ヘクトール先生   作:パリス君

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シャーレを目指す

「この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

 

七神リンは目の前に集まっている少女達に言い放った。

 

「!?」

「!」

「この方が?」

 

反応は三者三様だ。

 

「おじさん、そんな話聞いてないんだけどなぁ……」

「ちょっと待って。そういえばこの先生はいったいどなた?どうしてここにいるの?」

「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」

 

俺に指をさしながら七神リンに問いかける青いツーサイドアップの少女と、もう状況を理解したのであろう長い黒髪の少女。

七神リンは青いツーサイドアップの少女の方を向き語り始める。

 

「はい。こちらのヘクトール先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

「行方不明になった連邦生徒会長が指名……?ますますこんがらがってきたじゃないの……」

 

どうやら状況があまり理解できていないのは、青いツーサイドアップの少女以外の少女も同じらしい。

……ひとまず挨拶はしとくか。

 

「いよ!オジサンはヘクトール。ま、よろしくな」

 

ま、最初はこのぐらい軽い挨拶で良いだろう。

……真名も気にしなくて良さそうだしな。

 

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……い、いや、挨拶なんて今はどうでもよくて……!」

 

そう言って青いツーサイドアップの少女は途中で自己紹介を止めてしまった。

名前ぐらいは把握しときたかったが……ま、良いか。

……それにしてもやっぱ根が良い子だなぁ、あの子。

面倒見がいいタイプか。

 

「そのうるさい方は気にしなくて良いです。続けますと……」

「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」

 

あ、結局名前教えてくれるのか。

早瀬ユウカ、ね。

 

「ユウカお嬢さんね、よろしくな」

「お、お嬢さんは結構です」

 

なら、今度からはユウカと呼ぶかな。

七神リンは、挨拶を交わし終えた俺たちを確認し、話を続ける。

 

「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることなりました」

 

そして、七神リンはその名を告げる。

 

「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒達を、際限なく加入させることも可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行う事も可能です」

 

は〜なんでもありな組織だなぁ。

というか、やっぱり戦闘はあるのね。

 

「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが…… シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。

今は殆ど何も無い建物ですが、連邦生徒会長の命令でそこの地下に「とある物」を持ち込んでいます」

 

そう言い終えると、七神リンは俺の方を向く。

 

「先生を、そこへお連れしなければなりません」

 

ま、流れ的にはそうだよな。

まあ、約30kmなら徒歩で行ける距離だし仕方ないかねぇ。

そんな俺をよそに、七神リンはタブレットで何者かに話しかける。

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」

 

モモカと呼ばれた少女は、タブレットから映像の姿で現れた。

……あんな技術もあるのか。

面倒だが、聖杯の知識だけでは足りないし、俺も後で色々知識をつけるかな。

そんなことを俺が考えていると、モモカと言う少女が話し始める……てか、なんか食ってたろ。

 

「シャーレの部室?……ああ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?」

「大騒ぎ……?」

「矯正局を脱走した停学中の生徒が騒ぎを起こしてるの。そこは今戦場になってるよ?」

「……うん?」

 

七神リンは知らなかったのだろう、顔つきが鋭くなっている。

 

「連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良達を先頭に周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れて来たみたいだよ?」

 

戦場、焼け野原、巡航戦車……と言うのは恐らく、強力な武器だろう。

やれやれ、こりゃあ戦闘になるな。

 

「それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしているらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるような動きだけど?」

「……」

 

七神リンはもはや何も言葉を発さない。

 

「まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ご飯のデリバリーが来たから、また連絡するね!」

 

そうモモカが言い終えると、ブツッ、という音と共にモモカの映像が消える。

 

「…………」

 

七神リンはプルプルとしていて、苛立ちを隠せていない。

まぁ、分かるぜ?

なんでこんな時に問題が起こるんだよ、的な感情だろう。

 

「深呼吸でもするかい?」

「……だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことはありません」

 

大したことありそうな顔してるけどねぇ?

そんな七神リンは何か思いついたようで、じー、っとユウカ達のいる方を見つめる。

その口元は少し微笑んでいる。

……悪い顔だ。

 

「……?」

「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」

「……え?」

「キヴォトス正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

 

そう言い終えた七神リンは、困惑する多くの少女を置いて歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと待って!?ど、どこに行くのよ!?」

 

ユウカは七神リンの背にそう問いかけ、後を追う。

 

「や〜れやれだ」

 

 

 

 

 

ヒュオオオオーーー!!

風の音がする。

ドカアアァァァァン!

爆発の音がする。

 

「な、なに、これ!?」

 

そう叫ぶユウカの視線の先では、タタタタタタッ!!、っと銃を乱射する少女達の姿があった──

──そう、少女しかいない。大人どころか男性も一人も居ない。

大人や男性が居ないわけではないんだろうが……俺の「先生」と言う立場から察するに、「生徒」は少女しか居ないと言う認識でいいのだろう。

俺の常識と大きく異なるんだから、聖杯はそのぐらいの知識ぐらいくれよなぁ?

