生粋のE.G.O.I.S.T   作:ペスト医師団

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装着『罪を知らぬ者は懺悔すらできないだろう』

 

「見てろよ……。クリフォト抑止力、オフ」

 

 機械の出力を最低値にすると、シーンと、沈黙が続いた。

 

 すっかりたまり場になった実験室で、俺は目の前の同期二人に声を上げる。

 

「ほら! ギフトが暴走しなくなったんだよ!」

 

「ふーん、おめでとう?」

 

「やっと会社の外に出れるようになったのか……良かったな」

 

 どうでも良さそうな声を出したのがクロイーで、俺の苦労を労ってくれたのがバレル。

 

 なんせ、ずっと同じ幻想体(アブノーマリティ)に、同じ本能作業をさせられてたんだ。本当、地獄の四日間だった。地獄の四日間だったんだぞ、クロイー。

 ちなみに、勇気のランクは3まで上がっていた。

 

「ま、本当はアスカの勇気が2になったときくらいから、ギフトの侵蝕はしなくなってたんだけどね」

 

 メイベルさんが盛り下がることを言いながら、コップのオレンジジュースを飲んだ。

 

 ちなみに、この実験室は現在、実質的な俺の私室みたいになっていて、冷蔵庫とか机とか椅子とか置かれてる。椅子に関しては同期二人やメイベルさんが持ってきた物もあるんだけど。

 クロイーに至ってはポテチをつまんでいる。

 

「そういえば、ギフトは良いんだけど、これで勇気のEGO装備も着れるようになったの?」

 

「あー、それは……」

 

「いまから試すところだよ。ほらアスカ、着て着て!」

 

 室内のクリフォト抑止力を通常程度に戻すと、メイベルさんは手元のスーツケースからEGO防具を取り出した。

 

 この茨で巻かれたような見た目は……命罪さんの『懺悔』か。

 

 いや、着なきゃいけないんだけど、少しためらってしまう。ちょっと、今までのトラウマがな……。

 

「ええい、ままよ!」

 

 ギフトは大丈夫だったし、もしまた侵蝕しても、みんないるし、上手く鎮圧してくれるだろ。

 

 そのままの流れでフツーに殺される可能性は考慮せず、勢いのまま俺は懺悔を装着した。

 

 そして、いつもどおり、声が聞こえてくる。

 

 ──存在は罪なりや? 存在は罪なりや? 存在は罪なりや?

 

「うおおおおぉうるせぇえええええ」

 

「お、出た出た。でも、いつもよりはマシそう?」

 

「なんというか、クソでも我慢してそうな表情だな」

 

「はい、次はこれ、武器の方!」

 

 メイベルさんの差し出す、剣の方の懺悔も手に取った。

 

 存在は罪なりや? 正義は罪なりや? 私達は罪なりや? 生存は──

 

「ぐわあああああもっとうるせぇえええ」

 

「そろそろかな?」

 

「いや待て、まだギリギリ大丈夫そうだ」

 

 頭の中で声が反響し続ける。剣の茨が伸びて、手と腕を締め付けはじめた。防具の方もだんだんと着心地がチクチクし始めて、内側が茨のようになってる気がする。

 

 三人の声。ここはあの実験室のはずだ。なのにまるで、一人でどこかの懺悔室にいるかのような……。

 

 ……存在することは、罪なのだろうか。生きていることも、正しくあろうとすることも。

 

 それならば、俺は……

 

「     」

 

 ……目を開けるとそこは懺悔室ではなく、間違いなくいつもの実験室だった。

 

「はあ、はあ、はぁ……!」

 

 落ち着こうと深呼吸しようとしても、荒い息になってしまう。

 おぼろげな視界で実験室を見回すと、だんだんと焦点があってきて、メイベルさんと目が合った。

 

 メイベルさんはニコッと笑っていた。

 

「おめでとう、アスカ」

 

 おめでとう? なにが? と思ったが、同期の二人も、武器を下ろして拍手を始める。

 

 それで、気づいた。……懺悔を着てからしばらく経っているのに、侵蝕していない。

 俺はやっと、EGOを使えるようになっていた。

 

 

 

 実験室でのお祝いもそこそこに、俺は福祉チームのメインルームに来ていた。うん、時間は大丈夫。

 福祉チームに来てから初めて、業務開始時刻に間に合ったことになる。

 

 いつもメイベルさんが業務開始のベルすら無視して俺を実験台にし続けていたからなんだけど、俺を開放してくれた今日も、そのメイベルさんはなぜかメインルームに来ていない。

 

 実験室からの道中で、別々の通路に別れたんだよな。なにか用事があるとか。

 

 それに、部門長さんもいない。業務開始時には所属チームのメインルームに集合する決まりなんだけど。

 

 メインルームには、俺と同期二人と、そしてチーフの腕章をつけた人がいた。

 

「こんにちはチーフ。はじめまして……ではないですけど。俺、新入社員のアスカです」

 

「あ、君がアスカくん? そうですね、私は福祉チームチーフのアナスタシアです。これからよろしくおねがいします」

 

