私が先駆者ァ!
よろしくお願いします。
Missing Archive
円卓に来る前に覚えている1番古い記憶は、昏く濡れた学校だった。あったはずのそれまでの記憶は、流されたように無くなって。こびり付いた思い、想い、懐い…それらの痕のみ残っているだけ。
夜は、私から記憶も青春も、恐らく居ただろう家族や友達も全部奪っていった。そして、あの世界にいた私以外の人達の全部も。
円卓に来る前に覚えている最初の出会いは、純白の手袋をした巫女様だった。彼女は正しく淑女を体現した高潔な【レディ】。彼女には、幾度となく世話になった。子供の私を対等な仲間として認めてくれて、他の仲間との橋渡しもしてくれた。
召使い人形と無頼漢さんに怯える私を勇気づけて、守護者さんの気高さを教えてくれて、隠者先生の優しさを教えてくれて、執行者さんの強さを教えてくれた。
新しく入った追跡者のお兄さんには私から話しかけたら、なんかパンを焼いて食べさせてくれた。でもそんな彼らも何かしら罪を犯した罪人なんだとか。
皆、罪人だとは思えない位に優しくて強い人達ばかりだった。
円卓に来る前の私は弱かった。初めての夜渡り。王を探す過程でまともに人を殺せず、襲い来る犬を殺せず、まともな生命ではないしろがね人や結晶人、魔術師に怯え、果てには一夜にして10を超える数夜に飲まれかけたことがあった。その時の探索は、これ以上迷惑をかけられないと焦りに焦って、殺す恐怖と殺される恐怖に挟まれながらも何とか乗り越えることが出来た。…その夜に王はいなかったけど。
とにかく、殺すことを初めて行い、夜の迷い人からちゃんとした夜渡りの一員として自覚することが出来たんだ。*1最も、守護者さんからはまだ群れの雛として見られているみたいだけど…*2
とにかく、円卓に来る前は私は弱くて。
円卓に来てから私は強くなって。
私は【私】となって。
冷たくて雨の臭いが満ちた寂しい夜にも、暖かい仲間がいた。
そして、私が円卓に来てから5、6年。数々の王のいない夜を踏破し、撃退してきた。巫女様が夜の影響で記憶が薄れてしまい戦えなくなったりしたけどサポートを手厚くしてくれた。そして遂に、夜の王への導きを掴んだ。
三つ首の獣…夜の獣、グラディウス。素早い噛みつき、剣の巧みな振り回しや巨体に似合わない軽々としたステップに翻弄されつつも積んできた経験で戦った。3体に分裂した時はキツかったけど守護者さんと追跡者さんが一体ずつ完璧に引き付けてくれたおかげで剣を持った獣と戦うことが出来た。
夜に蝕まれかけたのは、咆哮の後の集中攻撃だけ。それ以外は順調に進んでいった。
グラディウスを倒して終わりかと思いきや、王はまだいるようで。本当の王でもなかったわけだけど、グラディウスが夜の気配っていうのを落としたようでそれを追い集めたら真なる夜の王に辿り着けるという話だった。
そこからはひたすら夜の王に挑み続ける…と思いきや、やはり気配は気配のようで確かな導きではなかった。ただ、気配を手に入れることが出来たから夜渡りは順調に進んだ。グラディウスまでは3年かかったけど、気配を追うことで2、3回夜を渡れば夜の王にたどり着くことが出来るようになった。
その間に大小種類様々な景色が拾える形容しがたい空間で懐中時計を拾ったり、それを巫女様に渡したら前のように戦えるようになったりした。
かすれたフレームを壺商人が売ってたのをなんとなしに買ったらそれが縁となったか、夜に呑まれた夜渡り…【復讐者】ちゃんの位置が特定された、と
──夜には、導かれて向かうもの。導きがなければ帰ってくることが出来なくなり夜に呑まれてしまうから。そして、向かうべきは大いなる存在の導きにより選定される。
それが夜渡りたちの常識だった。そしてその導きは3人が限度だと言うのも。ただ私は違った。導きを感じたことはないけど何度も夜に繰り出しては何故か気づいたら帰ってきている。巫女様が言うには私こそが導き…のような性質を持っているらしい。帰りたい所へ帰れる。それが私みたいだ。復讐者ちゃんは『帰巣本能か。まるで鳥だな』って言ってた。
私は鳥じゃないじゃんね。
