僕のヒーローアカデミア ヒノカミ英雄譚   作:枝那

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なんとか日曜までに投稿できました……
原作と変わらない部分はダイジェスト形式でやっていきますが、ここら辺は書きたかったところでもあります。


第21話 三人目

第四試合は、飯田と発目の対戦だった。

 

結果から言うと、この試合は飯田の勝利に終わった。

しかし、勝者である飯田は素直にその喜びを噛みしめることなど出来なかった。

 

飯田は発目作のサポートアイテムを身に着けて試合に臨んだ。

 

サポートアイテムの使用が認められるのは、サポート科の生徒と、事前に申請した一部の生徒に限られる。当然、飯田の行動は物議を醸した。

 

だが、双方合意の上ならばということで、運営側は戸惑いながらも飯田のサポートアイテム着用を許可したのだ。

 

それが、発目の企みであることに気付かず。

 

試合が始まるや否や、戦闘中でありながら発目は自身のサポートアイテムを解説しだしたのだ。

そして、10分間の追いかけっこが終わった後、彼女は自ら場外へ行き、敗退となった。

 

そう。飯田は発目のサポートアイテムの宣伝の出汁に使われたのだ。

 

飯田は耳障りの良いことを言って自分を騙した発目に憤慨し、緑谷ら観客たちはその手段の選ばなさに恐れおののいて、第四試合は幕を閉じたのだった。

 

第五試合は芦戸対青山、第六試合は常闇対八百万の対戦で、両方とも短期決戦に終わった。

 

第五試合の勝者は芦戸。彼女は青山のネビルレーザーを避け続け、彼がサポートアイテムとして装着しているベルトを破壊。慌てた隙に顎にアッパーを食らわせて一発でノックアウトしたのだった。

 

第六試合は勝者は常闇。彼は先手必勝で攻め続け、八百万がつくり出したものを使わせることなく、彼女が場外に押し出されたことで決着となった。

 

第七試合は、切島と鉄哲の対戦である。

 

二人は『硬化』と『スティール』という似た系統の“個性”を持っている。両者ともに近接で真価を発揮する“個性”であるため、試合はシンプルな殴り合いとなった。

 

どちらが先に倒れるかの勝負になったが、両者は同時にダウン。その場で決着はつかず、回復後に簡単な勝負で決着をつけることになったのだ。

 

 

そして第一回戦最終試合。第八試合は麗日と爆豪の対戦だった。

この対戦カードに一部のA組の生徒たちは気が気でなかった。

爆豪の容赦の無さは彼らも知っている。彼は相手が女子だからと手を抜くはずもない。

 

その嫌な予感は見事に的中する。

 

試合開始と同時に、先手を打って麗日は爆豪に向けて突撃をかました。

触れさえすれば浮かせることで戦いの主導権を握れる麗日に対して爆豪が繰り出した手段は迎撃。A組の予想通り、彼は一切の情け容赦なく爆破を浴びせた。

 

初手を潰された麗日は、今度は煙幕に隠れジャージの上着を身代わりにして爆豪の背後を取るも、これも対応されてしまった。この2週間で鍛え上げられた爆豪の気配感知能力を以てすれば、背後から近づいてくる彼女に対処するなど容易なことだった。

 

そこからは一方的な戦いが始まった。

ひたすら突進を続ける麗日と、爆破を放ち続ける爆豪。

傷だらけになっていく彼女の姿は見てて痛々しく、その光景を見てられなくなったヒーローたちが次々と爆豪に向けて野次を飛ばし始めた。

 

非難轟々。まさに四面楚歌といった状態だったが、相澤がプロたちに喝を入れたことで、ブーイングの嵐は収まった。

爆豪の「弱いものいじめ」とも取れる戦い方。しかしそれは最終種目まで勝ち上がってきた麗日の実力を認めている故のものであり、相澤はそれを理解していた。

 

会場に気まずい空気が流れる中、遂に麗日は自身の『奥の手』を発動した。

それは麗日が蓄えていた武器。何度引き剥がされようと、諦めず食らいつくことでその手に手繰り寄せた勝機。空を覆う無数の瓦礫――流星群が、爆豪に向かった襲い掛かった。

 

外野にいるヒーローですら気付かなかった麗日の秘策。流星群発動と同時に、悲鳴を上げている体に鞭を打って彼女は駆けだした。

 

けれども、爆豪には届かなかった。

彼は最大火力で高密度の流星群を爆撃。真正面から麗日の必殺技を打ち破った。

 

