ヘクトール先生   作:パリス君

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セリカの平凡な一日

「……9億6235万円、です。アビドス……いえ、私たち『対策委員会』が返済しなくてはならない金額です」

 

アヤネが正確な金額を言う。

9億かぁ、流石にただの学生五人が返済する金額としては、あまりにも金額が大きすぎる。

 

「これができないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります……ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く……ほとんどの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました……」

 

アヤネはそう語る。

生徒がいなくなった理由は、この借金かぁ。

借金、こりゃ厄介だな。

 

「そして私たちだけが残った」

「学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実はすべてこの借金のせいです」

「そんな借金をした理由はなんだい?」

「借金をすることになった理由ですか?それは……」

 

そう言ったアヤネは借金までの経緯を語る。

 

「数十年前、この学区の郊外にある砂漠で、砂嵐が起きたのです。この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。学区のいたる所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい。その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした……。しかしこのような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず……」

「結局、悪徳業者に頼るしかなかった」

 

結末をシロコが言う。

自然災害によって砂が溜まり、その対策に巨額の資金が必要だったが、融資してくれる銀行は見つからず、悪徳業者に頼った。

……悪徳業者が、そんな生徒達を逃すわけがない。

シロコの言葉に同意しながらアヤネは再び語り始める。

 

「……はい。最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手がつけられないほど悪化の一途をたどりました……そしてついに、アビドスの半分以上が砂に飲まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです……」

「……」

「……」

 

アヤネの話を聞いている他の二人も暗い表情をしている。

しかし、これは自然災害なのか?砂嵐の規模が巨大化するタイミングが偶然とは言い切れないようなタイミングだ。

まるで意図して引き起こされた、それこそ神に近しい……いや、不運なだけの可能性もあるが。

 

「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……弾薬も補給品も、底をついてしまっています」

「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて」

「……まあ、そういうつまらない話だよ。で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけー」

 

そう明るく話すホシノ。

数十年前、砂嵐が起き、それから毎年更に巨大な規模で砂嵐が発生した。

……ホシノの抱えている問題は、ここに関連するものか?単純に学校が廃校になりそうなことではないだろう、それよりもっと身近、より人の心に影響を与えるものか。

……観察しすぎるのは悪い癖かなぁ、生徒のプライバシーまで考え込むなんて。

ホシノは話し続ける。

 

「もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくていいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし」

「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」

「なーに若い子達が遠慮してんの。オジサンはどんな厄介ごとを持ってこられようが、見捨てるなんてことはしないぜ?」

「そ、それって……あ、はいっ!よろしくお願いします、先生!」

「へえ、先生も変わり者だねー。こんな面倒ごとに自分から首を突っ込もうなんて」

 

そう話すホシノ。

……最初よりは信頼されてるかな。

確かに、厄介ごとは面倒なんだが……愛すべき生徒達が困ってるんだ、助けるに決まってるさ。

……ま、恥ずかしくて言えたもんじゃないがなぁ。

嬉しそうなアヤネが話す。

 

「良かった……『シャーレ』が力になってくれるなんて。これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」

「そうだね。希望が見えてくるかもしれない」

 

シロコも嬉しそうに話す。

 

 

 

 

壁に寄りかかり廊下で話を聞いていたセリカは小さく呟く。

 

「……ちぇっ」

 

そうして、戸惑いの表情を浮かべながら、セリカは歩き出した。

 

 

 

一方、セリカを探しに校門の前まで来ていたノノミ。

 

「セリカちゃん……どこにいるのかしら……」

 

心配するノノミはセリカを再度探す。

 

 

 

 

 

俺はアビドス高等学校の顧問になり、本格的にアビドスの問題と向き合うため、アビドスの住宅街に泊まることとなった。

普通のアパートだが……ほぼシャーレの部室で寝泊まりしている俺にとっては、むしろ家のグレードは上がっている。

いや、シャーレの部室も快適なんだけどねぇ……色々問題もあるからなぁ。

そんなアビドスの住宅街で、知っている顔に出会った。

 

「うっ……な、何っ……!?」

「おはよう!なんだい?朝からオジサンの顔を見るのは不満かい?」

「な、何が『おはよう!』よ!なれなれしくしないでくれる?私、まだ先生のこと認めてないから!」

 

そう言うセリカは話し続ける。

 

