生まれ変わったら精〇だった……   作:なな

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第二話

「ところで現時点でどんなメンツが揃っているんだ?」

 

 アジトへ向かう道中、サイコスに質問する。

 

「強い怪人でいうと、ブサイク大総統にハグキあたりか。間違いなく両名とも災害レベル竜の実力の持ち主だ」

 

 ブサイク大総統にハグキか……。

 

 両方ともバングに瞬殺されるんだよな、確か。

 正直あまり興味は湧かない。

 なんというか……奴らには華がない。ぱっとしないんだよな。

 

「……そうか。他にはいないのか?」

 

「なんだ、興味はないのか? ……そうだな、ちょうど別の個体が新たな怪人を勧誘中……む!」

 

 突如、サイコスが言葉を止める。

 

「どうした?」

 

 俺の質問に苛立ちを含めながらサイコスが答える。

 

「……勧誘失敗だ。別個体がやられた。食事中に声をかけたのが悪手だったか……」

 

「誰を勧誘していたんだ?」

 

「犬だ」

 

 犬? おいおい、犬ってことはまさか……。

 思い当たる怪人は奴しかいない!

 

「そいつの名前は?」

 

「ポチだ。なんだ、犬には興味があるのか?」

 

 サイコスが怪訝そうに問うてくる。ブサイク大統領とハグキに毛ほども興味を示さなかった俺がポチに反応したのを不思議がっているのだろう。

 ポチと言えば原作で言えばサイタマに飼われる際の俺のパートナーなのだ。興味がないわけがない。

 それにハグキやブサイク大総統よりもずっと強いはずだ。少なくともサイタマと戦う時に邪魔なS級ヒーローを蹴散らすくらいには。

 

「犬は可愛いだろ?」

 

「私には分からないな。少なくとも突然超高熱の光弾――焦熱弾を吐いてくる生き物を可愛いとは思わん」

 

 吐き捨てるようにそう言うサイコス。

 いきなり攻撃されたのが相当頭に来ているらしい。

 

「――ほう、焦熱弾ね。確かに普通の犬じゃなさそうだ」

 

「ああ、お前と同じくとんでもない力を持っていると最近噂になっている怪人だ。……だが、勧誘しようとしたところ問答無用で攻撃されて別個体が跡形も無く蒸発してしまった。何とか手懐けたいのだがな……」

 

 そう言ったサイコスは黙り込んでしまう。どうやってポチを勧誘するか思案しているようだ。

 

「俺が行ってやるよ、勧誘に」

 

 そう声をかける。

 

「なに?」

 

 サイコスが振り返り、ギョロリとした瞳を向けてくる。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「協力してやるって言ってるんだ。犬ってのは上下関係をはっきり示す必要がある。要はこちら側が強いってのを分からせればいい。そろそろ強敵相手に肩慣らししたいと思ってたところだ、ちょうどいい」

 

 これは本当だ。ポチの強さは本物。

 手加減されてたとはいえ、サイタマの攻撃(おすわり)を耐えている数少ない怪人だ。

 そんなポチ相手に俺がどこまでやれるか。

 ”これから”の相手を前にちょうどよい練習相手だ。

 

「……そうか。なら頼むとする。ポチ以外にも勧誘対象は多くいる。時間は惜しいからな」

 

 そう言ったサイコスが訝し気であるのは協力的な怪人が珍しいからだろうか。

 ま、なにはともあれ方針は決まった。

 ポチのいる場所を聞くとちょうど近くには別の俺が五兆体ほどいる。それに内の一体は過去に三兆体合体を経た多細胞精子だ。

 黄金精子もいないし、数も多くは無いがなんとかなるだろう。手こずるようなら最悪周囲の俺が増援に向かえばいい。

 

「よし、そこなら10分もあれば接触できる」

 

「10分だと? ポチのいる場所までここから急いでも数時間はかかるはずだが」

 

 サイコスの言葉に反応することもなく、俺は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで俺はポチを勧誘することになったのだが。

 

 

 

