生粋のE.G.O.I.S.T   作:ペスト医師団

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ずっと『侵蝕』を『侵食』と書いていたことに気づいてしまいました。ギャーッ!

たぶん全部修正できたはず……


■事例︰K-1844-3
O-02-k56『そして、雛鳥は大人になりました。』


 

「そういえば……この前侵蝕起こしたとき、なんで俺生かされたんだ?」

 

「なっ……お前、んなこと言うもんじゃねえぞ」

 

「ごめんって。そういう意味じゃなくてさ」

 

 観測対象の収容室に向かう最中、途中まで道が同じだったバレルが少し怒ったように言う。

 

 そりゃ助けてくれた人の一人にこんなこと言うのが野暮すぎるってことは分かるんだけど、作戦当時の状況を俺は知らないわけだし。

 

「どうしてパニック回復を優先してもらえたんだろうって。侵蝕してたときの俺、けっこうな被害出してたわけだし、WAWにランク付けすらされてたんだろ? 殺した方が会社的に効率良かったと思うんだけど」

 

「お前……」

 

 引いたようなバレルに首を傾げる。そんなに変なことを言っただろうか。だってあれで『処分』されないって、なんというか、都市らしくない話じゃないか?

 

「……お前、生きるって決めたんじゃなかったのか?」

 

「まあ、そのつもりだし、今は生きたいけど……。でもそれはそれとして、あのとき殺されても納得はしたよ。会社の立場だったらそうするのが普通じゃないか?」

 

「確かに、途中で作戦内容変わってたが……はあ〜っ、野暮なことウダウダ考えやがって」

 

 バレルはこれ見よがしにクソデカため息を吐くと、俺の肩をバン! と叩いた。

 

「管理人が予想より情のあるヤツだったってだけだろ。変なこと考えてんなよ」

 

「そうなのかねぇ」

 

「まっ、ミスが多いヤツでもあるらしいけどな! メンタルやばいアスカを作業に送ったとか」

 

「ハッ、まだ言ってるんだそれ」

 

 とりあえずはバレルの言葉に納得して、俺は観測業務に向かった。

 

 

 

 今回の観測対象はコントロールチームの……『雛鳥(ひなどり)』だ。たびたび鎮圧している顔馴染みだが、そういえば作業をしたことはない。

 

 そして、今回の観測業務の目的はこいつの隠された性質を見つけること。こんな観測をするということはつまり、まだ完全に情報が出きっていない……と、チーフや部門長は考えているのだ。

 

 いま雛鳥について分かっていることは頻繁に脱走するということだけらしい。まあそりゃなんか裏があると思うよな。

 

 本社(ゲーム)の知識がある俺からしても疑わしいが、予想はつかない。罰鳥と似てるから、職員から攻撃されたら即死級攻撃で反撃してくるのかと思ったらそうでもないし。

 

 とりあえず午前はひたすら管理作業をするつもりだ。午後は脱走中の観察かな。観測業務にもけっこう慣れてきた。

 

 ということで、収容室に入った。中にいるのはいつもの、薬瓶のペンダントをつけた、茶色くて丸っこいふわふわした毛玉みたいな鳥。薬瓶にはキラキラとした粉が入っている。

 

 雛鳥はつぶらな瞳で、扉を閉めた俺を見つめる。

 

「ピヨピヨピー」

 

「ウッ」

 

 かっ、カワイイ。ずっと愛着作業していたくなる可愛さ……! お、落ち着け俺、どう考えてもこいつは厄介なタイプなんだ。

 

 まず一つ目、こいつが好きなのは本能作業。どうも運動をするのが好きらしい。本社(ゲーム)でも、可愛い見た目のアブノーマリティが本能作業を好んでいたら、たいていなにか裏があった。それに、こいつが与えてくるダメージ、BLACK属性なのである。

 

 侵食(BLACK)ダメージは身体と精神両方を蝕む。即死(PALE)ダメージとともに、ゲーム後半でプレイヤーを苦しめてくる属性だ。厄介なイメージしかない。

 

 でも、BLACKダメージのアブノーマリティにどんな特徴があったかはよく分からなかったんだよな。本社(ゲーム)でも割とバラバラだった気がする。精神的(WHITE)ダメージのアブノーマリティとの違いもよく分からなかったような。

 

「ふー……」

 

 とりあえず落ち着いた。今日は観測するために全部の種類の作業をするつもりだったけど、愛着作業だけ多めにやっておくか。それくらいはいいよな?

