――カチカチカチ……
「っし…!」
箱を構えつつ口元を隠しながら指示を出していたのは、言うまでもなくこのためだった。口の動きから読まれることを防ぎ、立ち込める砂煙に乗じて背後から致命の一撃。
「『無頼漢と執行者は前に!星光の欠片を渡す。復讐者は少し下がって回収を。レディはアンノヴァの観察、報告を優先して。余裕があれば再演とかで支援を。』」
「……あの日、雨がキヴォトスを侵してきた日…あの日から続く慣れた痛みだと思っていましたが、やっぱり命が零れ落ちそうになるのは慣れないもの、ですね。」
''―――?、―――。''
「…ふふ、大丈夫です、''先生''。ワタシは魔王、背中を刺されたぐらいじゃ何とも無いんです。それに…もう、みんなが居なくてもワタシは立ち上がれますから。」
「ごめんね、嫌いになっちゃった?」
「……大嫌いですよ、学徒。だから、本気で行きます!」
「『アンノヴァから発射される銃弾…いや、砲弾は全部物理属性だよ!無頼漢はエビを食べて近接、執行者は刀で切って妖刀で弾いて!復讐者はいつでも回復をかけられるように!』」
「かなり重いはずなんです、が!どうなってるんですかあなた達は!」
「お嬢ちゃんに言われたくねぇな!こんなデカブツを軽々持ち上げては振り回しやがって!殴りがいがあるなァ!!」
「…!」
飛び上がってから下に向けてチャージ砲撃、バックステップから低姿勢のままチャージなしで速射、大きさ、重さに任せて振り回す。
元は無名の司祭の兵器、アトラ・ハシースの系譜出会ったが故にウトナピシュティムでは大いなる負荷、負担がかかっていた。しかしこのキヴォトスで勇者として馴染んでいくうちに彼女に貼り付けられたテクストは変容した。正真正銘、キヴォトスの勇者として。
…その存在が夜に堕ちてしまい共に変質した武器。本来二つとあるはずのない存在……
――魔王に特攻を持つ聖剣。
「…まさか本当にできるなんてね―【光の剣、スーパーノヴァ】…!『皆、これからは今までよりもとにかく私の方に攻撃を通さないようにして!デッカイのぶっ込むから…!』」
――光の剣、スーパーノヴァ
「く、重い…!単純な重さだけじゃない、神秘を扱うからこそ感じる重み…これが聖剣っ!『コレを打つ時はシッテムの箱の支援を切るよ!いつでも離脱出来るようにしておいて!』」
「''―――。――?''」
「そう来ますか。ならば先生【モモイ】、【ミドリ】、【ユズ】を呼んでください。こっちもあっちも、DPSチェックの時間です!」
「無頼漢、執行者、レディ、復讐者!!正面切って突撃!隠者、鉄の目は火力支援!」
「させねぇよ、嬢ちゃんたち!」
「(居合)」
「最終フェーズね、突破してみせるわ。」
「ヘレン、挟み撃ちだ!」
「巻き込まずに支援しろとな。」
「でも私たちなら、それが出来る。」
「''―――――?''」
「――!――……――!?」
「―――!」
「――……!」
押して、引いて、ぶつかり合う2つの勢力。激しさは増し、魔王の手下は全体の連携を以て引きながらも時に押して耐久。円卓の英雄たちは、詰めて挟んで押し切る強行の姿勢を取る。
そして両陣営の指揮官たる大将が勝負を決する一撃を両者揃って溜めていること。
「…チャージ完了/フルパワー、だ!」
『皆下がって!』
無名の魔王は似姿を引っ込め、指揮官の学徒は英雄たちを自身の背後まで下げる。
追跡者と守護者が2人だけで押しとどめていた背後からの敵は渦巻く2つの異様な力に怯え、棒立ちはせずともただ一定の位置から侵入しようとはしなくなる。
「アリス、遅くなって……いや、ここまで来たら言葉は不要だね。」
「今更ですね。ずっと、お互いに。……。」
正面から相対してよく分かる。夜に蝕まれつつある体、無感情に見えていた表情、機械的で人間的な瞳の奥にある絶望と希望。
そして。
ずっと、ずっと浮かべていた泣き出しそうな、助けを求める無名の■■の顔。
「――っ夜の力よ!!」
「光よ―――!!!」
「ここは……この脱ぎ捨てられた服に散乱したゲーム機、カセット、ピザの匂いが鼻につくこの景色は、どこかで……」
「アリスー!!」
「……っ!!も、モモイ、ですか…?」
「アリス……」
「ミドリ…」
「……ア、アリスちゃん」
「っどうして、みんな…あの時、アリスが――」
「ごめん、アリス。」
「――モモイ?」
「本当に、ごめんね。わたしたちのわがままでずっと、ずっとアリスを苦しめた!」
「アリスちゃん。本当に、ごめんなさい……!」
「ごめん、アリスちゃん……」
「……あの時、皆を手にかける選択をしたのはアリスです。みんなを手にかけるルートを選んだのは……紛れもなく、アリス自身の選択でした。だから謝らないでください。どうか、泣かないで下さい…!皆にはずっと…笑って生きていて欲しかった……!!」
「「アリス……っ」」
「…アリスちゃん……」
「狂ってしまったミレニアムの生徒を、チビメイド先輩達を、リオ会長を、ユウカ達を介錯していくうちに自分が何者か分からなくなって……気づけばリオ会長のロボットとアリスだけが瓦礫の山で項垂れて居ました。死体は記録と共に雨に流されて、彼らがここに来るまでずっと侵食に耐えることしか出来なかったんです……」
