生粋のE.G.O.I.S.T   作:ペスト医師団

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しばらく書けなくてごめんなさい!


T-04-k06『君がどんな顔をするのか、知りたかったんだ』

 

「おはよー……」

 

「あ、おは……あれ? クロイー、それ……」

 

「ん? アスカ、クロイーがどうし…………あー」

 

「もう、そんなびっくりした目で見ないでよ二人とも……。アスカは昨日も見たでしょ、このギフト」

 

 俺とバレルが背中をじっと見ると、クロイーは恥ずかしそうに頬をかいた。

 

「あー、ギフトだったのか。昨日は寄生されてたせいで生えてたのかと……。というか、その見た目で家に帰ったのか?」

 

「それはお互い様でしょ、はあ……」

 

 いつもより遅くメインルームに来たクロイーに、福祉チームのみんなの視線が集中する。

 

 クロイーの背中には、セミの(はね)が片方だけついていた。生き急ぐセンチコガネのギフトみたいだ。

 

 それにしても、こんなにテンションの低いクロイーはかなり珍しい。

 

「そんなあのギフトが嫌なのか?」

 

「ギフトは外せないからなぁ……。バレルはまだギフト付けてないけど、会社の外でもずっとあの格好ってのはイヤだろ」

 

「あれがF-02-k49のギフトか……。背中に装着するギフトとは珍しい。情報チームに報告しなきゃだ」

 

「クーちゃん、気にしないでください。妖精みたいで似合ってますよ!」

 

「ナーちゃんチーフ……嬉しくない……。なんで私だけこんな目立つギフトを……」

 

 まあ、チーフはメガネ、メイベルさんはバッジのギフトだしなあ。

 

 俺は自分のギフトを見る。帽子、イバラ、手の傷。

 ……クロイーのアレよりは百倍マシだな。センチコガネには絶対作業しないでおこう……。

 

「そんな目で見るなぁ……!」

 

 クロイーの言葉に苦笑してると、業務開始のチャイムが鳴った。

 

 

 

 今日の観測業務はいつもより危険だ。

 

 なんでも、ここの収容室付近でけっこうな人数の職員が亡くなってるらしい。

 

 メイベルさん曰く『脱走反応と職員の不審死のタイミングが一致している』とのことだったので、脱走中のこのアブノーマリティに殺されたのは間違いないそうだけど。

 

 収容室にポツンと置かれてあったのは、おもちゃみたいな、子供向けの安っぽい絵が描かれた箱。

 

 見た目で分かるように、この箱はびっくり箱だ。

 つまり、開けてみると……。

 

「おわっ!」

 

 でかい顔が箱から飛び出てきた……身構えてたのにビックリしてしまった。

 

 いや、予想以上に顔が怖いんだよ、これ。青白い肌のピエロ……ひとむかし流行った、検索してはいけないページにありそうな感じ。

 

「……はは、今のはけっこうびっくりしたぞ」

 

 びっくり箱には特に表情も身じろぎもないけど、なんとなく俺の言葉に喜んでそうな感じがした。

 

 そういえば、いまやってるのは愛着作業だ。俺の能力だと愛着作業の成功率が一番高いようだから、観測業務ついでに能力のトレーニングをしてる。

 

 なんか、本社(ゲーム)で管理人として職員を育成してたときみたいな気分だな。

 

 そうやって別のことを考えていたからか、自分がアブノーマリティの管理作業をしていることを忘れていた。

 

「……ん、あれっ?」

 

 目の前にあったはずの箱が消えている。動いた気配なんてしなかったのに。……こいつが今まで脱走したときの記録と同じだ。

 

 俺はキョロキョロと収容室の中を見渡す。

 

 アブノーマリティが脱走したのなら安全チームに報告しないといけない。まさか最初の作業でだっそ……

 

『ギャァハハハハハハ!』

「うわあああああ!?」

 

 後ろから突然大きな笑い声が聞こえて、腰を抜かしてしまった。

 

「お、音? 声も出るのか……本ッ当にびっくりした……」

 

 後ろから驚かせてきたのは、やっぱりびっくり箱だった。とんでもなく驚いた俺にご満悦そう。

 

 これがこいつの能力か……。

 

 ……脱走時、こいつは施設の監視カメラを完全にすり抜けて、行方をくらます。

 

 その上痕跡を消した上で職員を殺してるから、どうしても脱走中の動きが分からないんだ。多分、本社(ゲーム)における肉の灯籠(クソ)と同じ類いだろう。

 

 今回の観測業務は、脱走中のこいつの様子を記録すること。

 

 こいつを脱走させるには、連続でこいつの作業をする必要があるんだが……。

 

 それにしてもクロイー、こいつの管理作業のことを『遊び』と言ってたか。こんなに気が休まらない作業もないのに。

 