 

 ひとまず今回は本能作業をする。こいつが一番好きな作業だ。

 

「運動をするのが好き、かぁ……。でもそれって、俺の方はなにすればいいんだ?」

 

 狭い空間だけど、収容室内で勝手に運動できるといえばできるだろうし……クリフォト抑止力を下げるとか? あとは……道具的条件付けだっけ、運動したあとに餌をあげるのも良いのかもしれない。

 

「ピッ、ピー!」

 

 考えながら諸々の検査をしてると、身体の固定のために俺の左手でぎゅっと掴まれている雛鳥は鳴き声をあげる。くっ、可愛い。

 

 ただ、なんとなく雛鳥の言いたいことが分かる気がする。

 

「競走しようって?」

 

「……! ピー! ピィー!」

 

 少し驚いたように、雛鳥は(多分)肯定の鳴き声をあげる。

 

 雛鳥の言いたいことは多分こう。

 

『一緒に競走しよう。この部屋の端から端に飛んで、先に着いたほうが勝ち! 勝ったほうが偉いんだからね』

 

 やばい、ニヤケが止まらない。言葉が分かっても可愛いな……。

 

 こちらは空中を飛べないけど、歩くのでも大丈夫かと聞いてみたら『ピー?』と、どっちも一緒じゃない? と聞かれた。飛ぶっていうのと走るっていうのは、雛鳥にとってはあまり違いはないらしい。

 

 それでもいいならと、俺はうなずいた。雛鳥と一緒に部屋の端っこに立つ。

 

「ピー、ピー、ピー、ピ!」

 

 雛鳥の合図で、歩き出す。脱走したときもそうだったけど、雛鳥の飛ぶ速度はけっこう遅めだ。でもそれよりゆっくりと、俺は歩く。いや、勝たせたいじゃん?

 

「ピ!」

 

 見事俺に勝利した雛鳥は上や下に飛んでひとしきり喜んだあと、いまは胸を張って俺の頭の上に乗っている。体温あったか、重みが可愛い。

 

 俺は勝ち誇る雛鳥にエサをあげたり撫でたりひとしきり愛でたあと、今回の作業を終了した。

 

 

 

 午後。魅力にやられすぎたのか作業じゃ雛鳥の新しい能力は分からなかったので、脱走時の挙動を観測中。

 

 脱走した雛鳥を追いかけてると、チーフに会った。雛鳥がチーフに攻撃する。

 

 ちなみに、侵蝕事故からある程度時間が経ったので、チーフは俺の監視役から外れている。そういう行動制限が解かれたからこそ、こうやって新しい観測業務を割り当てられたんだとも言える。

 

「あ、お疲れ様です、チーフ。チーフを狙ってたのか」

 

「懲戒チームは今は欲の指輪の業務をしていないみたいですね。休憩中なのかな、それとも……」

 

 欲の指輪の業務……ああ、リアが言っていたやつか。聞いた話だとリアだけがあの業務をやっていたわけじゃなさそうだったし、単に休憩中というだけだと思うけど。

 

 とりあえず、雛鳥の鎮圧を行う。とはいっても雛鳥は弱いので、俺とチーフの一撃ずつで鎮圧は終わった。雛鳥が卵に変わる。

 

「今日のアスカくんは雛鳥の観測業務をしてるんでしたよね。卵を戻すの、お願いしていいですか? あ、でもアスカくんって、アブノーマリティの卵触れるんでしたっけ」

 

「大丈夫ですよ、メイベルさんと実験済みです。なにか仕事の途中でした?」

 

「ええ。T-06-k27の観測を。とはいっても、いつもと変わらないか確認するだけですけどね」

 

「T-06-k27……私たちの苦しみですか。すぐ近くですね」

 

「はい。なので、お願いできますか?」

 

「もちろん、了解です」

 

 そう言って卵を抱え、俺はチーフと別れた。次雛鳥が脱走するまで何をしようかとか考えながら。こんなつまらない会話がチーフとの最後の会話になるとも知らずに。

 

 そういえばと、俺は気づいた。けっこう作業したのに、雛鳥からギフトもらってないな、と。

 

 

 

OBSERVATION FAIL

O-02-k56『雛鳥』観測失敗。

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