ヘクトール先生 作:パリス君
「みなさん、お疲れ様です。セリカちゃん、ケガはない?」
「うん、私は大丈夫。見てよ、ピンピンして……」
そう言うセリカだったが、ぐらっと体勢を崩す。
安全な場所に着いたことで気が緩んだのか、倒れるセリカを支える。
「おっと、危ねぇ」
「セリカちゃん!」
「私が保健室に連れていく」
俺はセリカをシロコに預ける。
シロコはセリカをおんぶし、保健室へ向かう。
「Flak41の対空砲を食らったんだもん、歩けるほうがおかしいって。ゆっくり休ませてあげよー」
「大変なことになるところでした。先生がいなかったら……」
「うんうん。先生のおかげでセリカちゃんの居場所を逃さず追跡できました。やっぱりすごいです⭐︎」
「戦闘では、重戦車を何台も無力化してくれたしねー。先生の槍、剣にもなるなんて凄いねー?」
「まあ、扱いやすい武器ではあるよぉ?ただ、いつか銃も扱えるようにした方が良さそうだ」
実際、銃が扱えれば加減が必要なく、楽に敵を無力化できるだろう。
「おじさんが教えてあげてもいいけどー?」
「時間がある時頼むぜ」
「その戦車のことなんですが……皆さんこれを見てください」
アヤネはそう言い、机の上にタブレットを置き、データを見せる。
……あの戦車についてのことだろう。
「戦闘中に回収した、散らばった戦車の部品を確認したところ、キヴォトスでは使用が禁止されている違法機種と判明しました」
俺は戦車を無力化した後、いくつかの戦車を破壊して部品を回収し、アヤネに確認を頼んでいた。
武器の出所は重要な情報だ……そして設計を知れば後々楽だしな。
「もう少し調べる必要はありますが……ヘルメット団は、自分たちでは入手できない武器まで保有しているそうです」
「この部品の流通ルートを分析すれば、ヘルメット団の裏にいる存在を探し出せますね!」
「はい。ただのチンピラが、なぜここまで執拗に私たちの学校を狙っているのかも、明らかになるかもしれません」
「うん、わかった。じっくり調べてみよっかー」
ホシノの言葉を聞き、俺たちは流通ルートの分析を始める。
……ついでに戦車の設計も確認するか。
「……格下のチンピラごときでは、あの程度が限界か。主力戦車まで送り出したというのに、このザマとは」
場所は高層オフィスビルの一室。
「ふむ……となると、目には目を、生徒には生徒を……か。専門家に依頼するとしよう」
プルルル、プルルルという音が部屋に響く。
ガチャという音が鳴った後、携帯から声が聞こえる。
「はい、どんなことでも解決します。便利屋68です」
「仕事を頼みたい、便利屋」
場所はカタカタヘルメット団のアジト。
「はあ……はあ……」
一人のチンピラが何かから逃げている。
「うわああっ!!」
タタタタタタタタンッ!!
