ハム子に憑依転生したら何故かキタローもいるんだけど? 作:がははw
「ふむ、ここが彼女がいる場所か」
月明かりに照らされる中、男は1人病院の前に立つ。そして辺りを一見した後、正門を潜った。
こんな真夜中に入るならば、警備員に追い払われるのが当然だろう。しかし、彼を注意する者はおろか、
「やはり、『影時間』で動ける者はいないようだね」
1日と1日の狭間にある隠された時間_ムーンライトブリッジで起きた事故以来発生しているこの時間を桐条グループは『影時間』と命名。関係者であり、適性があったこの男は不自由なく行動することができている。
「楽に侵入出来ると言っても、エレベーターを使えないのは不便だがね。それに毎日毎日棺ばかり見て__毎日、棺、ひつぎ…」
「『
独りごちりながら、階段を登っていく。しばらくすると、男は屋上に続くドアまで辿り着いた。
「ここの先が指定された場所…鍵は、空いてるようだね」
扉を開く前に、男は身だしなみを確認する。先に居るのは、彼が探し求める存在を知る者。下手な真似は許されない。
1通り整っていることを確認し、扉を開く。屋上に足を踏み入れると、『影時間』特有の緑がかった空を見上げる、1人の少女がいた。
桃色の患者衣を身につけた、赤みがかった瞳の端正な顔の少女はこちらを向くことなく、ただ緑の半月を見ている。背丈は小学生ほどに見えるが、雰囲気だろうか、二十歳を越えているようにも感じられる。そして、彼女の側には、茶髪でセミロングの、人の形をした
男は確信し、丁寧で簡潔にその少女へ話しかけた。
「お初にお目にかかります。『デス』を秘められし御方」
「_はい。お待ちしておりました。
まだ寒く感じる春風が体を襲うが、微塵も感じないくらい、男の体は熱くなっていた。
♢
自分以外乗客がいない電車の中で揺られながら、ハム子はため息をついた。
「今さらだけど、勝手に病院を抜け出してきたのは不味かったかな…?」
幾月と邂逅する3日前、ハム子は病院から脱走し、とある町まで来ていた。
その都心から電車で数時間かけてまで来た場所とは、ペルソナ4の舞台、八十稲羽。昨日までのような都会、ビル、人混み、というものは存在せず、昔ながらでどこか懐かしみを感じる町だ。もちろん、彼女が来た理由はただの聖地巡礼という訳ではない。
「ここに来ても
ハム子はある人物を求めてこの土地までやってきた。その人物は、『タルタロスに入らずにペルソナの修行をする』というハム子の要望を叶えてくれるかもしれない。
『次は八十稲羽、八十稲羽〜。お降りのお客様は_』
「_もうここまで来たし、病院の人には後で謝ろう…きっと許してくれるよね、うん」
半ば現実逃避した結論をして、駅のホームに降りる。すると、先ほどまでの葛藤はどうしたのか、ハム子の表情は喜びと感動で満ちたものへと変化していった。
「ここが八十稲羽駅のホーム…! あの番長が仲間たちと別れる時に登場した、あの…!」
今さらだが、ハム子はキタローが最推しというだけで、前世でも元ネタとなった現地に観光に行く程、P4など他ペルソナのファンでもある。そんな彼女が、元ネタではない、ガチの八十稲羽に着いたらどうなるだろうか。
「確かこんな風にホームに立って_『じゃあまたな!』 『向こうでも頑張ってね』」
1人でP4トゥルーエンドのやり取りを再現するbotになっていた。
実のところ、ここに来るまでもハム子は内心ウキウキしていたのだ。例えば電車の中で八十稲羽近くの足立エンドで登場したであろう踏切を見た時に「♢ この踏切は…?」などと考えていたのだ。来た目的が違ったので自重していただけで。それが八十稲羽に足を踏み入れた結果タガが外れただけで。
「『先輩愛してるー!』 『オレ頑張っから! 先輩も逃げんじゃねーぞー!』」
会話のやり取りで声を上げながら、ホームを走る。
もちろん、先ほど乗っていた電車はとっくに去っているので、虚空に手を振りながらホームを走っていることになる。幸いにも人はいなかったが、そういう問題ではないだろう。
「『距離なんて関係ねぇ! 離れてても、仲間だかんなー!!』_
「…来たかと思えば、何をしている」
別エンドの再現をやろうとしたハム子を呼ぶ声が1つ。聞こえる方を向くと、平均ほどの身長で整った爽やか顔の、そしてどこが危なげな予感がする、白装束を纏った男がいた。この男こそが、ハム子が八十稲羽まで来た目的の人物である。
「まさかお出迎えしてくれるとは思わなかったよ_『イザナミ』」
「こちらとしても、早々と道化を魅せるとは思わなかったぞ。『デス』の封印体」
「……その言い方は酷くない?」
♢
ペルソナ4における黒幕は主に3人いる。
1人は力を与えられた人間、残り2人は人間ではない、力を与えた神である。そして、目の前の男『イザナミ』は黒幕を超えた黒幕であり、作品でも特殊条件を満たさなければ出現しない、いわゆる『トゥルーエンド』枠である。ハム子はそんな相手と交渉するためにこの町まで来たのだ。*1
