私だけが見えるステータスを見れば、「物理攻撃耐性:レベル3」「魔法攻撃耐性:レベル3」とある。

 普通の兵士が剣や斧を振り回しても壊れる心配はない。

 それを派手にぶっ壊した私の雷はその耐性レベルの閾値をはるかに上回るダメージを叩き出したということだ。

 威力としては中級クラスともなれば、魔法学院の教諭レベルである。

 

「姫様に教えられる者はもういません」

 

 で、魔法の先生が辞職した。

 

「これで五人目ね……まあ、どうしたものかしら」

「こりゃ参ったものだ! ははっは!」

「あなた! 現実逃避しないで!」

 

 セレナのド派手な魔法練習で魔法の先生が長続きしたことがない。

 父様と母様も頭を悩ますセレナの才能に、驚く者たち、喝采を送る者たちと、反応は様々だ。

 その中でひときわ暗黒オーラを放って憎々しげに見つめるのは一人──

 

「セレナぁ……!」

 

 姉リアナは11歳。

 雷神の加護を持つもう一人の片割れである彼女への注目度は、今や灯し火が消える寸前だ。

 

「セレナ、セレナっ! セレナ!! 誰もがお前の名前を口にする。冗談じゃないわ!」

 

 胸に満ちた衝動をリアナは吐き出す。

 

『リアナ様は大変優れた魔法の才をお持ちです。ですが、天の力たる雷神の加護は心の影響を受けると聞きます。恐れながら、リアナ様の心は均衡を欠いておられる──』

 

 クビにした魔法学院の英才の言葉がよぎる。

 

「なあ……もしかしてセレナ様ってリアナ様よりすごくね?」

「魔法木人ぶっこわしたもんな。俺たちがいくらやってもかすり傷一つつかないのによ」

「リアナ様も派手だけど、ああはならないもんな……」

 

 聞こえないよう囁く取り巻きの言葉は、リアナにはもう想像がついていた。

 固く握りしめた拳が血の気を失って白くなる。

 

「止めてよ……取り上げないでよ、私の魔法……!」

 

 セレナを見つめるリアナの瞳に昏い意志が宿るのだった。

 

 

 ──後日、今度は風魔法を得意がるセレナの前にリアナが立つ。

 

「調子に乗らないことね、セレナ……」

「ね、姉さま……」

「姉上様と呼びなさい」

「……姉上様」

 

 上から目線の姉リアナの登場にセレナは若干ビビりながら返事を返す。

 え? 何、突然? この人ちょっと苦手―っ!

 

(なんだかやばいオーラが出てるピコ―!)

 

 リアナの指先にマゼンタの赤紫が輝き、全身を同色のオーラが包む。

 

「うわぁ、雷!?」

 

 練兵場の木人に向けてリアナの紫雷が派手に着弾し、その周囲で訓練していた兵たちが慌てて退避する。

 黙々と土煙が立ち上がり、現場には黒焦げになって倒れた木人の姿。

 

「勝った、なんて思わないことね! この程度、私にだってできるっ!!」

 

 宣言しリアナが去るのを、セレナは見送る。

 

「え? 何だったのあれ?」

(お姉さん、すごく負けず嫌いピコね! ボスっぽい雰囲気で怖かったピコー!)

 

 王宮に戻るリアナの姿を取り巻きたちが慌てて追いかけ、阿諛追従の褒め言葉を次々に投げかけるが、足早にその場を去っていった。

 

 

「今の私のレベルはもう10! さすが経験値10倍……練兵場で何か月か訓練しただけで到達したし。クラスチェンジのお年頃だね!」

「そこで、ピコ特製の『ダンジョン作成、ミニマムミニマムス』登場だピコ!」

 

 ピコが取り出したのは、四角形のブロックでできたキューブの塊。

 