チンピラに銃弾が浴びせられる。
「ぐうっ!!」
「あーあー、こっちは終わったよー」
白い髪を花弁状の髪飾りでサイドテールにしている一人の少女がコンテナの上に座り、何者かにそう報告する。
「こっちも制圧完了だ、ボス」
白と黒の色を持つ髪を高めでポニーテールにしている一人の少女は、ハンドガンを持ったままボスと呼ばれた少女に報告する。
腰の辺りからは片翼だけ、コウモリのような翼が生えている。
一方、ボスと呼ばれた少女は、一人のチンピラに歩み寄っている。
その外見は、ピンク色の長髪に、二本の角が耳の後ろ辺りから生えている。
「う、うう……何者だ、貴様らは……」
「……ふふふ」
グリッと、スナイパーライフルをチンピラの頭……ヘルメットに突きつける。
「うあああっ!!ま、まさか、アビドスの!?よくも我々を……」
「はあ、こんな不潔で変な匂いのする場所がアジトだなんて。あなたたちも冴えないわね……いいわ。あなたたちを、労働から解放してあげる」
「なっ、何だって!?」
「要するにクビってこと。現時刻をもって、アビドスは私たちが引き受けるわ」
「ふっ、ふざけた真似を!貴様らは一体……」
ガツッ!!と、銃口でヘルメットを殴り気絶させる。
「うわああっ!!」
最後のチンピラが気絶したことにより、辺りは静寂に包まれる。
その中、ボスと呼ばれた少女は気絶したチンピラに告げる。
「私たちは、便利屋68。金さえもらえれば、なんでもする……なんでも屋よ」
ボスと呼ばれた少女に続くように三人の少女たちは歩いていく。
ガラッという音を立てて、扉を開ける。
部屋の中にはセリカがおり、ベッドで横になりながら上体を起こし、窓の外を見ている。
俺にはまだ、気づいていないようだ。
「はあ……あ、れ……?先生!?ど、どうしたの?」
「お見舞いに来たんだが……どうだ、調子は?」
「……ああ、私なら大丈夫。いつまでもこうしちゃいられないし」
表情からも、体調はいつもの調子に回復したみたいだな。
「アヤネちゃんや他のみんなも心配してるし……バイトも行かなきゃだし。だ、だから、お見舞いとかいいから!ほら見て、元気だし」
「そりゃあ良かった」
実際、重傷もなく元気になったのは本当に良かった。
「……あ、あの!!」
「ん?オジサンになんか用かい?」
「……え、ええとね……そういえば、先生にちゃんとお礼を言ってなかったなあって、思って……」
おぉ、ツンツンしてたセリカが丸くなったなぁ。
オジサン感激だ。
「あ、ありがとう……色々と……でもっ!この程度でアビドスの役に立てたなんて思わないでよね!この借りいつか必ず返すんだから!」
「はっはっはっ!」
まだツンツンしてるかぁ。
照れ隠しなんだろうが、声が大きくなり、口数も多くなっている……全く、本当に分かりやすくて可愛い子だ。
「な、何よ!?何ヘラヘラ笑ってんの!?」
「いやいや、可愛いもんだなーと思ってねぇ?」
「いつも可愛い可愛いって……はあ、まったく。じゃあ……また明日ね!えっと、せ……先生」
頬を赤くしながらもセリカは言う。
昨日セリカのお見舞いに行った後、自宅への帰路の途中でアヤネから連絡が来ていた。
内容は、明日、アビドス対策委員会の定例会議があるため、来てくれたら助かるとのことだった。
「……それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論ができると思うのですが……」
……いつもは真面目な会議になっていないということか。
「は〜い⭐︎」
「もちろん」
「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない……」
元気に復帰しているセリカが俺の思っていた事を言う。
「うへ、よろしくねー、先生」
ホシノが机に突っ伏し、眠たそうにしながらも俺に声をかける。
「ああ、よろしくなぁ」
「早速議題に入ります。本日は、私たちにとって非常に重要な問題……『学校の負債をどう返済するか』について、具体的な方法を議論します。ご意見のある方は、挙手をお願いします!」
「はい!はい!」
最初に手を挙げたのはセリカだった。
随分と積極的だなぁ、良い案があるってことか。
「はい、1年の黒見さん。お願いします」
「……あのさ、まず苗字で呼ぶの、やめない?ぎこちないんだけど」
「せ、セリカちゃん……でも、せっかくの会議だし……」
「いいじゃーん、おカタ〜い感じで。それに今日は珍しく、先生もいるんだし」
「珍しくというか、初めて」
「ですよね!なんだか委員会っぽくてイイと思いま~す⭐︎」
ホシノ、シロコ、ノノミが、それぞれ言う。
俺としては、緩くても良いとは思うがなぁ……ま、生前に出ていた会議は超硬かったが。
「はぁ……ま、先輩たちがそう言うなら……とにかく!対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財産状況は破産の寸前としか言いようがないわっ!このままじゃ廃校だよ!みんな、わかってるよね?」
「うん、まあねー」
「毎月の返済額は、利息だけで788万円!私たちも頑張って稼いではいるけど、正直利息の返済も追いつかない。これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアするだけじゃ限界があるわ」
実際、788万の利息なんて、少人数の学生たちが払えるものじゃない。
……借りている相手を弱体化させて、利息を減らすか無くす、という方がまだ現実味があるだろう。
「このままじゃ、らちが明かないってこと!何かこう、でっかく一発狙わないと!」
「でっかく……って、例えば?」
「これこれ!街で配ってたチラシ!」
「これは……!?」
「どれどれ……『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』……ねえ…?」
「そうっ!これでガッポガッポ稼ごうよ!」
「……」
……もうセリカ以外は全員気づいている、これは詐欺だ、と。
「この間、街で声をかけられて、説明会に連れて行ってもらったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売ってるんだって!」
「……」
