伊織「余命1年?」   作:heart-earth

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第1話

「伊織君。大学からなにか届いてわよ」

夏季休暇が終わり新学期が始まって数日後、いつもの面子で飲んでいると外から帰ってきた奈々華さんが声をかけてきた。

「ありがとうございます」

礼を言い、右手に持った大きめの封筒を受け取る。

「なになに?伊織なんかやらかしたの?」

梓さんがニヤニヤしながら声をかけてくる。

「やらかしたって何ですか。清く正しく生きている俺が大学から呼び出されるようなことするはずないじゃないですか。むしろこれは日頃の行いを見て感謝状かもしれない。」

後ろで先輩たちが「清く?」「正しく?」と首をかしげているが見なかったことにしよう。

感謝状をどこに飾ろうかと考えながら封筒を開けると、中から出てきたのは1枚の紙。内容は

「健康診断の結果か」

どうやら感謝状ではなかったらしい。

「そういえば新学期初日に健康診断があったっけか。すっかり忘れてたわ」

特別なものでもなんでもなかったため興味が失い、飲みなおすかとなった際にふと気になり声をかける。

「千紗も同じ日に受けたよな?結果はまだ届いてないのか?」

声をかけると読んでいた雑誌から顔を上げ、

「まだ届いてないけど・・・。お姉ちゃん、私の分はなかった?」

千紗が奈々華さんに声をかけるが

「なにも来てなかったわよ」

笑顔で即答する奈々華さん。そういえば帰ってきてから左手をずっと後ろに回しているなと思い注目するともう一個封筒を持っているのが見える。

「お姉ちゃん、その左手に持ってるものをちょうだい」

「いやよ、私は姉として千紗ちゃんの成長を確認する必要があるのよ!」

奈々華は相変わらずだな~と微笑ましいものを見るような眼をした先輩たちと飲んでいると愛奈が

「伊織、健診の結果をちょっと見てもいい?」

と聞いてくる。

「おう、別に構わないぞ。減るもんじゃないし」

そういってまた酒の席に戻り奈々華さんと千紗のキャットファイトを肴に飲んでいると少ししてから肩をたたかれる。

「伊織、あんた大丈夫?」

「ん?何がだ?」

振り向くと愛奈が診断結果をもって心配そうに見つめている。

「なにがって・・・あんた「D」判定だよ?」

そういって診断結果の判定欄を指差して見せてくる。

言われてそこを見ると確かに「D(早急に医療機関を受診してください)」の文字。何度目をこすっても文字が変わることはない。

「・・・・・ゑ?」

 

 

「あちぃ‥‥」

店からバスで行ける病院の待合室で持ってきたタオルで汗を拭きながら順番を待つ。

9月になり季節は秋になったはずなのに、未だに外は猛暑である。

バスの中はそこそこ涼しいが、バス停から病院までの道だけで汗だくになる。

そんな中健診の結果を受けて受診した病院だが、

「さすがに土曜日は混んでるか」

待合室の席はかなり埋まっていた。スマホを見ながら待っていると自動ドアの開く音がする。

そちらに目を向けると老夫婦が来たようだ。杖を突きながら座れるところを探しているのを見て思わず

「この席どうぞ」

いいことをしたと自己肯定感を上げながら近くの壁に寄りかかって待っていると老夫婦の会話が耳に入る。

どうやらハンカチと飲み物を忘れてきてしまったようだ。

おばあさんはすごく落ち込んでいるが、おじいさんの方は快活に笑いながら「お互い年だから忘れてもしょうがないさ」と慰めていた。

「このタオル使ってください、あと、飲み物取ってきますがスポーツドリンクでいいですか?」

気が付くと体が先に動いていた。二人は最初は驚いていたがおじいさんの方に予備に持っていたタオルを押し付けると「ありがとな。俺はスポーツドリンクで。ばあさんには麦茶で頼むわ」と返ってきた。