開幕早々キツい言葉を吐かれ、ハム子は原作の気さくな雰囲気が感じられないな、と思いながら用件を語り出した。
「土地神様に頼みたいことがあって_テレビの中とか、入れない?」
「_ほぅ、『霧』の世界のことか」
「それそれ! えっと、私あと10年ぐらいしたら『ニュクス』の
(_人柱、か)
目の前で語るハム子の話に、イザナミは疑問を抱く。
ハム子は気づいていないが、現在のイザナミは『マリー』_人間を守る役割を持つ『クスミノオオカミ』と分離していない。なので、ハム子の願いも八十稲羽の人々を守るためならば願いを叶えてもいいとは考えている。_ある点を除いて、ではあるが。
「作戦はね、もう1人の『デス』を持ってる男の子、仮にキタローと呼ぶけど、その子と仲間になって、ニュクスと戦う直前にキタローをバターン!って倒して、その間にニュクスをギューン!って封印するの! あ、封印なんて無理だと思ってる? 大丈夫! 私『ワイルド』だし、最終的には《宇宙》も手に入れられるよ! 多分…。というかそうしないと世界滅ぶし! それにね_」
(何故、己が犠牲になろうと考える)
P4でイザナミが暴走した理由は、真実から目をそらし、嘘と虚構に逃げ込もうとする人間が破滅を望んだからである。_では、現在のハム子のことはどう見えるだろうか。
印象最悪*2なファーストコンタクト、年不相応で怪しさしか感じられない態度に、デスが封印されてるとは言え、知るはずもない嘘や虚構に聞こえる情報、その方法しかないと決めつけるような言動、挙句の果てに自分が人柱になるという破滅願望宣言。
(気に食わん…!)
役満である。
しかし、イザナミは即時排除しようとするほど愚かでない。確かに、『霧』の世界はテレビにある上、《世界》をも超えた《宇宙》ならばニュクスの封印もあり得るかもしれない。そこまで考え、イザナミはハム子に話しかける。
「一度口を止めろ。『デス』」
「_で、上手くいけばハルマゲドンの連発も…え! 『デス』呼ばわり!?」
「ハッキリ言って、貴様の話は信用ならない」
「しかもめっちゃ拒絶されてるし!?」
そんな、とアワアワ焦るハム子に、何処か苛立ちを覚えながらイザナミは続ける。
「しかし、私が知っている情報と一致する部分もある。よって、貴様を試すことにした」
「……試す?」
「そのままこちらを向いておけ」
ハム子は、言われるままにイザナミの方を向く。すごく目が開いてるな、と呑気なことを考えていると、ナニカが自分の中に入ってくるような感覚に襲われた。
「ねえ、なんか私の中に入れてない?」
「分かるのか。安心しろ、ただ視ているだけだ」
「何を?」
「貴様の記憶」
「……へ?」
抗議するハム子を無視し、イザナミは慎重にハム子の記憶を視ていく。万が一、『デス』に触れると八十稲羽が滅びかねないからだ。
(ふむ…)
信じられないが、ハム子には前世があるらしい。『デス』がいるため、ゆっくりと視ることはできないが、それでも要所は確認していく。
(『ニュクス』、『キタロー』、『ハム子』_なるほど。『メメント・モリ』、か…)
断片的ではあるが、イザナミはハム子の事情を理解する。なるほど、見た目と釣り合わない言動も、本来知る由もない情報も、転生前の記憶によるものであり、ハム子は自分が犠牲になることでキタローを救おうとしているだけだったのだ。ならば、人柱になる宣言にも納得はできる。
しかし、イザナミはまた新たな疑問を抱く。どうせならば、と考え
「思考盗聴反対! 思考盗聴反対!」
「_1つ聞く」
「ロリコン! ペドフィリア! 番長に分からされてしま…何?」
「何故、キタローにこだわる?」
「……?」
意味が分からない、と頭に
「何の因果か知らんが、貴様は生を再び得た。それを捨ててまで、何故キタローを救ける?『一度死んでるからもう一度死んでもいい』とか言っていたが、ニュクスの封印もただの死ではない_貴様は、永遠に人柱になる。1年、100年、その先もずっと。そんな状態ならば、二度目の転生もないと断言できる」
イザナミの言葉に、ハム子は目を閉じて沈黙する。
「そこまでして、救う義務が貴様にあるのか? そもそも、仮に救おうとしても、失敗することもありうる。何故だか分かるか?」
「………」
「貴様は存在しないイレギュラーだからだ。たとえ『ハム子』が優れていても、中身は凡人。『主人公』でない、半端な精神の奴がニュクスに勝る訳がない。分かったら、身の程を弁えて_」
「もう、いいよ」
ボソリと、呟く声が1つ。その言葉で、イザナミは沈黙し、下を向いて震えるハム子が口を開く。