途中は夜を超えるためじゃなく、皆の個人的な目的を達成するために動いたりした。狭間杯も観戦した。その後に鉄の目さんと一緒に無頼漢おじに賞賛の声を送ったりした。守護者さんの優しさと強さを目の当たりにもした。疲労困憊で死にかけの追跡者さんからパンの作り方を聞き出し、それに高揚の調香瓶の中身を隠し味に仕込んだものを巫女様…レディさんと一緒に作り、追跡者さんの口にねじ込んだりした。時折ベンチで復讐者ちゃんに肩を貸している隠者先生に近寄って膝枕をしてもらった。*3
そうしながらも順調に、
夜の爵、エデレ。
夜光の騎士、フルゴール。
夜の識、グノスター。
夜の魔、リブラ。
深海の夜、マリス。
グラディウスの他に3体の夜の王を撃破した時に掴みかけた【夜を象る者】への導きは、まるで何者かにまだ行くべきではないと阻まれるように、私からでた【透き通るような青い光】に弾かれた。皆に詰められてちょっとだけ泣いた。嘘、大泣き。
そして、今。判明している中で最後に残った夜の王たる霧の裂け目、カリゴを無頼漢おじとレディさんと共に撃破した。*4
「…戻ったかお前たち。おい、導きは?」
椅子に座って待っていた復讐者ちゃんが椅子を壊しながらレディさんに寄る。
どうやら皆、大祝福の元で待っていたようでレディさんの言葉を注視して待っている。
「……ああ、浮かんできた。我々が打ち倒すべき夜の王…【夜を象る者、ナメレス】。そして
【
──プレナ、パテス…?
「…向かう人数は、今までと同じか?」
「……人数だが、全員だ。つまり9人で臨まなければならない。」
「全員だと?」
「今までが3人だったが、倍以上か。」
「【
「ガッハッハ!確かにまるで祭りだな、体が滾るってもんだ!」
追跡者さん、鉄の目さん、隠者先生、無頼漢おじさんが言葉を返し、復讐者ちゃんと守護者さんは目を丸くしたもののやることは変わらないと思ったのか静観している。
…ただ、私は……プレナパテスという名前に、覚えのない、恐怖にも似た感情が心臓を打ち鳴らしている。
(…なんで、どうして?私たちは、いや、夜の王をころさなきゃで…でも…?知らない、はずなのに…会いたくない?そんなはずは…今まで、私たちは、この時のために…頭が、痛い…っ)
思考が空回りして何も考えられず俯いていたら、レディさんが声をかけてくれた。
「…、……と、【学徒】、大丈夫か?」
「は、はい!?どどうされましたか!?」
「おい、お前…まさかここまで来てしり込みしてるわけじゃないだろうな?」
復讐者が学徒を睨みつける。ヤンキーに絡まれて萎縮しかけたものの何とか持ち直す。
「ひぇっ…そ、そんなんじゃないです!
ちょっと緊張と言いますか!?別にビビってなんか無いですよ!?
ええ、ビビってないですとも!」
「あ、ああ、そうか…わかった。
わかったから離れろ!近い!」
ビビってる訳じゃないことを至近距離でわからせていると周囲から暖かい目で見られている事に少し恥ずかしくなった。…ちょっとだけ呆れが入ってたけど。
「お前はいつまでくっついてるつもりだ!」
「あ、ごめんなさい!」
顔をグイグイ押されて痛くなってきたから復讐者ちゃんからちょっと離れたらすぐさま隠者先生の陰に逃げられてしまった。
「はは、この調子なら最後の戦いもやり切れそうだな。」
「ああ…そうだな。」
「ふふ……ともあれ準備が必要だろう。時間もある、バザーで必要なものを揃えてしっかり休み、皆万全で【夜明け】に臨もう。」
レディさんのその言葉にそれぞれ反応を返してその場を解散して行った。
「そうだ、学徒。少し話をしないか?」
「お話ですか?」
「そう難しい話じゃないが、そうだな…円卓の先にある崖で、ピタパンを食べながら座って話をしようか。」
「はい!」
「このピタパン、追跡者さんが作ったものですか?」
「ああ。私が作ったものもある。…これだ。食べてみてくれないか?」
「頂きます!……美味しいです!もちもちしてて、あまじょっぱくて。好きです、この味!」
「なら良かった。……今日は風が心地良いな。」
「そうですね…なんだか落ち着く風です。…そういえばお話って何ですか?」
「ああ、そうだったな。……これを渡そうと思ってね。」
「──、これは…」
「景色が手に入るあの空間に、これが混ざっていたんだ。少し覗いてみると、君の持ち物にどこか雰囲気が似ていたから、少しでも記憶を取り戻す手掛かりになればと思って。」
「……。」
これ、は──っ!?