今の麗日に出来る最大限が通用しなかった。それでも、彼女は勝利を諦めはしなかった。

だが、心は折れていなくとも、体は既に限界を迎えていた。

 

予想外の一手を目にしボルテージが上がった爆豪をよそに、力無く倒れこむ麗日。

第八試合勝者は爆豪に決まり、第一回戦は幕を閉じた。

 

切島と鉄哲の戦いも後に決着がつき、ベスト8の顔ぶれが出揃う。

 

 

緑谷、轟、拳藤、飯田、芦戸、常闇、切島、爆豪。この8人が第二回戦に進出する。

少しばかりの休憩を置いてから、第二回戦は始まる。

――第二回戦の初戦は緑谷対轟。早くも成績上位者が相まみえることになった。

 

第一回戦の熱気そのままに、体育祭は更なる熱狂へと加速していく。

 

 

試合が始まる直前、麗日の控室を訪問していた緑谷は会話を切り上げ、ステージに向かっている。

 

(悔しくないわけ、ないよな………)

 

轟との戦いが刻一刻と迫っている。今の緑谷の頭の中を占めているのは、次の試合ではなく麗日のこと。何でもないように明るく振る舞ってはいたが、部屋を出た彼の耳には、麗日のすすり泣く声が確かに届いていた。

 

『見とるね。頑張って!』

 

助けになると言っておきながら実際は何もしてあげられなかった。挙句、彼女に背中を押される始末。

 

拳をぎゅっと強く握りしめる。

さっきもそうだ。彼女もこの体育祭に全力で挑んでいた。決して譲れない想いを抱いていたはずだ。朗らかな笑顔の裏にある悔しさ、それを見抜けなかった。思い遣れなかった。自分の不甲斐なさに押しつぶされそうなる。

 

麗日に託された想いの分まで背負って、地面を一歩一歩強く踏みしめる。その時だった。

 

「おォ、いたいた」

 

「エンッ……!?」

 

曲がり角から炎を身にまとった大男が現れる。その口ぶりは緑谷のことを探していたようで、彼を見つけると正面に向き直った。

 

轟焦凍の父親であり、No.2ヒーロー・エンデヴァー。

 

写真や映像では得られない、直接相対するからこそ分かる威圧感に緑谷は身を縮こまらせる。

 

「君の活躍見させてもらった。素晴らしい“個性”だね。指を弾くだけであれほどの風圧…!パワーだけで言えばオールマイトに匹敵する“個性(ちから)”だ」

 

その言葉に緑谷は大きく心臓を跳ね上がらせた。

決して知られてはならない秘密。自身の“個性”とオールマイトとの関係をエンデヴァーは勘付いているのかと、しどろもどろになる。

下手なことを口走らない内に、緑谷は早くその場を離れようとする。

 

足早に横を通り過ぎようとする緑谷の背中に、エンデヴァーは言葉を投げかけた。

 

「ウチの焦凍にはオールマイトを超える義務がある。君との試合はテストベッドとしてもとても有益なものとなる」

 

その言葉に緑谷は足を止める。

 

「くれぐれもみっともない戦いはしないでくれたまえ」

 

エンデヴァーの傲岸不遜な物言いに、昼休憩の時に聞かされた轟の独白がふと緑谷の脳裏によぎる。

 

用件を言い終えてその場を立ち去ろうとするエンデヴァーに、今度は緑谷が待ったをかけるように言葉を放った。

 

「……僕は、オールマイトじゃありません」

 

「そんなものは当たりま…」

 

「当たり前のことですよね」

 

緑谷は燃え盛るような威圧感に負けず、振り向きながら言葉を紡ぐ。

 

「轟くんもあなたじゃない」

 

彼の言葉にエンデヴァーは目を見開く。そそくさと試合に向かっていく緑谷の背中を、エンデヴァーの鋭い眼光は射貫かんばかりに捉えていた。

 

 

「来たな」

 

左右で色の異なる双眸が緑谷を見据える。緑谷もまた闘志に満ちた表情で轟を見つめていた。騎馬戦以降二度目の対峙。前回と異なるのは、一体一であること。正真正銘、自分の実力だけで勝利を掴み取らなければならない。

 

実力の差は歴然。けれど、それが戦いを諦める理由にはならない。

 

涼しい顔をしているが、轟も普段通りとはいかないようで、ふぅ、と震える体を落ち着かせるように小さく息を吐いた。

 

『今回の体育祭両者トップの成績!!まさしく両雄並び立ち、今!!緑谷対轟!!』

 

(まず氷結が来る!)

