ヘクトール先生   作:パリス君

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プロローグ
キヴォトスへようこそ!


……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

接続パスワード認証。

「シッテムの箱」へようこそ、ヘクトール先生。

 

 

 

「……私のミスでした」

 

ふと、少女の声が聞こえた。

 

「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」

 

少女の声は語り続ける。

 

「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……」

 

目を開けると、俺は電車に乗っていた。

先程から俺に語りかけている少女は対面の席に座っている。

その姿を観察すると、白い制服はところどころ赤く染まり、深傷を負っているようだ。

 

「……今更図々しいですが、お願いします」

 

そんな状態でも俺に語りかける少女は──

 

「ヘクトール先生」

 

──俺の名を呼んだ。

 

「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」

「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……」

「ですから……大事なのは経験ではなく、選択」

「あなたにしかできない選択の数々」

 

少女は少し間をおいて語り続ける。

その少しの間に少女が何を思ったのかは分からないが、少女の顔を見るに──幸せなで楽しい日常の思い出なのだろう。

 

「責任を負う者について、話したことがありましたね

「その時の私には分かりませんでしたが……。今なら理解できます」

「大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択」

「それが意味する心延えも」

「……」

 

少女が息を吸う。

その行為一つで、何か大事な事を伝えられる、と理解できる。

 

「ですから、先生」

「私が信じられる大人である、あなたになら、この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……」

「そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです」

 

そうして少女は俺に最も大事であろうことを伝えようと、語りかける。

 

「だから先生、どうか……」

 

 

 

 

 

「……い」

 

鋭い声が聞こえる。

 

「……先生。起きてください」

 

鋭い声は再度語りかけている、その「先生」という人物は随分眠りが深いらいしい。

 

ヘクトール先生!!」

 

俺の名を呼んだ鋭い声に反応して、ハッと目を開ける。

 

「え、俺?」

 

目の前にはメガネをした少女。

しかし、エルフのような耳と頭上に浮かぶ冠のような物体がただの少女ではないことを明確に表している。

少女の後ろに見える部屋の窓からは俺の時代にはなかった高い建造物。

サーヴァントとして召喚されたわけではない……はずだ。

何せ、俺の身体は実体がある──生きた肉体だ。

……なぜか現代の知識が与えられているが。

こうして俺が状況を整理している間──

 

「……」

 

──少女は黙ってこちらを見ている。

なんなら少し不機嫌そうに見える。

……なんだ?女神、またはその使いとかか?

 

「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きられないほど熟睡されるとは」

 

見知らぬ少女は俺に語りかけた。

……少々待っていてくださいと言いました?そんな記憶はないし、初対面なはずなんだがねぇ。

 

「……夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください。もう一度今の状況をお伝えします」

 

お、そりゃありがたいね。

状況把握ができる。

 

「私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です」

 

少女の名前は、七神リンと言うらしい。

だが、「学園都市」ってのは知らないな。

聖杯には与えられなかった現代の知識なんだが……さも常識、といった風に目の前のお嬢さんは話してるんだが。

参ったなぁ、こりゃあ幸先不安だ。

 

「そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生……のようですが」

 

「ようですがってことは、おじさんがここに来た理由をお嬢さんも知らないってことかい?」

「はい。私も先生がここに来た経緯を詳しく知りません」

 

……なるほど、つまりこのお嬢さんに俺がここに召喚……なのかは定かじゃないが、ここに居る理由を尋ねても無駄ってわけだ。

今まででこんな経験はないからなぁ、困っちゃうぜ。

 

「混乱されてますよね。分かります。こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください」

 

どうやら急いでいるらしい、少し焦りが見える。

 

「どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります」

 

……「どうしてもやっていただかなくてはいけない事」ねぇ。

こんな平和そうな時代に俺は何を命令されるのやら。

 

「……学園都市の命運をかけた大事なこと……と言うことにしておきましょうか」

「……来たばかりのおじさんにはちょいと荷が重いんじゃないかねぇ?」

 

そう呟きつつ俺はどこかへ歩いて行く七神リンについていく。

 

 

 

ウィイイイイイイン──

加工しているガラス張りの個室── エレベーターに俺と七神リンは乗った。

これがエレベーターってやつか……便利だねぇ全く。

ガラス張りなため、外の風景が見れるが、やはりトロイアとは全くの別物だ。

現代の都市──学園都市「キヴォトス」に内心驚いている俺に七神リンは振り返る。

 

「『キヴォトスへ』へようこそ。先生」

 

「キヴォトス」の風景を目にした俺に七神リンは改めてキヴォトスを紹介してくれるようだ。

 