「…学徒?」
─【ソレ】を受け取り目にした学徒は一瞬、呆然として…レディにいきなり抱きついた学徒。レディは困惑したが…
「──ありがとう、ございます…!ありがとう…!」
「……ああ、どういたしまして。」
─涙を浮かべながらも満面の笑みでそう伝える学徒に、レディは学徒の頭を撫でながら微笑みを浮かべた。
…
「すいません、お恥ずかしいところを……」
「良いんだ。力になれたみたいで嬉しいよ。気は晴れたか?」
「はい!雲ひとつ、一点の曇り無しです!」
ようやく私のやるべきことがわかった。どうして夜渡りに選ばれたのかも。皆、過去の精算の為や赤子を探すため、報復だったり闘いを求めてだったりで目的があった中、私だけ何も無かった。
でも。
「見つけましたよ、レディさん!私の、私たちの物語の、最高の終着点!」
「…?それなら良か「まずは皆さんを食卓に集めましょう!!」……え?な、なん「 食 事 会 !です!!レディさんは追跡者さんと守護者さんと鉄の目さんを連れてきてくださーー………!」
「……え?」
いきなりはしゃぎ出したと思ったら突然の提案を押し付けて颯爽とかける姿は夜を照らす一条の流星が如し。瞬く間もなく小さくなる背に手を伸ばしかけた姿勢で固まり、レディは1人困惑するのだった。
「ということで、私が皆さんを集めたのは、ナメレスとプレナパテスに挑むのは前例がないどころじゃない人数…全員で向かいます!ので!更に親睦を深めて戦いに置ける連携度の上昇を図りつつ美味しいものを食べたり皆で遊んだりして英気を養おうという目的であります!召使い人形さんも含めて!」
「ワタクシも英雄サマの宴にお呼びしていただいて感謝の極み。人形でありながら高揚を覚える限りです。」
「ほぉ!良いじゃねぇか、俺も昔はどデカい闘いの前には船のヤツらと宴会開いてたぜ!」
「…懐かしい感じだ。あまり記憶には無いが…故郷の早駆けを競う大会や豊作を祝う祭りでも良く宴会を開いていたな。」
「…なるほど、そういうものか。今までそう無かったが、悪いものでは無さそうだ。」
「うん、楽しそうで、いいと思う。お祭りなんて、はじめて、かも。」
「(リングのポーズ)」
皆、肯定的な意見で良かった!レディさんから貰った
復讐者ちゃんは何か考えてるみたいだけど何もなしには否定も肯定もしない娘だから分かってくれるはず…!復讐者ちゃんのために私が導きっていうの利用してファミリー全員出せるようにしてるし!
「………まあ、いい。言っていることも一理ある。だがそれだけじゃないんだろうな?お前のソレは見たこともない。」
「その通り!皆気になってるコレのことと、あとはちょこちょこっとあります!ままとりあえず置いといて音頭取らせて頂きます!
