生粋のE.G.O.I.S.T   作:ペスト医師団

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M-09-k95『誰もがそれを求めた。裏切り、争い、欲望……』

 

 俺がほとんど炭鉱のカナリアみたいな実験に参加させられていることに気づいたのは、収容室に到着してからだった。

 

 窓の奥の幻想体(アブノーマリティ)を見て、俺は自分の平和ボケした考えを捨てる。

 

「うわあ……ツール型かよ」

 

 そう。円柱状のガラスケースに保管された指輪、この見た目は間違いなくツール型だ。ツール型といえば即死と有名な、あのツール型だ。

 

 ため息を吐いて、収容室に入る。近くで見ると、指輪には黒い宝石がはめられていた。

 

 宝石とは言っても、そんなにキレイじゃない。指輪もくすんでいるし、普通なら着けたくもない……はずなんだが。

 

 どうしてだろう。いざ目の前に立ってみると、わずかに、この指輪を着けてみたいような気がする。

 

 ……このアブノーマリティの能力か? こんな能力があるなんて資料には書いてないぞ。

 

 また俺の体質でも出たんだろうか。一応観測ログにメモだけしておくか。

 

 

 

 

「はぁ、爆発して死んだりしないだろうな、これ……」

 

 指輪をつけて外に出ると、適当な壁にもたれかかって、俺は一人ぼやく。

 

 長時間装着したら即死するっていうツール型アブノーマリティはゲームでもけっこうあった。もしこの指輪もその類いなら、一日中これを着けなければならない俺は死んだも同然だ。

 

 いままでの観測でそんな能力は発見されてないけど、今日新たに書き足されるかもしれないな。

 

 そんなことを考えていると、廊下のスピーカーからアブノーマリティ脱走のアナウンスが流れた。俺はすぐに構える。いままでの観測ログが本当なら……。

 

「来たな」

 

 脱走した『雛鳥』が俺のいる廊下に飛んできた。

 

 雛鳥は呼び名の通りの見た目だ。茶色の毛玉みたいな雛鳥が飛んでいる。もっとこいつの特徴を挙げるなら、なぜか薬瓶のようなペンダントを首にかけていることだろうか。

 

 こいつがここに来ると分かった理由は、この指輪の、現在判明している能力の一つだ。この指輪をつけている職員は、脱走中のアブノーマリティをおびき寄せる。

 

 俺はじっと雛鳥を見据える。装備できたばかりのEGO武器を試すときだ。

 

「……ふう」

 

 息を吐く。リラックス。そうだ。

 自分を保て、侵蝕を抑えろ。

 

 懺悔の剣を雛鳥へ振りかぶる。意外と鋭い音が鳴って、雛鳥に切り傷を作った。鳴き声をあげてかわいく目をつぶる雛鳥にちょっと罪悪感を感じるが、相手はアブノーマリティだ。

 

 ひとしきり警戒の鳴き声をあげた雛鳥はびゅんびゅんと俺の周りを飛び回って、何回か身体を(つつ)いてくる。こいつは本社(ゲーム)の罰鳥とは違って即死級の攻撃はしてこないので、気にせずもう一撃を入れた。

 

 ペンダントの薬瓶が割れて、キラキラとした粉が舞う。

 そして、さらにもう一発……!

 

「……アレ?」

 

 しかし、その前の一撃がトドメになったのか、雛鳥はいなくなって……すでに卵の状態になっていた。

 

 実は、幻想体(アブノーマリティ)は不死身の存在だ。弱らせても死なずに卵の状態に変化する。で、卵になったということはつまり、雛鳥の鎮圧に成功したということになる。

 二撃か……多分、装備が強いというより雛鳥が弱いな。見た目通りではあるけど。

 

 俺は無線機を取り出す。

 

「こちらK-1844、福祉チーム管理職員のアスカ。中央本部チームの管理領域で雛鳥を鎮圧した」

 

『こちら中央本部チーム。了解した。卵の回収業務はそちらに一任する』

 

「こちらK-1844。了解」

 

 ちなみにこの卵だが、元の状態に復活するよりも早く、収容室へこの卵を戻しておくことも福祉チームの仕事だったりする。

 だけど、メイベルさんにヘタに卵に触らないよう言われているので、通りがかった事務職(オフィサー)に卵を回収してもらうよう頼んだ。

 つくづく難儀だなこの体質。

 