「ルービックキューブ? そんなのあったっけ?」

「これはアルテミスにはないアイテムだピコ! 『箱庭の決闘』のPvPフィールドと、『激闘モンスターズ!』のダンジョンをミックスした、ピコの自信作ピコ!」

「おお! つまり、今の私を強化するのにピッタリってわけね!」

 

 滅多に表に出られない王女には救いのアイテムだ。

 

「その通り! ご主人様のゲーム知識で、どんなモンスターもバッサバッサだピコ!」

「ダンジョンで経験値……クリア報酬ある?」

「当然あるピコ! ラスボス倒せばがっぽがぽピコ~」

「りょーかい、ちょっとドキドキするけど! 時間はどうなの?」

「一度に入れるのは1時間、リキャストは24時間! 中の時間は1日が1時間に圧縮だピコ。行動不能なら自動排出、HP1で蘇生、経験値減少は通常通りピコ!」

「1日が1時間!? 精神と時の部屋きたー!」

 

 セレナは目を輝かせ、ミニマムミニマムスのキューブを握りしめた。

 

「まず、タッチパネルで入場条件を入れるピコ!」

「履歴ってこれ? 設定めっちゃ多いね……」

「履歴は一番下だピコ!」

 

 セレナはパネルを操作し、カテゴリからフィールドを選び、難易度を設定。

 

「難易度で報酬変わるよね?」

「難易度高いほど、クリア後の経験値がグーンとアップピコ!」

「アルテミス仕様なら、ソロで易しいならいけるかな? 装備整ったら普通も行けそう!」

「アルテミスの装備も出せるけど、レベルシンクでセレナのレベルに合わせた性能にしかならないピコよ?」

「まー、そうよねえ。よし、行くぞ!」

 

設定:街中

ボスタイプ:ドラゴン

難易度:易

パーティメンバー:セレナ(レベル10、キャスターからクロマジストチェンジ!)

 

 中に入った瞬間、石造りの街並みが出現。ゲームの町中を再現した空間に驚く。

 今は門の前に立っていた。

 

「うわ、バトルフィールドの音楽! めっちゃドキドキする! よし、ソロで頑張るぞ!」

 

(ねえ、ピコ、ソロでドラゴン倒せるかな?)

(ご主人様のゲーム脳なら余裕だピコ! 雷と風の魔法でバッサリいくピコ!)

 

 役割はクロマジスト。

 やれるとこまでやってみよう。

 ひたすらモンスターを狩りつくす効率育成プレイ、開始!

 

「さあ、行ってみましょうか──」

 

 フィールドの向こうに現れたのは犬型のモンスターたち。

 

「うん、ハウンドか……序盤のお約束! うわぁ……めっちゃリアルだなぁ……怪我したら痛そう……」

 

 逆立つ毛に乱杭歯。

 闘争心丸出しなのはモンスターとしての闘争本能のみで動く魔獣の姿である。

 

「でも、「逃げる」なんてコマンドは今はありえない! 「バインド」に「スリプス」併用で時間差で倒す!」

 

 この世界での初の実戦はクロなジスト定番のソロ戦法を選択。

 覚えた攻撃魔法がどこまで通用するか。

 敵のレベルはセレナとほぼ同等だ。

 

「戦闘開始!」

 

 他にも戦術はあるけど、あれこれを考えるより、まずは慣れだ。

 雷と風の魔法をぶっ放し、初の実戦に挑む!

 こうして、セレナの箱庭育成計画が始まった──

 

 

 あれから一月ほどが経過した。暇な時間を見てはダンジョンにログインで、タイトスケジュールだが順当です。

 

 今の私のレベルは経験値補正(10倍)もあってクロマジスト32レベルとなっている。

 最初は攻略に手間取ったものの、戦術を組み立てたり、アルテミスのゲーム知識をフル活用してモンスターをバッサバッサ倒すうちにラスボスまで撃破できるようになっていた。

 気がついたらこのレベルですよ……  

 「経験値倍増」バフめっちゃチート&「精神と時の部屋」の威力で爆上げでした。

 

(レベル32ってヤバすぎピコ! ご主人様、無双ピコよ! この世界ではもう英雄の入り口ピコ!)

