ハム子に憑依転生したら何故かキタローもいるんだけど? 作:がははw
「これはこれは、随分と幼いお客人だ」
「ん…」
「お目覚めですかな?」
老人の声を聞き、ハム子の意識は段々と覚醒していく。眠たげに目を擦りつつ辺りを見ると、一面が青色に広がっていた。
「ようこそ、ベルベットルームへ」
「ベルベットルーム…ベルベットルーム!?」
知っている言葉で、ハム子は急激に目が覚めた。そんな彼女の目の前にいる老人は、ニコニコと微笑み、話を続ける。
「私の名はイゴール。お初にお目にかかります」
(おお、本物だ…! 鼻長い…!)
「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。何かの形で”契約”を果たされた方のみが訪れる部屋。今から貴方は、このベルベットルームのお客人だ」
生ベルベットルームへの興奮を抑えながら、イゴールの話を聞くハム子。そんな輝かんばかりの眼をするハム子を見て、イゴールは嬉しそうにする。
イゴールが合図を送る。すると、横にいた男が前に出た。
「テオドアと申します。テオ、とお呼び下さい」
「よろしくお願いします! イゴールさん! テオさん!」
元気に挨拶を済ませ、ハム子の興味が自分のベルベットルームに移る。
椅子は座り心地が良く、テーブルは2人*1で使うには明らかに大きい。前方を見ると、周りにも自分たちの同様の椅子やテーブルが多く存在している。しかし、キタローのベルベットルームのような大きな時計はない。何の部屋だ? とハム子が思っていると、イゴールが話し始めた。
「後ろをお向き下さい」
「後ろ_おお…!」
言われるがまま後方を見ると、高級ホテルにありそうなディナーショーのステージがそこにはあった。そのステージのカーテンは開かれ、ベルベットルームよろしくステージに青い空間が広がっていることが分かるが、今にもショーが始まるという雰囲気は全くなく、照明も暗いままだ。
「ベルベットルームは、そのお客人の“精神の在り方”そのものを反映している。言い換えると、ここは貴方が心の奥で感じていることを映し出す空間であるわけです」
「ほえー…ステージに上ってみてもいいですか?」
「はい、ご自由に」
ハム子は立ち上がり、ステージ上まで移動する。ステージ上からイゴールたちを見ようと、ステージ中央から客席側を向く。
「すごっ…規模デカすぎない?」
そこから見える景色はひどく広大なもので、100はある椅子がもし満席なら、今の自分は多くの人に見られていただろう。そう感じた瞬間、ハム子はふと、先ほどのやり取りを思い出した。
『 「
『 『この世界を掻き乱す《道化師》とならん』 』
「うーん…道化師って、言い得て妙だね…」
小さく、独り言を漏らす。このやけに広いベルベットルームも、『憑依ハム子』という道化を鑑賞する劇場だと理解したのだ。ハム子はちょっと複雑な気持ちになり、自嘲する。
まぁいいかと気持ちを切り替え、舞台端に腰を下ろし、天井を見上げる。青で統一されたステージは、『ハム子』という人物が壇上に居てもライトアップする気配はない。
「なんで、暗いままなんだろう?」
「_おそらく、『真の旅路』が始まっていないからでしょう」
独り言のはずがイゴールに返答され、ハム子は少し驚く。
(5、6mは距離あるのに…ここが
「ところで、貴方は先のシャドウとの会話を経て、見事『ペルソナ』に目覚めた。お試しになりましたかな?」
タロットカードを取り出し、ハム子に《愚者》が描かれた方を向ける。その行動で、ハム子は自身がペルソナを手に入れたことを思い出した。
思い出した途端、ハム子の手の中に半透明のタロットカードが出現した。くるくると手の中で周るそれは、幼いハム子の手より大きく、経験したことのない強い力を感じる。
「すごい…!」
「説明は、いりますかな?」
「…いや、大丈夫_」
説明されずとも、やり方は分かった。
「__ペルソナ」
手の中のカードを握り壊すようにしながら、その4文字を透き通る声で発する。壊れたカードのカケラが粒子状になり、やがて、1つの体を形作っていく。
「_綺麗」
