僕のヒーローアカデミア ヒノカミ英雄譚   作:枝那

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第15話 選手宣誓

開会式直前。控え室で、A組の生徒たちは入場の時を今か今かと待ち望んでいた。

 

「コスチューム着たかったなー」

 

「公平を期すため着用不可なんだよ」

 

普段通り様子の変わらない者もいるが、多くは緊張している。これから全国の注目を集める舞台に躍り出るのだから当然だ。中には手に人の字を書いて飲み込むという古式ゆかしい緊張の解し方を試す者もいる。

 

「火神」

 

「轟か…どうした?」

 

本番を前にしてもいたって冷静でマイペースを崩さない縁壱に轟が突然声をかける。

 

「はっきり言って、実力はお前の方が上だ」

 

「そうか?勝負をするまでは分からないぞ」

 

「そうだな……前の戦闘訓練のリベンジも含めて、お前には勝つぞ」

 

その宣言に様子を窺っていた周囲はざわつく。

 

「No.2がクラス最強に宣戦布告!⁉」

 

「急にケンカ腰でどうした⁉直前にやめろって…」

 

轟の攻撃的な態度を切島が咎めるも、聞く耳を持たない。

 

「緑谷、お前もだ」

 

「!!」

 

まさか自分にまで矛先が向けられるとは思ってなかった緑谷に追撃するように続ける。

 

「お前オールマイトに目ぇかけられてるよな。そこ詮索するつもりはねぇが…お前にも勝つ」

 

それを聞いた緑谷は少し俯いた後。

 

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか…は分からないけど…僕の実力なんて下から数えた方が早いと思う」

 

「緑谷もそーゆーネガティブなこと言わねぇ方が…」

 

「でも…!!皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れを取る訳にはいかないんだ」

 

緑谷は顔を上げて轟を真っ直ぐ見据える。

 

「僕も本気で獲りに行く!」

 

入学当初の弱弱しい態度からは一転、緑谷は力強く頷いた。

 

「テメェら何俺差し置いて勝手に話進めてやがんだァ⁉」

 

彼らのやりとりを見ていた爆豪が不服を申し立てるように声を荒らげる。

 

「1位になんのは俺だ!!火神と半分ヤロー!!あとついでにデク!全員ブッ殺してなァ!!」

 

「つ、ついで……」

 

轟に続き縁壱に向けて宣戦布告をする。

黙りっぱなしだった縁壱は表情に一抹の申し訳なさを浮かべながら口を開く。

 

「その、すまない……俺は皆と()()()()()()()()()んだ」

 

「……何だと?」「アァ!⁉」

 

◆◆◆◆◆

 

話は数日前に遡る。

 

来たる雄英体育祭に向けて、生徒たちのみならず教員たちも綿密な準備をしていた。生徒たちの3回しかない晴れ舞台だ。中途半端に行って台無しにしていい訳がない。

 

「警備は問題なし!企業の招待も恙なく済んでいるね」

 

ヒーローへの警備依頼、企業の招待、出店の安全管理、etc...やることは山積みだった。

 

「で、本題に入るが……」

 

だが、それ以上に教員たちの頭を悩ませている事案があった。

 

火神()…どうしようか?」

 

それは、火神縁壱の扱いである。

 

彼の強さは雄英教員も知るところであり、既にプロの域に達している。何なら、プロでも並ぶ者はいないかもしれない。

 

他とは一線を画す圧倒的強者。残酷だが、このまま出場すれば彼の優勝は確実と言っていい。

 

だが、この体育祭の主役は彼一人ではない。出場する全ての生徒が主役であり、優勝のチャンスは平等に与えられて然るべきなのである。

 

「やっぱりハンデを与えるべきじゃないか?このままでは他の生徒と実力に開きがあり過ぎる」

 

「シカシ、彼一人ニトイウノハ理不尽デハナイカ?他ノ生徒カラモ不満ガ出ルダロウ」

 

この問題の争点はそこだった。現状、教員たちの意見は真っ二つに割れていた。

 

『このままでは他の生徒との実力差が大きすぎるから、ハンデを与えるべき』という意見と、『彼も生徒の一人なのだから、下手に介入せずに自由にやらせる』べきという意見がぶつかり合っている。

 