 また箱がどっか行った……。

 

『グガァアア!』

 

「ぎゃあああ!!」

 

 

 

「あ! アスカ先輩!」

 

「や゛あ゛、ごん゛ばん゛わ゛リ゛ア゛」

 

「えっ声ヤバ。水飲んでくださいよ。ほらこれあげますから」

 

「……ありがとう。アブノーマリティの作業でビビって叫び散らかしてさ。あー喉枯れた」

 

「えー、アスカ先輩って意外と怖がりなんですか?」

 

「いや、そんなことは……そうかも」

 

 あんだけ驚かされてたら否定もできないな。

 

 まあ、前世でもドッキリ系のホラーによく驚いていたのは間違いない。だからこそホラーが好きだったんだけど。

 

「というか、もしかしてそれってびっくり箱のアブノーマリティですか? 収容室の外から見たことあります」

 

「合ってるけど……なんであいつだって分かったんだ?」

 

「そりゃ、ギフトの見た目がそれっぽかったからですよ。そこに置いてあるおもしろ眼鏡、ギフトですよね?」

 

「ああ、うん。そうなんだよな……」

 

 俺は長椅子の脇に置いた、完全にパーティーグッズのメガネを横目で見た。『今日、誕生日ですか?』みたいな感じのデザイン。

 

 もちろんめちゃくちゃダサい。

 

「付けたくないなぁ……」

 

「そういえば昨日一緒にお酒飲んだとき、アスカ先輩『ギフトは自分じゃ取れない』って言ってましたよね。そのメガネ、外したまま過ごせないんですか?」

 

「それ、俺も最初はできると思ってたんだけど……外したままだとなんか違和感がすごいんだよ。自然と付けたくなるというか」

 

 ほら、今もメガネを外したままだとムズムズする……。クソ、付けたくない、付けたくないのに。

 

 自然と、そのメガネに手が伸びる……。

 

「ふふっ、あ、アスカ先輩、その顔……」

 

「……なんだよ。文句あるのか」

 

 笑いをこらえるリアに、メガネをかけたままため息をつく。

 

 朝のクロイーに内心笑っていたバツがさっそく来たっていうのか? 俺もこんな目に遭うなんて。

 

 メイベルさんに、これと同じ部位のギフトをくれるアブノーマリティについて聞かないと。

 

 それはともかく、十分休憩できた俺は椅子から立ち上がる。

 

「はぁ、もう一回あいつの作業行ってくる」

 

「あ、私もついていって良いですか? アスカ先輩の作業見たいです!」

 

「はは、なんだそれ。いいけど」

 

「ありがとうございます!」

 

 でも、改めて人に作業を見られるってなるとちょっと緊張するかもな。先輩らしく、身を引きしめて作業しないと。

 

「そういえばアスカ先輩、これもいつもの観測業務なんですか?」

 

「そうそう。今日はわざとアブノーマリティを脱走させて、脱走中の姿を観察するって」

 

「え、HEのアブノーマリティを脱走させるんですか? 先輩もそんなにベテランじゃないのに……」

 

「うーん、これくらいはまだ危険じゃないってことなんだろうな。チーフも観測業務はやってるし」

 

「ふーん……それで、あのびっくり箱からも『声』は聞こえたんですか? そのギフトからも!」

 

「……やっぱ噂になってるよな、その話」

 

「だってスゴい話じゃないですか、アブノーマリティの『声』が聞こえるなんて! かっこいいですよ!」

 

 おお。目をキラキラさせるリアに俺は驚いて……笑った。

 

「…………リアは分かってくれるか、このカッコ良さが!」

 

「えっ、はい、そりゃ分かりますよ! 観測業務にも絶対役立ちますもんね! 超能力みたい!」

 

「そう、そうなんだよ。良いところもけっこうあるんだよこの『体質』。でも自分からそんなこと主張するのも恥ずかしいから、誰にも言えなかったんだよ〜」

 

 と語り終えてから、俺はいま、自分がまさにその恥ずかしいことをしていることに気づいた。

 

 はじめは呪いみたいに欠点ばかり見えてたこの体質も、だんだん良いところもあるってことがわかってきて、最近は正直、かなり浮ついた気持ちになってる。

 

 少し冷静になって、俺は咳払いした。

 

「……まあ、ギフトからは声が聞こえたよ。なんというか、こちらの反応をうかがうみたいな声だったな」

 

「へえー、アブノーマリティからは? どうでした?」

 

「あいつ自体からはあんまり声も聞こえなかったな。ただ、俺が驚いたとき、なんとなく嬉しそうにしてたのは分かった」

 

「驚かしたい……ってことですか? それだけのアブノーマリティなら無害なびっくり箱だと思いますけど」

 

「どうだか。アブノーマリティってのは極端だからなぁ。最初はただの無邪気さや善意でも、エスカレートしすぎて人を殺してしまうやつもいるし。あいつが職員を殺すのも……っと、着いたな」

 

 俺とリアは上層用のエレベーターにたどり着いた。

 

 W社製のこのエレベーターは、階層のボタンを押すことで、一瞬でその階のエレベーターホールにワープすることができる。

 

 流石にこのエレベーターで2000年過ごさせられることはないだろうと思いたいが。上層二階のボタンを押そうとして……俺は、懺悔の剣を取り出した!

