ヘクトール先生   作:パリス君

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便利屋との邂逅

「いやぁー、悪かったてば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

「怒ってません……」

「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー⭐︎」

「赤ちゃんじゃありませんからっ」

 

俺たちはアヤネの説教の後、セリカのアルバイト先である、柴関ラーメンに来ていた。

俺の対面の席では、ホシノとノノミがアヤネの両隣に座り、ムスッとしているアヤネの口を拭いたり、手を合わせながら怒らないように懇願している。

少しすると、注文を受けにきたアルバイトの服を着たセリカが話す。

 

「……なんでもいいんだけどさ。なんでまたウチに来たの?」

「いやー柴関ラーメンは良い店だからねぇ、みんなで食事するならココしかないと思ってねぇ」

「……空いてるとはいえ、他のお客さんもいるんだし、騒ぎすぎないでね」

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

 

シロコの問いにアヤネは口をもごもごさせながら答える。

 

「ふぁい」

 

その時、ガタッ、ガララッという音が店内に響く。

入口の方に視線を移すと、少し暗めな雰囲気の紫色の髪をした少女が立っていた。

すぐさま入店した客の対応に行くセリカ。

 

「……あ……あのう……」

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

「……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

「一番安いのは……580円の柴関ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

「あ、ありがとうございます!」

 

そう言い終えた後、ガララッと少し急いで扉を開け、少女は足早に店の外に出た。

外に友人を待たせているのだろう。

数秒後、もう一度ガララッと音を立てて、紫色の髪をした少女は、三人の少女を連れて店内に戻ってきた。

 

「ん?」

「えへへっ、やっと見つかった、600円以下のメニュー!」

「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

「そ、そうでしたか、さすが社長、なんでもご存知ですね……」

「はあ……」

 

最初に嬉しそうに入店したのは、大きなカバンを手にした、白い髪を花弁状の髪飾りでサイドテールにしている少女。

次に入店したのは、紫色の髪をした少女がそばにくっつき、社長と呼んだピンク色の長髪に、二本の角が耳の後ろ辺りから生えている少女。

そしてため息をつきながら最後に入店したのは、白と黒の色を持つ髪を高めでポニーテールにしている少女だ。

……四人とも制服から察するに、ゲヘナの生徒だろう。

 

「4名様ですか?お席にご案内しますね」

「んーん、どうせ1杯しか頼まないし大丈夫」

 

白い髪をサイドテールにした少女がそう言った。

 

「1杯だけ……?でも……どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いている席も多いですし」

「おー、親切な店員さんだね!ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。あ、わがままのついでに、箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん」

「えっ?4膳ですか?ま、まさか1杯を4人で分け合うつもり?」

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!!お金がなくてすみません!!」

 

紫色の髪をした少女がそう言った。

何度も頭を下げて謝られたセリカは、予想外の反応に戸惑っている。

 

「あ、い、いや……!その、別にそそう謝らなくても……」

「いいえ!お金がないのは首がないのも同じ!生きる資格なんてないんです!虫ケラにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません……!」

「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」

 

大きな声で謝り続けるハルカと呼ばれた少女を止めたのは、白と黒の髪をポニーテールにした少女だった。

彼女はあの四人の中で最も冷静な、ブレーキ役だろう。

……一人は必要だよなぁ、冷静なブレーキ役は。

 

「そんな!お金がないのは罪じゃないよ!胸を張って!」

「へ?……はい!?」

「お金は天下の回りもの、ってね。そもそもまだ学生だし!それでも、小銭をかき集めて食べにきてくれたんでしょ?そう言うのが大事なんだよ!」

 

自分達との共通点を見たのだろう、熱く語るセリカ。

やっぱり良い子だ。

 

「もう少し待っててね。すぐ持ってくるから」

「……何か妙な勘違いをされてるみたいだけど?」

「まあ、私たちもいつもはそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね。しいて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」

「『アルちゃん』じゃなくて社長でしょ?ムツキ室長、肩書はちゃんとつけてよ」

 

アルと呼ばれたのは、先ほどまで社長と呼ばれていたピンク色の長髪の少女だった。

そして、ムツキと呼ばれたのは白い髪をサイドテールにした少女だった。

 

「ん?だってもう仕事は終わった後じゃん?ところで、社長のクセに社員にラーメン1杯奢れないなんて」

「……」

「今日の襲撃任務に投入する人員を雇うために、ほぼ全財産使っちゃったし……」

 

襲撃任務?

