その代わり書き溜めたんであと8話ストックあります!
「へえ、あの後そんなことがあったんだ」
いつもどおり福祉チームのみんなで実験室に集まってお酒を飲んでると、メイベルさんと一昨日の話になった。『私たちの苦しみ』の件だ。
あまりにも色んなことがあったから、どこが興味を引いたのかはわからない。やっぱり俺の体質のことだろうか……と思ってたんだけど。
「なるほどなぁ、それで、みんなアスカとクロイーちゃんに暖かい目を向けてたのか」
「……生暖かいの間違いでしょ」
「はは、言えてる」
俺とクロイーが抱き合ってたのを見て、なにやら面白おかしく邪推する人はいた。
情報や安全チームの何人かは、チーフの死因の調査するときに半端に知り合ってしまったせいで、面白がってるのを隠さない顔で付き合ってるのか〜?とか聞いてきたくらいだ。
一番顔なじみの福祉チームの人らはそんなことないんだけど。まあ、そんなこと言えるような雰囲気でもないし。
あれは……そんな下心じゃなくて、クロイーの慰めになるならと思ってしたことだったから、そんな風に思われるのは本意じゃなかった。
というか、クロイーはこんな話を聞いて気まずくならないのか? 確かそこで、バレルと昨日の試練の愚痴を喋って……。
「うへぁ〜バレル〜なんであのとき助けてくれなかったんだよぅ〜」
「それは申し訳ないが、さっきからごめんって言ってるだろ……乗っかるな揺らすなこの酔っぱらい……!」
二人に視線を向けると、クロイーは真っ赤な顔でバレルの背中の上に立って、屈伸運動をしていた。
思ったより酔っぱらってるし、乗っかられている。
「E.G.O武器の変調に、ツール型を完全再現する能力かぁ……。これまた新しい、それに、かなり有用そうな力だね? 人間離れしてる感じもするけど」
あ、あれ見て会話続けるんだ。バレルが助けを求めるような目でこっちを見てるけど……。
「ツール型の再現は、今でもできるんだよね?」
「できますよ、ほら」
一瞬だけ、腕に紫電をまとわせる。その光景に感心したようにメイベルさんは笑みを深めた。
「へぇ。T-09-k94か」
「ええ、でも……」
だけど、そこまで都合のいい能力じゃないだろう。
多分これ、ツール型のデメリットもそのまま再現してしまってるだろうから。
あのとき再現したあの二つのツール型はデメリット少なかったから良かったけど、なんらかの即死系ツールを再現していたらそのまま死んでたかもしれない。
そういう風なことを伝えたら、メイベルさんは『あちゃー』みたいな顔をした。
「それなら、その電気もしまいなさい。……ああそうだ、前の調査で貸与申請出してた価値観測定器、たぶん使い終わってそうだし点検して返却届けを出しておいてね」
「あぁ……休み明けにやっておきますね」
価値観測定器っていうのは、つまるところ勇気とか慎重とかのパラメーターを測定する機械だ。
ゲームの方だとステータスの測定方法は明かされていなかったけど、瞳孔反射とか痛覚反応とかから職員の性格を測定して計算する。つまり、実際にやってみるとまぶしいし痛いしうるさいし退屈だ。
これを毎日やらなければいけないので、もちろん職員からの評判は悪い。
どうしてそんなものを借りたのかというと、雛鳥の能力を確認するためだ。
チーフの死因を探る調査で、雛鳥が本当に職員の能力を下げてるか確認するために、収容室で抑圧作業をしたクロイーの能力を計測する必要があった。
「それにしても、まさかアナスタシアの死の遠因が雛鳥にあっただなんて……今はクロイーちゃん案で『競争鳥』だっけ?」
「その名前、まだ情報チームの承認待ちらしいですよ。まあそっちの名前の方がわかりやすいし通るとは思いますけど」
「ふーん。……はぁ、昔っから不審な事故が多いとは思ってたけど……全然わからなかったな。結局自分ではつきとめられず、友達が死んでから初めて知るとか……インテリぶっといて情けないよ」
「……メイベルさん」
額をおさえて、一瞬だけメイベルさんは暗い顔をした。
「ダメだな。チーフになったんだろ、こんなことでつまずいてちゃダメだ」
俺ではなく、中空につぶやくようなその表情を見て、なぜかハンターさんが言っていたことを思い出した。……『自分のせいだと思ってしまったら』か。
「メイベルさ……」
「ま、それはともかく! 調査成功おめでとう、アスカ。そして、
「……はい」
「はぁ……もう、楽しいこと考えよ。明日からお休みだし、アスカのおかげで侵蝕現象の研究も進むだろうし〜。そうだ、実験対象者も見つかったんだった」
実験対象者……? 俺の侵蝕現象以外に研究したいことがあるんだろうか。
「というか、こんなことを話すつもりじゃなかったんだった。アスカ、検査で分かったんだけど……」
「アスカ、元気かぁああああ!?」
「は? ぎゃあああ!!」
声の方を向いたら、首に衝撃を感じたと思うと、俺は椅子からひっくり返っていた。後頭部へ激痛が走る。
突如突進してきたクロイーに、思いっきりラリアットをされたらしい。なぜ。
「クロイーてめえ……酔い過ぎだぞ」
「え〜? 全然だよ全然〜!」
「いいや、酔ってるね!」
「喋り方がもう酔ってるよね」
バレルとクロイーが酔ってる酔ってない論争をして、それを見るメイベルさんはキャッキャと爆笑している。誰でもいいから俺を心配してくれ。
事件があったり調査が成功したりといろいろあったせいか、今日は一段とみんな酔っぱらってる気がする。
俺? 俺は……全然酔ってないけど?