程々に長い茶髪に、首元の赤いスカーフ。成人程の背丈のベージュの体はハート型の竪琴を背負っており、顔立ちや体は人と言うよりロボットに似ている。
ハム子は目の当たりにし、少し言葉を失う。ゲーム画面ではなく現実で佇むそれは、自身から出てきたペルソナだと強く感じさせ、自分の目標への最初の一歩を踏み出せた実感が湧き上がる。
「オルフェウス、これからよろしくね!」
ペルソナを召喚できた嬉しさ達成感から、ハム子は笑顔で抱きつく。オルフェウスも、どこか微笑んでいるようにしながら、ハム子の頭を撫でた。
「ふふふ、素晴らしい」
「ええ。これからますます成長していくでしょう」
♢
「ところで、さっき言った『真の旅路はまだ始まっていない』ってどういう意味なんですか?」
オルフェウスを召喚できた興奮も少し治まり、今は肩車されているハム子が尋ねる。*2
「このベルベットルームに招かれたということは、貴方は『ワイルド』…何者にもなれる力があるということ_それは、ご存知ですね?」
「もちろん、知ってま…いや、あれ?」
肯と答えるハム子が、今の尋ね方に疑問を抱く。もしかして_と思いながら、恐る恐る口にした。
「あの〜、先に聞きたいことがあって_」
「かまいませんよ、何でもお聞きください」
「じゃあ遠慮なく。あの、私のことって、どのくらい知ってたりとか_」
「はい、『前』のことも、全て知っていますよ」
「やっぱそうじゃん!」
オルフェウスの上で、嫌な予感が的中したハム子が360° 動く。暴れる、とも言える。
「『こっち』に来たんだから心機一転して頑張ろうとか思っていたのにベルベット民に記憶筒抜けじゃん! ご存知ですね?、って言い方がおかしいと思ったら案の定! さっきもイザナミに見られたのに_皆んな思考盗聴するじゃん!」
「ご安心ください、琴音様」
乱心なハム子を落ち着かせるように、テオドアが1歩踏み出す。そんなテオドアに対し、ハム子は懐疑的な目を向ける。
「『ハム子』って呼んで…で、何に安心すればいいの」
「私たちは、必要以上にハム子様の記憶を覗く気はございません」
「…そうなの?」
「はい。私たちはあくまでもお客様の旅路を支える者。私たちが原因でお客様の旅路に不支障が生じれば元も子もありません」
「テオ…!」
喜びと歓喜の余り、ハム子は壇上からオルフェウスにぶん投げてもらい*3テオドアの胸に飛びかかる。驚いた表情を浮かべながらも、テオドアは難なく受け入れる。ちょうど良いポジションにベッタリと張り付くかのように抱きつくその様は、まるでコアラのようだ。
「今の、本当なんだよね? 信じていいんだよね?!」
「はい、もちろんです。ただ…」
「_ただ…?」
「ハム子様がペルソナを身につけられた理由や根幹は、見る必要があり_」
「……必要が、あって?」
先ほどまで浮かべていた笑顔は消え失せ、ハム子は抱きしめられながらもテオドアに亡霊のような顔を向け、抱きつく力も増していく。そんなハム子に、テオドアは
「その…『キタロー』様に関する記憶は、少々…件の…夢小説?とか…」
「………」
「大丈夫です! ハム子様のような一途なお方であれば、例えどんなことがあろうと_」
「オルフェウス、抱っこ」
そそくさとテオドアから離れたハム子はオルフェウスに全体重を預け、その胸の中に顔を隠す。
赤子のように丸くなりながらも、イゴールに話しかけた。
「イゴールさん、話戻しましょう。アレです。私がワイルドだという所からです」
「…よろしいのですか?」
「はい、さっきのテオドアの言葉は後で姉妹にチクるので」
「なっ……!」
前世の自分が碌でも無いのも悪いが、テオドアのデリカシーが無いのも悪い。
そう言わんばかりにハム子はテオドアに半ば死刑宣告。テオドアは動揺が口から溢れそうになりながらも、主人の前だということもあり耐えた。それはそれとしてテオドアの処刑も決まった。
「今さらですが、敬語は要りませんよ。自然体が1番です」
「分かりま_うん、分かった。そうする」
「よろしい。では、気を取り直して_貴方は『ワイルド』の力を身につけた。そして将来、様々な困難が貴方に降り掛かるでしょう」