「彼の実力が圧倒的なのは客観的に見て分かるでしょう!ハンデを与えないと他の生徒の勝ち目が無くなってしまう!」

「彼も出場する生徒の一人です!条件は平等にすべきです!それに他の生徒が納得しないと思います!」

 

議論が白熱する。どちらの主張も理解できるからこそ、譲ることが出来ないのだ。平行線になりつつある議論を見かねて、校長が一つ咳払いをする。

 

「どちらの意見も正しい。公平か平等か。どちらも悩ましい。これはそう簡単に結論を出すことができない問題だ。そこで一つ提案があるのさ」

 

そう言って、彼は隣にいるとある人物を指す。全員の視線の先にいるのは。

 

「………私?」

 

◆◆◆◆◆

 

そして開会式本番。

 

ステージに生徒たちが入場する。

注目を集めているのはヒーロー科1年A組だ。

 

『B組に続いて普通科C・D・E組…!!サポート科F・G・H組も来たぞー!そして経営科…』

 

「俺らって完全に引き立て役だよなぁ」

「たるいよねー…」

 

闘争心を煽ってやる気を出させる目的もあるのだろうが、それでもその他大勢扱いされている他の組の生徒たちは不満を隠さない。

 

「選手宣誓!!」

 

出場者が整列する。壇上にいる教員が手に持っている鞭を鳴らして開会式の進行を行う。思春期の青少年には些か刺激が強い格好をしているそのヒーローに、何人かの観客たちも鼻の下を伸ばしている。

 

18禁ヒーロー「ミッドナイト」。雄英高校の教員の一人であり、今年の1年ステージの主審である。18禁なのに高校にいてもいいのかというツッコミはしてはいけない。

 

「選手代表!!1-A火神縁壱!!」

 

「やっぱり火神くんなんだ…!」

「まぁアイツ特待生だしな」

 

指名され、壇上に登る。マイクの前に立ち、少し息を吸った後。

 

「選手宣誓」

 

凛とした声が会場に響き渡る。

 

「雄英体育祭という晴れの舞台において、このような身に余る大役をお任せいただきましたこと、誠に光栄に存じます」

 

高校生には似つかわしくない、年不相応な恭しい話し方に困惑する者もちらほらいる。

 

「先日、我々A組は敵の襲撃を受けました。そして、教員の方々と他ならぬ学友たち自身の尽力によって、今日誰一人欠けることなくこの場に立っています」

 

「そのような事情により、1年A組は世間からの注目を集めています。その期待に応えられるよう、全力を尽くすことを誓います」

 

ですが、と続ける。

 

「A組だけではない。B組や、普通科にも私たちに並ぶ者が必ずいる。今もなお、多くの者が虎視眈々とその牙を磨き続けている」

 

「我々選手一同は、日頃の鍛錬の成果を思う存分発揮し、皆さまにその力をお見せすることを誓います」

 

「生徒代表、火神縁壱」

 

そう締めくくり、ミッドナイトに一礼した後、列に戻る。

 

パチパチパチパチ……

 

生徒の列と観客席から拍手が起こる。

彼の宣言を聞いた選手たちは心の内で闘志を燃え上がらせていた。A組の生徒たちは最強の期待に応えるようと。B組の生徒たちは主役はA組だけでないことを分からせてやろうと。普通科の生徒たちはヒーロー科に目にものを見せてやろうと。

 

そんな彼らの内心とは裏腹に、実況者席から爆弾発言が投下される。

 

『ちなみに!!火神縁壱は不参加だ!!』

 

は?と誰かが声を漏らす。その発言を処理する暇もなく、

 

『そして!!体育祭の最後には()()V()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()が開催されるぜェ!!お楽しみにィ!!!』

 

さらに大きな爆弾が放り込まれた。

 

『ハァァアアアア!!!??』

 

A組以外の生徒、観客、果てにはテレビの向こうの視聴者までもが、口をそろえて叫ぶ。

 

それもそのはず。雄英高校の生徒とはいえ、一介の学生がNo.1ヒーロー(オールマイト)と戦うのなんて前代未聞だからだ。

 

 

 

(オールマイトと戦うだと……?)