「でも、だからこそ、彼らと戦って、彼女とぶつかって。今、ようやくみんなに会えたんです!だから…どうか、笑ってください!前みたいに、また一緒にパーティを組んで…クエストを…!」
「「「もちろん(だよ)!!」」」
「でもその前にあの子にやり残したこと事とか言い残したこととか無い?」
「そうでした!あの子のクエスト達成の報酬をまだお渡ししていませんでした!…モモイ、ミドリ、ユズ。もう少しだけ、待っていて貰えますか?」
「私たちはここで!」
「ミレニアムの勇者の帰りを、」
「待ってるよ……!」
「ありがとうございます!みんな、ずっと大好きです!」
「ゲボ……オエッ!すまないね婆さんや…くぅ〜!回復の祈祷が染みる〜!あ♡そこ良い♡…ごはっ!?ごめんてッ!」
「誰が婆さんだ!気色の悪い声を出すな!怖気が走る!なんで腹に風穴ぶち抜かれてたのに元気なんだ…!ふんっ!」
「人形ちゃんに怖気を感じさせるなんて、流石ね。」
「ああ、見習いたくねぇもんだな。」
「いたぁい…手心はどこ…?ここ?」
「その資格はない。おぉその資格はない(笑)」
「鉄の目、あまり言ってやらないであげて。……学徒。ありがとう。」
「みこさまぁ……結婚式はいつに」
「学徒。お前には何度も世話になったな……お陰で俺も雨に奪われた調子を取り戻し、万全の状態で夜渡りができるようになった。」
「冗〜談だぁってもう〜!!大剣担いでゆっくり近づくの止めてよぉ〜!!マジでマジでほんとにごめんって!!
はー、怒ったら鈴玉狩りになるの心臓に悪いんだから……」
「すまない、冗談のつもりだった……」
「冗談下手クソだな!ガッハッハッ!」
「群れのヒナが挙式を上げるかと一瞬高揚してしまった…私もまだまだ未熟ですね。」
「……追跡者さん、守護者さん。増援抑えててくれてありがとうございました。背中を任せるなら2人が1番安心できます!」
「…見事、です。――。よくぞこの魔王を打ち倒しました……しかし戦いはまだ終わってないです、よ!」
「まさか、まだやるってのか!?」
「…そういう雰囲気じゃ無さそう?」
「戦いの…いえ、経験値がいっぱい貰えるクエストの最後にあるものを…忘れてはいませんよね?――!」
「!!そうだね、一緒に言おう!アリスちゃん!」
「はい!せーの、」
「「パンパカパーン!【勇者】レベルが上がりました!」」
「さあ、――!次は報酬リザルトです!」
「うん!」
「コホン―蛮勇極まる罪人は、果たして勇敢なる勇者へとなった。資格を得た!」
学徒は 小さなメイド服 を 手に入れた!
「アリスちゃんのゲームガール…と、ナニコレ?」
「あの日の事、思い出したんです……学徒は一緒にメイド服を着てくれなかったと!」
「い、いやーでもこれはちょっと私には小さいかなって…」
「それは…先生!消える前に力を貸してください!」
''―――もう終わってるよ!サイズもピッタリにしたし着心地も良いはず!''
「キッショ、なんで(成長したのにサイズ)分かるんだよ…」
ピッタリなメイド服 を 手に入れた!
''どんなに成長していても、例え私が幻影でも。先生は生徒の事はちゃんと分かってるからね。''
「キッs…キッキッキッ!」
「先生!――も喜んでくれてますね!」
''――――――最後の力を振り絞ったから、先に還るね。メイド服の――に踏んでもらいた―――''
何かをほざいている途中に力が底を尽き、白いモヤとなって変態は空へ消えていった……。
「うわぁ……」
「先生なら生徒のことは分かる、ね……学徒はいい教師を持ちましたね、先生。」
「そうだね、騎士さん。」
「………。」
「ガハハハ!中々面白い男だ!」
「やつはきっと足を舐めたことがあるんだろうな。そういう雰囲気だった。」
「…学徒も誰かの足を舐めたことがあるのかしら?」
「あの幻影喋れたのか。もしかしたらヘレン、お前たちも…?」
「……アリスも、そろそろ時間ですね。」
「アリスちゃん……」
「新たなる勇者たちよ、あらゆる全てを呑みこみ押し流す厄災に屈することなく進み続けたまえ!君たちの冒険はこれからだ!」
「それ打ち切り漫画のやつじゃん!」
「ふふっ、――!後はよろしくお願いします!前代勇者はこれにてお役御免です。モモイたちとゲームをして、――達のステージクリアを見守っていますね!」
「うん!待ってて、良い知らせを持っていくから!」
「(ふっ)ではまたお会いしましょう!」
そう言ったアリスは電源が切れたように崩れ落ち、青いモヤとなって空へ消えていった。
「…雨が引いていく。」
「これで次のエリアに進めるってこったな。」
「学徒、アビドスでくすねた写真とさっきの機械、無くすなよ?」
「当たり前じゃん!大事なものは、ちゃんとお気に入り登録してポケットにしまうのが勇者の嗜みだからね!」
そう言って懐から取り出した写真とゲームガールをシッテムの箱に押し付け、収納した。アイテム欄には黄色いピンが刺さっている写真のアイコンとゲームガールのアイコンが並んだ。
「あ、レベルアップしたから新機能追加されてる!!」
To Be Continued……
次回―『Day.2』