生まれ変わったら精〇だった……   作:なな

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第四話

 地球がヤバい!!

 

 ヒーロー協会本部のとある会議室。

 S級ヒーロー達の前に出された小さなメモ用紙――そこに書かれた大預言者シババワが残した最後の予言。

 シッチによってこの重要性が説明されていくにつれ、緊迫した雰囲気が室内を満たしていく。

 

 そんな中、沈黙していた一人の男が口を開いた。

 

 

 

「……俺に一つ、心当たりがある」

 

 

 

 タンクトップマスターだった。

 

 

 

「なに!? それは本当か?」

 

 喉から手が出るほど情報が欲しいシッチが目を血走らせながら机に乗り出す。

 S級ヒーロー(+サイタマ)達も一斉にタンクトップマスターに視線を向ける。

 己以上の実力者達から視線を一挙に向けられても尚、その堂々たる態度が揺るがないのは彼の筋肉とそれを支えるタンクトップがあるからだろうか――。

 タンクトップマスターはここではない不吉な未来を見るように鋭い眼光を携えながら言う。

 

 

 

「――――プロテイン――いや、良質なタンパク質源がこの世界から無くなりつつある」

 

 

 

 !!??

 

 

 

(…………プロテイン? ふざけているのか? だが彼の態度は真剣そのもの……。いや、しかし……)

 

 シッチが混乱しながら思考を働かせている一方、タツマキが聞いて損をしたというように冷ややかな視線を送りながら溜息を吐く。

 他のS級ヒーロー達もシッチ同様にタンクトップマスターの言葉の意味を測りかねている中、タンクトップマスターは続ける。

 

「プロテインもそうだが、肉や魚、大豆系もそうだな。軒並み品薄状態となっている。少し前からこの傾向はあった。しかし最近になり、一気にその動きが激化してきた。これは想像以上に恐ろしいことだ。俺は何とかタンクトップの性能によって身体能力の維持を実現できているが――」

 

「もういいわよ! 筋トレのし過ぎで脳みそまで筋肉になってんじゃないの!? プロテインが売り切れ? そりゃそういうことも時にはあるでしょうが!」

 

 タツマキがキレた。

 無意識で生み出された超常の力が彼女の髪をメデューサのように逆立たせる。

 ただでさえ長い時間待たされてイライラしていた彼女にとってタンクトップマスターの発言は許されざるものだった。

 

「タツマキの言う通りだ……。余計な発言で時間を奪うな、俺も先生も忙し――」

 

 B級ヒーローと言う理由でサイタマに嚙みついたタツマキによく思っていなかったジェノスでさえタツマキに同意――しかけたところでこの男が口を開く。

 

 

 

「それは俺も思っていた」

 

 

 

 B級ヒーロー、ハゲマント――サイタマだった。

 

 

 

「スーパー行っても安い鶏の胸肉とか全然ないし……。俺最近肉食えてないんだよな。確かにこの状況はやばいと思うぜ。プロテインは知らんけど」

 

 常に懐事情に悩まされ、スーパーの常連であるサイタマは状況を把握していたのだ。

 

「なるほど、先生がそう言うのであれば間違いありませんね。おい、タンクトップマスター、続けろ」

 

 サイタマが全てのジェノスは意見を180度変えて悪びれることなくタンクトップマスターに鋭い口調で指示を飛ばす。

 そして実は、食がすべての豚神と同じく筋肉においてタンクトップマスター以上に強い想い入れのある超合金クロビカリも事態の深刻さに既に気付いていた。彼らもまたタンクトップマスターの言葉の続きを無言で促す。

 意外と共感者が多かったことで、タツマキ以外に嚙みつく者は現れなかった。自然と全員がタンクトップマスターの言葉を待つこととなる。

 タンクトップマスターが続ける。

 

 

 

「この惨劇を巻き起こしているのは、我々タンクトッパーと対を為すタイツを全身に身に付けた集団と判明している……」

 

 

 

 ――タイツ。

 

 

 

 一同の視線が全身タイツのサイタマに向かう。

 

