「あーっ、アスカ先輩!」
「ん、リアか。昨日はありがとうな」
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」
「ところで、なにしに来たんだ?」
処理の終わった書類を放置してボーッとしていたら、昨日知り合ったリアが来た。福祉チームのメインルームになんの用だろう。
「訓練が終わってヒマなので、社内のパトロールしてました。アスカ先輩はなにしてたんですか?」
「そういえば懲戒チーム所属だったな。俺も観測ログの整理が終わって暇なとこだよ。せっかくだしついてっていいか?」
「え、こちらこそいいんですか! それなら、私の話し相手になってくださいよ」
一人で歩くのさみしかったんですよーと愚痴るリアに少し笑って、椅子から立ち上がる。どうやら、福祉チームの廊下も回るつもりらしい。
「一緒に来てくれてありがとうございます、懲戒チームって人数少なくて、お喋りに飢えてたんですよー」
「年中人手不足だってのはよく聞くよな。殉職数が多いからだろうけど、お前は死ぬなよ?」
「もちろんです! ……それに、アスカ先輩もですよ。昨日は大丈夫だったんですか?」
「うっ」
痛いところを突かれた。
「だ、大丈夫だよ。バレルには超怒られたけど。というか後ろで見てたよな?」
「あれっ、気づかれてました? ふふ、けっこう真面目に怒ってましたよね、バレル先輩。心配してくれて良い人じゃないですか」
「まあね……」
あんまり口には出さないけど、バレルにはけっこう感謝してる。俺の体質も、ちょくちょく気にかけてくれているし。
「あと、ギフトの方は大丈夫ですか? 昨日はちょっとしんどそうでしたけど」
ああ、と俺はかぶってる帽子のつばを触る。特に苦痛は流れこんでこない。
「それも大丈夫だと思う。昨日の洞察作業で十分慎重ランクが上がったから、もう侵蝕はしなさそう。……ああ、リアはそんなこと心配しなくても大丈夫だからな? これは俺の体質ってだけだから」
「あ、それは聞いてます。噂によると体質が珍しすぎて、アブノーマリティとしてアスカ先輩の報告書が書かれているとか……?」
「その噂は嘘だけど……というか、嘘だと思いたい」
アブノーマリティの影響を受けやすいアブノーマリティとか、どんな冗談だ。
そんな話をしながら歩いていると、ちょうど俺の実験室(別名:俺を実験する部屋)に通りかかった。
「まあでも、けっこうな頻度で収容室に入らされてるから、言えてるかな……。ほら、あれが俺の実験室」
「これが噂のアスカ先輩収容室ですか。ほんとにここで宴会してるんですね」
窓越しに転がってる酒の缶を見て、リアは謎の感心をしてる。またゴミ捨てずに帰ったなクロイー……。
「というか、誰かに宴会のこと聞いたのか?」
「クロイー先輩とおしゃべりする機会があって! アスカ先輩のことトラブルメーカーとか言ってましたよ」
「まあ間違ってないよな」
「でもー、朝会ったときにクロイー先輩に話しかけたら、ちょっと冷たかったんですよね」
「あいつ意外とオンオフしっかりしてるからなー」
クロイーはすぐ色んな人と仲良くなるけど、仕事中はけっこう塩対応される。
初日に命罪さんの作業してる俺を助けてくれたし、ちゃんと優しいやつではあるんだけど。
「あ、そうだ……」
リアがなにか言いかけたとき、廊下のスピーカーからノイズが出て、アナウンスが始まることを知らせた。
反射的にキョロキョロとスピーカーの場所を探す。だけどそれより先に、廊下の天井に異物を見つけた。
「アスカ先輩、あれって……とびら?」
そう、扉だ。素朴な木製の扉が、そんなとこにあるはずのない扉が、天井をくり抜くように地面と水平に存在していた。
『「ガチャリ」』
スピーカーと天井の扉から二重に音が聞こえて、扉が開いた。そして開いた扉から、なにか黒いものが落ちてくる。
それが何かは、アナウンスが教えてくれた。
『コントロールチームから全職員へ通達。試練が始まった。色は紺青。時は、黎明』
『赤錆の黎明』のあとは『紺青の黎明』か……知らない試練がポンポンと……!
