ヘクトール先生   作:パリス君

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シッテムの箱

俺たちは戦闘を終えた後、走ってシャーレに向かっていた。

戦闘がなかったから、少女たちの名前やここの知識をある程度把握できたのは大きいな。

……それにしてもやっぱり、ここの少女たちはサーヴァントぐらいの瞬発力とスタミナを持っているなぁ。

恐らく、あの華奢な腕でももサーヴァントぐらいの腕力はあるのだろう。

 

「もうシャーレの部室は目の前よ!」

 

ユウカが言った。

……え?かなり高くない?

ユウカの視線にはかなり高い建造物がある。

あれが高層ビルってやつかぁ。

 

「今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました」

 

七神リンから連絡が入る。

テロの主犯が分かったようだ。

そして、七神リンはその少女の名を告げる。

 

「ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です」

 

ワカモ、その子を倒せば相手の士気ぐらいは下がるかな。

 

「似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気をつけてください」

 

かなりの手練れってわけか、面倒だねぇ。

 

 

 

 

 

「……あらら。連邦生徒会は来ていないみたいですね。フフッ、まあ構いません」

 

シャーレの目の前で、狐の面をした少女が言う。

 

「あの建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしている物と聞いてしまうと……壊さないと気がすみませんね……あぁ……久しぶりのお楽しみになりそうです、ウフフフ♡」

 

狐の面の下で、彼女は一体どんな顔をしているのか。

 

 

 

 

 

「着いた!!」

 

ユウカが嬉しそうに言う。

 

「はい」

 

長い黒髪の少女──ハスミもどこか嬉しそうだ。

 

「『シャーレ』部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう」

 

七神リンからの連絡が入る。

その連絡を受け、俺たちはシャーレへ歩を進める。

……それにしても、下から見るとこのビルの高さを実感するなぁ。

 

 

 

「うーん……これが一体何なのか、まったく分かりませんね。これでは壊そうにも……あら?」

 

シャーレの地下に入って早々に一人の少女と出くわしてしまった。

狐の面をしている着物風の制服を着た少女だ。

少女は不思議そうにタブレットを観察しているが……間違いなく手練れだな。

これまで見てきた少女の中では、最も強いだろう。

あれが、ワカモ、って子かぁ。

やれやれ、面倒だし戦わずにタブレットを渡してくれないかなぁ。

 

「そこのお嬢さん。その手に持ってるタブレットをおじさんに渡してはくれないかい?」

 

俺の呼びかけに気づいたワカモはこちらをに気づきじっくりと俺の顔を見ている。

 

「あら、あららら……」

 

……どういう反応だ?

だが、銃を構えていないということは一応、今のところは敵意はないか。

 

「……」

「……?」

「あ、ああ……」

 

なんだなんだ?

狐の面で顔がよく分からず、少女がどういった感情なのか、いまいち把握しづらい。

 

「し、し……失礼いたしましたー!!」

 

ワカモはタブレットを放り投げ、どこかへ走って行ってしまった。

……?

まあ、戦わずに済んだなら良しとするか?

 

 

 

「お待たせしました」

 

少し経った後、七神リンがやってきた。

 

「……?何かありましたか?」

「いやぁ、特に何もなかったぜぇ」

 

一応、ワカモのことは黙っとくか。

余計な戦いは疲れるだけだしな。

 

「……そうですか。ここに、連邦生徒会長が残したものが保管され……」

 

七神リンはそこまで言うと、地面に落ちているタブレットに視線を移す。

それを拾い上げ、状態を確認する。

 

「……幸い、傷一つなく無事ですね」

 

……さっき放り投げてたけどなぁ。

タブレットは頑丈な作りらしい。

 

「……受け取ってください。これが、連邦生徒会長が先生に残した物。『シッテムの箱』です」

 

シッテムの箱ねぇ。

 

「普通のタブレットに見えますが、実は正体のわからない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みの全てが不明」

 

正体不明、それこそ一番警戒すべきな気がするがねぇ。

 

「連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」

 

……俺はタブレットの起動方法なんて知らないんだけどなぁ。

 

「では、私はここまでです。これから先は、全て先生にかかっています。邪魔にならないよう、離れています」

 

そう言って七神リンは離れていってしまう。

……。

一応、起動できそうなボタンを押してみるかねぇ。

そして、俺がボタンを押した瞬間──

──シッテムの箱が起動し、眩しい青色の画面が映し出される。

 

 

 

「…Connecting to the Crate of Shittim…システム接続パスワードをご入力ください」

「……パスワードか……」

 

その時、俺の脳裏にある文章が浮かび上がる。

 

……我々は望む、七つの嘆きを。……我々は覚えている、ジェリコの古則を

 

なんだ?この文章は。

俺の生前の記憶にも、サーヴァントとしての記憶にもない。

 

「……。接続パスワード認証。現在の接続者情報はヘクトール、確認できました」

「『シッテムの箱』へようこそ、ヘクトール先生。生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.A.に変換します」

 

その瞬間──俺の意識は「シッテムの箱」に吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

見たこともない教室で、ひとりの少女が机の上にうつ伏せで居眠りしている。

 

教室は半壊しており、上を見れば綺麗な空が見える。

外には綺麗な青い海が広がっている。

ここを俺の知るもので例えるなら、「固有結界」と言えるだろう。

 

「くううぅぅ……Zzzz」

 

……起こしたほうが良いか?