「ゴルロロロロロロロオオオ!!!!!」

 

 

 

 高速で移動する黒い巨体から放たれる雄たけびと無数の光弾。

 光弾が着弾する度に眩い光と共に大爆発を起こし、大地を激しく揺らす。

 

「おいおいおいおいおい、想像以上に馬鹿げた破壊力だな」

 

「なんでこんな攻撃的なんだ?」

 

「サイコスの奴があいつの食事中に声を掛けたって言ってただろうがよ」

 

 無数の俺達は連携をとりながら光弾をうまく回避しポチの動きを観察していた。

 だがすでに数万体の俺はやられた。高熱で攻撃されると分裂できないから相性が悪い。タンパク質は熱に弱いからな。

 ポチを見つけた俺は、「ういーす、こんにちわん、なんつって」と陽気に声をかけたのだが、帰って来たのは返事の挨拶では無く焦熱弾であった。

 そして今に至る。

 サイコスに食事の邪魔をされたのがよほど頭に来ているらしい。

 しかも打撃では俺が分裂するだけだと早々に理解したポチは、焦熱弾のみで攻撃してくるのだ。キレていても冷静さは失っていないようだ。

 ところでサイコスは人が飲食している時にしか声をかけられないのだろうか?

 

「おら、犬っころ! ドンドンうるせえんだよっ!」

 

 駆け回るポチの背後をとった俺は、数十メートル以上に巨大化しながら大木のような腕を思い切り振り下ろす。

 空を切り裂きながら繰り出されたパンチはポチの胴体にヒットする。

 衝撃音が辺りに響く。

 手応えあり。

 

「へっへっへっ、どうよ!」

 

 俺が小馬鹿にしたようにそう言った直後、ぐるりとこちらを振り返ったポチがその巨大な口を開けて光弾を生み出す。まともにパンチをくらったはずだがダメージは無さそうだ。

 

 ……流石に一千万体程度の集合体の俺のパンチでポチを倒せないか。

 

 が、予想通り。

 怪人でもヒーローでも攻撃をする時が一番無防備ってのはどの漫画世界でも共通のこと。

 

 ……というわけで、後はたのんます。

 

 焦熱弾を繰り出そうとしているポチの背後。

 無数の俺の影から躍り出た一体の俺は明らかに他の俺とは別次元の超速度でポチの背後まで迫る。

 それは三兆体合体の俺――多細胞精子だ。

 多細胞精子は腕を振り上げ力を込める。

 腕に幾重の血管が浮き上がり筋肉が膨張していく。

 力を込めた腕を振り下ろす。

 衝撃波を生みながら拳はポチの背中に正確に吸い込まれていく。

 ここまでの一連の動きはあまりに早く、焦熱弾の発射も間に合わない。

 

 ゴッ!!!

 

 強烈な音と衝撃が周囲にまき散らされていく。

 「ギャンッ!」と犬らしい悲鳴と共にポチの体が地面に叩きつけられ、巨大なクレーターを形成する。

 へっ、一丁あがりだ。

 

 と、思った瞬間。

 

 カッ!!

 

 突如、俺の視界が白一色に染まった。

 攻撃をくらったポチが即座に体勢を立て直し、攻撃に転じ巨大な焦熱弾を放とうとしているのだ。標的は勿論多細胞精子。

 

「ゴルロロロロ!!!!」

 

 ポチの怒りの咆哮と共にまさに攻撃が放たれようとしている。

 

「嘘だろっ!? ……なんてな」

 

 俺がそう言った瞬間、光り輝く一閃が上空からまっすぐにポチの目の前に突き刺さる。

 同時に焦熱弾が発射される。

 熱せられた空気が肌を焼きつけながら焦熱弾が白い壁となって迫ってくる。

 それを先ほど降り立った黄金色に輝く俺が「ふんっ」とボールをバットで打つように腕で焦熱弾を軽々と上空へ弾き飛ばした。

 軌道を変えられた焦熱弾はそのまま上空を突き進み、やがて大爆発を起こした。

 