そうした考察を俺が立てていると、ユウカが叫ぶ。

 

「なんで私たちが不良達と戦わなきゃいけないの!!」

 

ユウカの叫びを聞いて改めて理解したが、やはり少女達が銃を持つ理由は戦うからか。

あの場に居た全員が、たまたま、銃が好きな少女達の集まりだった……と言う説もあったが、ま、そんなわけないよなぁ。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……」

「それは聞いたけど……!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が……!」

 

そう嘆くユウカに、一人の不良が銃口を向け、パパパパパッ!、っと銃弾が放たれる。

ここの常識は分からないが、ユウカ達があの銃弾を受けて無事でいられる、という保証はないな。

そう結論を出し、すぐさま「ドゥリンダナ」を実体化させる。

そしてドゥリンダナを回転させるようにし、その銃弾を弾く。

……流石に魔力は扱えるか。

魔力が扱えないんじゃ、この槍を使えないからな……ま、そんときには道路標識か防護柵でも武器にするか、石でも最悪良いしな。

 

「ユウカ、周りには気をつけないとな。いつ攻撃されるかわからないんだからよ」

「あ、ありがとうございます。先生」

 

ユウカが感謝を述べている間に、長い黒髪の少女がこちらを射撃してきた不良を狙撃していた。

その銃弾は頭に当たったようだ。

 

「あの子は死んだのかい?」

 

そう俺は狙撃をした長い黒髪の少女に問いかけた。

そこそこシリアスな問いだったと思うんだが、その少女は困惑したように返答する。

 

「……?いえ、気を失っただけかと」

 

その返答である程度は理解できた。

恐らく、ここの少女達……それこそ頭上に輪っかのある少女達は、肉体の強度がサーヴァント並に高いのだろう。

神性を感じるのもきっとそこに関係するのだろう。

……俺の出力は通常の聖杯戦争より落ちてるし、うっかり殺しちまうなんてことは起きなそうで安心したぜ。

あぁ、それでもドゥリンダナで殴ったりするのは危険か?

そんなことを思いつつ最後に俺は、長い黒髪の少女に問いかける。

 

「一つ確認して良いか?」

「なんでしょうか?」

「お嬢さん達は、あの銃弾を喰らっても致命傷にはならないって認識でいいかねぇ?」

「はい。あそこに居るユウカを見ていただければ一目瞭然かと」

 

そう言い指を刺した方向には、銃弾を受けているユウカが居た。

 

「いっ、痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾を使ってるんじゃない!?」

 

槍を楽に構える。

あの調子なら別に大丈夫か?

ま、でも痛がってるし支援はするか。

そうしているうちに長い黒髪の少女はユウカの近くまでより話し始める。

 

「伏せてください、ユウカ。それにホローポイント弾は違法指定されていません」

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」

 

……今の若者は頑丈だなぁ。

 

「今は先生が一緒なので、その点に気をつけましょう。先生を守る──」

「あ、オジサンのことは気にしなくて大丈夫だぜ?あのくらいはただのおじさんでも弾けるし、避けれるからね」

「ハスミさん……ヘクトール先生は大丈夫そうです。弾丸一つ当たっていません」

「それでも、先生に何かあったら危険です!先生、先生はなるべく戦場に出ないでくださいね」

 

お、それでもおじさんの身を案じてくれるのかい?あの子は。

ただ、何もしないわけにもいかないしねぇ。

 

「なら、オジサンは指揮をするかな。おじさんこう見えても指揮の経験はあるんだぜぇ?」

 

敵の少女達に重傷を負わせず、ユウカ達に貢献できる。

これが最適解だろう。

銃撃を何度か見て、銃の種類とその射程はある程度把握もできたしな。

……ま、ユウカ達が危なくなったら戦場に出て助ける気ではあるが。

 

「え、ええっ?戦術指揮をされるんですか?まあ……先生ですし……」

「分かりました。これより先生の指揮に従います」

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」

「よし、じゃあ行ってみましょうか!」

 

 

 

 

 

「なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします……」

 

白い髪の少女が言う。

その言葉に反応したのはユウカだ。

 

「……やっぱりそうよね?」

 

ユウカの言葉に今度は長い黒髪の少女が反応する。

 

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」

「なるほど……これが先生の力……まあ、連邦生徒会長が選んだ方だから当たり前か……」

「それでは次の戦闘もよろしくお願いします。先生」

「オジサンは普通に指揮してただけなんだけどねぇ」

 

ユウカ達の指揮をしながら、石を拾って、ユウカ達が気づいていない敵に少し弱めで投げる。

俺がしていたのはこれぐらいなんだが。

あ、ドゥリンダナをとりあえず霊体化させておく……マスターがいない分、結構魔力に余裕はないからな。

そうして、戦闘が終わった少女達を見ているとユウカが話しかけてきた。

 

「ヘクトール先生。貴方は、一体何者なんですか?先ほどの槍といい、右腕の重厚な義手?も、只者とは思えません」

 

ユウカの言葉で少女達の視線が俺に集まる。

 

「ただのオジサンだよ」

 

そんなわけあるか!と言う視線が突き刺さった。




誰かが撤退したら、ヘクトール先生が回収に行きます。

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