インフィニット・ストラトス―空を駆ける渡鴉―   作:D-ケンタ

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第三話 交渉

遅れてきたクラスメイトの彼―レイヴンの自己紹介が終わったあと、教室内は異様な空気に包まれていた。

そんな状況で、千冬は咳払いを一つしてからレイヴンに向けて話しかける。

 

「あー…色々訊きたいことはあるだろうが、授業が終わってからにしろ。レイヴン、お前の席は窓際の空いている席だ。早く座れ」

『了解した』

 

千冬の命令に短く返答し、レイヴンは指定された席へと向かう。

その足取りはどこかぎこちないようにみえる。

 

(…あれ?)

 

ふと、レイヴンが通り過ぎたときに何人かの生徒が違和感を感じた。何か金属が擦れるような音が聞こえた気がしたのだ。

しかし、その音は微かに聞こえた程度の音量だったため、違和感を感じた生徒全員が気の所為だと思い、それ以上は考えなかった。

そして、レイヴンが席についたのを確認すると、千冬は真耶へと目配せし、授業を再開させる。

 

「はい。では先程の続きからですが―――」

 

いまだ生徒たちは動揺したままだが、ひとまず授業に集中するためか、ノートを取る音がそこらから聞こえてくる。

レイヴンは座った姿勢から微動だにせず、真耶が教科書の内容を解説するのを、ただジッと見つめていた。

その様子を見て、千冬はレイヴンたちと初めて遭った日のことを思い返していた。

 

 

入学式の数日前。第二アリーナでは異常な光景が広がっていた。

警報を聞き駆けつけた千冬と真耶がアリーナに閉じ込められ、目の前にはなぞの巨大ロボット、突如聴こえてくる謎の声。更に、突然動き出したロボットに誘われコックピットに乗り込むと更に別の人物の声が聴こえてきたこの状況に、流石の千冬も動揺を隠せない。

 

(この声の主がこの機体の所有者か?しかしこんなものを造り、学園のセキュリティをハッキングできる企業はおろか、国なぞ想像もつかん。こんな事ができるのは()()()ぐらいしか…)

 

冷や汗を流す千冬の脳裏にある友人の事が思い浮かぶが、その可能性はありえないと断じた。

 

(いや、アイツならこんな回りくどいことはしないか)

『話を進めたいのですが、よろしいですか?』

 

思考を巡らせている状態の千冬に、スピーカーから先ほどエアと名乗った女性の声が話しかける。

 

「…いいだろう。だがまずこちらの質問に答えてもらう」

『あまり時間を無駄にはしたくないのですが…仕方ありませんね』

 

エアの呆れた様な言い方に若干苛立ちつつも、千冬は最初の質問を投げかけた。

 

「まず、お前たちは何者だ?」

『…?先程名乗ったと思いますが』

「…質問を変えよう。貴様らの所属は?どうやってこの学園に侵入した」

 

その質問に、エアはしばし考え込むように無言になる。

 

『まず1つ目についてですが、私たちはどこにも所属していません』

「本当か?この様な芸当ができる人物を放置するとは思えないが」

『本当です。さらに言えば、私たちはこの惑星の住人ではありません』

「……は?」

 

さらっと告げられたその台詞に、流石の千冬も一瞬思考を停止させてしまった。

 

『私たちはこの星系外にある惑星、ルビコンから来ました。なので、この惑星のどの組織にも属していません』

「…その言い方、まるでお前達は宇宙人だと言っているように聞こえるが?」

 

エアの話を聞いて、千冬が問いかける。

 

『…宇宙人という表現は、正しくありませんね。この惑星以外の出身という意味ならそうなりますが』

「…それが真実だという証拠は?」

 

冷静に発言の真偽を問う千冬。確かに、いきなり地球外惑星から来たと言われても、そう簡単に信じられるはずがない。

 

『それでしたら、あなたが今搭乗しているその機体が証拠だと思いますが』

「確かに、こんな巨大な人型ロボットは見たことがないが…」

 

エアの発言に、千冬は改めて自分が乗り込んでいる物について考える。

 

