生粋のE.G.O.I.S.T   作:ペスト医師団

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T-09-k94『アダプターは人間に接続するためのものだった』

 

「こんなときに観測業務かぁ」

 

 それも、新しく入ってきたアブノーマリティの。しかもしかも、よりによってツール型。

 

 懲戒チームの第四収容室に入り扉を閉めて、俺はため息を吐いた。他に観測業務担当の人がいないから仕方ないんだけど……。

 

 せっかく調査部隊を組んだところなんだから、少しはハリー部門長も遠慮して欲しいものだ。

 

 収容室には車のバッテリーのようなものが置かれてあった。

 

 車は都市じゃそんなに流行ってないし俺も持ってないから、この世界に来てから久々に見る気がする。

 

 しかしもちろん普通のバッテリーと同じなわけもなく、そのバッテリーからはコードが伸びていた。コードの先には、ゴツいドリルのようなものが生えている。

 

 あえて言う必要もないだろうけど、ツール型っていうのは人が使うためのものだ。

 

 ……刺せって? これを、俺の身体に?

 

「嫌な予感しかしない……!」

 

 しかし収容室に入った時点でこれを使用することは決まったようなものだ。俺は予防接種のような緊張感でそのドリルを手首に刺した。

 

「ぐっ……」

 

 何かが俺の中に流れてくるような感覚。腕が電流を帯びたようにパチパチと音を鳴らす。

 

 そして、バッテリーの表面にさっきまで点灯していなかったゲージが表示されて、ゼロの状態からどんどんゲージが充填されていく。

 

 ……これ満タンまで刺してても大丈夫なんだよな!? 大丈夫なんだよな!?

 

 何かが充電されるような感覚を二十分程度耐えて、バッテリーのゲージが満タンになると、それは勝手に俺の手首から外れた。

 

 手を開いたり閉じたりして、自分の身体に異常がないか確認する。

 

 ……大丈夫そうか? いや何かむしろ、いつもより力が出るような……。

 

 身体の動きも、良くなってるような……。

 

 

 

 

 

 あのツールを使いだしてから、すこぶる調子がいい。

 

「……電気がパチパチいってうっとうしいんだけど、またあの収容室行ってたの?」

 

「ああ。逐一充電しないと効果がないから」

 

「うわー……」

 

 クロイーが呆れたように頭を抑える。

 

「そのツール絶対裏があるって。前にアスカも言ってたでしょ、アブノーマリティが人間を助けるだけな訳ないって」

 

「まあそうだけど、多分大丈夫だって。感電死するとか頭おかしくなってアブノーマリティになるとか、そういう感じはしないから」

 

「……いや、そこまでは言ってないけど」

 

「それに、これのおかげで調査もめちゃくちゃ進んだろ。なにかデメリットはあるんだろうけど、調査が終わるまでは使い続けるよ」

 

 どうやらあのバッテリーの効果は一定時間の全ステータス上昇らしい。

 

 つまり作業速度や移動速度も早くなり、作業成功率も向上するということ。おかげで調査は順調だった。

 

 他の事件との共通点とかも分かったし、原因もなんとなく予想がついてる。クロイーはまだ気づいてないみたいだけど……。

 

「あ……そうだクロイー。私たちの苦しみの収容室、見たか?」

 

「あー、見た見た。見た目が変わってたよね。多分オフィサーの誰かかな」

 

 昨日まではチーフの姿をしていた私たちの苦しみだが、今日見たら懲戒チームのオフィサーの姿に変わっていた。

 

 もしかしたらショックかもしれないと思って顔をうかがうと、クロイーは寂しげに笑った。

 

「……調査が終わる前に姿が変わってくれてよかった」

 

「そ、そうなのか?」

 

「あれを見るたび、ちょっと辛くなってたから。チーフが死んで、本当にショックだったんだろうねー」

 

「それは見てて分かってたけど……」

 

 どう見ても、クロイーはチーフの死に動揺してた。あれだけ仲よかったら当たり前だろうけど。

 

 ……そういえば、クロイーとチーフはどうしてあんなに仲良くなったんだろう。仲良くなりだすのも早かったし。

 

 互いに共通点でもあったのか?

