インフィニット・ストラトス―空を駆ける渡鴉― 作:D-ケンタ
宇宙空間に浮かぶ衛星。その上で、2機の機体が対峙していた。
『俺は、てめえが妬ましかった……』
ノイズ混じりの男の声が聞こえる。
大型の機体の各所が爆発し、パーツが破損しつつも、残った右腕のブレードを発生させ斬り掛かってくる相手に対し、対峙するやや小柄な機体―
刹那。ほぼ同時にブレードを振るったが、ダメージによる動きの鈍りか、それともサイズ差による機動力の違いか、僅かにACの方が早くブレードで斬り裂いた。
それによるものか、はたまた既に限界だったのか、大型の機体は更に爆発を起こし、機体が損壊していく。
『イラつくぜ…野良犬に…憧れたんだ……!!』
漏れ出たその言葉は、彼の本音か……。その台詞を最後に、機体は一際大きな爆発と光を発し、まるで何かが抜け落ちたかのように、力無く宙を漂い始めた。
『我々の…計画が…』
もはや戦う力を無くした機体から、先程とは違う、女性の声が発せられる。
そして、漂よう機体の目線が、対峙していたACへとゆっくりと向けられた。
『人類と生命の…可能性が…』
《…そのトリガーは》
愕然とした様子のその声の主に対し、その様子を見ていたACから答えるように女性の声が発せられた。
《私たちが、代わりに引きます》
告げられたその言葉に何か返すこともなく、先程の声の主もろとも事切れたことを示すように、その機体から完全に光が失われた。
戦いを制したACの視線が、遠く離れた宇宙空間に浮かぶ巨大な建造物へと向けられる。
あるエネルギー物質を吸い上げるために建造されたソレは、赤い光を発しながら内側へと押し潰されていった。
圧力に空間が次第に歪んでいき、突如建造物が飲み込まれたかのように消失したその直後、とてつもない現象が起こった。
まるでブラックホールか。ソレが発生させた赤い奔流に襲われても、そのACは動かなかった。
《…コーラルリリースが始まります》
コーラルリリース。目の前で起こっている現象について語るその声色はどこか、嬉色を含んでいるように感じられた。
《美しいと…思いませんか?》
『…ああ』
彼女の問いかけに答え、ACのコックピットに座る男性が短く言葉を発する。
『そうだな、エア』
声の主を「エア」と呼んだ男性。彼は機体のカメラ越しに目の前の現象を見つめながら、女性に同意する言葉を零した。
次第に光が強くなっていき、彼は自分の意識が赤い奔流に呑まれていくのを感じていた。然しそんな状況でも、彼の表情に動揺や焦りはない。
《ありがとう…レイヴン》
彼―レイヴンと呼ばれた男は、一瞬コックピットの何も無い空間に視線を向け、そのまま目を閉じた―――。
◇
辺り一面が水で覆われたある惑星にて、レイヴンは目覚めた。
《…目覚めたのですね、レイヴン》
自身を呼ぶ彼女の声によって、レイヴンは意識を完全に覚醒させる。それと同時に一機のACが起動し、水底に横たえていた身体を立ち上がらせた。
《コーラルは私たちを乗せ…星々に伝播しました》
見上げると、透き通るような青い空に無数の赤い光が灯っている。
見渡せば、周囲には多数のACが存在しており、その全てにも同じような赤い光が宿っていた。
《だから、そう》
無数のACたちが立ち上がる。それらを見渡しながら、レイヴンは彼女の語りかける声に耳を傾ける。
《私たちはもう…いつでも、どこにでもいる》
エアのその言葉に、レイヴンは再び
《レイヴン》
エアが彼を呼ぶ。レイヴンは静かに佇みながら、彼女の声に耳を傾けていた。
《ともに、新たな時代を》
彼女が言う新たな時代…
その始まりを告げる彼女の言葉を聞き、機体のメインカメラが一際強く輝いた。
《メインシステム、戦闘モード起動》