念の為、警戒しておいた方が良いか。

 

「ふふふ。でもこうして実際ラーメンは口にできてるわけでしょ?それぐらいは想定内よ」

「たったの1杯分じゃん。せめて4杯分のお金は確保しておこうよ……」

「ぶっちゃけ、忘れたんでしょ?ねえ、アルちゃん。夕飯代取っておくの、忘れたんでしょ?」

「……ふふふ」

「はあ。ま、リスクは減らせたほうがいいし。今回のターゲットは、ヘルメット団みたいなザコみたいには扱えないってことには同意する。でも全財産をはたいて人を雇わなきゃいけないほど、アビドスは危険な連中なの?」

「それは……」

 

なるほどな、襲撃任務の相手はアビドスか。

あの四人は今のところ、敵だ。

しかし、あの四人がアビドスを狙う理由は不明、雇われている確率の方が高いな。

 

「多分アルちゃんもよくわかってないと思うよ。だからビビっていっぱい雇ってるんだよ」

「誰がビビってるって!?全部私の想定内!」

「失敗は許されない。あらゆるリソースを総動員して臨むわ。それが我が便利屋68のモットーよ!」

「初耳だね、そんなモットー……」

「今思いついたに決まってるよ」

「うるさい!じゃあ今回の依頼を成功させて報酬が手に入ったら、すき焼きにするわ!だから気合を入れなさい、みんな!」

 

報酬、雇われているのか。

なら、あの四人を制圧したところで問題が解決するわけではないかぁ。

やれやれ、黒幕がのこのこラーメンを食いに来るわけないか。

 

「すっ……すき焼きとはっ……!?それは一体!?」

「大人の食べ物だね、すごく高価な……」

「う、うわあ……私なんかが食べていいものなんでしょうか?食べた後はハラキリですか……?」

「ふふふ。うちにみたいなスゴい会社の社員なら、それぐらいの贅沢はしないとね」

「へえ〜やる気満々じゃん、アルちゃん」

「『アルちゃん』じゃなくて、社・長!!」

「はい、お待たせしました!熱いのでお気をつけて!」

 

ダンッ!と机に置かれたのは、これでもかと麺とトッピングが大盛りされたラーメンだった。

そのラーメンを目にして驚いている四人を、他の席の客は微笑ましそうに見ている。

……本当に良い店だ。

 

「ひぇっ、何これ!?ラーメン超大盛りじゃん!」

「ざっと、10人前はあるね……」

「こ、これはオーダーミスなのでは?こんなの食べるお金、ありませんよう……」

「いやいや、これで合ってますって。580円の柴関ラーメン並!ですよね、大将?」

「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」

「大将もああ言ってるんだから、遠慮しないで!それじゃ、ごゆっくりどうぞー!」

 

そう言い、セリカは笑顔でその席を後にする。

 

「う、うわあ……」

「よくわかんないけど、ラッキー!いっただきまーす!」

「……ふふふ、さすがにこれは想定外だったけど、厚意に応えて、ありがたく頂かないとね」

「食べよっ!」

 

四人はズズズズズーッと嬉しそうにラーメンを食べた。

 

「「「「!!」」」」

「お、おいしいっ!」

「なかなかイケるじゃん?こんな辺ぴな場所なのに、このクオリティなんて」

「でしょう、でしょう?美味しいでしょう?」

 

スッと四人に語りかけたのはノノミだった。

 

「あれ……?隣の席の……」

「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ」

「ええ、わかるわ。色んな所で色んなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの」

「えへへ……私たち、ここの常連なんです。他の学校のみなさんに食べていただけるなんて、なんか嬉しいです……」

 

そう言ったのはアヤネだった。

そして続いてシロコが語りかける。

 

「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね」

「私、こういう光景を見たことがあります。一杯のラーメン、でしたっけ……」

「うへ〜、それは一杯のかけそばじゃなかったっけ?」

 

ホシノも会話に参加し、いよいよ俺の居る席には誰も居なくなった。

まあ、オジサンが少女達の会話に入るもんでもないだろう。

アルやハルカ達とアビドスメンバーが話している中、白と黒の髪をポニーテールにした少女がムツキにコソコソと話しかける。

 

「……連中の制服……」

「あれ、ホントだねカヨコちゃんl

 

カヨコと呼ばれた白と黒の髪をポニーテールにした少女とムツキは、自分達が今話している相手がアビドスの生徒たちだと、気づいたようだ。

一方でアルは。

 

「うふふふっ!いいわ、こんなところで気の合う人たちに会えるなんて。これは想定外だけど、こう言う予測できない出来事こそ人生の醍醐味じゃないかしら」

 

非常に楽しそうにアビドスメンバーと話している。

 

「アルちゃんは気付いてないみたいだけど?」

「……言うべき?」

「……面白いから放っておこ」

 

ムツキの発言を聞き、カヨコはもう一度アルに視線を移す。

相当仲良くなったのか、屈託のない笑顔で握手までしている。

 

「……」

 

カヨコはまったく、といった顔をした。




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