 

(あの力を好き勝手撃たせるのは危ねぇ)

 

START!!

 

緑谷と轟の導き出した結論は同じだった。

開始の瞬間、轟の足元が凍てつき、幾重にも重なった氷柱が形成される。氷の山脈とも呼べるそれは、ステージを冷たく蝕みながら、凄まじい勢いで緑谷に襲い掛かる。

 

迫りくる質量の暴力を前に、緑谷が取った行動は回避。

 

「デラウェアスマッシュ!!」

 

氷結の射線外に飛び出しながら、緑谷は氷塊に空気の弾丸を打ち出す。

 

「クッ……!!」(やっぱり5%じゃ少ししか削れない……!)

 

範囲外に避けられたのを見て、轟は再び氷壁を作り出し、緑谷の方へ向かわせる。

 

「……っぶな!!」

 

それを間一髪で飛び越えることはできたが、状況は決して良くない。

 

(まずいぞ……!今は何とか避けれてるけど、このままじゃ逃げ場が無くなって場外か拘束されて詰む……!!)

 

早くも轟の優勢。緑谷は逃げ惑いながら全力で思考を巡らせる。

 

(瀬呂くんの時みたいな大氷壁を使われたらそれで一発アウト。だとしたら……)

 

このまま逃げ続けてもいずれ負ける。であるならば、リスクを冒してでも轟との近接戦に持ち込む。そう決断した緑谷は、轟に向かって疾駆する。

 

(やはりそう来るか……!)

 

他方、緑谷の動きを予想していた轟は、“個性”の出力を更に高める。先程のように逃げる隙など与えない。圧倒的な物量を以て、この試合を制する。

 

周囲の空気が一段と冷え込み、冷気が肺を突き刺す。

 

「グッ……!?」

 

轟が氷壁を放とうとしたその瞬間、彼の肩に何かがぶつかる。

鈍い痛みによろめき、“個性”の発動が中断される。

 

「氷の破片を…!いつの間に…!」

 

緑谷が投擲したのは轟から生み出された氷、そのごく一部の瓦礫。“個性”による身体強化も相まって、轟の気を逸らすには十分な威力を発揮した。

轟が姿勢を崩したその隙に、緑谷は一気に距離を詰める。

 

右腕に力を入れ、振り上げる。

 

「デトロイト…スマッシュ!!」

 

「ッ……!!」

 

十分な防御も取れない状態で、腹に重い衝撃が走り嗚咽を漏らす。

 

『イイの入ったァーーーッ!!ここまで劣勢の緑谷、轟に容赦ない一撃を入れる!!』

 

並のプロを凌ぐ実力を持つ轟に食らいついた緑谷に、プロの席から感嘆の声が漏れ出る。

 

それを見たエンデヴァーがわずかに顔を顰める。その表情は『炎を使え』とでも言いたげで。鬱陶しい視線に苛立ちを募らせながら、轟は構え直す。

 

「どこ見てるんだよ…!」

 

「!」

 

間髪入れず、緑谷は再び轟に殴打を食らわせようとする。近づかせまいと咄嗟に足元から氷山を生み出す。しかしそれは序盤に繰り出していたものと比べればお粗末なもの。緑谷は直前で攻撃から回避へと転換、数歩バックステップして距離を取る。

 

「震えているよ、轟くん」

 

「……!」

 

「さっき大氷壁を打つつもりだったよね?でも、瀬呂くんの時と比べると溜めが少し長かった」

 

戦っている間でも緑谷は見逃さなかった。轟の身に起こっている異変を。

 

「“個性”だって身体機能の一つだ。君自身冷気に耐えられる限度があるんだろう…!?で、それって左側の熱を使えば解決出来るもんなんじゃないか…?」

 

轟の戦いはいつも一瞬だった。それ故分析しようにも情報が足りなかった。だが、今は違う。逃げ惑い、“個性”を使わせ続けたことでようやく見つけることが出来た彼の“隙”。

 

轟の表情が微かに曇る。

 

「皆本気でやってる。勝って、目標に近付くために…一番になるために!半分の力で勝つ!?まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!」

 

寒さに震える拳を今一度強く握りしめて、轟に向けて突きつける。

 

全力でかかってこい!!