…明日、必ずや最後の夜の王【ナメレス】と【プレナパテス】の撃破することを剣に、弓に、盾に、杖に、魂に誓って!乾杯!」
──『乾杯!!』
皆の掲げるカップが小気味よい音を立て、決戦前の宴が始まった。
「あははは!フレデリックさんがんばれー!」
「やれ!フレデリック!」
『………っ!!』
「うおぉおお!!」
「負けるな無頼漢!」
「意地を見せろ、無頼漢…!」
「先生にもそのようなことが…」
「うん。『かじりやさん』はなんにでも齧り付くから、夜の王の影にもかじりついちゃって……」
「必ずや助け出しましょう、先生の幼子を。」
「ありがとう。頼りにしてるね。」
「あの、執行者様、ヘレン様、セバスチャン様…私にはこのような姿は、その…似合わないのでは?」
生まれ変わった召使い人形の姿にヘレンは勢いよく首を横に振り、セバスチャンは骸骨で変わらないがほほ笑みを浮かべ、青空が広がる浜辺の方へ綺麗な所作で手を伸ばし示す。
「…そう、でしょうか?…!?そんな、私が英雄様の元へ混ざるなど恐れ多く存じ…セバスチャン様!?ヘレン様、執行者様!お助け下さい!」
伸ばした腕を戻し、新生召使い人形をそっと包み、ゆっくりと丁寧に運び出す。抵抗している召使い人形だが、本意では無いとはいえせっかく2人におめかししてくれたものが崩れてしまうことを恐れて強く暴れられず…ヘレンと執行者に助けを求めるも、両者グッと親指を立てて見送るのみだった。
「うおぉーー!凄い!引き分けだー!」
「くっ!あと少し台が持っていれば…!!」
「はぁ、はぁ、やるな!フレデリック!腕相撲でも負け知らずだった俺と引き分けなんてよ!ガッハッハ!」
『………!』
「惜しかったな。だが、悪くない闘いだった。狭間杯と遜色ない闘いだった。」
「ああ、ここまで熱くなったのは初めてだ。…狭間杯?」
「しかし、このピタパンというのは中々に…ロアの実を濾した果実水とも合いますね。」
「ね、美味しい。…?あのこたち、あっちに行って何するんだろう…?あと、なにか隠してる?」
「執行者殿も動いている…楽しげで、悪い感じはしないですね。少し待ってみましょう。」
『……!』
ヘレンがくいくいと復讐者の腕を引き、浜辺の方に指をさすと、くるりと一度回って皆を呼ぶよう身振り手振りでお願いする。
「ん?どうしたお前たち。……なるほどな、面白そうだ。」
「復讐者ちゃん、どうしたの?」
「こいつらが私たちに見せたいものがあるらしい。浜辺の方だ。」
「じゃあ、ちょっとみんな呼んでこよう!」
「っ急に腕を引くな!」
いつもとは様相の変わった浜辺。そこには円卓の一部を拝借したのか木の骨組みに赤いカーテンがかかっており、小さなステージとなっている。時折風になびいているその横に、執行者とヘレン、セバスチャンはウキウキした様子で待っている。
「皆揃ったね…じゃあ、見せたいもの見せてもらってもいいかな?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに意気揚々とカーテンの端を下に引くと、現れたのは、青い体をして白いローブと白い三角帽を被った、方目を閉じて2対の手の指先を合わせて恥ずかしそうにしている召使い人形だった。口を噤んでいるのがキュート。*5
「……。」
「……どなた!?」
「あんな別嬪、今までいたか?」
「巫女、アイツは新しい夜渡りか?」
「いや…だが、円卓のものではあるな。ふふっ」
「ほう、見違えたな?召使い。くく、余程ヘレンたちにイジリ回されたと見える。」
「かなり変わっててちょっと分からなかったけど、召使いさんだったんだね。ちょっと私に似てるかな?可愛くてキレイだよ。」
「召使い人形さんなの!?えー!かーわーいーいー!」
「たまげたなぁ!あの無骨な姿からえらく変わったじゃねぇか!」
「「「…!?!?」」」
「…少し恥ずかしいですが皆様に喜んでいただけていると嬉しいですね…ぅぅ…」
(照れてる!可愛すぎる!)