「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働くところでもあります」

 

数千の学園が集っている。ねぇ……てか、俺はここで働くのか。

ま、なんとなく分かってはいたが。

 

「きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……」

 

ま、時代が違うからねぇ。

恐らく、法も、常識も、武器も、何もかも違うだろう。

 

「でも、先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう」

 

……どこから出るんだか、その信頼は。

俺はただのおじさんだってのに。

 

「あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」

 

……連邦生徒会長、恐らくその人物が俺がここにきた理由を知ってるぽいな。

ま、その人物に会うまでは俺がここにきた理由は不明だな。

 

「ちょいと良いかい?その連邦生徒会長って人はどこに居るんだ?」

「……それは後でゆっくり説明いたします」

 

そう七神リンが言うと、チン、と音が鳴る。

どうやらエレベーターが目的の場所に着いたようだ。

それにしてもさっきの返答……ま、良くて行方不明、悪ければ死んでるかな。

 

 

 

ざわざわとしている中、一人の少女がこちらに気づき近寄ってくる。

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!……うん?隣の大人の方は?」

 

近寄ってきた青いツーサイドアップの少女が言う。

手には現代の武器、銃火器が握られている。

……警戒はしとくか。

 

「主席行政官。お待ちしておりました」

 

青い髪の少女に続いて、今度は長い黒髪の少女が七神リンに話しかける。

その少女には黒い翼が生えている。

翼?……ここの少女達から神性に近いものを感じ取っていたが、やっぱり天使とかの類か?

ちゃんと全員の頭上に輪っかが浮いてるしさ。

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求しています」

 

ベージュ色の少女も話しかける。

そのほかにも多くの少女達が集まってくる。

……ここはもしかして、少女しかいないのか?

さっきから少女しか見当たらないだよなぁ。

 

「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

 

そう呟く七神リンは嫌そうな顔をしている。

というかキレてる。

 

「こんにちは。各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん」

 

やっぱりキレてる。

集まってきている少女全員が銃火器を持っているってのに……乱闘になったら面倒なんだけどねぇ。

 

「こんな暇そ……大事な方々が訪ねてきた理由は、よく分かっています。今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」

 

喧嘩腰で言い放つ七神リン。

俺はあの子の認識を正しておくかな。

 

「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!この前なんか、うちの風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

 

青いツーサイドアップの少女が言う。

風力発電所……なんのことだ?結構聖杯の知識は不足してるな。

 

「連邦矯正局で停学中の生徒達について、一部が脱走したという情報もありました」

 

ここで言う停学っていうのは、恐らく囚人とかと同義だろう。

 

「スケバンのような不良達が登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」

 

治安の維持が難しくなっている、か。

全員が銃火器を持っているなら、そうなりそうな気がするけどなぁ。

もし国民全員が槍と盾を常に保持している状態じゃ、治安は良くないだろう。

と、俺は少女達の話を頭で整理していく。

 

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

……戦車やヘリコプター?

聖杯の知識では、それらは軍隊が保有するものだったはずだ。

それらが不法流通しているのは大問題だろう。

 

「ここは戦争の時と比べて治安はそんなに変わらないか……」

 

思わず言葉をこぼす。

あ〜あ、これはまた厄介な時代に呼ばれたもんだ。

 

「……」

 

七神リンの視線がこちらに動く。

聞こえてたか?

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も顔を見せないの!?今すぐ合わせて!」

 

青いツーサイドアップの少女が畳み掛けるように七神リンに言い放つ。

 

「……」

 

七神リンは少しの沈黙の後、覚悟を決めたように前を見る。

 

「連邦生徒会長は今、席におりません。……正直に言いますと、行方不明になりました」

 

行方不明、まあまだ希望のある方で良かったか。

 

「……え!?」

「……!!」

「やはりあの噂は……」

 

三者三様の反応を示す中、七神リンは語り続ける。

 

「結論から言うと「サンクトゥムタワー」の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」

 

連邦生徒会は行政制御権を持っている……そしてそれほどの権力を持っている組織のトップが行方不明。

国で言う、ある日国王が行方不明になったようなものか。

 

「認証を迂回できる方法を探していましたが……先ほどまで、そのような方法が見つかっていませんでした」

「それでは、今は方法があると言うことですか、主席行政官」

「はい」

 

……この流れは厄介ごとに巻き込まれる流れだな。

国王の代わりに何かをする、こういう流れ知ってるぞ?

 

「この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

 

あ〜あ、また厄介ごと背負っちまったぜ……。




基本的に全部エミュ精度は低いですが……ヘクトールに先生をして欲しかったんです。

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