僕のヒーローアカデミア ヒノカミ英雄譚 作:枝那
第一試合
「アレ?火神じゃん。実況はいいのかよ?」
いよいよ本戦が始まろうとしたその時に、縁壱はA組の観客席へとやって来た。
ステージで戦う者以外は観客席で観戦することになっている。
「相澤先生が『最終種目くらいはクラスメイトと一緒に観ろ』と仰ってな。お言葉に甘えることにした」
「ほぇー」
事の経緯を話しながら席に着く。すると、隣にいた上鳴が話しかけてきた。
「なぁなぁ、火神は緑谷と心操どっちが勝つと思う?」
「ふむ……俺の予想としては、緑谷が勝つ」
「ほほー、その心は?」
縁壱の勝敗予想が気になって近くの席に座っている者が耳を寄せる。上鳴の右隣にいる爆豪も興味なさそうにしているがしっかりと耳を傾けている。
「身体能力の差だな。緑谷はここ最近で“個性”の調整を学んだ。加えて、素の身体能力や体術も優れている。心操もよく鍛えられてはいるが、緑谷には及ばない」
「あー、そんなことまで分かんのか。便利だな
「だけど、奴の“個性”は恐らく『洗脳』だぞ」
そこまで話を聞いていた尾白が割って入る。
「マジ?チートじゃん」
「でも多分初見殺しだよ。『問いかけに答える』が“個性”の発動条件なんじゃないかな」
脅威的な“個性”ではあるが、事前に情報が割れていれば対策自体は容易いものだ。
「搦め手を使う相手か…確かに、緑谷が今まで相手にしたことのない敵だな。ならば、この戦いの最適解は試合開始と同時に緑谷が“個性”を使用して即座に近付き、心操に何もさせずに退場させることだな」
「うん、俺も火神の言う通りだと思う。……あぁ、もうすぐ始まるよ」
ゲートから緑谷と心操が同時に入場する。緑谷は緊張した面持ちで、心操は表情が強張っている。
『一回戦!!成績の割に何だその顔ヒーロー科緑谷出久!!
普通科の席からは彼を応援する声が届く。
プロヒーローの席からも、ヒーロー科を出し抜いてここまで勝ち上がってきた『普通科』の生徒に期待を抱く声がそこかしこで挙がっている。
プレゼントマイクがルールを説明している最中、心操は緑谷に話しかける。
『レディィィイ』
「
『START!!』
「チャンスをドブに捨てるなんてバカだと思わないか?」
そして、試合開始と同時に彼はクラスメイトを侮辱する言葉を放った。
「なんてことを言うんだ!!」
その言葉に当然緑谷は激昂。頭に血が上り、反射的に体が飛び出る。
「―――」
「俺の勝ちだ」
だが、緑谷が動き出した頃にはもう遅かった。彼は『答え』てしまった。
緑谷の瞳から光が失われ、その体は彫像のようにびくりとも動かない。
『オイオイどうした!?大事な緒戦だぞ盛り上げてくれよ!?緑谷開始早々、完全停止!?』
「あぁっ!忠告したってのに……!」
焦ったように尾白が呟く。本戦の前に彼は緑谷にも心操について話していた。当然その発動条件に関しても。
緑谷であれば、その“個性”に関する考察を更に深めて試合を有利に進めることが出来ただろう。しかし、結果はコレである。
緑谷は自身のクラスメイトを貶す言葉に我慢出来ず、尾白との会話も頭からすっかり抜け落ち、彼の発言に返答してしまった。
「デクくん……!」
「大丈夫かよ緑谷……」
「…………ケッ」
A組から緑谷を心配する声が上がる。彼は微動だにしない。このままでは彼の敗北は確実、逆転の可能性は0に等しい。
当然『洗脳』にも解除条件はある。一定以上の衝撃を受ければ、洗脳状態は解除される。しかし、一対一という試合形式に加え、心操と緑谷の距離は離れている。そのような外的要因の発生は見込めない。
―――『外的』要因に限れば、の話だが。
「振り向いてそのまま場外まで歩け」
