僕のヒーローアカデミア ヒノカミ英雄譚   作:枝那

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第9話 襲撃

戦闘訓練の翌日。

 

その朝は騒がしかった。

 

というのも―――

 

「オールマイトの授業はどんな感じですか!?」

 

「ええっ⁉わ、私まだオールマイトの授業受けてなくって……」

 

大勢のマスコミが雄英高校に押し寄せているからである。

 

No.1ヒーローであるオールマイトが雄英の教師に就任したというニュースは全国を驚かせた。そんなビッグニュースにマスコミが食いつかないはずもなく。こうして全国からメディアが雄英高校に集まり、生徒たちにインタビューをしているのだ。

 

「オールマイ……あら?」

 

雄英の制服を着ている一佳にマイクが向けられ、そしてその隣を歩いている縁壱にも話を聞こうとしている。

 

「あなた…どこかで……」

 

「ッ!行くよ!」

 

「どうしたんだ?」

 

「あぁっ、ちょ!オールマイトについて一言だけでも!……行っちゃった」

 

何か感づいた様子の記者の反応を見て、一佳は縁壱の手を取って急いで校舎の中に入って行った。取り残された記者は神妙な顔つきで2人の背中を見ている。その表情に、共に来ていた同僚が声をかける。

 

「どうかしたんですか?」

 

「あ、いや……あの顔に痣がある子、どこかで見たことがあるのよね……」

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」

 

朝のHRが始まった。相澤は昨日の戦闘訓練について口を開く。

 

「緑谷」

 

名指しされ、ビクッと大きく震える。

 

「また腕ぶっ壊して一件落着か」

 

相澤は威圧感を強めながら言う。

 

「“個性”の制御…いつまでも『出来ないから仕方ない』じゃ通させないぞ……俺は同じ事言うのが嫌いだ。()()さえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」

 

「っはい!」

 

「さてHRの本題だ…急で悪いが今日は君らに…」

 

(((何だ…⁉また臨時テスト⁉)))

 

相澤の不穏な物言いに教室が少しざわつく。

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

『学校っぽいの来たーー!!』

 

臨時テストではないことに安堵しつつ、テンションを上げて叫ぶA組の生徒たち。彼らは続々と手を挙げる。

 

「委員長!!やりたいですソレ俺!!」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!!」

「ボクの為にあるヤツ☆」

 

学級委員長という役割は普通科であれば雑務をこなすものだが、ここヒーロー科では集団を導くというトップヒーローの素地を鍛えられる役割であるため、このように立候補する者が続出しているのだ。

 

静粛にしたまえ!!

 

そんな状況に物申す声が1人。

 

「“多”をけん引する責任重大な仕事だぞ…!「やりたい者」がやれるモノではないだろう!!」

 

声を挙げたのは飯田天哉だ。

 

「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…!民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら…」

 

彼は学級委員長という役割を重く受け止めている。故に、ここはしかるべき方法で解決しようと提案している。つまり……

 

「これは投票で決めるべき議案!!!」

 

「そびえ立ってんじゃねーか!!なぜ発案した!!!」

 

そう言いつつまっすぐ挙手する飯田にツッコミを入れる。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

「だからこそここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間ということにならないか⁉」

 

蛙吹・切島の指摘にも負けじと反論する。

 

「どうでしょうか先生!!!」

 

「時間内に決めりゃ何でも良いよ」

 

相澤は寝袋に入りながらそう返事する。だいぶ投げやりである。

結局、学級委員長は投票で決めることになった。

 

 

「僕三票---!⁉」

 

緑谷が驚愕と共に叫ぶ。流石に自分が票を入れられるのは予想外だったようだ。

 

「なんでデクに…⁉誰が…⁉」

「まーおめぇに入るよか分かるけどな!」

(爆豪くんにバレたら恐いな…)

 

爆豪を尻目にヒューと口笛を吹く麗日。緑谷に票を入れた1人は彼女だ。

 

「じゃあ委員長緑谷、副委員長八百万だ」

 

「緑谷なんだかんだ熱いしな!」

「八百万は講評の時のがかっこよかったし!」

 

皆、一部を除いて委員長の人選に異議を唱える者はいなかった。

 

 

午前の授業が終わり昼休みに入る。食堂は腹を空かせた生徒たちでごった返していた。

 

「人がすごいなぁ…」

 

「お米がうまい!」

 

「ヒーロー科の他にサポート科や経営科の生徒も一堂に会するからな」

 

「こんなに美味しい料理を安く食べることができるのもありがたい話だ」

 

今日は縁壱は飯田・緑谷・麗日と一緒に食堂で昼食をとっていた。一佳はB組の友人たちと一緒にいる。

 

「いざ委員長やるとなると務まるか不安だよ……」

 

「ツトマル」

 

「緑谷なら出来る」

 

「大丈夫さ」

 

緑谷は学級委員長に就任することになったことに不安を漏らす。

 

「緑谷くんのここぞという時の胆力や判断力は“多”をけん引するに値する。だから君に投票したのだ」

 

(君だったのか!)