「アスカ先輩、試練って……?」
「前の試練のときはいなかったんだっけ。ときどき出てくるアブノーマリティみたいなやつだよ。つまり、鎮圧対象だ」
「なるほど、懲戒チームの出番ですね!」
「黎明は一番弱い方だ……けど、ZAYIN装備の職員一人じゃ手に余るくらいには強い。警戒は怠るなよ」
俺たちとは逆の方向へ這って行く試練を見る。
扉から落ちてきた紺青の黎明は、ごみの塊だった。木片、ほこり、紙くずとかのゴミの集合体の手足が黒いゴミ袋から生えて、地面を這っている。
ゴミ袋の口は開いていて、廊下中にゴミを撒き散らしていた。それが通った後には、足の踏み場もないくらいのゴミが床に散らかっている。
「多分これ踏んだらデバフを食らうんだろうな。回りこんで攻撃するか」
「えっ、すごいアスカ先輩……! 慎重ランクが上がったって話はウソじゃなかったんですね!」
「失礼な。昨日が明らかに慎重じゃなかったみたいじゃないか」
「はい!」
冗談交じりに、俺たちは懺悔の剣を取り出しながら通路を走って、廊下の反対側に回りこむ。正面から試練と向かい合った。
「行くぞ」
「いつでも!」
俺は両手で、リアは片手で懺悔の剣を振り下ろす。
攻撃のたびにゴミ袋が裂かれていく。それと同時に、ゴミが舞って、身体にまとわりついた。
どうせゴミがくっついてくるなら回りこむ必要なかったか? それに、ゴミがついても、少なくとも鎮圧には支障なさそうだ。
そのまま二人で攻撃を続けていると、試練がゆっくりと腕を振り上げていた。
攻撃の前兆かもしれないと思った俺はすぐ後ろへ退く。だけどリアを見ると、夢中で攻撃を続けていた。
「リア、危な──」
「きゃっ!」
試練がゴミの腕を振り下ろして、リアがこっちへ弾き飛ばされる。いや、予想より強いな?
「だ、大丈夫か?」
「う……正直だいぶ痛いです」
「おーけい……ちょっと下がってろ」
一撃一撃が重いタイプか。まあ、即死がない分、赤錆の黎明よりかはマシだ。
前へ出て攻撃を続ける。ゴミ袋の裂け目が増えていくと、だんだん動きも鈍くなってきた。
「……斬る!」
最後に懺悔を大きく振り下ろすと、完全にその動きは止まった。はあ……倒せたみたいだけど、身体がゴミまみれだよ。
「リア、終わっ……」
後ろを振り向こうとしたら、試練の死体から爆発音が鳴って、大量のゴミが辺りにぶち撒けられた。
当然、俺の背中も更にゴミまみれになった。
「……たぞ」
「だ、大丈夫ですか? 目が死んでますよ……」
「大丈夫……そういや、試練が始まる前になにか言いかけてたけど、なんて言おうとしてたんだ?」
「あ! そうですね、えっと、私もその宴会、行ってもいいですか……?」
「ああ、良いと思うよ。ちょうど今日宴会あるからタイミングも良いし。あーでも、福祉チームのメンツしかいないから疎外感感じるかもしれないけど」
「それは気にしないので大丈夫です! いやー楽しみだなぁ」
その言葉に少し笑って、俺はメインルームに戻るリアについていこうとする。
あれ……。
「アスカ先輩、どうかしました?」
「いや、なんか……」
「あ、アスカここにいたんだ、探したよー。教育チームに頼んでね、キミに追加訓練を受けてもらうことに……」
廊下に入ってきたメイベルさんが、俺を、特に装備が見えなくなるくらいゴミまみれの背中を見て、半笑いになった。
「うわあ、こりゃひどい。紺青の黎明を鎮圧していたんだね」
「メイベルさん、これは……」
「そのゴミはつけばつくほど移動速度が下がるんだよ。まあ少し待てば消えるさ」
「えっ? じゃあアスカ先輩、今まったく動けないんですか?」
「……そうみたいだ」
「クックックッ、いんやぁ、久しぶりに見たな、ゴミまみれの新入り!」
「ご、ごめんなさい、アスカ先輩。でも……ふふっ」
メイベルさんは爆笑して、リアは申し訳なさそうに少し笑って、俺はため息をついた。
はあ、すこぶる不快な試練だった……。
試練のレイアウト大丈夫そうですか?
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かっこいい!
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大丈夫だよ
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ちょっと違和感あるかも
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バチバチに崩れている。