ステージの前に出て夜渡りたちの前でくるりと回ったり、輝石の魔術『星灯り』を応用した攻撃性のない賑やかし用の魔術で彩り豊かにお披露目。一通りやり終わったらヘレンが前に出てまた何かを伝える。
『……!、!』
「復讐者ちゃん、なんて?」
「衣装がまだあるらしい。全く、いつの間に作っていたんだか…全部見せてもらおうか」
「…次、ですか?衣装はほかにも?いつの間に作って…お、押さないでください!」
ヘレンが人形をステージの裏に連れていきカーテンを閉めて数十秒後、シャッと勢いよく降ろされたカーテンの先にはまるで異なる姿をした召使い人形の姿が!
「おおー!?」
「今度は私に似ているな…ふふ、まるで妹のようだ!」
「おいおいおい!執行者にセンスがあるのは薄々分かっちゃいたがヘレン達と手を組むとこうも化けるもんなんだな!」
「復讐者のファミリーは伊達じゃないということだな。」
「……凄いな」
皆それぞれの感想を口に出し、ワイワイと盛り上がっていく。その間召使い人形はモジモジと恥ずかしそうに指をつついており、それに気づいた学徒が興奮のあまり鼻血を出していた。
「英雄様、血が、鼻血が出ているじゃ無いですか!ただいま手当てを…!」
「優しいの変わってなくて嬉しいぃ…!処置してくれてありがとう…!」
…なんだろう、衣装替えしたからか人間味を帯びている人形のワタワタと、されど正確に手当してもらってる時皆から生暖かい視線を感じる。復讐者ちゃんにはなんかジトっと見られてるし…レディさんはなんかうんうん頷いてるし…
そんなことがありつつも、召使い人形のお披露目ショーは数十分ほど続いた。
時に狩人。時に血の貴族。時に復讐者をお姉さんverにした姿など…
いつこしらえたのか検討もつかない様々な衣装をこれでもかと披露し続け、遂に終わりを迎えた。
なお召使い人形は夜渡りたちの熱意に負けた結果元の姿に戻して貰えず、最初に披露した姿になった。
「…あれ、食べ物と飲み物がそろそろ無くなりそう?」
「確か倉庫に材料がまだあったはず。お作りしますか?」
「…軽く作ってもらってもいいかな。そろそろ……」
「…了解しました。では、そのように。」
「やっぱこの手は執行者に分があるな!」
「(ぐっ)」
「追跡者、どうだろうか。私だって負けてないだろう?」
「…ああ。見事なまでの草原と馬だ。何かモチーフがあるのか?」
「いや、特に無い。」
「……そうか…」
「みんないい絵を描いてるね。でもこの絵画コンテスト優勝は私だ!そう思うでしょ?守護者さん!」
「あ、ああ。そう、だな…ああ、見事な老獅子だ。切り捨てられたもの達が転がっていて力強さが……」
「………亜人女王…」
「ぁ………せ、先生!そちらの絵は?」
「ふふ、なんだと思う?」
「……っ、ツ、ツリーガード、ですか?」
「…変身した、執行者さん……」
「「「………」」」
※優勝は復讐者の屋敷の家族とヘレンらファミリーが書かれている『ふぁみりー!』でした。審査員は守護者と召使い人形。
「…さて、そろそろお開きの時間ですが、お開きの前に、最初に言ってた私のコレについて話そうと思います。そして私の記憶についても。」
「記憶が戻ったのか?」
「はい。レディさんのおかげで取り戻せました。では説明を……私のコレは、私のいたところ、【学園都市、キヴォトス】では【シッテムの箱】と呼ばれた、選ばれたただ一人、【先生】と呼ばれる【清く正しい大人】だけが使える遺物です。その仕組みはキヴォトスの誰一人究明出来ない代物。キヴォトスの全ての管理をこのひとつに入れ込み、キヴォトス全体を実質支配が可能なモノです。数十、数百の群れをただ一声で統率できると言ったら分かりやすいでしょうか。」
「…ここからが本題です。結論からいいますと、恐らく【夜の嚮導者、プレナパテス】は、このシッテムの箱の正式な持ち主です。
…分かるんです。シッテムの箱が教えてくれました。先生が夜に飲まれ、導くべき【生徒】が総じて飲まれ、狂い、死んだ。それでも狂いながらも生き残り、着いていく生徒だけでも夜から抜け出させるために大人として、導くことを辞めない。そして、ナメレスと出会った。………。」
「私は、あの人を救いたい。夜をそのままにするという意味ではありません。私が…【───】が、
「学徒、それは…」
「……最後まで聞け。それからだ。」
思わず話を止めようとする無頼漢さんを復讐者ちゃんが止めてくれた。
「シッテムの箱があれば、決戦場に満ちる夜を吸収し尽くして【誰にとっても明るい夜明け】をもたらせます。シッテムの箱の継承者として皆には幸せになって欲しいから恩返しも兼ねて頑張っちゃうぞって感じ?」