「質問だが、何故この機体を無人でここに放置している?」

『?質問の意図がわかりません』

「先ほど私をここまで運んだことから、誰かが乗っていると思っていた。しかし実際は誰も乗っていない。遠隔操作だとしても、この機体だけを放置する意味がわからん」

 

千冬の言う事は正論だ。こんな物、恐らく内部は機密情報の塊だろう。

それを無人でアリーナに放置し、千冬をコックピットに招き入れたことが、彼女は気になった。

 

『遠隔操作というのは正しくありません。今の私たちは、コーラルの影響を受けている機体なら動かすことができます。この機体も大気中のコーラルを取り込んでいますので』

「それはどういう……いやまて」

 

エアの説明を聞いた千冬は顎に手を当てて少し考え込むと、再びエアに問いかける。

 

「お前の言ったコーラルとは、数ヶ月前に確認された物質のことか?」

 

真剣な表情で千冬がそう問いかけると、エアは若干の間をおいてから返した。

 

『この惑星では、コーラルについて研究は進んでいないのですか?』

「…ああ。分かっていることといえば増殖することぐらいだ」

 

エアの呆れたような言い方に眉を歪めながらも、千冬は冷静に肯定の言葉を返す。

 

『はぁ…であればまずコーラルの特性ついて簡単に説明する必要がありますね』

 

思い掛けず件の物質―コーラルについて知れる機会が訪れたことに、千冬は無意識に息を呑む。

 

『コーラルには、優れた情報導体としての特性があります。それにより、私たちは電子機器やコーラルの影響を受けた機体ならコントロールすることができます』

 

エアの説明を、千冬は真剣な表情で聞き入っている。真偽は定かではないが、目の前に証拠がいる以上、疑う余地はない。

 

『既にこの惑星の大気中にもコーラルが充満しつつあります。その気になれば、あなたのご友人である篠ノ之束の所在も掴むことも可能です』

「そんなことまでできるのか!?」

 

篠ノ之束といえば、ISの生みの親であり現在世界中から逃亡中で、どこの国も所在をつかめていない人物である。その所在を掴めると、まるでなんてことないかのようにエアは言い放ったのだ。驚くのも無理はない。

 

「つまりお前たちは、そのコーラルの特性を利用し、学園にアクセスしてきたということか」

『理解が早くて助かります』

「それで、お前たちは私たちに何を要求するつもりだ?」

『それは彼が説明します。レイヴン』

 

エアがそう言うと、少しのノイズのあと、先ほどの男性の声がコックピット内に響く

 

『…レイヴンだ。エアも言っていたが、君たちにお願いがある』

「…何だ」

 

その声はエアと同じく合成音声のようだが、その声質は男性のものであった。

一体何を要求するのか、千冬は息を呑む。

 

『学生生活とやらを体験させてほしい』

「……は?」

 

レイヴンから告げられたお願いの内容に、千冬はつい呆気にとられてしまう。

 

「ま、待て待て!学生生活を体験?本気で言っているのか」

『ああ』

 

千冬が疑うのも無理はない。相手はIS学園のセキュリティを掌握できる程のハッキング技術を持つ。そんな相手の要求が学生生活を送ることなど、怪しいと言わざるを得ない。

 

「り、理由を聞いてもいいか?」

『俺たちは、ある事情から普通とは言い難い生活を送ってきた。自由になった今、普通の生活というのを送ってみようと思った』

 

千冬の問いかけに、レイヴンは言い淀むことなく答えた。

 

「…その事情というのは?」

『教えてもいいが長くなってしまう。次の機会に話そう』

「…分かった。だがまず、お前たちの姿を見せてもらえないか?要求を呑むかは、それからだ」

 

千冬がそう告げると、レイヴンは考え込んでいるのか黙りこんだ。こころなしか、困っているように感じる。

 

『…すまないが、姿を見せることは出来ない』

「それは何故だ?」

『俺はもう、生身の肉体を持っていない。当然、エアもだ』

 

何でもないように告げられたレイヴンのその言葉に、千冬は一瞬理解できず、呆気にとられて目を丸くさせるのみであった。

 

『コーラルリリースの際に俺は肉体を失い、意識だけがコーラルに溶け込むことで残っている。故に、この機体が今の俺の身体だ』

 

説明するレイヴンの言葉は、今の彼女には届いてはいなかった。

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