ふらふらと立ち上がってテーブルを見ると、水がなくなってることに気づいた。
「よいしょ、酔い覚ましの水でも持ってくるか」
「酔い過ぎてる自覚はあるし、頼むわ」
「えぇ〜私も行くぞー!」
「一番酔っぱらってるお前が? 良いけど、静かにしてろよな」
「もちろん〜!」
そんな感じで、クロイーと自販機に水を買いに行くことになった。
扉を開き、キョロキョロと周りを見ながら廊下に出る。
実験室を私的利用して酒を飲んでるのはチーフが許容してたからなんとなく大丈夫になってるだけなので、当然バレたらまずい。他の職員に酒気を気取られないようにしないと。
管理時間外の……静かな廊下を歩く。クロイーも外に出たら、さっきまでの酔っぱらい方がウソみたいに静かになったし、オフィサーとかに酒がバレることはなさそうだった。
暗い廊下に光る自販機のボタンを何度か押してると、クロイーが静かに隣に立った。
「アスカ、あの時は助けてくれてありがとうね」
「……ん、どういたしまして」
あの後、なんとなくお互い気まずくって、二人だけで話すこともなかった。それもあって、今までクロイーにお礼は言われてない。
言われなくてもいいと思ってた。恨まれてもいい、とも。
怪物になったとしても、クロイーにとって、チーフはいなくなって欲しい人ではなかっただろうから。でも、クロイー自身の意志に背くとしても……俺がクロイーを助けたかっただけで。
「クロイーもありがとう。俺も、殺されるところだった……」
いや、殺されるどころじゃないか。ちゃんと『私たちの苦しみ』の観測記録を見た今ならわかる。俺も『私たちの苦しみ』の仲間入りをするところだった。
俺の言葉にあのときのことを思い出したのか、クロイーは少し暗い顔をして、うつむいた。
「大丈夫か?」
「……大丈夫だよ」
儚げな笑顔。俺はどうしてもクロイーのそれがもどかしくて、言葉を続けた。だけど。
「無理するなよ。……また新しいアブノーマリティが抽出されるって聞いたし……仕事は忙しくなるだろうけど。少なくとも、明日は休みだから」
「わかってる」
上の空みたいな返答。……これは、もう少し時間を置かなきゃダメかもしれない。
「これ、お前とバレルの分。他は俺が運ぶから」
水のボトルをいくつか渡して、俺は気まずさと重苦しさから逃げ出すように、早足でみんなのところに戻ろうとした。けど、クロイーは立ち止まったままなのか、後ろから足音は聞こえて来ない。
「……そうだ、鉛筆」
「えっ?」
足音の代わりに投げかけられた不思議な言葉に、俺は振り向いた。クロイーはじっと俺の目を見てる。
「ほら、アスカに貸した鉛筆。まだ、返してもらってないよね」
「……そうだったっけ」
いや、そういえばこの前借りてたな……『黒い水槽』のとき。普通に忘れてた。
「ああ、思い出した。それは……ごめん。いまは持ってないかも。家に持って帰っちゃったかな……」
「じゃ、返しに来てね。明日」
「ああ……って、え?」
明日は休日。つまり、仕事で会うわけじゃない。
「ついでにどこか遊びに行こうよ、二人きりで」
クロイーは小首をかしげて、いままで見たこともないような微笑を、顔に貼り付けた。
宴会に戻って、クロイーが急にあんなことを言い出した理由を考えてたら、ちょいちょいと、メイベルさんに肩を叩かれた。
「なんですか?」
「さっき言い忘れたことなんだけど……キミ、T-09-k94使用禁止ね」
「え」
唐突な業務命令に言葉が出ない。あのツールだいぶ気にいってたのに……。
「キミの測定値を見たけど、全体的な能力値がかなり下がっていたんだ。あのツールの影響だろうね」
「……はっ? えっ?」
「だからキミ、3級職員に降格。せっかく昇進したばっかなのに、さっそく降格だってね」
「……えーっ!?」
唐突に宣告されたその言葉に、俺はさっきまで考えてたことも忘れて目を見開いた。
T-09-k94『紫電中毒』観測完了。