最後におちゃらけて明るくしようとしたが夜渡りの一同は沈黙し、空気は重苦しい。
…言うべきじゃなかったかな、良い言い方はもっと他にもあったかな、とか。だんだん思考がネガティブになっていく中、追跡者さんが問いかけてきた。
「お前はどうなる?」
「エ?」
「…夜の王を殺して残った夜を吸い尽くす。そうすれば夜は完全に消えるだろう。導きの元集められた俺達は円卓から解放され元に戻るだろう。
だが、その後のお前は?何もかも全て蝕む夜を一所に集め、それをどうやってかは知らないが行使する。…夜という制御しえないものを制御する意味が分からないお前では無い。」
「どうって…私には帰るところはとっくに滅びちゃったし、恩人も友達も夜に飲まれて敵だし…私が新たな王となる事はシッテムの箱が防いでくれるから心配しないで欲しいな。」
「たわけ。そういうことを言っているんじゃあない。分からないか?本当に。」
「……しょうがないじゃん。皆には幸せになって欲しいし、私のいたキヴォトスは何をどうこねくり回しても元に戻らない。それが都合よく皆をハッピーエンドに導ける切符があるんだから使わない手はないじゃんね?」
「勘違いしてるみたいだから言っておくが、我々にハッピーエンドなどというものは無い。どこにもな。」
「…そんなわけ……」
「…学徒。復讐者の言う通りだ。無くなったものは完全に元通りとはならない。良くも悪くも、ここに集まった時点で皆取り返しのつかない戦いに身を投じている。夜に飲まれた影響は大きく、夜がなくなろうと全て直ったり生き返ったり、時間が巻き戻ったりなんてのはしない。その箱がどんな力を秘めていようとこれは変わらない。」
「そんな…」
「…僭越ながら、英雄様。いえ、学徒様。人の強さとは何か、ご存知でしょうか?」
「…立ち向かう勇気と、進む意思。」
「その通りでございます。私はそれに加えて、立ち直る精神も強さだと存じます。学徒様。シッテムの箱が貴方様の手に収まったとして、貴方様が選ばれたとして、しかし貴方様や復讐者様はまだ学ぶべきことが多くあり、己の未来を見て希望に笑うべき子供でございます。」
「でも、私はシッテムの箱に選ばれたから、先生がそうしたように私も皆を導かなきゃいけない…」
「学徒様。ここにいる英雄様は皆、立派な【大人】にございます。貴方様が皆様に幸せになって欲しいと願うように、皆様も貴方様に幸せになって欲しいと願っているのです。」
「………ぅぅ…」
「学徒様。自分はどうなってもいいなどと仰らないでください。貴方様からお聞きした先生という方は聡明で優しさに溢れ、多くの人を導く強さを持った正しいお人です。そんなお人が、未来ある子供が犠牲になった上で幸せがあるなど許容できますでしょうか?」
「…っできない…先生なら許さない…」
「学徒様。いえ、【────】さま。私や英雄様を頼りにしてはくれませんか?貴方様の苦しみを無くすことは叶いませんが、きっとお力添え致します。そうでしょう?英雄様方。」
夜渡りの英雄たちは強く頷いて、順に力になることを宣言していく。
「そうだ学徒。俺じゃ頭を使う分野においては大した事は出来ねぇが、力が要るんならこれ以上ない適任だろ!」
「無頼漢おじ……」
「守護るというなら俺は誰よりも前に立ち盾となろう。何者も通してやらないさ。」
「守護者さん…」
「私は力はないけど、魔術や祈祷とか、他にも色んな知識があるから気になったことは教えてあげられるよ。」
「隠者先生…!」
「(火よ、我が内にあれ)」
「執行者さん…?」
「…君の辛さに気づいてやれなくてすまなかった。体捌きと技と駆け引き、短剣の扱いなら誰よりも上手いと自負している。いつでも頼って欲しい。【───】の寄る辺となろう。」
「レディさん…」
「…道具の扱いと長物については得意だ。望むなら教えよう。」
「追跡者さん…」
「弓の扱い方と目利きの鍛え方は、施設のモノになるが役に立つだろう。捜し物の才はあるようだから伸びるはずだ。」
「鉄の目さん…」
「名家の所作を叩き込んでやる。どこに出しても恥ずかしくない人間になれ。お前の動きは鈍すぎる。」
「…復讐者ちゃんなんか酷くない?」
「…ごめんなさい。心配かけてしまって。せっかくのパーティーだったのに、こんなしけた雰囲気にしちゃって…」
「全くだ。この借りは夜の王を殺した時にキッチリと返してもらうからな。もしまたつまらないことを言ってみろ、殺す気で性根を叩き治してやる。」
「うへ、それは勘弁して頂欲しいな!?
