戦場のヴァルキュリア Gebirgsjäger 作:モラーヌソラニエ
太陽の高い荒野を隊伍を組んだ男女が進む。無骨な野戦服に身を包み汗と砂に塗れて歩く中、こんな格好の私がまさかそれなりの地位の貴族だったなど誰も信じないだろうとガリア陸軍の山岳猟兵大隊に籍を置く突撃兵サブリナ・フランキは苦笑した。
彼女は元々、ガリアの東にある帝国の一地方を治める辺境伯の一人娘で両親や使用人たちから蝶よ花よと愛でられ育ってきた。サブリナの父の治世は少々異質であり領内の人間であればたとえ被差別民族のダルクス人でさえ平等に扱い功績を上げた者は貧民であっても直接褒美を手渡した。常に民の心に寄り添って政治を行っていた為に、領民からは多大な信頼を得ていたが他の貴族や中央政府からはダルクス人や移民にも人権を与えていた父の領地はあまり好ましく思われていなかった。
そのような周りから疎まれた状況で平穏が続くはずがない。サブリナが12歳の誕生日を迎えた年、帝国領内で革命未遂が発生した。この革命をなんとか鎮圧した中央政府は次なる反乱を防止するため国内の不穏分子の摘発を開始し真っ先に矢面に立たされたのがサブリナの一家であった。
フランキ家の豊かな領地を虎視眈々と狙う地方貴族たちに嘘を多分に含んだ告発をされたフランキ家はそれを真に受けた皇帝は領地を没収、父母は磔刑に処され幼いサブリナは命だけは助かったものの国営の集団農場で農奴に身を落とした。
厳しく課せられたノルマのために給料どころかその日の食事でさえ満足に与えられない生活が4年続き命の危機を感じた彼女は脱走。身一つで国境を越えガリアに亡命した。
しかし苦難は終わらなかった。当時のガリアでは中立を保つため原則外国人の移住は認めておらずサブリナのような亡命者が市民権を得るには国家への忠誠を示す必要があった。
国家への忠誠、詰まるところ命をガリアに捧げることであった。
ガリアには外国人の兵とガリア人の将校で編成された外人部隊が一つ存在する。
『ガリア陸軍第一山岳猟兵大隊』と呼ばれる軽歩兵と装甲車で編成されたこの部隊は一般の部隊と異なり応募者個人との雇用契約によって成り立つ傭兵の様な形態の部隊でありガリア移住を希望する外国人はこの部隊で3年の兵役と50歳までの予備役編入の義務を課せられる。
サブリナに選択の余地は無くまだうら若き彼女もこの外人部隊に入隊した。
「お腹空いたな…」
厳しい訓練の中どこか場違いなことを考えながら肩からずり落ちそうになったショットガンのスリングを掛け直す。
生地の厚い野戦服は人々が想像するより重く暑い。
しかし砂漠のど真ん中でシャワーが浴びれるほどの水があるはずがなくその事実に気落ちしつつも現実逃避のように訓練後の夕食に思いを馳せる。
4年もの間コルホーズの薄い麦粥しか食べられなかったサブリナにとって他の隊員が連食でうんざりしているスパムの缶詰でさえご馳走だった。
塩気の効いた肉の味を想像すると不思議と活力がみなぎってくる。
サブリナは食いしん坊な少女であった。
そんな彼女を周りの隊員は呆れ半分の生暖かい目で見る。
「太るぞ」
「太らないよ!」
そんな問答をしながら隊列は進む。ここはガリア、武装中立を国是とする辺境の小国。
これはその片隅で自由を得る為に奮闘する人々の物語である。
1935年3月15日。東ヨーロッパ帝国連合、ガリア公国に宣戦布告。侵攻を開始。
ガリア軍山岳猟兵大隊について。
ガリア人の将校、外国人や志願したガリア国民の兵卒で構成された歩兵大隊。
応募に関しては、大隊本部が設置する募兵所へ赴いた応募者を受け付けるという形で行われ中等教育修了以上の学歴が必要。経歴の調査も厳しく行われる。特に犯罪で手配中の者や刑事処罰を受けたことが判明した場合は入隊できない。このような形で選抜を通過、採用された者は、契約期間を訓練期間を含めて3年間とする初回の契約を政府と交わすことになる。
部隊の特性上、敵性人物が紛れ込む可能性も有るため入隊した兵士への監視は厳しく契約期間を満了するか、再起不能の負傷による除隊を除いて中途離脱を認めず、もし脱走を試みた場合は即刻射殺される。
契約期間を満了し、税金を滞納することなく、ガリア国籍取得の申請手続きが通ればガリア国籍を取得できる。これが外国人がガリア国籍を得る唯一の手段である。
また設立以来外貨獲得の一環として、世界各地の紛争地域に派兵された歴史があり所属している兵士の大半に実戦経験があり、部隊の装備も長距離移動、近距離での戦闘を念頭に置いた独自のものを使用する。(例、分隊にマシンライフルを配置するなど)