インフィニット・ストラトス―空を駆ける渡鴉―   作:D-ケンタ

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第四話 入学

レイヴンのとんでも発言を受け思考を停止してた二人だったが、気を戻した千冬は慌てながらもレイヴンへと問いかける。

 

「ま、待て!肉体がないだと…流石にそんなの信じられん!」

『事実だ』

 

困惑しながらも問い詰めてくる千冬に、レイヴンは一言で返す。

バッサリとした言い方に千冬は続く言葉をつまらせてしまう。

 

「…言葉だけでは信じられない。まだ遠隔で操作していると言われた方が信憑性がある。何か証拠はないのか」

『提示できるようなものはない。俺自身、リリースの結果この様になるとは思いもしなかったからな』

 

感情の感じられない音声で、レイヴンは千冬にそう返答する。

 

「百歩譲ってそのことを信じたとして、肉体がないのにどうやって学園生活を送るつもりだ?お前たちの要求は矛盾しているぞ」

『それに関しては、問題ありません』

 

千冬の言うことも最もだ。肉体がないのに学園生活を送りたいなどと、いくらなんでも無理が過ぎる。

しかし、エアは千冬のその疑問に問題ないと言っている。

 

「エア、だったか。何か手段があるのか?」

『はい。この惑星の機動兵器―――ISといいましたか。これの量子変換機能に手を加えて、レイヴンの身体を再構築します』

「そんな事ができるのか!?」

『はい。この惑星にも、コーラルが満ちています。既にシステムは掌握済みですので、問題ありません。レイヴン』

 

鳩が豆鉄砲を受けたように信じられないといった表情を浮かべるを千冬をよそに、エアがレイヴンに呼びかけると、コックピットの外から轟音が聞こえた。

 

「な、なんだ!?」

 

咄嗟にコックピットの外に身を乗り出すと、外には驚愕した表情で尻餅をつく真耶と、彼女の目の前に立つ()()()I()S()の姿が目に入った。

 

「せ、せんぱ〜い……」

「山田くん!貴様ら、何をするつもりだ!?」

『危害を加えるつもりはありません。実際にレイヴンの身体を構築するのをお見せするだけです』

 

憤慨する千冬とは真逆に、エアは無感情と言えるほど冷静に言い放つ。

それを聞いた千冬は不信感を抱きつつもコックピットから飛び降りると真耶とISの間に降り立つ。

ISはラファール。学園でも学生の練習用にと採用されている量産機だ。

しかしそれが今、無人の状態で動いている。

 

『では、始めます』

 

エアがそう言うとラファールが量子分解されていく。ISが待機状態に戻るお馴染みの光景だが、普段とは違う赤い光を放っている様子に千冬たちは目を見開いた。

更に、いつまで経っても待機状態にはならず、量子はその場に漂い、次第に何かの形にまとまっていく。

そして突如一際強い光を放ち、様子を見ていた千冬たちは咄嗟に目を覆う。

光が収まり、再び彼女たちが視線を向けた先には、漂う量子でもISでもなく、人の姿をした()()()が立っていた。

 

「な…なん、だと…!?」

「そ、そんな…!?」

 

流石の二人も驚愕で、言葉を失ってしまっている。目の前の人型はそんな彼女たちを気に留めず、視線を動かして自分の身体を確認していた。

 

『どうですか?レイヴン。素材不足のため十分とはいえませんが、以前のあなたの体を再現しました』

『問題はない。ありがとう、エア』

 

ぎこちない動きで腕を動かして動作を確認していた人型は視線を千冬たちへと向ける。

 

『これで問題はありませんね』

「え?あ、ああ…そう、だな…」

『では、私たちの要求を受けてくれますね?』

 

思考がいまいちまとまらない千冬だったが、エアがそう問いかけたことで少し落ち着きを取り戻し、どう返すか思考を巡らす。

 

「…すまないが、私の一存では決められない。学園長に話を通さねばならんから、返答は後日でも構わないか?」

『…どうしますか、レイヴン』

『仕方ない。分かった。明日、タイミングを見て呼び出す』

「いや、呼び出しは不要だ。こちらから出向こう」

『そうか、分かった』

 

またあのようなことをされては心臓に悪いと、千冬が先手を打ったが、意外にもレイヴンはあっさりと了承した。

 

『それでは、扉のロックを解除します。また明日、お待ちしてます』

 

エアの言葉通り、アリーナの出入り口のロックが外れる音がし、扉が自動で開く。

そのまま千冬たちはアリーナから出ていくが、レイヴンたちは何をするでもなく、それをただ見送っていた。

 

 

翌日、千冬たちは再びアリーナへと足を運んでいた。しかし昨日と違うのは、二人の他に初老の男性が一人、一緒であったことだ。

 

「しかし、にわかには信じられませんね。いえ、織斑先生たちを疑っているわけではないのですが」

「大丈夫です。私自身、昨日のことは夢だと思いたいくらいですから」

 

扉のロックを解除し、三人はアリーナの中へと入っていく。中に入るとあの巨大ロボットが目に入り初老の男性は驚く。そして視線を下げると、昨日と同じ位置に()が立っているのが確認できた。

 

『…来たか』

『時間通りですね』

 

アリーナに響く男女の声。同時に彼の身体が起動し、その眼に赤い光が灯る。

 

「はじめまして。私は」

『轡木十蔵。ここIS学園の学園長ですね』

「…ご存知でしたか。ではあなた達が…」

『はい。私は、ルビコニアンのエア。こちらがレイヴンです』

 