心操が傀儡と化した緑谷に命令を下す。
「―――」
緑谷は何も言葉を発することなく、心操の命令に従い、振り向いてゆっくりと歩き始めた。
『ああーー!緑谷ジュージュン!!』
「強すぎんだろ、『洗脳』…!」
その強力な“個性”にヒーロー科の生徒たちは戦慄する。
「なんであんな奴がヒーロー科に落ちたんだよ…」
「あのような“個性”だからだな。今年の入試はロボットが相手だった。恐らく、彼の“個性”は機械には通用しないのだろう」
「あっ、そうか」
「どうしても零れ落ちる者がいるのも仕方がないが、惜しい話だな。ヒーロー科で磨けば、彼はヒーローとして大成出来るだろうに」
縁壱の嘆きにも近い言葉を聞いて、彼らは再びステージを見る。緑谷は既に半分以上を踏破していた。
緑谷と親しい麗日や飯田はこのまま彼が負けてしまうのではないかと手を力強く握りしめる。本戦でいつか戦うことになるかもしれない相手ではあるが、そのことを今は忘れ自分たちの友人に勝って欲しいという想いが強く胸の中で渦巻いていた。
だが、悲しいかな、このまま緑谷が場外になるのを指を咥えて見ていることしかできない。
ようやくステージの端にたどり着いた。彼があと一歩踏み出すだけで場外となり、この試合は心操の勝利で幕を閉じる。
心操が自分の勝利を確信した瞬間。
ビュォオオーーー!!!
突如、フィールド上に強風が吹き荒れた。
何が起こったのかと観客たちの間にどよめきが広がる。
『緑谷!!とどまったぁー!!?』
あと一歩のところを踏みとどまった緑谷。洗脳状態が解除された際の衝撃によるものか、堰を切ったように呼吸を荒くしている。
「洗脳が解けた!?」
「やった!デクくん!!」
「でもどうして…」
「指が腫れている。“個性”を暴発させて洗脳を解いたのか」
「なんて無茶を……」
心操の策に嵌まり、後は敗北に向かって行くだけかに思えた緑谷がなんとか洗脳を解いたことに、観客席から歓声が沸き起こる。
洗脳を解除した。その要因を緑谷自身も把握出来ていないが、今はそんなことを考察している場合ではない。ジンジンと熱を帯びる指の激痛に耐えながら、“個性”で身体を強化し心操の方へ向かう。
自力で洗脳を解除されたという未だかつて例がない現象に動揺しながらも、心操は再び洗脳するためになんとか言葉を紡ぎ出す。
だが、緑谷は同じ過ちを繰り返さない。
2人はある意味で同じだった。
雄英に入学するまでは“個性”を持たなかった緑谷。
自身の“個性”を『犯罪者向きだ』と言われてきた心操。
“個性”を持っているかどうかという明確な差はあったが、自身を『恵まれた側ではない』と認識していながらそれでもヒーローへの憧れを捨て切れなかったという点において、2人は共通しているのだ。
心操の言葉に強い共感を抱きつつも、緑谷は止まらない。“個性”で強化されている緑谷と、心操の身体能力の差は歴然。心操も出来る限りの抵抗をするが、あえなく場外へと追い込まれた。
「心操くん場外!!緑谷くん2回戦進出!!」
ミッドナイトの判定と同時に、喝采が巻き起こる。
「はー……一時はどうなることかと……」
「まさか自力で洗脳を解くとは…相変わらず緑谷くんには驚かされる」
強張っていた体が解けて、大きく息を吐く麗日と、勝利への道筋を手繰り寄せた緑谷に感心する飯田。この戦いを制した彼に拍手を送った。
『IYAHA!緒戦にしちゃ地味な戦いだったが!!とりあえず両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!!』
試合が終わり互いに頭を下げ合う。
二回戦に進出出来たのは喜ばしいが、緑谷は試合中に聞いた心操の言葉を反芻していた。