 

「さすが10倍アーンド、精神と時の部屋……姫様業務の合間とはいえ」

 

 戦術を駆使したとはいえ、すでにこの世界における普通を通り越したレベルに到達してしまった。

 

 レベル10までは一般人がどうにか到達できる範囲【通常経験値テーブル】。

 

 11から20は、努力を超えた先の世界【通常経験値テーブル3倍】。

 

 21から40は、もはや達人級レベルで、40ならひとかどの人物ランク【通常経験値テーブル10倍】。

 

 41から50はもう人外だ【通常経験値テーブル30倍】。

 そこから以降は倍増は少し緩やかになるけど、困難なことに変わりはない。

 

 ネトゲ時代は、クラス全部(10数種類)をレベル100にするの、寝る間を惜しんで8年くらいかかったっけなあ(経験値バフはなかった!)。

 

「そうそう、クロマにつけるジョイントクラスも仕込んでいかないとね」

 

 ノーマルクラスから派生する通常クラスにはいくつか種類がある。

 ノーマルのファイターからは「ウォリア―」や「パラディン」など。

 その通常クラスの力をメインクラスに加えるのがジョイントクラスだ。

 ただし、ジョイントさせたクラスはメインでつけるクラスの半分のレベルに制限される。

 異なるクラスのスキルやアビリティも使えるようになる。

 特別アビリティのリキャストがあったものは、メインクラスでしか扱えないのは同じだ。

 

「【メイン】クロマジスト:32/【ジョイント】ビーストテイマー:16」

「【メイン】クロマジスト:32/【ジョイント】シロマジスト:16」みたいな?

 

 ジョイント「シロマジスト」にすれば癒しの魔法が使える。

 扱える属性魔法の種類が増えれば戦術の幅が増えます。

 ノーマルな私の親和属性は雷と風。

 それ以外の属性には適性がないため、火や土の魔法は扱えない(正確には扱えるがコストが3倍)のだが、アルテミス世界のクロマジストは精霊魔法全属性をカバーする。

 全属性扱えることで「エレメンタラー」の召喚術との相性は抜群だ。

 

 たいがい、この世界の人は一種類か二種類の属性適正があれば良い方で、全属性を兼ね備えた魔法使いは奇跡レベルの存在と言える。

 しかし、クラスシステムのおかげで問題は解決! 

 適正外の属性でもクロマジストとスキル構成が重なる私の能力ならそこそこの威力を出すことができるのだ。

 それと、レベルアップしてクロマジストの高レベル武装が装備できれば、装備面でも無理なくパワーアップできるはず。

 

 まあ全属性扱えます。なんて無駄に注目されて詮索されることになりそうなのでみんなには内緒です(お父様やお母様にも)。

 とまあ、ビーストテイマークラスとかは、つけてるだけで動物が自然に寄ってくるようになった。

 

「ねえ、ピコ、今の世界にクラス概念がないのってアルテミスの力が弱まってるせいかな

? 五大聖獣」の力も不安定で四脈を利用したテレポ機能まで使えないみたいだし」

 

 私の時代では五大魔獣という名称ではなく「五大聖獣」と呼んでいた。

 この呼称に違いも気になるところだ。

 聖獣が魔獣に転じた理由は?

 

「はっきりとは言えないけれど、その可能性は高いピコ……アルテミス様の力を地上でほとんど感じ取れないピコね」

「確かめるには直接聞くしかないよね……だからレベル上げ頑張るぞーっ!」

「その意気ピコーっ!」




練習場でのセレナの雷魔法が炸裂し、リアナの嫉妬が物語を熱くします!
ミニマムミニマムスでのレベル急上昇と姉妹の対立が、今後の嵐を予感させます。
次回もぜひお楽しみに!
いつも読んでくれてありがとうございます! 応援などいただけたら嬉しいです!
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