名を呼ばれたレイヴンは挨拶しているつもりなのか首を縦に振る。

 

「織斑先生たちから話は聞いています。学園に入学したいというのは、本当ですか?」

『ええ』

 

端的に肯定したエアに、十蔵は眉をひそめ一つ咳払いをしてからさらに告げる。

 

「…正直、あなた方のような得体のしれない存在を学園に入れるということは承服しかねます。ですが、そちらにも事情があるとか…よければ聞かせてはもらえませんか」

『…そうですね。レイヴン』

 

エアの呼びかけにレイヴンはコクリと頷く。それと同時に千冬たちの所持している端末が何かを受信した通知音を鳴らす。

取り出して確認してみると、何かの資料が転送されていた。

 

「これは…」

『それは、ACなどの兵器やコーラル由来の技術について簡単にまとめたものです。他にも、レイヴンのルビコンでの活動記録なども記載してあります』

 

詳細を聞き慌てて資料を開く。読み進めるとそこには目を疑うような内容が記されていた。

 

「恒星間航行技術に、太陽系外惑星ルビコン3…」

「まるでSF映画を見ているようだ…ここに地球と書いてあるが」

『レイヴンが元いた惑星です。あなたたちのいるこの惑星とは同名の別惑星と認識してください』

 

さらりと回答するが、もう一つの地球が存在するなぞ衝撃の事実である。

しかし、あまりにさらっと言っていたため、それ以上追及はできず再び資料へと目を落とす。

 

「人型機動兵器アーマード・コア…まるで巨大なISですね。あれ?これは…!」

 

突然、資料を読んでいた真耶の手が止まる。何事かと千冬たちが注目すると、真耶は資料のあるページを彼女たちへと提示した。

 

「これを見てください!」

「…これは?」

「…強化人間、だと」

 

そのページには、コーラルを用いた手術により、ACの操縦に最適化した人間を作り出す技術について記載されていた。

その内容は、あまりにも筆舌に尽くしがたい。

 

「脳を開きコーラルを深部に…なんという…」

「人権無視も甚だしい。まるで人を物のように…まさか!?」

 

皆が視線をレイヴンへと移す。彼は彼女たちの想像を肯定するように、表情を一切変えないまま首を縦に振る。

 

『そうだ。強化人間C4-621。それが、俺の本来の名前だ』

 

名前というのもおこがましい、まるで製品の型番のようなものを自分の名前だと、彼は彼女たちへ告げる。

 

「そんな…何でそんなことを…」

『切っ掛けなど覚えていない。大した理由ではないだろう』

 

サラリと言い放つレイヴンに、真耶は言葉を詰まらせてしまう。

 

『旧式の強化人間だった俺は、保存こそされていたが廃棄処分を待つだけの存在だった。だが、あの人が俺を拾ってくれた』

「あの人…?」

 

誰からの質問なのか。その問いにレイヴンは無表情ながらも目を細める。その様子は、何かを懐かしんでいるようであった。

そして、視線を三人へと戻すと先程の質問に答える。

 

『俺の、飼い主(ハンドラー)だ。…「普通の人生を」…それがあの人が俺に残した、最後の願いだ』

「…だから、学園への入学を望むと?」

 

その問い掛けに、レイヴンは頷いて肯定した。

しばしの沈黙が流れる。

 

「あなた方の事情は分かりました。しかし、正直に申しましてあなたたちのような危険な存在を生徒たちに接触させることは、了承できかねます」

『…そうですか』

 

十蔵の返答に、エアは心なしか落胆したような声を出す。

しかし、十蔵の言葉には続きがあった。

 

「ですので、約束してください。この学園のルールに従い、そして生徒たちへ危害は加えないと」

『…!それでは』

 

エアがそう問うと、十蔵は驚愕する千冬たちへと頷いてから、さらに続ける。

 

「約束してくださるのなら、私はあなたがたを受け入れようと思います」

『レイヴン!』

『…ありがとう。約束は必ず守る』

 

一も二も無く二人は彼の条件を了承した。その様子に十蔵も笑みを浮かべ、右手を差し出す。

 

「それでは、これからよろしくお願いします。レイヴンさん、エアさん」

『…よろしく頼む』

 

そう言ってレイヴンは、まだ慣れていないのかぎこちない動きで十蔵の右手を握る。

これにて話し合いは終了し、アリーナの地下にレイヴンたちとACを移動すると、三人は彼らと別れその場をあとにした。

移動の途中、千冬が十蔵へと問いかける。

 

「学園長、よろしかったのですか?彼らを受け入れて」

「正直、不安要素はあります。ですが彼らがもし我々に危害を加えるつもりなら、こんな回りくどいことせずにとっくに行動しているでしょう」

 

「それに」と一言挟み、十蔵は二人に振り返ると更に告げた。

 

「彼の眼をみていると、彼に普通の人生を歩んでほしいと願った人の気持ちが、なんとなくですが分かった気がしましてね」

 

十蔵のその言葉に、千冬はフゥとため息を吐き、真耶は苦笑いを浮かべる。

そして三人は、レイヴンたちの手続き等のため、自身の職場へと戻っていった。

これにて、レイヴンたちの要求は無事に受け入れられ、レイヴンとエアは「普通の人生」の一歩を踏み出した。

初めての学園生活。初めて接するクラスメイト(一般人)。これから様々な壁が、レイヴンとエアを待ち受けるだろう。

そして時は、入学式の日へと進む。

 

『レイヴンだ。よろしく頼む』

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