 でも、初めて鎮圧作業ができたので少し達成感はあるかも。

 

 それに、今まで剣なんかロクに使ったことなんてなかったのに、懺悔の剣はいとも簡単に扱えた。

 飛び回る鳥に剣を当てるなんて、なかなか難しいことだろうに。

 

 ゲームのロボトミーや、いまの同期が言ってた通り、本当に、武器が使い方を教えてくれるような感覚だった。

 

「はぁ、はあ、はぁ……!」

 

 侵蝕を意識的に抑えながらEGOを扱うのは、やっぱりキツかった。遅れて息切れがやってくるくらい。

 

 だけどそれ以上に、EGOを使えるようになったという実感が、ようやく湧き上がってきた。

 

 ずっとお預けをくらってたんだ、そもそもゲームのロボトミーもかなり好きだったし。だから、EGOを使えるようになった感動はやっぱり、他の職員より大きいみたいだった。

 

「これが、EGO……!」

 

 

 

 試練を鎮圧したあと、俺とバレルはメインルームで談笑していた。

 

「へー、バレルって組織の出身だったのか」

 

「んなでかい組織じゃねえけどな。五本指所属でもねえし、自警団みたいなもんだ。……てかおい」

 

 バレルが目に留めたのは、俺が着けてる指輪だった。

 

「まだM-09-k95着けてんのか。観測業務ってのも大変だな……」

 

「あー、そういえば着けてたな」

 

「……おいおい、警戒しなさすぎだろ、大丈夫か? それって確か、脱走した幻想体(アブノーマリティ)をおびき寄せるんだろ?」

 

「あとは試練もだな、さっき分かったことだけど。いやあ、俺も最初は頭が爆発しないかどうか不安だったんだけど……ここ雛鳥しか脱走しないし」

 

「あー、ここってホントに平和なトコなんだな。……ん? 頭が爆発?」

 

 逆に雛鳥は10回くらい脱走したんだけどな。本社(ゲーム)の罰鳥みたく脱走しまくる系のアブノーマリティらしい。

 

 もちろん、指輪の効果でその10回全部、俺のところに来た。まあ、EGOの試し斬りにはちょうど良い。今日でだいぶ、EGOを抑えるのにも慣れたんじゃないか?

 

「それにこの指輪、悪意はあんまりなさそうなんだよ。聞こえてくる声も『安心するでしょ?』とか『この指輪があれば大丈夫』とかだけだし……」

 

「は? 声って……」

 

「ああ、そうそう。EGOから声が聞こえてくるって話はしたよな? この指輪はEGOじゃないから最初は聞こえてこなかったんだけど……」

 

 自分でも、その時のアイデアはけっこう良かったと思ってる。

 

「もっとこいつについて知りたいと思って指輪に意識を傾けてみたら、ちょっとずつだけど聞こえてきたんだよ。けっこう凄くない?」

 

「ええ……凄いは凄いが……」

 

 バレルは微妙に引いたような顔をした。けっこう傷つく。よし、この話はもう誰にもしないでおくか。

 

「だが、チーフが言ってたのはそういうことか……」

 

「ん? ……あ、あとさ、指輪を着ける前に、ちょっと精神的な干渉を感じたんだよな。指輪を着けてからはなんともなくなったけど」

 

 収容室ではなぜか指輪を着けたくなったが、実際に着けてみたらその欲もなくなった。どうして着けたいと思ったのか不思議なくらいだ。

 

「だからこの指輪、アブノーマリティとか試練とか、指輪を着けてる人以外に影響を与えるんじゃないか? もしかしたら人間も……」

 

「は? …………!」

 

 バッと、バレルは俺から一気に距離をとった。……そんなに俺の考察にドン引きしたのか?

 

「お、おい。どうした?」

 

「アスカ、それ多分マジだ。訳わかんねえけど、いつの間にか『この指輪が欲しい』って思ってた」

 

「えっ、本当に?」

 

「お前、指輪つけてる間、誰にも近づくなよ! 俺はカウンセリングルームに行ってくる!」

 

 そう言ってバレルはメインルームから急いで去っていった。

 

「……えー」

 

 俺は一人、いま知ったアブノーマリティの情報を観測ログに書いた。

 とりあえず、観測業務は達成できそうだった。

 

M-09-k95『欲の指輪』観測完了。

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