 

緑谷に投票したもう1人の生徒はなんと飯田だった。

 

「あれ?飯田くんも1票取ってたよね?自分で入れたんじゃないの?」

 

「ああ、飯田に投票したのは俺だ」

 

「!君だったのか」

 

「ああ。飯田なら人を導く素質があると考えたから、飯田に票を入れた」

 

じーん…と飯田は感動している。そこまで評価されていることに胸を打たれている。

 

「火神くんは委員長やりたくなかったの?飯田君も」

 

「俺は誰かの上に立てるような器ではないから」

 

「“やりたい”と相応しいか否かは別の話…()は僕の正しい判断をしたまでだ」

 

「「『僕』……!」」

 

普段と異なる飯田の一人称を指摘する緑谷と麗日。飯田も無意識に口に出てたのか指摘されて気が付いた。

 

「ちょっと思ってたけど飯田くんて、坊ちゃん!?」

 

「………そう言われるのが嫌で一人称を変えてたんだが…」

 

2人にすごい眼力で見つめられ、飯田は躊躇いながらも口を開いた。

 

彼の家は代々ヒーロー一家で、彼はその次男だそうだ。

 

「ターボヒーローインゲニウムは知ってるかい?」

 

「もちろんだよ!!東京の事務所に65人もの相棒(サイドキック)を雇ってる大人気ヒーローじゃないか!!まさか…!」

 

「それが俺の兄さ」

 

「あからさま!!!すごいや!!!」

 

飯田は誇らしげに眼鏡をクイッと上げる。

 

「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!!俺はそんな兄に憧れヒーローを志した。人を導く立場はまだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷くんが就任するのが正しい!」

 

「なんか初めて笑ったかもの飯田くん」

 

「え⁉そうだったか⁉笑うぞ俺は!!」

 

「飯田は表情豊かだぞ」

 

飯田たちが会話を弾ませていると。

 

ジリリリッ!!

 

甲高い警報の音が校舎中にけたたましくなり響いた。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』

 

そのアナウンスを聞くと、他の生徒たちは速やかに食堂から出ようとする。

 

「セキュリティ3て何ですか?」

 

「校舎内に誰か侵入してきたってことだよ!3年間でこんなの初めてだ!!君らも早く!!」

 

そう言われ、彼らも避難しようとする。だが、人の波に押され、逸れてしまった。迅速な対応が却って仇となってしまった。

 

飯田は押し出され、窓に張り付く。そこで彼が見たのは、相澤先生とプレゼントマイクに詰め寄る報道陣。あれが騒動の原因だと気づく。

 

彼は考える。自分にできることを。敬愛する兄だったらどうするか。このパニックの原因が報道陣であることを知っているのは恐らく自分だけ。だとすれば……

 

「飯田くん!!」

 

逸れてしまった麗日を見つけた。そこで彼はあることを閃く。

 

「俺を…浮かせろ麗日くん!!」

 

麗日の個性『無重力』により、浮いて混雑から抜け出した飯田は、自分の個性を使い、身体をひねってある方向に進む。

 

そして出口の上に非常口のイラストのようなポーズで張り付いた飯田は声を張り上げる。

 

「大丈ー夫!!」

 

逃げている生徒たちの視線が一点に集中する。

 

「ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません大丈ー夫!!ここは雄英!!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

その言葉に、次第にパニックが収まっていく。

警察も到着し、マスコミは撤退した。

 

 

午後の授業では、他の委員決めも執り行う。だが、その前に学級委員長である緑谷は。

 

「委員長はやっぱり飯田くんが良いと…思います!!」

 

先の騒動での飯田の対応を見て、彼の方が学級委員長に相応しいと緑谷は考えた。

 

「俺も賛成だ。緑谷の言うように、あの時のように人を導くことができるお前なら相応しいと思う」

 

他の生徒も緑谷の言葉にうなずき、飯田が学級委員長になることに異論はなかった。

 

こうして。

 

「委員長の指名ならば仕方あるまい!!」

 

飯田天哉はA組の学級委員長になった。

 

◇◇◇

 

そしてその翌日。午後のヒーロー基礎学の授業。

 

「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」

 

「ハーイ!なにするんですか!?」

 

瀬呂が質問する。

 

「災害水難なんでもござれ、人命救助(レスキュー)訓練だ」

 

「レスキュー…今回も大変そうだな」

 

「ねー!」

 

「水難なら私の独壇場ケロケロ」

 

