僕のヒーローアカデミア ヒノカミ英雄譚 作:枝那
激戦を制し、爆豪は見事1位に上り詰めた。
暫しの休憩時間の後、体育祭は表彰式へと移る。
空には彼らの健闘を称える花火が咲き誇っている。
ステージに集められた選手たちの前には、悠然と表彰台の上で佇んでいる強者の姿がある。
同率3位、轟焦凍・常闇踏影。2位、拳藤一佳。1位、爆豪勝己。以上4名が表彰を受けることになる。
「メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」
「ハーッハッハッハッハ!!」
ミッドナイトの言葉と同時に、高らかな笑い声が会場に木霊する。誰もが知っているその声を聞いた途端、観客たちから歓声が沸き起こる。
「私が」
スタジアムを囲う壁の上に立つ人影が、華麗に飛び立つ。
「メダルを持って来t「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」」
会場に気まずい空気が流れる。
オールマイトはその巨体をプルプルと小刻みに震わせながらミッドナイトの方を向き、ミッドナイトはオールマイトに向けて申し訳なさそうに手を合わせている。
「しかし今年の1年は良いなぁ」
「オールマイトに見てもらえてんだよなー」
気を取り直し、メダル授与に取り掛かる。
オールマイトは常闇、轟と順番にメダルを首にかけていく。励ましの言葉と教師としての助言を掛けていき、次は一佳の番だ。
「拳藤少女、おめでとう!」
「ありがとうございます」
「素晴らしい戦いだったよ。どちらが勝ってもおかしくないギリギリの戦いだった。その強さを手にするまでに相当な鍛錬を積んだのだろう。今後も励みたまえ!」
「…はい!2位にはなっちゃったけど、
「そうだね。君の師である火神少年も、きっと誇らしく思っているよ!」
その言葉を聞いてから、彼女は縁壱の方に目を向ける。目線を向けられた彼は、何か言葉を発するわけでもなく一佳に顔を向けて、一度頷くだけだった。でも、彼らにはそれだけで十分で、同じように頷いた後、一佳はオールマイトの方に再び向き直った。
それを見届けた後、オールマイトはどこか不機嫌そうな表情の爆豪の方へ移動する。
「さて!爆豪少年、優勝おめでとう!」
「…別に、こんな優勝に意味なんかねェよ」
「ホウ?」
「俺が欲しいのは完膚なきまでの頂点なんだよ…他のモブ共に勝ったところで
「フゥム……多くのライバルが蹴落とし合うプロの世界で、そのような向上心を持ち続けることが出来る人間はそう多くない。受け取っとけよ!ソレを忘れないようにさ!」
「………おう」
不承不承、とメダルを受け取る爆豪。彼を尻目に、オールマイトは集まっている生徒たちや取材陣の方に体を向けた。
「さて皆さん!今回は彼らだったが、誰もがここに立つ可能性があった!4人だけじゃない、激闘を繰り広げた次代のヒーローたちに、どうぞ拍手を!!」
オールマイトの言葉を皮切りに、会場中から溢れんばかりの拍手が選手たちへと投げかけられる。
拍手の音が次第に小さくなっていく。表彰式が終わり、もうお開きといった雰囲気ではあるが。
「ですが皆さん!まだ体育祭は終わってない!」
「「「あ」」」
彼の言葉を聞いて、生徒たちは思い出したかのように口を揃えて呟いた。
「これから火神少年とのエキシビションマッチが始まるぞ!」
そう言いながら、オールマイトは火神の方を指差す。周囲にいた生徒たちは一斉に彼に視線を向け、自然と距離を取っていく。
「さァ、来いよ少年!最後にドカンと一発、ドデカい花火を上げてやろうぜ!!」
◇
コツコツ、とコンクリートの床と靴がぶつかる音が暗がりの通路に反響する。
普段は気に留めることのない無機質な音が、今はやけに大きく聞こえる。
ふと、物思いに耽る。
瞼の裏に映るのは自分がウィステリアに来るよりも更に前のこと。
幼少期に離れ離れになってから、長い年月が経った今でも鮮明に憶えている、父と母と兄の顔。
今、あの人たちはどうしているだろうか。この戦いを観てくれているだろうか。
もし観ているのなら、無様な戦いは出来ない。
より一層の決意を胸に、目の前に広がる眩い光の中に足を踏み入れる。
会場は先程までの熱狂とは打って変わって、緊張をはらんだ静寂に包まれていた。観客たちの心情としては、困惑が占める割合も大きいだろう。
歩いている縁壱の視線の先、ステージの上に立っているのはNo.1ヒーロー・オールマイト。
今までの穏やかな雰囲気など微塵も感じられない、轟々と荒れ狂う台風を彷彿とさせる存在感を放っている。
その一方で、立ちはだかるオールマイトは輝くような笑みを浮かべていた。自分の勝利をまるで疑っていないかのように、これがNo.1だと見せつけるかのように。
縁壱はやっとステージに上がり、オールマイトと向かい合う形で位置についた。
その瞬間、フィールドの四隅から炎が猛々しく噴き上がる。
『さァさァさァ!!雄英体育祭もいよいよ大詰め!雄英史上、異例のエキシビションマッチの開幕だァーー!!!』
それまでの静寂はどこへ行ったのか、プレゼントマイクの煽りに乗せられ、会場の熱は瞬く間に急上昇する。
『立ちはだかるのはこの男!もはや説明不要!平和の象徴、オールマイトォ!!』
『
『Ready………』
『START!!』
「TEXAS SMASH!!」
ズドォオオオン!!!