 

 

「え――――いや、違う!! 俺じゃない!」

 

 

 

 サイタマが脂汗を吹き出しながら必死に弁明したその瞬間。

 

「き、緊急事態です!!」

 

 ヒーロー協会の人間が会議室に飛び込むように入ってくる。

 

「何事だ!」

 

 緊急会議の為、よほどのことが無い限り立ち入りを禁止していた中での部下からの報告。サイタマが皆の意識が自分から逸れたことでほっとする一方、シッチは不安と焦りを隠し切れずに椅子から立ち上がり問う。

 

「A市上空に空を覆うような巨大な飛行体が現れ、こちらへの攻撃の意志も確認されました! その威力はA市が丸々吹き飛ぶ威力と想定されています」

 

 その報告に一同に一気に緊張が走る。

 

「ではいつ攻撃されてもおかしくないということか!? 状況はどうなっている!?」

 

 シッチが青ざめながら叫ぶように質問をする。

 

 

 

「そ、それが……、何者かによって飛行体からの攻撃は事前に防がれています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は黄金精子。あなたに出会えて光栄ですよ」

 

 ボロスはサイタマと戦う時に協力してもらいたい数少ない強力な怪人。

 ここはなんとしてでも穏便に進めたいところだが……、さて、どうなる……。

 

「俺は暗黒盗賊団ダークマターの頭目であるボロスだ。まずは、ようこそ我が船へ」

 

 ボロスに緊張や焦りは一切見られない。あるのは、こちらに対する好奇心と期待。

 

 ……流石は強者の風格といったところですか。ポチとは桁違いの強さを感じる。しかもまだ『メテオリックバースト』という奥の手を隠していると来た。30兆体の私なら楽勝かと思っていましたがこれは……。覚醒したガロウより強いのでは? そんなはずは無いと思うのですが……妙ですね。

 とにかく最悪戦闘になった時は、他の黄金精子との合体も視野にいれるべきですね。

 それにしても原作でサイタマとしか戦っていない敵はその強さが分かりづらいのが欠点ですね。

 

 冷静にボロスの実力を見極めつつ慎重に言葉を続ける。

 

「ボロス、よろしくお願いします。あなたのような強い者と出会えることを楽しみにしていましたよ」

 

 俺の言葉に怪訝そうな視線を向けてくる。

 

「楽しみにしていたか……。お前のこれまでの行動を見ていると、ここに俺がいることが分かっているようだった。ここまで短時間で来たことと言い……。お前も予言ができるのか――いや、そんなことはどうでもいい。気になる。お前ほどの実力を持つ者がどのような目的で俺の前に立っているのかが」

 

 ボロスが薄っすらと笑みをこぼしながら試すようにこちらに問いかけてくる。

 

「あなたに仲間になってほしいのですよ。ある男を倒すために」

 

 私は言った。端的に一切隠さず。

 この手の相手には隠し事や変な交渉はかえって逆効果だと判断した。

 

「ある男?」

 

「ええ。この星で最強の存在です。今の私など赤子の手をひねるように倒されるでしょう。しかし私は怪人として奴を倒さなければならない……。その為に実力者達に協力を仰いでいます」

 

「…………」

 

 ボロスが無言でこちらを見つめる。

 その言いようのない威圧を感じつつも堂々とした態度を崩さずボロスの返答を待つ。

 

「……つまり」

 

 ボロスが短くそう切り出す。

 

 

 

「この俺に、雑魚たちのように群れて戦えという事か……?」

 

 

 

 明確な嫌悪と殺意がボロスが発せられる。ボロスが持つエネルギーがボロスの怒りに呼応するように膨れ上がっていく。

 

 ……交渉は決裂ですか。

 

 驚きは無かった。

 ボロスがこの地球に来た目的は自分と対等に戦える者がいるかもしれないから。そのような戦闘狂にこの提案が受け入れられる可能性は低いと思っていた。協力できればラッキー程度だった。

 

 なら逃げの一手ですね。

 