(思えば、私の知る先生も誰かに助けを求めてた。そして誰かに助けを求められてた。それはきっと、自分を含めて誰かの自己犠牲のハッピーエンドなんて悲しむ誰かがいるのを理解してるからだったんだ。)
……私はそんな簡単なことも気づかないで……ううん、みんなに気づかせてもらった。
本当に、ありがとうございます!私は私の意思で、きっと素敵な大人になってみせるから。だから、みんなの全てを私にください!また私を助けてください!」
─勢いよく頭を下げる。円卓に拾われた時と同じように白い手袋をした手が伸ばされ、頭を上げる。手の先には、笑みを浮かべて勿論だと言う大人たちがそこに居た。
「わー!みんなぁあ!!」
嬉しくて思わず泣いてしまった私はそのまま近くにいた復讐者ちゃんを抱きしめて大声で泣いた。耳元で叫ばれて心底嫌そうな顔をうかべる彼女に気付かず泣き続ける私に、みんなは多分苦笑いしてたと思う。
しばらくした頃にようやく泣き止んで、残ってたパンと果実水を食べた。
「落ち着いたか?」
レディさんがニコニコしながら聞いてくれる。
「はい!円卓のスーパースター学徒!復☆活です!」
「なら、始めるとするか。」
と無頼漢。
「そうだな。夜が遠のいたとはいえ、時間があまりないのも事実だ。」
鉄の目が肯定を返す。
「え、え、何を始めるんですか?夜が遠のいたって?」
困惑する学徒。
「…本来なら不都合なことでしかないが、お前が泣きわめいている時大祝福が大きく輝き、夜を遠ざけたらしい。明日の出発は叶いそうもなく、遠のきすぎていつ出られるか分からないときた。」
「つまり?」
「よくも耳元で叫び続けてくれたな。決戦までずっと、みっちりシゴいてやる。死ぬ気で吸収しろ。」
「(ぐっ)」
見たことないくらいに笑顔の復讐者に呆然としたまま頭を捕まれ浜辺へと連れていかれる学徒。その姿を見送る執行者は武運を祈っていた。
「いやぁああああ!!!?」
円卓全体に甲高く事件性しかない悲鳴が響いた。
1ヶ月後。夜が遠のいただけでなく、夜自体の歩みが、何者かに阻まれるように遅くなっていたようでかなり時間が空いた。その間、夜渡り一同からはみっちみちに扱かれ、召使い人形改めて【ラナ】からは家具の修復方法や庭の手入れの仕方を自主的に教わった。
「ぬわああああつかれたもおおおおおお!でもなんか思ってたより成長した?」
成果は、ステータス面では
生命力D
スタミナC
筋力C
技量C
知力E
信仰E
神秘S
↓
生命力B
スタミナB
筋力B
技量B
知力C
信仰B
神秘S
となった。
円卓に来た頃の学徒は学校でいうところの小学5、6年生だったのが数年して若さの最高潮にあたる歳である。そのため本人が思っていたよりサラサラと覚えていったのである。フィジカル面は素質があったのと、小学生にして戦いに身を投じた彼女は根性も鍛えられていたという面もあるだろう。
「夜が遠のいたあの日より凡そ一月。遂に、夜が近づいて来ている。大いなる存在の言葉では、【ナメレス】の弱点は神聖属性だが、【プレナパテス】の弱点は神秘属性…つまり不明だ。大いなる存在によれば、明日には向かうことが出来る。」
「…遂にか。これ迄長かったようで短かったな。」
「ガッハッハ、学徒との闘いもそれなりに楽しかったが、そろそろデカブツをぶん殴りたいと思ってたところだ!腕が鳴る…!」
