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O-03-k03『それが怖くて不安で、仕方ないのです』
「アスカぁ、大丈夫かー!」
ボーッとしていたら、廊下まで響く大声とともに実験室の扉が開かれた。
えっと、この人は確か、バレルや俺と同期の……
「クロイー……だっけ? どうしてここに?」
「そりゃ心配だろ。朝は大変だったんだからな……」
クロイーの後ろから少しガラの悪い声が聞こえる。
「バレルも来てたのか」
「せっかくこれから一緒にやってく同期なんだから、そんな早々に減ってもらうと困るんだよ」
バレルはオールバックスタイルで青髪の男性だ。目つきも悪いし、ガラの悪いしゃべり方をするけど、今朝のこともあって、そんなに悪い印象を抱いていない。
クロイーは赤髪ロングの女性。身長が俺やバレルより高いから見つけやすそうだ。あと、なぜかあんまり賢くなさそうな感じがする。
あと、二人とも
「だな。心配してくれてありがとう。今朝のことはごめん」
「ホント、急に化物みたいになって暴れだすんだからビックリしたぜ」
「でも、けっこう治ってそう?」
「うん。そろそろ外に出てもいい頃だって思ってたんだ」
まだ肌が緑色の部分もあるけど……大丈夫なはず。
「二人は、管理作業はやった?」
「やってきたよ! でもそんなに大変じゃなかったよね、バレル。これからもこんな感じならけっこう楽な仕事だと思わない?」
「そんな簡単な話でもないだろうけどな……。ま、今日は懺悔? するだけで終わったよ」
「なるほど……」
ゲームにもいたアイツか。浮いている十字架の骨を思い浮かべた。
二人が言ってるのは、たぶん、ロボトミーでは罪善さんと呼ばれていた
終業時刻は……まだ終わってないよな。
俺は立ち上がってスーツのシワを整えた。
「バレル、その
「ん、コントロールチームの第一収容室……だけど、管理作業しに行くのか?」
「一回くらいは作業しないと」
「あんなことになったのに、大丈夫なのかぁ……?」
「健闘を祈る! 本能作業と愛着作業がオススメだって!」
「ありがとう、二人とも」
あのロボトミーに入社なんて不安だったけど、会社はともかく仲間に関しては、都市にしては珍しいくらい良い同期に会えたらしい。手を振って実験室から出ていく。
コントロールチームの第一収容室だったよな。
……あれ。そういえば罪善さんに有効なのって、ほんとに本能作業と愛着作業だったっけ……。
少し嫌な予感がして、それはすぐに的中した。
ロボトミーでの主な仕事は、
なぜこんなことをするかというと、機嫌をとっていれば、
そして、管理作業にも四種類の作業があって、
情報が最初から開示されているわけでもないから、その地雷がどこにあるか、すぐには分からない。そういう意味では、
とはいっても、俺は原作知識があるんだから、それを使って上手く初見殺しを回避すれば安心だろう……。
「と、思ってたんだけどな……」
見知らぬ
……ここでは、原作の知識はあまり役に立たないらしい。
俺が扉の窓越しに見ている
だけど、部屋の中にあるのは俺が想像したような、
知らない
息を吸って、意を決して扉を開く。
部屋の中に入ってから気づいたが、この剣、後光がさしてる。どうにも神々しく見えるな。
「それで……本能作業か愛着作業か……」
本能作業は……剣に餌を与えられるわけないから、剣の掃除とか?
愛着作業はどうせバレルの言っていたような懺悔のことなんだろうけど……原作の方の懺悔系
できるだけ懺悔はしたくないかも。
「
そんなふうにしばらく考えてたら、急かすように剣の後光が広がって、突然、手に浅い切り傷ができた。
さっさと本格的に作業しないとボロボロになりそうだ。
「とりあえず、懺悔するかぁ……」
俺は剣を前に跪いて、手を組んだ。目もつむってみる。
ポーズだけならそれっぽくなったけど、よく考えてみると、懺悔する内容が思いつかない。
ザザッ
「あっ……!?」
すると、目の前が光って、脳内に映像が流れてきた。
──そこは──血まみれの実験場。誰かが話し合っている──声が、聞こえた。
ああ……そうか。
「……俺が、この世界に来たとき。目を開けたら俺は、血まみれの部屋にいたんだ。周りには誰もいなくて……」
俺は手を強く組んだ。
「もちろん、この世界に来たいと思ったことはない。俺が望んだわけじゃない。だけど、俺をこの世界に呼ぶために、何人の、どれだけたくさんの命が犠牲になったのか……怖いんだ」
……懺悔を終えると、エネルギー生成が十分な量に達しているようだったので、俺は部屋から出ようとする。だけど、なんらかのセンサーが働いたのか、扉のロックが解除されない。
「あれ……」
困って、とりあえず剣の方を振り返ってみると、なぜか、剣の後光がどんどん強くなっていた。
「えっ、なに、なに?」
光が収まったかと思えば、自分の頭に変な感触がした。触ってみると、チクリとした感触。茨の冠が、頭に乗っていた。
これ、もしかして……。
「あれ、EGOギフトって、つけていいんだっけ?」
……EGO防具は着ないように言われていたけど。
EGO装備とEGOギフトは、本質的には似たようなものだ。てことは……。
──存在は罪なりや?
どこからともなく聞こえてきた声とともに、茨が、頭を締めつける。
「ぎゃあああぁ!」
またこうなるのかよ!
「大丈夫かアスカぁ!」
どうやら外で待機してくれてたらしいクロイーに連れ出され、またさっきの実験室に投げこまれる。
そうして、前途多難の初日勤務は終わり、さっそくこの実験室は、アスカ専用収容室と呼ばれるようになった。
……施設のそこらじゅうから、悲鳴が聞こえる。
半狂乱になって俺を攻撃しようとする連中も、うずくまってやり過ごそうとする新入りも、突然の俺の行動を引き止めようとする正気な仲間も、会社のアナウンスも、聞き逃して、通り過ぎて、置き去りにして……この収容室にたどり着いた。
『たった一つの命と何百もの罪』。俺が初めて作業した
あれから色々あった。あのときの記憶はすでに、懐かしい過去になっていた。
いまこそ、これが必要なはずだ。
いまだかつて、この施設において、それは地面から抜けたことがない。
──だけど。今、このときであれば。
柄を握り、力の限りをこめて……ついに、その剣を抜いた。
存在することは罪だろうか
正しさを唱えれば、皆に罪悪感を撒き散らすだろう
堂々と立つことは罪だろうか
優秀であればあるほど、誰かが私を妬む
優れていることは罪だろうか
悲劇に泣けば泣くほど、他人の不幸を忘れていった
涙を流すことは罪だろうか
生きることは罪だろうか
死ぬことは罪なのだろうか
存在することは罪だろうか
それが、怖くて不安で、仕方ないのです。
O-03-k03『たった一つの命と何百もの罪』