 

「……リア!」

 

「えっ? ええええっ!?」

 

 俺はリアに体当りして、後ろから振るわれる爪から身体を逸らさせる。それと同時、懺悔を盾に爪を防いだ。

 

「……もう脱走してたのか」

 

 その爪の主は、とんでもなくデカい筋骨隆々のピエロだ。だけどそのピエロには足がない。俺はピエロの奥の箱に視線を向ける。

 

 びっくり箱のアブノーマリティは、デカいピエロの怪物をその箱から出していた。デカピエロはまた、腕を振りかぶって……。

 

 デカピエロによる爪の猛攻を防ぎながら、考える。

 

 こいつは足もないのにどうやってここまで移動してきた? 収容室内でも、この箱が移動している途中の動く姿を見たことがない。

 

 多分こいつにはテレポート能力がある。

 それなら、またどこかへ行ってしまう前にここで倒さないと。

 

 剣の握りに力をこめて、大上段から……

 

「振り下ろす!」

 

 予想以上に大きな音が鳴って、ピエロは衝撃にちょっと弾け飛んだ。

 

 そして拍子抜けなことに、直撃を食らったピエロはすぐ、風船がしぼむように縮みながらへたりこんだ。

 

 ピエロの残骸は箱の中に戻っていき、しかし箱も、どこかに消えていく。

 

 遅かったか。テレポートされたと思った俺は無線をつける。

 

「こちらK-1844。脱走中のT-04-k06と遭遇した。鎮圧を試みたが、倒す寸前のところでテレポートして姿を見失った」

 

『こちらコントロールチーム。了解した。収容室の確認を……ふむ』

 

 無線越しのコントロールチームのチーフは意味ありげに沈黙する。いや怖いって。俺はこの無線を続けたほうが良いのか?

 

『こちらコントロールチーム。失礼、収容室の確認をしたところ、T-04-k06はすでに安全に収容されているとのこと』

 

「えっ? あいつ帰ったの?」

 

『よってこちらは鎮圧が完了していたと判断する』

 

「……こちらK-1844。了解」

 

 今までも、職員を殺したあとは自分で帰っていたのだろうか。

 

 今回帰った理由は……多分、自分が攻撃される分には打たれ弱いんだろう。一瞬で職員を殺せる代わりに、耐性は紙のようだ。

 

 それで、見事脱走させたわけだが……まだ報告書を書くには足りないし、もう一度脱走させなきゃな…………憂鬱。

 

「うぅ……いたた……。アスカ先輩、庇ってくれたんですか……?」

 

「俺しかあいつに気づいてなかったから。あの爪に当たったらやばかったと思う」

 

「また助けられちゃいましたね、ありがとうございました」

 

 またって、紺青の黎明の日か。

 

「当然のことをしたまで、だろ? 最初はリアが俺を助けてくれたし、困ったときはお互い様だ」

 

「ふふっ、そうですね。……そういえば、どうして後ろにあのピエロがいるって気づいたんですか?」

 

「どうしてだろ。気配?」

 

「……すごいなぁ」

 

 リアのつぶやきに俺は、ドヤッと笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 昔のことだけど、君にたくさんイタズラしてた頃を覚えているかな。

 

 君は色んな顔をした。面白がったり、喜んだり、それとも、ただ単純に驚いたり。

 

 ときどき本当に嫌がった顔をしたときもあったよね。あのときは……ごめんなさい。

 

 でも、君がそんな顔をしても笑っていた僕に、君はなんて意地の悪いやつだと思ったかもしれない。

 

 コロコロと変わる君の表情が面白かったんだよ。

 知らなかった? 君ほど感情豊かな人はいない。

 

 ただ、君がどんな顔をするのか、知りたかったんだ。

 

 もうイタズラなんかしなくなったし、僕らはあまりにも変わりすぎてしまったけど。

 いつかまた会えたら、もしまた目を開けることができたら、君の顔が見たい。

 

 

 

T-04-k06 『イタズラ小僧の悪戯』観測完了。




ちょっと活動報告書いてみよっかな……次休むときは活動報告書こうと思います。
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