夜渡り達は覚悟はもとより、夜明けへ向けて気を引きしめる。
「遺物儀式…これは、絶対に持っていかなきゃね。」
祭壇にシッテムの箱と夜の識、深海の夜の遺物を置き完了する。
「…先生。私は、素敵な仲間に出会えました。…待っていてください。」
パキッ…─
──地変発生中
学園都市、キヴォトス
「このキヴォトス、学徒が元居た場所だったな。」
「はい。…恐らくは。」
「何か情報は無いか?」
「…出現する敵は恐らくカイザーの兵士やミレニアム製の警備ロボット達。白や黄色、黒の四角い姿をしたものや小さい円盤状のものです。他だと、住民だったロボットや獣人ですね。姿は人に近い形と犬や猫、鳥が二足歩行してるような姿でしょう。それとは別に、幾つかとても大きくとても硬くとても強い個体がありますから、それとだけは慎重になって戦ってください。」
「そいつの具体的な説明はできるか?」
「はい。とはいってもそのうちの2体しか知らないんですが…まず一体目は、【ビナー】。無限のからだを持つ鋼鉄のサンドワーム。攻撃方法は巨体を使った体当たり、体から黄金の地の礫を打ち出すちっちゃいのを飛ばして火力支援させる、口からアステールのビーム以上のビームを鉄の目さんのワンショット並の速さと強さで何回も打ってくるってところです。後は噛みつき。
もう一体は玉です。本体は自信を守る堅殻以外なんて事ないんですが、手駒を作り出す能力がヤバいです。具体的にはティビアの呼び船の蘇生を10倍の数と100倍の速度にしたくらいです。」
「そいつはやべぇな…俺でも挑む気にはなれん。」
「アレは各自治区の真核に位置するもののはずですから囲んで叩けば問題ないでしょう。注意するべきは、生徒達がいた場合なんです。生徒たちはみんな、個人差はありますが皆等しくそこそこ高い身体能力を持ち合わせます。」
「学徒の持つ武器を持っているわけだ、それに耐久性もある…他世界の俺達のように躊躇もなくその力を発揮するわけか。」
「加えて、高性能な火炎壺と一瞬だけものすごく光って視界を奪うアイテムを持っていますから殺られる前に殺りましょう。……先輩方ではなく、私だけ生き残ってしまったから、せめてもの弔いをしたいんです。」
「「………」」
「だいたいこんなものですね。結晶人に近いとはいいましたが、結晶人とは違い明確に脆い部分がありますし、引き寄せられたら叩き潰すだけで壊れるはずですからやばい生徒と異質な機械に合わなければ問題なし。あとはまぁ、キヴォトスはどこかの狭間の地に繋がる、もしくは成り立ったもののはずだから私の土地勘が役に立つとは思わないで欲しいくらいですね。」
「安心しろ、元からお前の土地勘に期待などしてない。お前がこのかび臭い円卓に来て何年経ってると思ってる?」
「む、それでもちゃんと、覚えてる?思い出した?…んですからちょっとは期待してて欲しかったなー?」
「ひとまず詳細は聞けただけ良しとしよう。」
「そうだな。…それに、そろそろ向かいたい。」
「では、向かうとしよう。」
ガコンッ
Day.1
To Be Continued……
ちゃんと区切らなきゃ永遠に描き続けられてしまうためDay事に書きます。書けたらね。
次回─『どこもかしこも』