「ということで、アスカがEGOを着れるようになったこと、そして今日来てくれた懲戒チームのリアちゃんの入社を祝って! あとついでに明日から休日ってことを祝って、かんぱい!」
クロイーの音頭と同時に、実験室に硬質な音が何度か響いた。
俺も、同期二人と酒の缶をぶつける。
「いやあ、アスカもついにEGOを着れるようになったかぁ。おめでと!」
「ほんと大変だったもんなぁ……。いまもなんか疲れてそうだけど」
「教育チームでの訓練がキツくて……」
「『適性訓練』だっけ? 手早く価値観ランクを上げるための訓練らしいけど、なにするの?」
「いまは自制を鍛えてるから、延々書類作業させられてる……」
「なんだそれ。教育チームの仕事の代わりさせられてんじゃねえのか?」
「え? それって社則で禁止されてることじゃないですか……?」
「リアと同じようなことを教育チームの人も言ってたな。だから、なんの意味もない架空の書類の処理をさせられてるんだよ……」
「うわあ」
よくよく考えると、本来
これからやることになる正義上げの訓練が恐ろしくて仕方ない。空き時間で傷ついた壁に抑圧作業でもしておくか……。
「へ〜そんなにキツいんだね適性訓練。ボクらはやったことなかったから知らなかったや」
「教育チームとそんな話をしていたんですね、メイベルちゃん。この前の会議ですか?」
「ああ。ギフトもらうたびに侵蝕してたらアスカも大変だろうから。抽出チームによれば、ギフトの侵蝕性に危険度ランクは関係ないようだし、訓練が終わったらギフトの侵蝕は完全になくなるだろ」
そういうのは本人に先に確認してほしいもんだが……。
いや、助かる。助かるんだけどさ。
「というか、アスカ先輩最初は装備も着れなかったんですか……?」
「あっ、え、えーっとぉ……」
「はい」
「そうだよー」
「最初に侵蝕して暴れまわってたときはビックリしたよね。あのときはちゃんと観察できなかったから、もう一度見てみたいものだけど」
「……まあ、この人らの言う通りだよ」
チーフとクロイーとメイベルさんによる、あまりにも容赦のない肯定の嵐。先輩だってのにかっこつかないなぁ。
「へーっ、だから私と同じZAYIN装備なんですね」
「ぐっ……! そ、それはクロイーだってそうだから」
「えっ私? 言っとくけど私はもうHE装備なら着れるからね。アスカの体質とは違うんだよーだ」
「くそっ、俺と大してステータス変わらないだろうに……!」
「まあまあ、アスカくんもこのまま成長すればどんな装備も着れるでしょうから。そうですよね、メイベルちゃん?」
「えっ? いやー、どうだろう」
「『どうだろう』!?」
えっ、俺一生ZAYINしか着れない可能性あるのか? ロボトミーでそれは死を意味すると言って間違いないのだが。
「た、確かに、全部の装備の条件が他の人より高いなら、このままだとWAW装備の条件とかとんでもないことになるよなーとは思ってましたけど……」
「だねえ。いまのアスカのペースだと最高レベルのALEPH装備を着るなんて不可能だろうな。まだこの支部にそんな高等な装備はないけどさ」
だから、とメイベルさんは続ける。
「だからアスカは、EGOを抑え込めるようにならないとね。そんな能力を鍛えた先達はほとんどいなかったから、上手い訓練方法は提供できないけど」
「う……まあ、頑張りますよ」
「でもさ、もしその力が備わったのなら、キミは侵蝕と覚醒を同時に扱えるんだよ。つまり、EGOをより強く扱うことができるようになるだろうな。楽しみだね?」
「それは……悪くないなぁ」
俺は赤錆の黎明と戦ったときのことと、そして
とてもロマンのある話だ……。
俺がとてもかっこいい想像にニマニマしていると、リアと話してたクロイーが俺にも話しかけてきた。
「ねぇ、アスカってどんなアブノーマリティに作業してたんだっけ?」
「うん? 急にどうした? 」
「リアちゃんがこの支部のアブノーマリティについて知りたいんだって」
「俺もあんまり知らないから気になるなそれ。クロイーはどう答えたんだ?」
「えー、私は命罪に懺悔したりー、肖像蛇とおしゃべりしたりー、イタズラ小僧の悪戯で遊んだりー、雛鳥をなでたりしてるかな?」
多分愛着作業ばっかしてるなこいつ。
「命罪って『たった一つの命と何百もの罪』の略称? なにその呼び方」
「そうですー。アスカがこの呼び方してて」
「へぇー、なんで?」
「バ、バレルは? どんなアブノーマリティの作業をしたんだ?」
「あ? あー、そうだな……」
メイベルさんの視線を誤魔化すためにバレルに話を振る。
「俺は普通に……クロイーが言ったの以外なら、蝉時雨と榴弾の射手の作業をしたな。そんなに変なこともなかったけど、作業結果が悪いとヤバいらしい」
「えーっ!? ……あ、いや、なんでもないぞ。なんでもないってば」
榴弾の射手……多分、凶弾の射手みたいな亜種なんだろうな。いつか作業したいなあ。
……みんなの目線が痛いので別の話をする。
「あー、えっと、俺が作業してるのは……まず命罪さんだろ。命罪さんはそんなに警戒する必要ないな」
「あれ便利だよね。あそこに行くと昔のこと思い出せるからよく行ってる」
「変なことしてるなお前……。で、傷ついた壁……こいつはまだ精神力に自信がない時なら行かない方がいいと思う。身体中引っかいて死ぬ羽目になりたくなかったらな」
「なるほど……気をつけますね」
「あと、私たちの苦しみ……こいつはなんか変だったな。違和感というか……まだ分かってない性質があるのかもしれない。いま見れる管理情報だけが全部じゃないのかも」
「………」「……!」
なぜかニコニコしながら黙るメイベルさんと、ギクッとした顔のチーフ。
うん? なんだ?
