生粋のE.G.O.I.S.T   作:ペスト医師団

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侵蝕『引き摺る過去』

 

「……あれ、バレル? 仕事は?」

 

「よう」

 

 抽出チームからもらった、EGO装備の保管方法についての引き継ぎ資料を読みながら歩いていると、バレルが腕を組んで、壁にもたれかかっていた。

 

 ここは福祉チームの管理領域じゃないし、バレルが留まるような場所でもない。たまたまの偶然という訳ではなさそうだ。

 

「……なにか、用?」

 

「話があってな。お前、朝……なんでアスカに、なんの言葉もかけてやらなかったんだ」

 

「……あー」

 

 まあ、言葉をかけなかった訳じゃないけど。

 

 昨日リアって娘が死んだ件について、福祉チームのみんなでアスカを慰めようって流れがあった。

 

 リアちゃんと一番仲良かったのはアスカだし、分からなくもないけど……。

 

 みんなは慰めの言葉をかけてたけど、私はいつもどおり軽口を投げかけるだけで終わった。

 

「チーフが、みんなで慰めてあげようって言ってたろ。俺も同意見だ。ああいったヤツに言葉をかけるのも……」

 

「組織の長の務めなんだ、って? 寄ってたかってお節介焼かれても困るだけでしょ。何も触れないってのも一種の気遣いなんだって」

 

「それはそうかもしれないけどよ……」

 

「それにみんな、アスカを舐めすぎ」

 

「……はぁ?」

 

「だって、昨日も今日も、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………!」

 

 目を見開いて、バレルは否定しない。

 

 私の言葉で、初めて気づいたのかな。アスカが、なんの動揺も表に出してなかったってこと。

 

 涙すら、アスカは流していなかった。

 

 私も、気づいたのは昨日だ。

 

 仲良い後輩が死んだっていうのに、いつも通りなに考えてるか分かんない無表情を見て、アスカは都市に適応した人だって、分かった。

 

「みんな、仲間が死んだとかいうけどさ。そんなの都市じゃ普通でしょ。そんなことに心を大きく揺らすのなら、それは弱さだよ」

 

「アスカは、そうじゃないって?」

 

「うん。アスカは弱くない。確かに、口数は減ってたし……そもそも人間なんだから、なんにも感じてないなんて思わないけどさ。アスカはちゃんと、乗り越えられるよ」

 

「都市の悲劇に……か」

 

 9級とはいっても、フィクサーとしての経験があるのかもしれない。

 

 そういえば幻想体(アブノーマリティ)にも最初からあんまり動揺してなかった気がするし、様々な侵蝕にもなんだかんだ耐えてきた。

 

 きっと、これからも……。

 

 ビー、ビー

 

「えっ、なにこれ?」

 

 クリフォト暴走とはまた違う警報音。聞くと、無性に不安な気持ちになるような……。

 

第一種警戒態勢(ファーストトランペット)……お前がアリまみれになったときにも鳴らなかったのにな」

 

「思い出させないでよ。そっか、新人教育で聞いた……なにが起きたんだろ」

 

 スピーカーからアナウンスが響く。

 

『こちら懲戒チーム。福祉チームにて特殊パニック職員が発生した。危険度はWAWクラスと推定。現在は中央本部の方向へ移動している』

 

「特殊パニックってなんだろ。バレル知ってる?」

 

「おかしいな、聞いた覚えがねえ」

 

『鎮圧作戦の現場指揮は懲戒チームが担当する。中層所属の管理職員は総員、懲戒チームメインルームに集まるように』

 

「だって」

 

「まあ、行くか……」

 

 懲戒チームのメインルームに着くと、慌ただしく人が行き来していた。中央本部、懲戒、福祉チームのすべての職員が集まってる。

 

 昨日までだったらリアちゃんもここにいたんだろうな。

 

 見知った顔もいた。手を振って近づく。

 

「ナーちゃんチーフ」

 

「あ、クーちゃん……」

 

 どうしてか、チーフは気まずげな表情を向けた。首をかしげる。さっきまで喋っていた隣の人との会話のせいだろうか。

 

「その人は?」

 

「えっと、彼は……」

 

「いや、いいよ。俺はハンター。懲戒チームの部門長だ」

 

「あ……よろしくお願いします?」

 

「福祉チーム所属管理職員のバレルだ。それで、懲戒チームの部門長がチーフや俺らになんの用だ?」

 