 

「むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……くううう……Zzzzzzz」

 

幸せそうな顔をして寝ている。

寝言から察するに食べ物関係の夢を見ているのだろう。

 

「えへっ……まだたくさんありますよぉ……」

 

本当に幸せそうだが、起こさなければならない。

「これから先は、全て先生にかかっています」なんて言われてしまっちゃあ、キッチリやらなきゃな。

俺は優しく少女の肩を持ち揺らす。

 

「申し訳ないが起きてくれ〜」

「うへ……うへ……ひへ!?」

 

少女は驚いたのか勢いよく立ち上がる。

しかし顔はまだ眠そうだ。

 

「むにゃ……んもう……ありゃ?」

 

ようやく俺に気ついたようだ。

 

「ありゃ、ありゃりゃ……?」

 

まだ脳が起きていないのか状況を把握できていない様子だ。

 

「え?あれ?あれれ?せ、先生!?」

 

お、ようやく脳も起きたか。

 

「この空間に入ってきたっていうことは、ま、ま、まさかヘクトール先生……?!」

「そう、おじさんの名前はヘクトールだよ。お嬢さんは誰かな?」

「う、うわああ!?そ、そうですね!?もうこんな時間!?」

 

少女はかなり慌てている。

ん?あの頭上に浮いてる輪っか、この子のやつは感情によって形が変化するのかぁ。

 

「うわ、うあああ?落ち着いて、落ち着いて……えっと……その……あっ、そうだ!まず自己紹介から!」

 

少女は落ち着いたようだ。

 

「私はアロナ!この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

 

少女は、アロナ、という名前のようだ。

ま、「メインオペレートシステムA.R.O.N.A.に変換します」とか言ってたし、予想通りだったなぁ。

 

「やっと会うことができました!私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」

 

アロナはとても嬉しそうな笑顔で言う。

……待っていたかぁ。

 

「おじさんには、寝ていたように見えたけどねぇ?」

「あ、あうう……もちろんたまに居眠りしていたこともあるけど……」

「はっはっはっ可愛らしくて良いじゃないか。アロナお嬢さん、よろしくな」

「はい!よろしくお願いします!それと……アロナ。で良いですよ!」

「そうかい?じゃあ、アロナと呼ばせてもらおうかな」

「あ、それと……まだ身体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調節が必要なのですが……これから先、頑張って色々な面で先生のことをサポートしていきますね!」

 

アロナは元気よく言う。

サポートしてくれるのは助かるなぁ。

 

「あ、そうだ!ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います♪」

「生体認証?どうやってやるんだい?」

「うう……少し恥ずかしいですが、手続きだから仕方ないんです。こちらの方に来てください」

 

アロナの言葉に従い、アロナの方へ歩み寄る。

 

「さあ、この私の指に、先生の指を当ててください」

 

俺はアロナが差し出した人差し指の指先に、自分の人差し指をあてる。

 

「うふふ。まるで指切りして約束するみたいでしょう?」

 

指切りねぇ、聖杯の知識では約束のしるしだったか。

 

「実は、これで生体情報の指紋を確認するんです!」

「アロナは凄いんだねぇ」

「そうなんです!!私は凄いんですよ!待っていてくださいね?すぐ終わります!こう見えて目は良いので」

 

そう言って自分の指先を確認するアロナ。

指紋が見えるほど目が良いなんて、千里眼に近いんじゃないか?

 

「どれどれ……うう……」

 

アロナは目を細めている。

……あんまよく見えなかったんだろうなぁ。

目を閉じ、ニコッ、とするアロナ。

……まあ、これでいいかなぁ、って感じの表情だな。

 

「……はい!確認終わりました♪」

「……アロナ。お前さん、見えなかったろ?」

「え!見えましたよ!ちょーっと、見えずらいなぁーとは思いましたけど……」

「ま、おじさんの時代には指紋認証なんて出来なかったからなぁ。お前さんは十分凄いぜ?」

「……アロナは役に立つって信じてます?」

 

……ちょろくない?この子。

ま、子供らしいっちゃ子供らしいか。

 

「あぁ、信じてるぜ。お前さんならどんな事でも解決してくれる最高の相棒だってな」

「最高の相棒!!はい!アロナはどんな事でも解決できます!!」

「じゃあ、行方不明になった連邦生徒会長の事は知ってるかい?」

「え!?……私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが……連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも……お役に立てず、すみません」

 

……ここまで情報が無いとなると、連邦生徒会長という人物は自分の情報を意図的に秘匿しているのか。

アロナはしょんぼりとした顔をしている。

 

「さっきのはダメ元で聞いただけだし、気にしなくて良いぜ?お前さんに一番頼みたい事は別にある。

「うん?一番頼みたい事ですか?」

「今、サンクトゥムタワーを制御する手段がなくなって大騒ぎになってる。これをどうにかする方法はあるかい?」

 

ぱあぁ、っとアロナの顔が晴れる。

 

「それなら解決できます!」

「じゃあ任せたぜ、アロナ」

「はい!分かりました。それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!少々お待ちください!」

 

やっぱ、子供には笑顔が一番似合う。

 

「……。サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……」

 

アロナは数秒でサンクトゥムタワーの問題を解決した。

予想以上の速さで解決したなぁ。

 

「先生。サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります。今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です!」

「なら、その制御権を連邦生徒会に渡してくれ」

「でも……良いんですか?連邦生徒会に制御権を渡しても……」

「ああ、良いんだよ。ただおじさんにはそんな物は不要だからねぇ」

 

俺はアロナの頭を撫でながら言った。

そんな強大な権力は個人が保持するものじゃないからな。

 

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

「……あぁ、それと俺はどうやってここから出れば良いんだい?」

「それなら、教室から出ることで元の場所へ戻ることができます!」

「ありがとよ。じゃあ、おじさんは一旦戻るぜ」

 

俺はアロナに背を向けて教室を去った。




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