「これね、身につけるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの3人に売れば……みんな、どうしたの?」
「却下ー」
ホシノが緩く言い放つ。
「えーっ!?何で?どうして!」
「セリカちゃん……それ、マルチ商法だから……」
「儲かるわけない」
「へっ!?」
「そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるのかな……こんな怪しいところで、まともなビジネスを提案してくれるはずなんてないよ……」
「そっ、そうなの?私、2個も買っちゃったんだけど!?」
「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです⭐︎」
「……!!」
「まったく、セリカちゃんは世間知らずだねー。気をつけないと、悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうかもよー?」
……ホシノの言葉、実体験か。
「そ、そんなあ……そんな風には見えなかったのに……せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのに……」
「大丈夫ですよセリカちゃん。お昼、一緒に食べましょう?私がご馳走しますから」
「ぐすっ……ノノミせんぱぁい……」
「えっと……それでは、黒見さんからの意見はこの辺で……他にご意見のある方……」
「はい!はい!」
今回手を挙げたのはホシノだった。
「えっと……はい、3年の小鳥遊委員長。ちょっと嫌な予感がしますが……」
「うむうむ、えっへん!我が校の一番の問題は、全生徒がここにいる数人だけってことなんだよねー。生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに、生徒の数を桁違いに増やせれば、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはずー」
確かに、トリニティやゲヘナの生徒は多かったなぁ。
……その分治安維持も大変そうだったが。
「え……そ、そうなんですか?」
「そういうことー!だからまずは生徒の数を増やさないとねー、まずはそこからかなー。そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるしね」
「鋭いご指摘ですが……どうやって……」
「簡単だよー、他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」
なるほど、ホシノとセリカはこの議論では戦力外だな。
詐欺に引っかかるセリカと、目的はいいが、手段がまともではないホシノ……いや、ホシノはわざと手段をふざけたものにしているのだろうが。
まあ、もうしばらくは、このまま会議を見守るとするかなぁ。
「はい!?」
「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするのー。うへ〜、これで生徒数がグンと増えること間違いなーし!」
「それ、興味深いね」
ホシノの提案に食いついたのはシロコだった。
……シロコもあっち側かぁ、もうオジサンも不真面目になろうかな?
「ターゲットはトリニティ?それともゲヘナ?ミレニアム?狙いをどこに定めるかによって、戦略を変える必要があるかも」
「お?……えーっと、うーん……そうだなぁ、トリニティ?いや、ゲヘナにしよーっと!」
「ちょ、ちょっと待ってください!そんな方法で転校とかってありなんですか!?それに、他校の風紀委員が黙っていませんよ……」
「うへ〜やっぱそうだよねー?」
「やっぱそうだよねー、じゃありませんよ、ホシノ先輩……もっと真面目に会議に臨んでいただかないと……」
「いい考えがある」
次に手を挙げたのは、シロコだった。
さっきの反応的に、シロコも突飛な提案を出しそうだ。
「……はい、2年も砂狼シロコさん……」
「銀行を襲うの」
「はいっ!?」
……一番突飛な提案が出てきたなぁ。
「確実かつ簡単の方法。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから」
「さっきから一生懸命見ていたのは、それですか!?」
「そう。あ、先生も見る?」
「お?あぁ、ならオジサンも見させてもらおうかな?」
「はい、先生。これなら5分で一億は稼げる。はい、覆面も準備しておいた」
シロコは、額の部分に0〜4の数字の振ってある5枚の覆面を机に置く。
……もし実行するなら俺は覆面なしかぁ。
シロコから渡された資料に視線を戻す。
意外としっかり情報を収集できてるし、俺がもう少し調べれば実行に移しても良いかもしれないな。
現状を変える一手としては使える。
「いつの間にこんなものまで……」
「うわー、これ、シロコちゃんの手作りー?」
「わあ、見てください!レスラーみたいです!」
「……」
「いやー、いいねぇ。人生一発でキメないと。ねえ、セリカちゃん?」
「そんなわけあるか!!却下!却下ー!!」
「そっ、そうですっ!犯罪はいけませんっ!」
まあ、そうだよな。
もし、俺だけがアビドスの立場なら、使える手段は使うが……まあ、生徒たちに犯罪をさせるのは良くない。
アヤネとセリカから反対をくらい、シロコは不服そうな顔をしている。
「……」
「そんなふくれっ面をしてもダメなものはダメです、シロコ先輩っ!はあ……みなさん、もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」
「あのー!はい!次は私が!」
次に手を挙げたのはノノミだった。
「はい……2年の十六夜ノノミさん。犯罪と詐欺は抜きでご意見をお願いします……」
「はい!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!アイドルです!スクールアイドル!」
「ア、アイドル……!?」
「そうです!アニメで観たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです!私たち全員がアイドルとしてデビューすれば……」
……学校ってそういうものなのか?