 

「……アスカ、改めて言うけど、調査に誘ってくれてありがとうね。おかげで、やっと起きたことを自分の中で上手く精算できそうなんだ」

 

「それは良かった……」

 

 クロイーははにかむように笑って、俺も帽子のつばに軽く触れながら笑った。

 

『コントロールチームから全職員へ通知。T-01-k68が収容室から姿を消しました。管理職員は警戒を行い、懲戒チームは事態の収束に努めてください』

 

「あ、脱走……」

 

「空き皿の作法か。そこまで戦闘で強くもなかったはずだし、俺もちょっと行ってくる」

 

「なにかの観測?」

 

「例のツールの観測。戦闘に影響出るか見てくる」

 

 

 

『ああ君か。また肉を寄越してくれるのかい?』

 

「そんなわけ……」

 

 それに、そもそも目の前のアブノーマリティの皿は、俺の肉なんかいらないほどに満たされていた。

 

 その頭の皿はこちらを向くように傾いているのに、重力がないかのように死体が浮いて、切り分けられ、皿に盛り付けられている。

 

「お前を鎮圧しにきたんだよ」

 

『食事会に暴力など、作法以前の問題だな』

 

 俺はEGOを取り出し、空き皿は指で銃を作った。

 

 チリリンと鈴のような音が鳴って、ナイフが弾丸のように俺の顔面へ迫ってくる。

 

 予想外の速度に慌てて頭を伏せるけど、額にかすって少し傷を負う。気にせず低くした姿勢のまま、空き皿へと走った。

 

 紫電を帯びた足で地面を強く蹴る。充電により加速したスピードで、追加の食器が飛んでくる前に間合いへと入った。

 

 横に剣で斬って一撃、その流れのまま燕返しのように二撃。

 

 三撃目に突きを入れようとして……空き皿が身体を回転させ、その背に背負ったテーブルを盾にした。意外と硬いそのテーブルによって、俺の三撃目は押し止められる。

 

 バレルとの特訓だったら上手くいってたんだけど……。

 

 剣が刺さってもテーブルには傷一つつかない。空き皿の身体はびくともしない。隙を作った俺に、空き皿はまた指で銃を作った。

 

 鈴の音が鳴る。

「ぐッ……!」

 

 撃ち出されたナイフが額を少し貫いて、骨に当たる。弾丸のように飛ぶ食器の勢いはすさまじく、思いっきり殴られたあとのように後ろへ首が反れた。

 

『感謝するよ。十分に皿が満たされた』

 

 血が垂れる視界の向こうでその言葉を残して、空き皿は唐突にこちらから背を向けて離れていく。

 

 追いかけようとして、またこちらへナイフやフォークが発射される。それを避けて……

 

「ピー!」

 

「えっ」

 

『えっ』

 

 え? と後ろを振り向くと、雛鳥にナイフが刺さっていた。首にかかった薬瓶がいつものように割れている。

 

 いつの間にこんな場所に……。

 

 雛鳥に気を取られてると、また鈴の音が鳴る。攻撃かと思って急いで振り向いたが、違った。

 

 空き皿はテーブルを廊下の真ん中に設置して、テーブルに新しい死体を乗せていた。皿に飾られていた死体はなくなってる。

 

 観測記録で見た『食事会』だ。また体力を回復される前に妨害しなければならない。

 

 だけど、空き皿の方へ走っても、足取りは遅々として進まなかった。

 

 遅すぎる。これじゃ間に合わない。

 『充電』が切れたのか……? いや、それとも……。

 

 そうこうしてる間に食事会が終わって、また空き皿の作法の頭を死体が飾る。

 

 やっとまた空き皿に接近できて、数回攻撃を当てるも、まだ倒すのには時間がかかりそうだ。

 

 そもそもロボトミーの戦闘は物量戦なんだ、一人で戦うものじゃない。増援はまだなのか……?

 

 このままじゃ、また回復される……だったら、それ以上の攻撃を。

 

 俺は装備だけじゃなく、ギフトの声にも耳を傾ける。そして、その力を全て、武器に乗せるイメージで。

 

 剣を、振り下ろそうとした。

 

「叩っ斬……!」

 

 剣が、その黒い燕尾服に振り下ろされる前に。

 

 パン、パン。

 

 無数のハンドガンの音が鳴って、空き皿の作法の身体に、いくつもの大きな風穴が空いた。

 

「…………!?」

 

 空き皿の作法が卵の姿になる。倒されたんだ、いまの攻撃で。

 

 初めて見るEGOだろうか……誰が攻撃したんだ? 辺りを見回す。

 

 そして俺は、廊下の入り口に大量の人影を見た。

 

 あの攻撃をしたのは、増援ではなかったらしい。

 

 手足が長い。全身が縦に長い。天井まで届く身長。俺を見下ろしている。……その集団を、見た。

 

「『私たちの苦しみ』……?」

 

 様々なチームの腕章を着けたそれらは全員、奇妙な形に歪んだハンドガンを持って、こちらに向けていた。

 

『情報チームから緊急アナウンス! T-06-k27-1が複数出現し、情報チームの管理職員が半壊した。至急救援を求む!』

 

 警報が鳴る。第一種警戒態勢(ファーストトランペット)

 

 初めて聞いたその警報に、俺は胸騒ぎを感じていた。

 

 ……後から思うと、この日がターニングポイントだったのかもしれない。

 

 この日を境に、すべてがこじれて、ねじれていったみたいだから。

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