「まったく、朝っぱらからのんびりうろついちゃって。いいご身分こと」

「そんなセリカお嬢様はこれから学校かい?」

「な、何よ!なんで『お嬢様』で呼んでんのよ!私が何をしようと、別に先生とは関係ないでしょ?」

 

こっちの方がセリカは気軽に話しやすいかと思って話し方を変えたが……なぜか記録に残っている、どこぞの大海賊のようには流石にできないな。

流石のインパクトだが、アレはちょいと恥ずかしすぎる。

黒い髭を生やした海賊が脳裏を過ぎる中、セリカはまだ話し続ける。

 

「朝っぱらからこんなところをうろちょろしてたら、ダメな大人の見本みたいに思われるわよ?じゃあね!せいぜいのんびりしてれば?私は忙しいの」

「学校に行くなら、一緒に行かないかい?」

「え?一緒に?あのね、なんで私があんたと仲良く学校に行かなきゃならないわけ?」それに悪いけど今日は自由登校日だから、学校に行かなくても良いんだけど?」

「それなら、どこに行くんだい?」

「そんなの教えるわけないでしょ?じゃあね、バイバイ」

 

そう言い、セリカは手を小さく振ると、砂埃を立てながら走り去っていった。

ま、荷物的にどこかのバイトだろうが……一応追いかけるか。

 

「ひゃあっ!?な、なんでついてくるの!?」

「ん?ついて行けば、どこに行くかわかる分かるからな」

「何言ってんの!?あっち行ってよ!ストーカーじゃないのっ!!」

 

それでもついてくる俺に流石に諦めたのか、セリカは話す。

 

「わかった!わかったてば!行先を教えればいいんでしょ?……バイトよ。あ、あんたみたいにのんびりしてられないのよ、こっちは。少しでも稼がなきゃ!」

 

俺の予想は当たってたみたいだな。

本当に真面目な子だなぁ、バイトで頑張ってお金を稼ごうとしているんだからなぁ。

 

「もういいでしょ?ついてこないで!

 

ま、場所が分からないんじゃあ、打ち解けづらいからなぁ。

……あんまやる気は出ないが、もうちょっと続けるか。

そう思い、俺はセリカを追いかける。

 

「うう……しつこい」

「バイト先がどこか、オジサン気になってねぇ?」

「ああもうっ!意味わかんない!あっち行ってよ!ダメ大人!!あっち行けってば!ぶっ殺すわよ!?」

 

そう言うとセリカは砂埃を立てながら走り去った。

ついに「先生」から「ダメ大人」になったかぁ。

ま、こっちの方が打ち解けやすいか。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンです!」

 

そう元気良く言うセリカは、いつもの制服姿とは違うアルバイト用の服に身を包んでいた。

 

「何名様ですか?空いているお席にご案内しますね!少々お待ちください!三番テーブル、替え玉追加です!」

 

さて、俺達も入店するかな。

ガララッ、と音を立てて店の中に入る。

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで……わわっ!?」

「あの〜⭐︎五人なんですけど〜!」

「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ……」

「お疲れ」

「み、みんな……どうしてここを……!?」

 

赤面しながら困惑しているセリカをよそにホシノは話す。

 

「うへ〜やっぱここだと思った」

「いよ!」

「せっ、先生まで……やっぱストーカー!?」

「うへ、先生は悪くないよー。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん?だから来てみたの」

「ホシノ先輩かっ……!ううっ……!」

 

そう言うセリカに、犬の見た目をした二足歩行の人物が話しかける。

……最初は目を疑ったが、今はもう慣れた。

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

「あ、うう……はい、大将。それでは、広い席にご案内します……こちらへどうぞ……」

 

恥ずかしがりながらも、席へ案内したセリカ。

 

「はい、先生はこちらへ!私の隣、空いてます!」

「……ん、私の隣も空いてる」

 

ノノミとシロコ、二人に隣の席に座るように言われた俺は。

シロコの隣に座ることにした……一応、店内全体が見渡せるからな。

 

「少し狭くなるが、すまんな」

「ふむ……」

 

狭くなるのを配慮して、少し隙間を開けて座ったんだが……逆にシロコは俺の左腕にくっついてきた。

 

「狭すぎ!シロコ先輩、そんなにくっついたら先生が窮屈でしょ!もっとこっちに寄って!」

「いや、私は平気。ね、先生?」

「ま、オジサンも平気だよ?……ただシロコ、食事が来たら左腕離してね?」

「何でそこで遠慮するの!?空いてる席たくさんあるじゃん!ちゃんと座ってよ!」

「わ、分かった……」

 

そう言うとシロコは、元の俺が座った時の距離に戻る。

 

「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです⭐︎」

「いやぁー、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」

「ち、ち、ち、違うって!関係ないし!こ、ここは行きつけのお店だったし……」

 

ホシノの言葉に赤面しながら慌てるセリカ。

……図星だな。

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう?一枚買わない、先生?」

「変な副業はやめてください、先輩……」

「バイトはいつから始めたの?」

「い、一週間ぐらい前から……」

「そうだったんですね⭐︎時々姿を消していたのは、バイトだったということですか!」

も、もういいでしょ!ご注文はっ!?