俺のいた時代では考えられなかった提案だなぁ。
俺が感心していたが、ノノミの提案はすぐさまホシノによって反対される。
「却下」
「あら……これも駄目なんですか?」
「なんで?ホシノ先輩なら、特定のマニアに大ウケしそうなのに」
「うへーこんな貧弱な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。ないわー、ないない」
「決めポーズも考えておいたのに……」
じゃーん!といった感じでポーズを決めるノノミ。
「水着少女団のクリスティーナで〜す♧」
「どういうことよ……何が『で〜す♧』よ!それに『水着少女団』って!だっさい!」
「えー、徹夜で考えたのに……」
「あのう……議論がなかなか進まないんですけど、そろそろ結論を……」
「それは先生に任せちゃおうー。先生、これまでの意見で、やるならどれがいい?」
「えっ!?これまでの意見から選ぶんですか!?も、もう少しまともな意見を出してからの方がいいのでは!?」
「おいおい、オジサンに結論を任せても良いのかい?」
「大丈夫だよー。先生が選んだものなら、間違いないって」
「ちょ、ちょっと待ってください!何でそう言い切れるんですか!?」
一度これまでに出た意見を思い出し、利益を考える。
その間にこちらへ視線を移したセリカとノノミが言う。
「まさかアイドルをやれなんて言わないよね?」
「アイドルで⭐︎お願いします♧」
そして、見せつけるように覆面を被り、俺を見つめるシロコ。
まあ、これまでの意見から選ぶならもう結論は出してある。
「オジサンが選ぶのは、銀行襲撃かなぁ」
「えぇっ!?本気ですか!?」
「あはははー!よし、決まりー!それじゃあ出発だー!」
「きゃあ〜⭐︎楽しそうです!」
「ほ、ホントに?これでいいの?」
「いへ〜いいんじゃなーい?」
「計画は大胆なほどいい。でしょ、アヤネ?」
シロコがアヤネに問いかけたため、俺は視線をアヤネに移す。
そこにはプルプルと震えているアヤネがいた。
「……い……」
「い……?」
「いいわけないじゃないですかぁ!!」
大声でそう言い放ったアヤネは机をガッシャーン!とひっくり返す。
「出たー!アヤネちゃんのちゃぶ台返しー!」
「……」
「きゃあ、アヤネちゃんが起こりました!非常事態です!」
「うへ〜キレのある返しができる子に育ってくれたねえ。ママは嬉しいよーん」
「誰がママですかっ?もうっ、ちゃんと真面目にやってください!いつもふざけてばっかり!銀行強盗とかマルチ商法とかそんなことばっかり言って!」
アヤネの言葉に、ギクッとなるセリカと、黙って視線を逸らすシロコ。
「……やれやれ、オジサンの責任かなぁ」
その後、めちゃくちゃ説教をされた後、銀行強盗での利点についても語った。
……オジサンへの説教が少し増えた。
感想なんでも書いてくださると嬉しいです。