自販機で飲み物を買ってから戻るとおばあさんが財布を出していくらだったかを尋ねてきた。

「いえ、お節介なので気にしないでください。そのタオルも家に余ってたやつなので差し上げます」

そういうとおばあさんは少し笑顔を見せてくれた。

「ありがとうね。え~と・・・」

「伊豆大学一年の北原伊織です。」

そう自己紹介すると二人ともまた驚いていた。

どうしたのかと思うと、

「驚いたわ、おじいさんも北原伊織って言うの。私は北原優(ユウ)」

今度はこっちが驚く番だった。

その後、順番を待っている間、二人といろいろな話をした。おじいさんの方は音楽をやっていて作曲もしているとか、二人ともお酒が好きだとか、今日はおじいさんの具合が悪くて来たなど。

俺も実家は東北の方ということや、泳げないのにダイビングサークルに入ったこと、今はダイビングショップに下宿していることなど。

そうこうしているとようやく呼ばれ、様々な検査を受けた。

採血やレントゲン、超音波検査など。

その後、再び待合室で待たされ、午後になってようやく診察室に呼ばれた。

診察室に入ると若い先生が座っており、椅子に腰かけるように言われた。

指示されたとおりに座ると先生が

「北原伊織さん、落ち着いて聞いてください。検査の結果、腫瘤が複数見つかりました」

そう告げた。

 

「ありがとうございました~」

気が付くと俺は堤防付近のコンビニを出たところだった。

右手に持ったコンビニ袋の中からは缶ビールが見える。

俺は堤防に腰を掛けて医者から言われたことを考える。

曰く、癌が全身に転移しており摘出は難しいこと。余命は1年、延命治療をしても2年は持たないということ。

急な出来事に頭が追い付かず、病院からここまでどうやって来たのかも覚えていない。

どうして俺が・・・。何かの間違いじゃないか・・・。そんなことばかり考えてしまい、酒でも飲んで忘れようとプルタブを開ける。

プシュッと炭酸の抜ける音がして缶に口をつけるが、医者から酒は禁止と言われていたと思い出す。

はぁ・・・とため息をつき、よくないことだと自覚はあるが、ビールは中身を海に捨てた。

「ここで立ち止まってもしょうがないか」

取り急ぎ両親に明日帰省することを伝えるために携帯を出す。

向こうも先日帰ってきた息子がまた帰省することに驚いていたが、重要な話があると言うと部屋を一つ開けておくと言われた。

ついでに栞にはサプライズがしたいから内緒にしてほしいと伝える。

了承を得て電話を切り、この後のことを考える。

頭に浮かぶのは千紗や愛奈、耕平、Pabのみんな。

「言えるわけないよな」

自嘲気味に頭を抱える。いつかはばれることだとは思うが就活の始まった先輩たちに変な気を使わせるわけにもいかないし、耕平たちも代替わりイベントを考えてくれている。今はまだ話す時ではないなと思い、店に帰ることにした。

 