 

態度にこそ出さないが、それは()()()にとっても衝撃だった。

 

(何を考えている、雄英……)

 

炎の仮面を被った屈強な肉体の男、フレイムヒーロー「エンデヴァー」である。オールマイトに次ぐNo.2にして、轟焦凍の父親でもある。

 

誰よりもNo.1に執着してきた男であり、オールマイトの強さは痛いほど理解している。だからこそ、学生がオールマイトに挑むという無謀に眉間に皺を寄せた。

 

 

 

「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう」

 

「雄英ってなんでも早速だね」

 

「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!!さて運命の第一種目!!今年は……」

 

空中に映し出されたモニターがグルグルとスロットのように回転する。生徒たちは固唾を飲んで見守っている。

 

「コレ!!」

 

「障害物競走…!」

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周約4km!」

 

早速スタートゲートが開く。

 

「我が校は自由が売り文句!ウフフフ…コースさえ守れば()()()()()()構わないわ!さあさあ位置につきまくりなさい…」

 

言われるがままに、門の前で準備をする。

 

そして、ようやくその時が来る。

 

スターーート!!

 

その合図を皮切りに、全員一斉に走り出した。

 

 

場所は変わって実況者席。

 

「ついに始まった第一種目!!ランナーたちは待ち受ける試練を乗り越えられるのかァ!⁉」

 

「俺いらないだろ」

 

相変わらずのハイテンションで実況を行うプレゼントマイク。その右隣にはまた対照的にローテンションな相澤がいる。無理やり連れてこられてお怒りのようだ。

 

相澤の小言を無視して、彼は左隣の特別ゲストにマイクを向ける。

 

「Heyゲスト火神!!お前的には誰が一番の有望株だ⁉」

 

「お前何勝手に呼んでんだ……」

 

縁壱が勝手に来たとは微塵も思っていない。これが日頃の行いの差である。

 

「そうですね……甲乙つけがたいですが、轟ではないでしょうか。彼の個性は攻撃だけでなく、妨害にも使えますから。他にも、爆豪や飯田はこの障害物競走に有利だと思います」

 

「だ「ですが、個性の相性だけで勝敗は決まらない」…オレのセリフ取らないでェ!!」

 

ランナーたちを最初の関門が待ち受ける。

 

ロボ・インフェルノ

 

ヒーロー科入試の際に受験生たちを苦しめた仮想敵(ロボット)だ。中にはお邪魔虫の0P敵もいる。

 

「アレ!!入試の時にお前がぶった斬ったやつだな!!」

「緑谷も壊したって聞きましたよ」

 

轟の周囲に冷気が漂い、そして一瞬にしてその巨体を凍り付かせた。

行動不能になり隙間ができたことによって他の選手たちがそこを通ろうとするが、不安定な体勢で凍らされたために倒れてしまう。

 

「1-A轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!!」

 

倒壊に巻き込まれぬよう逃げ惑う他の選手たちを尻目に、轟は一人先へ進む。

 

「アレだなもうなんか…ズリィな!!」

「“個性”操作の練度が学生のレベルじゃない。これは相当手ごわいですね」

 

相澤は「どの口が言ってんだ」という目で縁壱を見る。

 

轟に続いて、今度はある生徒が前に出る。

()()は兎のように軽やかな動きで0Pの体躯を駆け上っていく。

 

自分の体をちょこまかと動き回るネズミを0Pは捕まえようとするも、俊敏な動きで逃げられてしまう。やがて頭部の上空まで跳んだ彼女は、その二つの拳をロボットに向ける。

 

双大拳・乱!!

 

流星のごとく降り注ぐ巨大な双拳は、0Pの装甲をいとも容易く歪ませ、再起不能にした。

 

後方に倒れつつある0Pを足場に利用して、前へと躍り出て轟に続く。

 

「1-B拳藤一佳!!今度は0P敵を真正面から打ち砕く!!お前の幼馴染ヤベェな!!!」

「彼女なら当然あれくらいは出来ます」

 

轟と一佳の2トップ。

 

予選第一種目の序盤も序盤であるが、波乱に満ちている。彼らは如何にしてこの試練を乗り越えるのだろうか。




「双大拳・乱」というのはこの作品のオリジナルです。
名前の元ネタは猗窩座殿の「破壊殺・乱式」です。

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