「心操くんは…なんで、ヒーローに…」
「…憧れちまったもんは仕方がないだろ」
「……!」
踵を返しさっさと退場しようとする心操。小さくなっていく彼の背中を見て緑谷は何も言い出せなかった。
しかし。
「かっこよかったぞ心操!」
重い足取りの心操に掛けられる賞賛の声。ふと、観客席の方を見上げる。
「障害物競争1位の奴といい勝負してんじゃねーよ!」
「俺ら普通科の星だな!」
普通科にいる友が、彼の努力と健闘を褒め称えてくれている。それだけではない。
「あの“個性”…対敵だとこの上なく強いぞ…!うちに欲しいな」
「あれを落とすかー、雄英もバカだなー」
「まぁ、毎年受験者数半端ないし仕方ないけどね」
プロヒーローも、彼の勇姿をしかとその目に焼き付けた。彼の戦いは決して無駄にはならなかった。
ヒーロー科の入試に落ち、この体育祭でも結果を出せず、もはやヒーローになる道は閉ざされたと思っていた心操の心に、一筋の光が差し込んだ。
「結果によっちゃヒーロー科編入も検討してもらえる……覚えとけよ?」
心操は堪えるような表情をするが、それを緑谷には見せず背中を向けたまま言葉をかける。
「今回は駄目だったとしても…絶対諦めない。ヒーロー科に入って資格取得して…絶対お前らより立派にヒーローやってやる」
それは一見すると宣戦布告にも思えるものだったが、今一度、彼は自分の夢を決して諦めないという誓いを胸に刻み込んだのだ。
「―――うん!」(あ、やられ……)
「フツー俺と会話するときは身構えるんだけどな」
試合が終わったのにも関わらず、再び洗脳を受けてしまう緑谷。そんな彼に向けて心操は不敵な笑みを浮かべて振り返る。
「そんなんじゃいつか足元掬われるぞ?せめて、みっともない負け方はしないでくれ」
第二試合
『お待たせしました!!続きましては~コイツらだ!!』
『優秀!!優秀なのに拭い切れぬその地味さはなんだ!ヒーロー科瀬呂範太!!』
「ひでぇ」
『
瀬呂はA組トップの実力者を前に気を重くしながらも、それを誤魔化すように引き攣った笑みを浮かべている。正直に言って勝てる道筋が見えないのだ。
『Ready……START!!』
開始と同時に瀬呂はセロハンテープを伸ばし、瞬時に轟を拘束する。そのまま遠心力を利用し轟を場外まで吹き飛ばす作戦だ。轟と違い大技を持たない瀬呂にはこれが最適解と言える。
轟を即座に無力化したことにプロからも「おぉ…!」と感嘆の声が上がる。下馬評を覆し、瀬呂が勝つのではと全員が思い始めたその時。
「わりぃな」
轟の短い一言と同時に、スタジアム外へ大きく飛び出すほどの大氷壁が生み出された。かつてない規模で放たれた氷塊に、プロヒーローのみならずA組の生徒や教師たちも度肝を抜かれる。
「や……やりすぎだろ……」
その氷の延長線上にいた瀬呂は顔だけを出し氷の檻に閉じ込められていた。
「瀬呂くん……動ける?」
体の半分が凍り付き、寒さに震えながらもミッドナイトは審判としての役割に従事する。
「動けるわけないでしょ……」
「瀬呂くん行動不能!!轟くん二回戦進出!!」
轟は凍っている瀬呂に近付き、過剰な攻撃を浴びせたことを詫びながら、
「ど、どんまーい」
「どんまーい…」
「ドーンマイ!」
余りに圧倒的かつ一方的な戦いに、各所から瀬呂に向けてドンマイと彼を慰める声が湧き起こる。瀬呂もよくやったが、流石に相手が悪すぎた。
そんなドンマイコールの中で、轟の事情を知っている緑谷の目には、彼の背中がとても悲しいものに映っていた。
第三試合
「次は上鳴くんと拳藤ちゃんのバトルか~」
「拳藤の強さは知ってっけど…どっちが勝つのか予想できねぇな」
「火神くんは、どっちが勝つと思う?」