 

そう大声で言うセリカにホシノは話す。

 

「『ご注文はお決まりですか』でしょー?セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃー?」

「あうう……ご、ご注文は、お決まりですか……」

「私は、チャーシュー麺をお願いします!」

「私は塩」

「えっと……私は味噌で……」

「私はねー、特製味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!」

 

各々頼んでいく。

……正直俺は、ラーメンの種類はあまり知らないからなぁ。

悩む俺にホシノは言う。

 

「先生も遠慮しないで、ジャンジャン頼んでねー。この店、めちゃくちゃ美味いんだよー!アビドス名物、柴関ラーメン!」

「んじゃ、オジサンはこの豚骨ラーメンにするかなぁ」

 

俺が注文し終え、セリカが紙に注文の品を書き終えるとセリカは言う。

 

「……ところで、みんなお金は大丈夫なので?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ⭐︎このカードなら、限度額までまだ余裕ありますし」

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。きっと先生が奢ってくれるはず。だよね、先生?」

「ま、若い子達の食事代ぐらい出せないんじゃ、かっこがつかないよなぁ。よし、しょうがねぇ。オジサンがここは奢るとするかねぇ」

「流石は先生。気前がいいねー」

 

その後、食事を終え、みんなの分まで会計を済ませた。

 

 

 

「いやぁー!ゴチでしたー、先生!」

「ご馳走様でした」

「うん、お陰でお腹いっぱい」

「早く出てって!二度と来ないで!仕事の邪魔だから!」

「あ、あはは……セリカちゃん、また明日ね……」

「ホント嫌い!!みんな死んじゃえー!!」

「あはは、元気そうで何よりだー」

「元気そうなセリカも見れたし、帰るとするかねぇー」

 

そうして俺たちは帰った。

 

 

 

 

 

「「お疲れ様ー!」」

 

店内から従業員達の声が聞こえる。

扉を開け、店から出てきたのはセリカだ。

 

「はあ……やっと終わった。目まぐるしい一日だったわ」

 

セリカはそう呟きながら歩く。

 

「みんなで来るなんて……騒がしいったらありゃしない。人が働いてるってのに、先生先生って、チヤホヤしちゃって。ホント迷惑、何なのアレ」

 

夜道を一人呟きながら歩く。

 

「ホシノ先輩、昨日のことがあったからってわざと先生を連れてきたに違いないわ!……ふざけないで。私がそう簡単に折れると思ったら大間違いなんだから」

 

夜道を歩くセリカの後ろにはヘルメットを被った二人の少女が。

 

「……」

「あいつか?」

「……はい、そうです。アビドス対策委員会のメンバーです」

「準備はいいか?次のブロックで確保するぞ」

 

 

 

「ふう……そういえば、この辺も結構人がいなくなったなあ。前はここまでじゃなかったのに。治安も悪くなった見たいだし……」

 

そう呟くセリカ。

 

「このままじゃダメだ。私たちが頑張らないと……そして学校を立て直さないと……とりあえずバイト代が入ったら、利息の返済に充てて……」

 

そんなセリカを囲むように、ヘルメットを被った少女達が現れる。

だが、セリカには気づかれないよう、一人の少女が数人の護衛と共に目立つようにセリカの前に歩み寄る。

 

「……!?何よ、あんたたち」

「黒見セリカ……だな?」

「……カタカタヘルメット団?あんたたち、まだこの辺をうろついてんの?ちょうど良かった。虫の居所が悪かったの。二度とこの辺りに足を踏み入れられないようにしてやるわっ……!!」

 

セリカがそう言い、銃を手に取ろうとした瞬間。

ダダダダダダダダッ!!、という銃声が鳴り響く。

 

「くっ、ううっ!!」(背後にも敵!?……こいつら、最初から私を……)

「捕えろ」




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