「そ、それより! アスカくんは他にも、M-09-k95の観測業務をしていましたよね」
「あれっ、それってなんでしたっけ?」
「シリアルナンバーは欲の指輪のことだけど……リアも欲の指輪を使ったことあるのか?」
「あー欲の指輪か! そう、懲戒チームの業務で、欲の指輪を着けて一人で廊下に立たされるんですよ。それで脱走した雛鳥をおびきよせて、一人で鎮圧させられるんです」
「懲戒チームにはそんな業務があるのか」
「雛鳥の攻撃は意外と痛いからね。ボロボロの職員が不意打ちされるくらいなら、準備してる一人がおびき寄せたほうがいいってことだろう」
だからいままで欲の指輪で事故が起きてなかったのか……。欲の指輪着けてても、一人だったらパニックも起きないもんな。
「リアちゃんは懲戒チームでしたね。向こうのチームはどうですか?」
「仕事に真面目な人が多くて、みんなキリッとしてますね! それと、最近新しい作戦案が認可されたとかで、入社したときからちょっと慌ただしいです。……あと、訓練が厳しいかも」
「懲戒チームはそうだよね、お疲れ様。そっちの部門長は元気かい?」
「ハンターさんですか? 元気でしたよ! さっきはああ言いましたけど、ハンターさんは『最近平和だから、これくらいはヒマなもんだ』って言ってました」
「へえ、意外と暇なんだ。それならせっかくだし、今度三人で飲まないか、アナスタシア?」
「良いですね。ハンターくんが部門長になってからはこういうことも誘いづらかったですし……これからまたすぐ忙しくなるでしょうから、いまがチャンスです」
「えー、なんでこれから忙しくなるんですか?」
「あー、それは……」
その話の続きを聞いてたかったけど、クロイーに話を振られて、意識がそっちに移ってしまった。
「アスカ、ちょっとこっち」
「ん、なんだ?」
「同期だけででもお喋りしよーぜ、みたいな?」
「あー、はいはい」
クロイーがバンバンと椅子を叩くので、そこに座る。当たり前だがバレルも近くにいて、同期三人で部屋の隅っこに集まったことになる。
「ねえねえ、二人とも出身はどこ? 私はJ社の巣のさびれたところ」
「俺は……11区。裏路地の組織の長やってる」
11区はK社の裏路地だ。
「へー! もしかしてバレルって、意外と偉かったりー?」
「アスカにも言ったが、そうでもねえよ。そこまで大層な組織でもねえ」
「ふーん、アスカは?」
「俺もV社の裏路地……確か22区だっけ。そこで9級フィクサーやってた」
「フィクサー! へー意外……。いやでも納得感はあるかも?」
クロイーがうんうん頷くが、なにが意外でなにが納得感なんだ。
「というか、アスカとバレル、敵じゃん!」
「……」「……」
俺とバレルは顔を見合わせる。そういやフィクサーと組織ってどちらかといえば敵同士か……。
「んなの気にしたことねえよ」
「俺も。そもそも9級フィクサーが組織と敵対なんて無理無理」
「アハハッ! そっかあ〜」
ふと、俺はクロイーの顔をながめた。めちゃくちゃ赤くなっている。
こいつ……酔いすぎている!
「えーアスカぁ。そんなにジロジロ見ないでよぉ」
「おっと、スマン」
「へへへ。……みんななんとか、まだ生き残ってるねえ」
「……そうだな」
俺は重く頷いた。
「特にアスカ! 数日も経たずに死ぬんじゃないかと思ったもん。トラブルメーカーすぎ!」
「ほんと、なんとか生き残ったよな」
「バレルは順調に職員ランク上がって昇進してるって聞いたよぉ」
「最初から能力が高かったみたいだからな」
「えーそうなんだ! そういうこともあるんだねぇ。……ま、とりあえず!」
手元の空き缶を、クロイーは俺たちの缶にぶつけた。
「これからも、三人で! 生き残ろうぜ! 乾杯!」
「はっ、乾杯」
「そうだな、乾杯!」
ストックが尽きた!
頑張って書きます!