緑谷が一佳のことを最も知る火神に尋ねた。
「そうだな。まず、上鳴の『帯電』は強力だ。広範囲に対応できる上に、当たってしまえば動きを阻害される。『近づくことが出来ない』というのはそれだけで十分な強みと言える。だが、上鳴はまだ近接戦闘が不得手だ。彼が勝つには、試合開始と同時に電撃を放ち、一佳を無力化しなければならない」
「対して一佳は、上鳴の放電に対抗する手段を持っていない。だが、肉体の性能は彼女の方が上だ。故に、この場合の最適解は上鳴の脳がショートするまで放電を避け続け、彼が無力化したところを制圧することになるな」
「そっか…!確かに拳藤さんの『呼吸』を合わせた体術は強力だけど、上鳴くんの“個性”を前には無力に等しい。騎馬戦でやってたみたいにフィールドの破片を投擲して遠距離から攻め続けるか…?いやでもそれをしている間に放電を食らったら一巻の終わりだな」
「じゃあー、やっぱり上鳴が勝つんかね?」
「さて、俺としては一佳に勝って欲しいが…どちらに転ぶかは分からないな」
『ステージを乾かして次の対決!』
『B組からの刺客!圧倒的な身体能力と体術で勝ち上がってきたフィストガール!拳藤一佳!!
上鳴は冷や汗をかきながら、目の前の強者を見る。二週間前の模擬戦で高い実力を見せた拳藤にどうやって勝つか、必死で頭を回している。
(拳藤かぁ。近接じゃ敵わねーし、これはもう放電ブッパで行くしかなくね?)
「なぁアンタ」
「…?」
『Ready…』
「先に謝っとくよ。アンタ相手に手加減なんてできねぇからさ…!」
『START!!』
「うぇ、うぇーーい……」
『瞬!殺!!』
一瞬にして勝負は着いた。
場外で間抜けな面を晒しながら、呆気なく敗北したことに上鳴は涙を浮かべている。
試合開始と同時に、彼は『無差別放電130万V』を放った。一佳はそれを空中に逃げることで回避。
許容量を上回る放電を行ったことで脳がショートした上鳴にまともな思考など出来るはずもなく、着地した一佳によってそのまま場外へ運び込まれた。
『初撃で最大火力を放ったな。接近戦に持ち込まれれば上鳴の勝ち目は無くなる。出来るだけ自分に近づかせず勝負を決めたかったんだろうが…今回はそれが仇になったな』
『解説ありがとう!』
「上鳴くん場外!拳藤さん二回戦進出!!」
「よっしゃー!」
「やったぁ!一佳!!」
彼女が勝ち上がったことにB組の者たちは我が事のように喜んで、快哉を叫ぶ。
「あっれぇ~?おかしいなぁ?A組はB組より優秀なはずなのになぁ~?」
物間はと言うと、水を得た魚のようにA組を煽っている。違うブースだというのにわざわざやって来てご苦労なことだ。
当然、B組の仲間たちが彼の蛮行を見逃すはずもない。
一佳が居ない今、彼を窘めるのは泡瀬洋雪。彼は背後からこっそりと近づき、物間の首を力強く掴んだ。ダウンした物間を、他のB組の生徒が回収する。ここまで縁壱がB組教室に来た時と全く同じ流れである。
「わりぃな。ウチの物間が」
泡瀬はA組の面々に向かって一言謝意を述べ、その場を立ち去った。
(((何今の……)))
「謎のツボ押された……」
「頸動脈じゃね?」
「よかったねぇー火神。拳藤が勝って」
「そうだな。こう言うのは上鳴に申し訳ないが、一佳が勝ち進んで俺も鼻が高い」
ひとまず幼馴染が第二回戦に進出出来たことを祝う縁壱。その横で、爆豪は退場していく一佳を、いずれ戦うことになるだろう相手を静かに見下ろしていた。
少し緑谷VS心操の比重が重くなりましたね。
ファイアレッドリーフグリーンの配信が決定して激アツ。自分はやったことないので凄い楽しみです。今から色々パーティーを考えています。今年のポケモンプレゼンツも凄い楽しみ。