「おいまだ途中」

 

ギロリと睨み、生徒たちを静かにさせる。彼らは説明を受け、コスチュームを持って教室を出た。訓練場は遠くにあるためバスに乗っていく。

 

乗り場にコスチュームに身を包んだ生徒たちが集まる。バスに乗るとき先日委員長に就任した飯田が取り仕切る。

 

「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう」

 

「飯田くんフルスロットル……!」

 

 

「こういうタイプだったくそう!!!」

 

が、座席が中向きのタイプであったため、あまり意味を為さなかった。

 

目的地まで走っているバスの中で、蛙吹梅雨は隣に座っている緑谷に話しかける。

 

「私思った事を何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「あ⁉ハイ⁉蛙吹さん!!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの“個性”、オールマイトに似てる」

 

「そそそそうかな⁉いやでも僕はそのえー」

 

面と向かってそう言われた緑谷は狼狽する。その様子を見ていた縁壱は強い違和感を覚えた。

 

(…心拍が上がっている。筋肉も強張っている。何故だ?蛙吹の質問で何故そこまで緊張する?)

 

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪と火神だな」

 

「ん」

 

物思いに耽っている縁壱は、自分の名前を呼ばれ思考の海から引きずり出された。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

 

「んだとコラ出すわ!!」

 

「ホラ」

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

 

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

(かっちゃんがイジられてる…!!信じられない光景ださすが雄英…!!)

 

「もう着くぞいい加減にしとけよ…」

 

『ハイ!!』

 

騒がしくなってきたバスを相澤が黙らせる。少しして、その訓練場に到着した。

 

 

「すっげーーー!!USJかよ!!?」

 

バスに乗って辿り着いたのは巨大なドーム状の施設だった。プールなどがあり、そこは訓練用の施設というよりテーマパークのようだ。

 

「水難事故、土砂災害、火事………etc.あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も……」

 

(U)ソの(S)害や(J)故ルーム!!

 

(((USJだった!!)))

 

権利的に大丈夫なのかと不安になるネーミングの施設の中では、宇宙服のようなコスチュームを着たヒーローがA組の生徒を待っていた。

 

「スペースヒーロー『13号』だ!災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

「わーー私好きなの13号!」

 

緑谷が流石の知識で13号の説明をする。麗日は憧れのヒーローと対面してテンションが上がっている。

 

13号と相澤が小声で何かを話している。離れていて普通は聞こえないが、縁壱の優れた聴覚は2人のやり取りを捉えていた。

 

「通勤時に()()ギリギリまで活動してしまったみたいで」

 

(制限……?)

 

その会話に疑問を持つ。まさか先日見た()()()()()()()()()()と関係があるのかと考えていると、相澤が授業を進める。

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ…三つ…四つ…」

 

(((増える……)))

 

「皆さんご存知だとは思いますが僕の“個性”は“ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

緑谷の言葉に麗日は残像が出来るくらい激しく頷く。

 

「しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性”がいるでしょう」

 

それまでウキウキとした気分でいた彼らは一転、しんと静かになる。あるのが当たり前過ぎて考えもしなかった自分の“個性”の危険性を突きつけられ、はっとなる。

 

「超人社会は“個性”の使用を資格制にし厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい。

 

相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。

 

この授業では...心機一転!人命の為に“個性”をどう活用するかを学んでいきましょう。

 

君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな」

 

「以上!ご清聴ありがとうございました」

 

「ステキー!」

 

「ブラボー!!ブラーボー!!」

 

ぺこりと頭を下げる13号に生徒たちが心からの賞賛を送る。

 

そんな時だった。

 

ズズ……

 

USJの噴水広場に黒い靄のようなものが現れたのは。

 

「「!」」

 

その『異変』に真っ先に気づいたのはプロヒーロー(相澤消太)学生(火神縁壱)の2人だった。

 

「一かたまりになって動くな!」

 

「え?」

 

イレイザーヘッドは13号に生徒を守るよう指示、13号はその指示を聞いて生徒の安全を優先する。縁壱は赫刀を出現させ、いつどこから奇襲されても同輩を守れるように警戒を高める。

 

「何だアリャ⁉また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

「動くな。アレは敵だ!!!!」

 

イレイザーヘッドはゴーグルを装着し、臨戦態勢に移る。敵たちが広がった黒い靄からぞろぞろと現れる。

 

「13号に…イレイザーヘッドですか…先日()()()教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが…」

 

全身に人の手を付けた異常な様相の男は目当ての人間がいなかったことに、苛立たしげに言葉を吐き捨てる。

 

「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…オールマイト…平和の象徴…いないなんて…」

 

奇しくも、命を救える訓練時間に現れたそれは。

 

子どもを殺せば来るのかな?

 

途方もない悪意。

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