「うん、私『ハム子』だし。そうだろうね」
「しかし、それは『将来』なのです」
「うん、それは将来…しょうらい……?」
意図が読み取れず語尾が上がるハム子に、イゴールは補足する。
「貴方の記憶によれば、様々な困難が起こるのは10年後の話です。先の『将来』で起こるのであって、『今』ではない」
「…あっ、なるほど! 原作開始のことを『将来』って言ってるのか…! 確かに、それなら『今』じゃないね」
イゴールに顔を向け、ハム子は指を鳴らし納得した表情を見せる。
「さらに言うと、貴方は完全な『ワイルド』には至っておりません」
「…それは、将来_『真の旅路』になってないから?」
「左様、貴方のワイルドの力が完全に目覚めることで初めて、貴方の『真の旅路』が始まるのです」
イゴールの言葉にどこか納得はしながらも、ハム子は口を少し歪ませた。
ワイルドの力が不完全だということは、様々な悪影響があることが考えられる。例えばコミュやコープが結べない、つまりコミュ、コープmax時のペルソナが得られなかったり、1部のミックスレイドも使えなかったり。おそらく、アルカナバースト*4もないであろう。
しかし、そんなことで折れるほどハム子は弱くない。
(本来1年のところが制限ありとはいえ10年もある。P3のコミュmaxのペルソナも、4や5のペルソナ合体のルートでならいけるかもしれないし、経験値が少ないなんて誤差だよ誤差!)
「_どうやら、心配不要のようですな」
「もちろん! やる気MAXなハム子ちゃんは誰にも止められないよ!」
「ふふふ、素晴らしい」
ハム子の返答にイゴールは微笑みを浮かべ、指をパチンと鳴らす。すると、ハム子の手のひらに青い鍵のようなものが現れ、輝かしく光り始めた。ハム子は驚きながらも、その鍵をまじまじと見ながらつぶやく。
「これって…契約者の_」
「その通り。招かれたお客人がこのベルベットルームを行き来するための『契約者の鍵』です。ゆめゆめ、大切にするように」
「もちろん!」
そう言うと、鍵はハム子の体に沈むように徐々に形を失っていく。そして完全になくなった後、グッと、ハム子はその鍵があった方の拳を握った。
「さて、本日はそろそろお別れのようです」
「そうなの? 私はまだここに居たいけど_うわ! 体が透けてる!」
ハム子は自分の腕が半透明と呼べるほど体が薄くなっていることに気づいた。まだやろうと考えていたことがあったが、それは次回にお預けになりそうだ。
他に今からでも_と考えていたハム子に、とある案が浮かぶ。時間もないので、すぐに実行し始めた。
「ごめんちょっともう1回ステージ登るね!」
「ハム子様、何を_」
「行かせなさい、テオドア」
「しかし…」
「悪いようにはなりますまい。_ふふふ、やはり貴方は、実に興味深い人物だ」
オルフェウスに再度肩車されながら、ハム子はステージ上まで移動する。そしてその中央に立ち、再び全体を見渡す。さっきと変わらず、広い会場に並ぶ椅子はほとんど空いている。
(私は『ハム子』だ。彼と同等の力を持つ、イレギュラーの『道化師』)
目を瞑りながら、物思いにふける。
(今はまだ誰も救えないほど弱いけど、頑張って頑張って頑張って…私がどうなろうと、みんなを_彼を、救おう。そのための、決意表明…!)
瞬間、右足で力強く踏み込み、ピースサインを高く掲げ、
「私の名は汐見琴音! ニュクスも黙らすペルソナ3もう1人の主人公!」
「私は_強く、強く、そして強くなって_キタローを救うことを、ここに誓います!」
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憑依ハム子
無事にオルフェウスを獲得。見た目は原作と変わりない。
コミュもコープも結べないことから実質コープmaxペルソナ使用禁止。ハルマゲる*5こともできない。まずはレベリングからだ! 頑張れ!
イゴール
ベルベットルームの主。実は独り立ちしてからそんな時間が経ってない*6。
テオドア
力を司る者。イゴールの従者で不憫枠。この後姉たちにボコられた。
次から原作スタートです