『ゴルド
「…………はぁ」
今世の王、ルールー・ゴルド(10歳)は本来ならば笑顔の絶えないハズの宮殿ガーデンテラスにて、伏すような溜息を吐いた。
その理由はただ一つ、生まれてから側に居た王族護衛たるスメラギが“オタッシャデ!”と言う手紙を一つ残して姿を消したからだ。
ルールーはガーデンテラスの青草の上で、仰向けになりながらも月明かりを遮る様にその手紙を広げる。
オタッシャデ! の文字が深く心に突き刺さる。
「オタッシャデ……スメラギ……なんで急に……」
ルールーにとってすれば、スメラギは先生であり師であり兄のような存在だった。
生まれてから側にいる事が当然だったファミリー。元は父の護衛に就いていたが、父が病に伏し謎の白い炎による焼身自殺をした事で王位の移動と共にルールーの護衛に移ったのだ。
何かと不安になるダイジン達の視線であるがスメラギが側に居るだけで堂々と振る舞えて来た。そこで突然の別れである! カナシイ!
「余には……スメラギが必要なのに……」
「失礼します!」
すると、ガーデンテラスに来訪者。その声にルールーは身体を起こす。
「ドーモ! ルールー=サン。スカイハンターです!」
両手を合わせて丁寧にお辞儀をするスカイハンターにルールーも思い出した様に止まると同じ様に両手を合わせる。
「どーも。スカイハンター=サン。ルールー・ゴルドです」
アイサツは相手のランクが自分よりも下であっても関係ない。
ワビサビの心は絶対。そして、王族こそが丁寧かつ模範となる必要があると言うのがスメラギによる最初の教えだ。
「スカイハンター=サン! スメラギは見つかったの!?」
そう、ルールーはスカイハンターにスメラギの捜索を頼んでいたのだ。
大海原のマグロめいて自在に空を舞い、千里先の夜闇まで見通せるスカイハンターならば容易くスメラギを見つけられると思っての人選だ。カシコイ!
「陛下……残念ながら」
しかし、スカイハンターの回答は良いモノではない。彼は首を横に振る。
「スメラギ=サンは首都から出ていると思われます。明日、国内のモータルへ一斉告知し、行方を捜しましょう」
「そう……うん。わかった。スカイハンター=サン、ありがと」
「今日はお休みになられると宜しいかと」
スカイハンターが目配せすると、女給がルールーを連れて共にガーデンテラスより離れる。
「…………モータル・キング如き、スメラギ=サンが入れ込んでいなければマケグミである事に気づかぬとは」
ネコカブリ! 先ほどの下手が一変、ルールーを見送るスカイハンターの視線は敬意の欠片もないモノへ変貌する。
そう、ゴルドの王族は一種のスケープゴートなのだ。外国との摩擦を一身に押し付ける為のカクレミノに過ぎない。
シャクラカンによる実力主義こそが、ゴルドに深く根付いている思想であり、ルールーはまだその裏側を知る事はない。
つまり、力のないモータルの言葉など、スカイハンターからすれば戯言であり、スメラギの捜索も適当に時間を潰してきただけだった。ヒドイ!
「随分とヒドイことするわね」
すると、柱の影から嘲笑が聞こえる。
「……ドーモ、ストリングドール=サン」
「ドーモ、スカイハンター=サン」
現れたのは2メートルを超える『機人』の肩に乗るオトメだ。年齢的にはルールーと変わらない外見をしているが、人体改造によって気に入った若い肉体に己の脳を移すと言う異端の『シックス・ナイツ』なのである!
「陛下には、ちゃんとキャンディをあげないと。後が面倒よ〜?」
「ふん。間もなくシャクラカン=サンが全てをギュウジルのだ。モータルの世話などスメラギ=サンに任せれば良い」
宮殿内部へ入るスカイハンター。その後にストリングドールも続く。
「シャクラカン=サンは間もなく目覚める。次はどんなインストラクションを授けてくれるのでしょうね」
「どの様なモノでも今より弱くなる事はあるまい」
コンベアめいた絨毯を踏みしめ、己らが真の主であるシャクラカンが眠る王の間へ足を踏み入れた。
そこには、既に二人の『シックス・ナイツ』が存在している。
「ドーモ、スカイハンター=サン、ストリングドール=サン。デリートランサーです」
鎧兜にて全身を覆う男がスカイハンターとストリングドールへアイサツを行う。
「ドーモ、デリートランサー=サン。スカイハンターです」
「ドーモ、ふふ。ストリングドールです」
そして――
「ドーモ……グランドブレイカーです」
それは武器を持たず、マフラーで口元を隠した男。
そのアイサツはニギリメシ職人が如く、空間を圧縮する様な気迫を感じさせる。
もし、モータルがこの場に入れば、ソレだけで失禁しリアリティショックを起こすだろう。
「ドーモ……」
「ドーモ」
格の違い。ソレを嫌という程感じさせる『シックス・ナイツ』最強の男グランドブレイカーはそれ以上は何も言うことなく、興味を失った様にセイザする。
「? ブレイジングヒート=サンとサンダーエフェクト=サンは?」
「ブレイジングヒート=サンは『オベリスク』へ支援物資を届けに行き、『ゴースト』に絡まれたらしい」
「サイナンだな」
「サンダーエフェクト=サンは?」
「テスラコーボーだ。不運な事にヤグラ当番なのでな」
ヤグラ当番とは、見張りの事だ。テスラコーボーの地下3階より下には実験体が多く存在し、ソレを抑え込む実力者として『シックス・ナイツ』からもローテーションでシャチクさせられるのである。
「サンダーエフェクト=サンはまだ、シャクラカン=サンの恩恵を受け取って無いのにねぇ」
クスクスとストリングドールが笑う。
「仕方あるまい。ヤツはどちらかと言うと、スメラギ=サン寄りなトコもある。体術など、シャクラカン=サンの恩恵を得ればカミクズ同然だと言うのに」
「彼もマケグミかしら?」
「少なくともカチグミでは無いだろう」
『シックス・ナイツ』の間でも温度差はある。彼は仲間ではない。ただ一人の王――シャクラカンを崇拝する為だけに存在しているのだ。
「…………」
すると、グランドブレイカーがゆっくりとセイザから立ち上がる。
「グランドブレイカー=サン?」
次の瞬間、強大なアトモスフィアが空間を瞬く間に支配する。
その根源はグランドブレイカーの視線の先――おお、何と言う事だ……王座に座るように眠るシャクラカンからではないか。
その様はまるでシテイ席めいた風体はこの国の主であると言わんばかりのアトモスフィア。
『シックス・ナイツ』は自然と王座の前に頭を垂れると、そのタイミングで月明かりの影に隠れたシャクラカンの眼がゆっくりと開く。
「オハヨウゴザイマス!」
「オハヨウゴザイマス!」
「オハヨウゴザイマス!」
「オハヨウゴザイマス!」
四人は精一杯の誠意を見せる様に声を張り上げる。顔を上げられない。それ程にシャクラカンとは彼らにとって絶対的な存在なのだ! コワイ!
「……………………ああ。オハヨゴザイマス」
シャクラカンは、首をコキコキと鳴らす様に動かすと立ち上がる。そして、スッ……と両手を合わせてお辞儀。
「ドーモ、グランドブレイカー=サン、デリートランサー=サン、スカイハンター=サン、ストリングドール=サン、【覇王】シャクラカンです」
息苦しくなる様なアトモスフィアがそのアイサツで和らいだ。そして、
「……スメラギ=サンは来てないのか? ブレイジングヒート=サンとサンダーエフェクト=サンは?」