 

そう力強く宣言した。固唾を飲んで観戦している同輩やヒーロー、そして会場。その静寂を切り裂くように。

 

「…なんのつもりだ。全力?クソ親父に金でも握らされたか…?」

 

緑谷の挑発に等しい行為。それを聞いた轟は眉間に皺を寄せる。

 

「イラつくな……!」

 

焼き付いて離れない父親の影を振り払うように、ストレスに身を任せて轟は地面を強く蹴飛ばした。

 

あちらから近付いてくるのなら願ったり叶ったり。緑谷が有効範囲に来た瞬間、足を凍らせて終わりだ。右半身に力を集中させながら、轟は緑谷の方へひた走る。

 

轟の右足が地面から離れるその瞬間。その一瞬を見極め、緑谷は急加速して一気に距離を詰める。

 

(右足が上がった瞬間に…コイツ…!)

 

地面に触れる箇所が無くなったことで、一瞬ではあるが轟の氷結は封じられる。彼に肉薄した緑谷は、再び右腕に力を込め、今度はアッパーの要領で轟の腹を強打する。

 

「ゴホッ……!!」

 

『ニ撃目ーー!!緑谷、一瞬の隙を突いて再び轟に一矢報いる!!これはもしかすると、もしかするのかァ!?』

 

体がくの字に凹み、後方へ殴り飛ばされる。腹部に響く激痛に耐え、受け身の態勢を取りながら、轟は空中で体を翻して緑谷に氷結を放つ。

 

(動きが鈍い!それに氷の勢いも弱まってる!!)

 

連なる氷の城壁を避けながら、緑谷は確信する。畳みかけるため、再び距離を詰める。

対して、轟はその場からは動かず、地面に右手を置いて構える。

 

「…!」

 

危険な予兆を感じ取った緑谷は、横に飛び跳ねる。緑谷がさっきまで駆けていた地面は氷で覆われていて、日光をキラキラと反射させている。

 

(ステージに薄い氷を……!?)

 

『おぉーーっと?今度はやけにショボい氷結だぞ?』

 

『トラップだな。滑って転ばせて、そのあと拘束するという算段だったんだろう』

 

(こんなテクニカルなこともしてくるのか…!)

 

右を使い続けたことにより体が冷え、更に頭に血が上っている状態でも失われない精密な操作。戦闘中でありながら、緑谷は轟の練度に舌を巻く。

 

今までのような出力に物を言わせた攻撃ではなく、テクニックにも頼るようになったということは、それだけ追い詰められているということ。

 

轟の姿を見れば、彼の体には霜が降り、もう取り繕えないほど体を震わせている。

 

今が攻め時ではある。が、

 

(轟くんにはもう近づかせてもらえない!弱体化してるとはいえ氷は5%じゃ対抗できない!!)

 

氷を使い過ぎた今の状態では近接は分が悪いと判断した轟は、遠方からの連撃に徹している。安易に近づけば、氷の檻に囚われて行動不能として敗退となってしまう。

 

今の緑谷の“個性”の許容上限は氷を破壊するには心もとない。

 

もはや打つ手なし。この状況を打開するには、自傷覚悟で100%を解禁するしかない。

その結論に至ったと同時に、緑谷はあることを思いつく。

 

(出来るのか、そんなこと…!?もし失敗したら…!)

 

緑谷は逡巡する。

そもそも自身の“個性”でさえ、扱いは未熟。であるにも関わらず『ソレ』に手を出せばどうなるかは予想がつかない。

 

(OFAで肺機能が強化されてる今なら…!)

 

けれど、今はコレしかないと緑谷は覚悟を決める。突撃を中断し、一旦轟から距離を取る。

 

「スゥーーー、ハァーーー………」

 

深く息を吸い、吐き出す。冷気が肺を満たす。

 

「何を……」

 

轟が怪訝な表情をする。彼だけではない。試合を観戦している者たちも、緑谷の突然の行動にハテナを浮かべる。

 

「――成程」

 

緑谷の行動の意図を誰よりも先に理解したのは、観客席に座っている縁壱。

 

ソレは最強が手ずから指導した技術。“個性”で戦うヒーローにとっては目から鱗とも言える力。血の滲むような努力の果てに辿り着くもの。

 

すなわち。

 

(『O F A(ワン・フォー・オール)』+『()()()()()()』……!!)

 

静まり返った会場に響く、風の吹き荒れるような音。

 

「それは……!」

 

緑谷と相対する轟が目を見開いた。次第にA組の者達は緑谷が何をしたのかを理解し始める。爆豪に至っては、そのまま試合に乱入するのではないかという程の剣幕で柵に身を乗り出している。

 

ワン・フォー・オール フルカウル ブレススタイル

 

連綿と受け継がれてきた聖火が轟々と燃え上がる。

火神縁壱と拳藤一佳に続く三人目の使い手、緑谷出久が『全集中の呼吸』を魅せる。

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