「お、帰ってきたか」

店に入ると時田先輩が酒瓶を片手に出迎える。

他の皆も遅いぞ~や待ってたぞ~と声をかけてくれる。

「外暑かっただろう。ほら、おまえの分だ」

そういって寿先輩が水(火が付くやつ)を渡してくる。

「それでは改めて、杯を乾かすと書いて~」

「ちょ、ちょっと待ってください」

時田先輩がコールをするところで急いで止める。

「なんだ伊織、今日はお前が音頭を取ってくれるのか」

そういって寿先輩が首に腕を回してくる。

「そうじゃなくてですね。今日病院で肝臓が少し悪いと診断されまして・・・しばらく酒はダメと言われました」

そう言うと皆がきょとんとした顔になるがそういう事なら仕方がないと水を渡される。

念のためライターの火を近づけたが引火せず、普通の水という概念がここにあったことに驚かされる。

「気を取り直して~」

時田先輩がコールを始めるのを横目に、皆に嘘をついたことと、この雰囲気に自分はあと少ししかいられないことを考えると胸がズキッと痛んだ。

「ふぃ~。あちぃあちぃ」

しばらくするとおじさんも帰ってきた。

「あ、おじさん、話が」

「ん?伊織、どうした?」

「急なんですけど、明日から数日実家の方に帰ることにしました」

そう伝えると店の中が静まり返った。

後ろをふり向くと皆が酒を飲む手を止めてこちらを見ていた。

「おう、わかったけど偉く急だな」

そうおじさんが言うと愛奈が詰め寄ってくる。

「そうだよ、急に帰るなんて。体のどこかが悪いの?」

思わずたじろぎながら帰宅途中に考えていた言い訳を口に出す。

「健診でD判定だったっておふくろに伝えたら心配だから一度顔を出せって。何ともない、大丈夫だって言ったんだけど聞く耳を持ってくれなくてさ」

「そんなことで伊織が実家に帰るはずがない!何かもっと重要なことがあるんでしょ!」

ちゃんとした理由のはずなんだが愛奈はなぜか納得してくれない。心の中で栞に謝りながらもう一つの理由を言う。

「・・・栞がもし帰ってこないと部屋に隠していた第2の歌詞ノートを同級生に頼んでネットに公開すると・・・」

そう言うとまた静まり返る。

「な~んだ。そんなことか」

「おい、そんなこととはなんだ。下手したら俺の社会的地位が失われるんだぞ」

そんなやり取りをしながら愛奈は離れてくれるが、今度は耕平が肩に腕を置いてきた。

「さすが栞ちゃんだな、こいつの扱いを熟知してやがる。それで?いつ出発する?」

「お前はつれては行かないぞ」

そう告げるとショックを受けた顔をする。

「本当の兄である俺が行かないと栞ちゃんが悲しむではないか!」

「お前は兄を名乗る変態だ。もとから連れて行く気もないし、耕平には頼みたいことがあるんだよ」

「頼み事だと?」

「俺が休みの間、代返を頼む」

「ふん、なぜ俺がそんなことを・・・」

「こちらの要望を聞いてくれるなら栞に耕平にあてて何か作ってもらうように頼むんだが」

「俺のミックスボイスに任せておけ」

「普通に俺の声まねで頼む」

耕平の対応も終わり、明日の為に部屋に戻ることを告げてこの場を去ろうとすると服を引っ張られる。

引っ張られた方を向くと千紗がこちらを向いていた。

「どうした?千紗。」

「・・・・何かあった?」

普段のとげとげした感じではなく本気でこちらを心配しているような声音でドキッとしたが

「そりゃ禁酒って言われたからな・・・俺も酒を飲みたかった」

平静を装い受け答えをすると「・・・そう」とだけ言って服を放してくれる。

なんだったんだろうと思いながら離れに向かう。

帰省の為の荷物をまとめていると店の方での飲み会の音がこちらまで聞こえる。

先輩たちの笑い声や愛奈の怒鳴り声を聞いていると目の前がぼやけてくる。

驚いて目をこすると自分が泣いていることに気が付く。

一度自覚してしまうともう止めることができなかった。

あの楽しい空間から自分が永遠にいなくなると思うと叫びだしたくなるが必死に声を押し殺す。

それでも一言だけこぼれてしまう。

「なんだよ・・・余命一年って・・・」

周りに誰も離れに住んでいてよかったとこの時ばかりは感謝をした。

机の上に置かれた人形を通してみている人がいるとは夢にも思わず。

 




この後、実家の方で病院に行き誤診と判明、伊織は皆にはそもそも伝えてないから特に何か言う必要もないかと結論付ける。千紗達には別のルートから余命のことが伝わってしまい、千紗が失うと分かって自覚する恋心。余命のことなんて気にしない(そもそも誤診)伊織と時間制限から色々やきもきする千紗の勘違いをしながら恋が進む。みたいなものが読みたいです。誰か書いてください(土下座)
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