「確かに、私がやる必要はない。キタローにやらせたらいいって、言う気持ちもわかる。バカだと言う気持ちもわかる。嘲笑う気持ちもわかる。私だって、そっちの立場なら言うと思う」
「ならば、そうすれば良い。それが、凡人としての「それでも!」」
「私は、キタローが好きだから」
「………なるほど?」
ハム子の、堂々と自分の気持ちを伝える love 宣言。さすがのイザナミも語尾が上がる。
一瞬、イザナミは聞き間違いかと思ったが、ハム子の目が本気だと分かり頭を抱える。
「キタローが推し、好き、超好き。好きな人に命を捧げる。それの何がおかしいの?」
「……いや、愛がくだらないなどとそんな話ではない。しかし、そのような理由が3月、いや永遠に続くとは思えない」
「だから言ったでしょ笑いたきゃ笑えと。私の気持ちは変わらない。ずっと、これからも」
「理解できんな」
「人間を簡単に理解できると思わない方がいいよ。
『どんな理由かと思ったら愛だなんて、くだらね〜』
何処かから聞こえる嘲笑の声、誰なんだと、ハム子が辺りを見渡すと、あることに気がつく。
「ここ私の家じゃん!」
かつて自分が住んでいたマンション。その1室にハム子たちはいたのだ。
「ということは声の主って…
『せいか〜い』
回転椅子に座る者、つまりハム子の前世の姿をした『
「霧の世界に入りたいという貴様の望み通りにしただけだ。そもそも貴様が私に暴言を吐いている時からだったが…まさか、気づいていなかったのか?」
気づいてませんでした、と言うとまた毒を吐かれそうだったので、ハム子はイザナミに言葉を返さず『影』と話すことにした。
『どう? と会ってみてどう思った、私?』
「いやまぁ…とりあえず、私って感じがするよ、私」
『そりゃ私だもん。貴方と同じ、バカな人間』
前世の『影』が、あるものを手に取る。それは、ハム子の記憶に残っているものだった。
「それ公式の召喚銃! 覚えてる! 高かったもん!」
『クレカの審査下りなかったから闇金ったもんね〜。あはは、バカみたい〜』
「ひ、否定できない…!」
「愚かな…」と男の声が聞こえたが、それを無視してハム子たちは続ける。
『死んだ理由覚えてる? 青髪の少年助けてトラ転*3したんだよ?』
「少年は助かったんでしょ? ならいいじゃん」
『ギックリ腰で逃げ遅れただけの話しようか?』
「……ぐう」
『ぐうの音だけ出るのね』
男に呆れの目で見られながら、ハム子はベッドに転がり、流石に傷ついた心を独りなぐさめる。
「はいはいどーせ私はアホな死に方したテンプレ転生者ですよ…このベッド柔らかぁい」
『う〜ん…中身はともかく、やっぱり可愛いわね
『影』は立ち上がり、いわゆるお姫様抱っこでハム子を抱える。唐突に持ち上げられたハム子は目を丸くした。
「え…急に何?」
『可愛いものには触れたくならない?』
「確かに分かるけど…私の気持ちは?」
『遠慮なんていらないでしょ。元は私だし』
遠慮なしとは言ってる割に『影』が頭を優しく撫でる。どこか心地よさを感じているハム子に対し、『影』が話しかける。
『…ねぇ、本当に死ぬ気?』
「勿論。キタローを救えるなんて、こんなチャンスないんだよ?」
『やっぱり、推しだから?』
「そうだね。駄目…なのかな?」
撫でられ、落ち着いてるせいか、ハム子は先程のイザナミとの会話より少し穏やかに話す。
そうして『影』に抱かれていると、『影』は急に撫でるのをやめ、ハム子に言った。
『いや、いいでしょ、好きなんだから。好きにしなよ、私』
「…ありがとう、私」
腕の中から抜け出し、ハム子は『影』と顔を合わせる。すると次第に、『影』の体が粒子状になっていく。ハム子は、そんな『影』と両手を合わせて、
『バカで愚かで、救いようのない人間だけど、』
「キタローが好き。キタローを救いたい。その為なら命も差し出していい」
「
『この世界を掻き乱す《道化師》とならん』
♢
「これはこれは、随分と幼いお客人だ」
__________
憑依ハム子
八十稲羽でちょっと(?)感極まちゃった人。無事、神をドン引かせることに成功。
幾月
黒幕。でも今はただのダジャレおじさん*4。
イザナミ
人の可能性(笑)を見れた人。今作のお助けポジ。
原作開始10年前にマリーと分離してないこと、マヨナカテレビに『霧』の世界を作ってること、人の記憶を除けることはオリジナル。理由はそれぞれ ジュネスないし八十稲羽の住民の精神も安定してそう、それはそれとして有事の時の為に作ってそう、神なら記憶程度なら除けそう。
余談だが、あっさりと「我は汝」できたハム子(たち)を見て
憑依ハム子の前世(シャドウ)
前世も頭が悪い(オブラート)。でもこのくらいの人間じゃないとハム子転生なんて精神もたない。黒歴史は他に『エアガンでP3ごっこしてたのを家族に自殺未遂と疑われ家族会議』『キタロー×自分の夢小説を友人の前で音読させられる』などがある。