「ひゅー、さっすが黄金精子! かっけぇぇ!」

 

 周囲の俺達が称賛の言葉を贈る。

 早々にポチの実力を見抜いた俺は、比較的近くにいた黄金精子の一体に救援を求めたのだ。数十キロは離れていたはずだが、流石の速さだ。

 

「ポチ……三兆体合体の私でも大してダメージを負わないとはやはり相当な実力を持っていたようですね。……まあ、私にとっては大したことはありませんが」

 

 黄金精子が落ち着いた口調でそう告げながら、ポチをギンッと睨みつける。

 

「……くぅん」

 

 先ほどまでの勢いはどこへやら、途端に大人しくなったポチがその場で伏せの体勢をとった。

 本能的に目の前の敵には勝てないことを理解したのだろう。

 

「賢い選択です。……さて、これで一件落着ですね」

 

 黄金精子が相変わらず落ち着いた様子で、他の俺に向き直る。

 

「さあ、お遊びはこの辺でいいでしょう。本番はこれからです。他の個体から連絡があったようにS級ヒーローが本部に非常招集されたようです。いよいよですよ……。これから戦う敵は少し手強いです。しかし協力を得られれば大きな戦力になるでしょう」

 

「分かってるよ。だから俺達も集結してるんだろう。楽しみだなぁ。散り散りになった俺が久しぶりに集まるんだぜ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マスター、ここもだめでした」

 

 舎弟の一人の言葉に男は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「……そうか、一体どうなっている?」

 

 そう漏らす男はS級ヒーローのタンクトップマスター。

 鍛え上げられた肉体とその肉体を最大限に生かすことができるタンクトップに身を包んだ巨漢。

 ヒーローの中でもトップクラスの実力を誇る彼だったが、現在ある悩みを抱えていた。

 

「まずいな……。これではタンクトップが似合う男を目指すことができない」

 

 タンクトップマスターは、深刻な状況に思わず天を仰ぐ。

 

「まさかプロテインが軒並み売り切れているなんて……。しかも高たんぱく質な食材も品薄になっているみたいです。これじゃあ酷使した筋肉を効率よく回復させることができない」

 

「一体何が起きているんだ……? 我々タンクトッパーに対する攻撃なのか? 筋肉が衰えてしまうとタンクトップの性能を十分に発揮できなくなる……。まさかタンクトップにこんな弱点があったとは……」

 

 タンクトップマスターが青ざめた表情を浮かべそう呟いていると、舎弟の一人が口を開く。

 

「……どうもある者が買い占めているという情報が」

 

「何者だ? まさか怪人か?」

 

「なんでも全身黒タイツの白い肌色の顔をした者がここ最近、プロテインや高たんぱく質の食材を買い占めているらしいです。お金は支払っているようですので怪人ではないと思いますが……。ただ何トンものプロテインを買い占めるのはやはり異常かと……」

 

「しかも同時にいくつもの場所で目撃情報があるらしいです。謎のタイツの集団……。これは我々タンクトッパーに対する宣戦布告なのでは……。奴らはタンクトップよりタイツの方が優れていると言いたいのかも……」

 

 舎弟の言葉を聞いたタンクトップマスターの筋肉がざわつく。

 

「分かった。この件はヒーロー協会に報告しておこう。まずい状況であるが、タンクトップを身に付けていれば多少の筋肉の衰えはカバーしてくれるはずだ。何か情報があれば俺に連絡するんだ」

 

 そう舎弟たちに命令しながら、タンクトップマスターはここにはいない何かを見るように空を見上げる。

 

 ……嫌な予感がする。

 

「そう言えばマスター。協会本部から非常招集の連絡があったんですよね。早く向かった方がいいのでは。もしかしたら我々同様にヒーロー協会もタンパク質不足を察知したのかもしれません」

 

「そうだな、早く向かった方がいいかもしれない。お前たちはその謎の黒タイツの正体について情報収集を進めておいてくれ」

 

 そう言い残し、タンクトップマスターはヒーロー協会本部へ向かった。

 

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