生粋のE.G.O.I.S.T   作:ペスト医師団

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休日『記憶E.G.O』

 

「うおらぁっ!」

 

「ぎゃああああ!」

 

「……うるさー」

 

 俺の木刀の隙を突いて、バレルが拳を振るう。向かってくる拳が怖くて悲鳴を上げたけど、すんでのところで止めてくれたので悲鳴は空振りだった。

 

 一旦訓練を中断して、バレルは腕を組んだ。

 

「相手の攻撃にビビりすぎだな。踏み込みも(あめ)え」

 

「うわー、耳が痛い」

 

 ビビりすぎなのは、そりゃそうだ。都市に比べて平和な世界から来た人間が、戦いに慣れてるわけないだろ。

 

 ここは裏路地の空き地だ。また今日もバレルの家に遊びに来た俺は、仕事の終わったバレルにお願いして、戦闘指南を受けていた。

 

「前に聞いた話が気になったから見に来たんだけど……いつもこんなことやってるの?」

 

 俺とバレルの戦闘訓練をベンチに座って見ていたクロイーが、呆れたように声を上げる。

 

 訓練中にクロイーから『三人でどこか遊びに行かない?』って電話が来たから誘ってみた。休日にクロイーから連絡が来るなんて初めてのことで驚いたけど、クロイーも初めての外での集まりがこんな絵面になるとは想像してなかっただろう。

 

「そもそも、ロボトミーでそんなに戦闘技術なんていらなくない? EGOが身体の動き教えてくれるでしょ」

 

「それは俺も思ってた。俺は教えてりゃ勘が鈍らないから助かるけどよ」

 

「やっぱり、フィクサーの職業病? 翼に就けたのに心はまだフィクサーなんだね。これ以上に安定した仕事なんてないと思うんだけどなー」

 

 ズキリと、胸が痛む。バレルもクロイーも、知らない。翼の職員になったからって、絶対に安心できるわけじゃないってこと。

 

 いつ翼が折れるかなんて分からないんだから。だけどきっと、この世界の人にとってそれは天変地異のようなもので、考えられないし、考えても仕方ないことなんだろう。

 

 少なくとも俺は、あそこが折れるって知ってるから……その後の働き口を考えてたんだ。だけどそんなことは言えずに、俺は別の言葉で誤魔化した。

 

「それもあるけど……EGOとは別でちゃんと戦い方を知っていれば、EGOで戦うときにもっと強くなれるんじゃないかなって」

 

 この推測も別にウソではない。本社(ゲーム)での赤い霧はEGOがなくても強いフィクサーだったはずだから。俺の目指す先は多分赤い霧のあの強さだろうから、その強さに習う。

 

「ふーん、そうなの?」

 

「まあ普通の武器で考えれば当たり前の話だもんな」

 

「それもそっか。バレルはともかく、基本私たちってズブの素人だもんねー」

 

 素人でもEGOを持てば、ちゃんと戦いのための動きができる。でもそれは、EGOの強さに依存するということでもあった。今後フィクサーとして生きるためには、ちゃんとした戦闘訓練もしておかないと。

 

「というか、だからアスカは剣を持ってるんだ。アスカのEGO武器って剣だったもんね」

 

「あー、そういうこと。動きが明らかに剣に慣れてなかったから、どうしてそれ選んだんだよって思ってたぜ」

 

「まあ、別の武器なら慣れてるってわけでもないけどな。戦闘自体ほとんどしたことない」

 

「あー……なるほど」

 

 9級フィクサー時代も別に戦闘事務所ってわけじゃなかったし、経験があるとしたら裏路地の巻き込み事故みたいな小競り合いくらいだ。それも、せこせこ逃げ帰る経験。

 

「でも、それにしては勤務中の鎮圧ではビビらないよな、アスカ。EGO使ってるからビビらないってワケじゃねえっぽいし」

 

「あ、確かに。バレルから聞いたよー、赤錆の黎明との戦いでボロボロになりながら戦ってたって。それにこの前一緒に紺青の黎明を鎮圧したときも、ゴミ袋の攻撃をめちゃくちゃ受けながら戦ってたじゃん。私も最初は怖かったのに」

 

「あー、アレは……それじゃ死なないって、分かってた、から?」

 

「疑問形?」

 

 言われてみれば確かに。どうしてだろう?

 

 本社(ゲーム)ではほとんど全ての鎮圧を攻撃を受けながら戦ってたから、そのクセがこちらでも染みついてるんだろうか。ゲーム内だといちいち避けるのも面倒だったからなぁ。

 

「……なんとなく予想はつくけど、それがほんとなら同じようにはできないと思う。あれは社内限定だ」

 

「ふーん、変なの」

 

「それじゃなくても、EGOが教えてくれる戦い方を身体が覚えてたらいいのにな。全部の参考にはならないにしろ、基礎くらいはあれで固められるだろうに」

 

「……覚える、思い出す、かぁ。やってみよう」

 

「え?」

 

 バレルのアイデアに、俺は納得する。それは、できるかもしれない。俺はあの懺悔室を思い浮かべた。

 

「まーた変なことやってる」

 

「軽口で言ったつもりだったんだが……EGOのことに関してはマジでバケモンだな……」

 

 酷い言いよう。そんなふうに思われてたのか俺。

 

 だけど二人のコソコソ話をよそに、俺は懺悔の剣の振るい方を、思い出した。

 

「涙を流すことは、罪だ」

 

 試しに、何もないところで木刀を振ってみる。おお、と二人から歓声が上がった。

 

「マジでやれるとはな。動きもさっきよか良い。雰囲気も……ちょっと変わったな」

 

「……大丈夫? アスカってほんとに人間?」

 

「うるさいな、人間だわ。……まあ、動き方を思い出しただけだから……ビビリなのは変わらないとは思う」

 

「そりゃ訓練で慣らすしかねえな。よし、何事も経験だ、やってみるぞ」

 

「ああ、よろしくおねがいします!」

 

 剣を構えて、また試合を始める。

 

 その日、俺は初めてバレルに一本取った。

 

 ただ、ZAYINの動きを思い出した程度でめちゃくちゃ強くなれるわけでもないらしく、その後すぐ、本気を出したバレルにコテンパンにされた。

 

 

 

 俺は…………人間、のはずだ。そうだよな?




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