 チーフは眼鏡(ギフトだろうか? 分からない)をかけたポニーテールの女の人だ。

 

「ときどきすれ違ってたけど話したことはありませんでしたね。でも、メイベルちゃんからいろいろ話は聞いてますよ!」

 

「アスカ、ナーちゃんチーフはアスカが暴れてたときの鎮圧もやってくれてたんだよ!」

 

「あー……それらの件は、どうも」

 

「いえいえ〜。あっ、というか、EGOを着れるようになったんですね! でも、ちょっと辛そう?」

 

「分かりますか。まだZAYIN装備しかダメそうですね……」

 

 例えるなら、ずっと力んでストッパーをかけてるような感じ。

 

 ちょっとでも意識を別の方向に向けたらまたEGOから声が聞こえてきそうで、一瞬たりとも気が抜けない状態だ。いまは上手く抑えられてるけど、どうなることやら。

 

「チーフ、部門長とメイベルさんは……」

 

「そうですねー、二人は会議中だと聞いてます。教育チームや抽出チームの部門長と話し合いをしているみたいです」

 

「ふーん、メイベルさんも大変だなぁ」

 

「メイベルちゃんはとても優秀ですからねー。……あ、そろそろみたいですね」

 

 雑談をしていると、始業のベルが鳴った。

 

「では、福祉チームの業務をやっていきましょうか。アスカくんには福祉チームの業務を教えます。二人はいつもどおりに」

 

 福祉チームの業務か。そういえば、俺らがするべきなのは幻想体(アブノーマリティ)の管理だけじゃないんだよな。

 

「じゃ、俺はさっそく」

 

「行ってきますナーちゃんチーフ!」

 

「いってらっしゃーい」

 

 チーフはクロイーとバレルに手を振ると、俺に向き直った。

 

「……さてアスカくん。改めまして、福祉チームにようこそ!」

 

 ニコッと笑うチーフ。俺はチョロいので、その顔でもうこの人は良い人だと確信した。

 

「部門長の言葉を借りますが、ここは事故の予防と、起きてしまった事故の二次被害を防ぐ部門です」

 

 そこまではゲームの方でだいたい知ってるんだが……実際に何をするかは知らないんだよな。

 

「私たち管理職員も、アブノーマリティを管理するだけじゃなくて、職員みんなを守るために仕事をしていきます」

 

 例えば……と言って、チーフから一枚の書類を受け取る。

 

 安全チームと福祉チームの判を押されたその書類には、一つのアブノーマリティに対して、たくさんの安全施策が事細かに書かれていた。

 

「へー……。うちの同期はどんな仕事を?」

 

「バレルくんは他チームの状態確認をしに行ってもらってますね。クーちゃん……クロイーちゃんは装備の点検と配備です」

 

 それにしてもクロイーとチーフ、いつの間にそんなに仲良くなったんだ。あだ名で呼びあっている……。

 

「アスカくんには、私の業務を一部引き継いでもらおうと思います」

 

「えぇっと、チーフの仕事って?」

 

「アブノーマリティの観測です。アスカくんにはランクの低いアブノーマリティを担当してもらうつもりですね」

 

 観測……観測記録を見ていると、この施設のアブノーマリティは大体観測が終了していて、まあまあ平和な気がするんだが。

 

「うん、アスカくんの思うように、今のところこの支部はとても安定しています。だけど、少しでも不慮の事故を減らせるように、少しでももっとアブノーマリティのことを知る。それが私たちの仕事です」

 

 なるほど、なんか思ったよりマトモな仕事だ。ここが福祉チームというのもあるだろうけど、都市でこんなにきれいなお題目は、建前でもあまり見ない。

 

「実際には様々なアブノーマリティに実験的な管理作業を行ったり、わざとアブノーマリティを脱走させたりするんですが……実際にやってみた方が早いでしょうね。今日はこのアブノーマリティの観測をやってみましょうか」

 

 ちょいちょいっと、チーフはさっき俺が受け取った書類を指差す。

 

「ということで、今日はこれの連続装着実験をしてください。M-09-k95は中央本部チームの第四収容室に収容されています」

 

「了解です。観測のコツみたいなのってあります?」

 

「そうですね……これは観測に限ったことじゃなくて福祉チームの心構えみたいなものなんですけど……」

 

 頬に手を当てて、チーフは答えた。

 

「他の人の体調や不審な行動にも、ちゃんと気を配ることかな? 自分やアブノーマリティだけじゃなくて、他の職員の動きにも気を配れば、みんなが死ぬことを防ぐことができますから」

 

 『特に観測業務なら、アブノーマリティの性質を知ることにも繋がりますしね』とチーフは続けた。あまりにもごもっともなことだったので、俺は納得して頷いた。

 

「まあアスカくんは新人なので、あまり気負わずやっても大丈夫です! いざとなれば私もバックアップしますから」

 

 福祉チームは良い人ばかりだなぁ。ロボトミーに入社しはじめたときはどうなるかと思ったけど、ここなら大丈夫そうだ。

 

 ……と、そんな風に俺は油断しきっていた。ここが都市の翼であることも忘れて……。

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