 予想以上にボロスが強そうであることを踏まえると、ここでボロスと戦えばこちらも多くの細胞を失う恐れがある。それに奴らの幹部も思っていた以上に強いことは別個体も感じている。負けるとは思わないが、これ以上ここに留まることは不利益しか生まない。

 別に私は戦闘狂ではありませんし、敵前逃亡も立派な戦略。

 放っておいてもそのうちサイタマが来るだろう。我々が地球を支配する前に地球が滅茶苦茶になるようなことはあるまい。

 

 すぐさま頭を切り替えた私は、どうやって逃げようか思案する。

 数万体の自分を囮にして逃げるか……。

 

 

 

「だが……、お前のその強さに免じてチャンスをやろう」

 

 

 

 今に襲われると警戒していたが、ボロスが突如そんなことを言ってくる。だが相変わらず敵意は剥き出し。

 何をするつもりだ? 

 

 

 

「この俺と戦い、俺が納得するだけの実力を見せれば協力してやらなくはない」

 

 

 

 ……なるほど、そう来ますか。戦闘狂らしいですね。

 

 突然襲われるよりはよい……が、あまり望ましいとは言えない。

 これも予想していた状況の一つではある。

 だがやはりボロスと戦うことはこちらの細胞ストックを大きく減らす結果につながりかねない。

 サイタマとの戦いに備えてできるだけ温存したい中でのこのリスク。

 しかし、ボロスを仲間にできたならそのリターンは大きい。ボロスの配下も付いてくるだろう。

 

 …………。

 数秒思考する。

 

「いいでしょう……。ですが少しだけお待ち頂きたく」

 

 ボロスを仲間にできる方がメリットが大きいと判断した。

 予想以上にボロスが強いことは寧ろ歓迎すべきこと。

 両脇に控えている10兆体の黄金精子二体、そして計4兆体の集合体の俺。大部分を船の捜索や配下の相手に費やしたため、これだけしかいないが十分パワーアップできる。

 合体してしまえばこちらの戦力が削がれることはない。

 黄金精子を色々な地域に散らばせておいた方がなにかと都合が良かったが仕方ない。集合体も残しておいたほうが今後の細胞増殖の効率がよくなるが、そうも言ってられない。

 

「さあ! これ以上の合体は未知の領域ですが……、いきますよ!」

 

 30兆体の黄金精子の掛け声と共に両脇の黄金精子と集合体の俺が一つになるべく俺に飛び込んでくる。

 細胞と細胞が結合する為、混ざり合っていく。

 

 

 

 ……あぁ、合体する度に感じるこの高揚感、尊さ……そして美しさ。

 

 

 

 これまでとは桁違いの、自分でも恐ろしさすら感じる底知れぬパワー。

 この世の全てを思い通りにできると錯覚するほどの万能感。

 

 

 

 だが驕れるな。

 これはまだ――通過点。

 

 

 

 ゴシュウウウウウウウ――――。

 

 

 

 輝く銀白色の無駄の無い筋肉隆々とした完璧な肉体。

 鞭のように伸びた触覚。

 全てが黄金精子時の性能を上回る進化形態。

 名付けて――

 

 

 

 白金精子(プラティナムせいし) 爆誕

 

 

 

 ……これが、進化した私。

 格好いい……。

 

 

 

「お待たせしました。さあ、手合わせをお願いします」

 

「素晴らしい……」

 

 ボロスは目を輝かせながら待ちきれないとばかりに笑みを浮かべ、自身が纏う鎧を自ら破壊し戦闘態勢に入る。

 お互いが間合いを見計らい、まさに今戦闘が始まろうとしていたその瞬間。

 

 

 

「……ん? ここが最深部でいいのか? お前らのどっちかがこの船の親玉か?」

 

 

 

 気の抜けた緊張感の無い声が私とボロスの動きを止める。

 

 ……まさか。……いつの間に。

 

 恐る恐る声のした方へ顔を向けると、そこに奴がいた。

 

 

 

 B級ヒーロー、ハゲマントのサイタマが。

  

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