 なぜか、バレルは警戒の眼差しを向ける。懲戒チームの部門長は舌打ちして、口を開いた。

 

「……単刀直入に言おう。そっちのチームのアスカ職員が侵蝕し、複数の事務職員(オフィサー)と管理職員一人を殺してる」

 

 え。

 

 私の思考は、停止した。

 

 

 

 鎮圧作戦の、配置の場所へ移動する最中、バレルがこんなことを言っていた。

 

「クロイー、お前が言ってるのは間違っちゃいないのかもしれねえ」

 

「……」

 

「アスカは強いヤツなんだろう。だが……強いヤツだからこそ、感情が溢れるってことも、あると思うんだ」

 

「……アスカ」

 

 アスカ、あなたは、何を考えていたの?

 

 …… 中央本部のメインルーム。配置についた。

 

 メインルームの灯りはいつもと違って赤くなって、鎮圧対象がいるってすぐにわかる。

 

 探さずともアスカは見つかった。なんせ、大きかったから。

 

 まるで『私たちの苦しみ』のように手足や身体が細長い。だけど私たちの苦しみじゃないと分かったのは、異常な外見がそこだけじゃないからだ。

 

 いつものアスカのように深緑色の帽子をかぶった頭は、鎖まみれだった。それが人間の頭じゃなくて、丸い、ただの鎖のかたまりに見えたくらいに。……『道連れ』。

 

 茨の冠は三本に増えている。頭全体に巻きつけられた鎖の上に重ねて、顔の上部、真ん中、下に三本の茶色いイバラが巻かれていた。……『懺悔』。

 

 鎖の隙間からはおびただしい量の血が流れている。……『証明』。

 

 私は額縁のメイス武器を片手に構えた。

 

「オシャレなメガネは、どこかに落っことしたみたいね……!」

 

 右手には鎖とイバラで巻かれた剣を持ち、左手からは血にまみれた爪が伸びている。……『無邪気』。

 

 鎖とイバラで巻かれて、中から血が溢れる服の上には、誰もいない額縁だけの小さな肖像画がたくさん飾られていた。……『額縁』。

 

 アスカ自身のものだと確信できるのは、帽子から出てる灰色の髪の毛だけ。確かにこれは……アブノーマリティみたいな見た目だ。

 

 メイスを強く握った。

 

 できるだけ、アスカにWHITEダメージを与える。

 

 この作戦は、アスカを回復させることを前提にしてる訳じゃない。アスカが生きて戻れば、奇跡だろう。

 

 だからどうした。私は……。

 

『鎮圧、開始!』

 

 懲戒チーム部門長の怒鳴り声と同時、爆発音が響き渡る。いつの間にかうつむいていた顔を上げると、アスカに榴弾が撃ちこまれ、爆発していた。

 

 だけど、アスカはまだピンピンしてる。他のみんながそうしたように、私もアスカに駆け出した。

 

 ああ、そうだ。いまはアスカと呼ばないんだっけ。作戦目標名が割り振られていた。

 

 私は『引き摺る過去』に、メイスを振った。

 

 

 

「あれ?」

 

 目を開けると、俺は懺悔室にいた。来たことがある場所だ、初めてEGO装備を着れたときにも見た……。

 

 そして横の窓からは、怪物になった俺が他の職員たちと戦っているのが見えた。

 

 ああ俺、殺されるんだなと、なんとなく思った。納得した。それがロボトミーで、都市だろうし。

 

 でも……福祉チームのみんなは、WHITE武器を装備して、俺を助けようとしてくれてるみたいだ。

 

 羽ばたき(ウィングビート)武器だったはずのクロイーまでも、いまは額縁武器を持ってる。いつの間に装備を変えたんだろうか。

 

 みんなは、殺したくないな……。これ以上俺の手で、誰も死なせたくなかった。

 

 だから、懺悔しなきゃ。ここは懺悔室だから。それに確か、この前はここで何かを言って、侵蝕から出られたから。

 

 この前は、なんて言ったっけ……。

 

 とりあえず、一番に思い浮かぶ『罪』を懺悔する。

 

「俺はリアを死なせた」

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  • 傷ついた壁
  • 欲の指輪
  • 私たちの苦しみ
  • 生き急ぐセンチコガネ / 蝉時雨
  • イタズラ小僧の悪戯
  • ここではないどこか
  • 肖像蛇
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