試合開始の宣告と同時に、突如ステージ上に突風が吹き荒れる。そのあまりに強力な風圧は観客席にいる者たちまで吹き飛ばしそうなほど。
『まず先手を取ったのはオールマイト!挨拶代わりの風圧で火神を牽制!!』
視界を失った観客たちの耳を、実況の声がつんざく。このような芸当を為せるのはオールマイトしかいない。プレゼントマイクが説明するまでもなく、この現象の要因を全員が理解する。
さて、問題はそれを食らった火神縁壱だ。至近距離であの暴風を浴びたのだ。吹き飛ばされて場外になどなってないだろうか。
風が吹き止み、徐々に視界を取り戻す。観客たちの目に映ったものは。
「――ハハッ!!」
同じ舞台に立つオールマイトだけは、誰よりも早くそのことを察知していた。
彼の喜々とした笑い声から少し遅れて、観客たちはステージの状況を認識し始める。
大砲のような風圧が静まると、そこから現れ出たのは赫刀を既に振り下ろした状態で佇んでいる縁壱の姿。
一瞬だけ、彼らの時間が停止する。
『全く意に介さず!火神、オールマイトの攻撃を顔色一つ変えずに防いだァ!!』
プレゼントマイクの実況で、観客たちはその事実に理解が追い付いた。そして、次の瞬間咆哮のような歓声が会場を震わせる。
『さぁて!攻撃を見事防いだ火神に、オーディエンスも大興奮!!つーかどうやったんだアレ?』
『単純に斬っただけだ。空気の壁をな』
『マジか!空気って斬れんのか!?』
『さぁな。実際出来ているんだから可能なのだろう。どんなスピードで刀を振ったのかは定かじゃねぇが……少なくとも音速は超えてるだろうな』
縁壱は体勢はそのままに真っ直ぐオールマイトを見据える。
「そう来なくてはな!少年!」
ドォン!!
爆発したようなけたたましい音がオールマイトの足元から鳴り響く。観客たちがその音を認識した瞬間にはもう、オールマイトは火神に肉薄し、その丸太のように太い腕を突き出していた。
「DETROIT SMASH!!」
オールマイトの渾身の力が込められたストレートパンチ。当たれば縁壱であっても無事では済まない。
「日の呼吸 炎舞」
彼の拳が届くより先に、縁壱は下段構えからそのまま刀を振り上げる。
「Ouch!」
旭光を纏う赫刀の切先が弧を描く。質量を持ち、形を持った紅炎がオールマイトの腕を下から叩く。思わず声を漏らし、オールマイトは反射的にバックステップで下がる。
「容赦ないなァキミ!!」
「ご安心を。峰打ちですので」
火傷こそしていないものの、赫刀の熱は確かにオールマイトの皮膚を灼き、殴打による痛みと衝撃は骨にまで伝わっている。けれども彼は笑みを絶やさない。むしろこれからだと言わんばかりに全身に力を巡らせる。
「さて、肩慣らしはここまでだ!そうだろ?火神少年!」
「――参る」
刹那、ステージ上の二人の像が
二人の姿が消失すると同時に、業火と暴風が舞台を蹂躙し始める。炎は縦横無尽にステージを駆け巡り、一つの線を成す。そしてその炎の閃光に追従するように、疾風もステージに吹き荒れる。観客たちはそれが二人の移動の軌跡であると理解する。
『速すぎて見えなァーーい!!アイツらちっとはエンタメ意識してくれよな!!』
「スゴい……これが火神君とオールマイトの本気……!」
「あぁ……!今まで見たのとは比べ物になんねぇぜ……!」
目の前で繰り広げられている異次元の戦闘。縁壱の実力を既に知っている者たちは少しでも自分の糧にしようと必死で試合を観察して、他の組の生徒たちやプロヒーローなどはその規格外とも言える実力にただただ驚愕するしかなかった。
『さて!ここで火神縁壱の“個性”の紹介だ!』
二人が不可視の攻防を繰り広げている中で、突然プレゼントマイクがそのようなことを言い出した。超規模の戦闘に目を奪われながらも、縁壱のことを知らない観客たちはその実況に耳を傾けている。プレゼントマイクに代わって相澤が口を開いた。
『もう察しているヤツが大半だろうが、火神の“個性”は
真実は異なるのだが、全集中の呼吸の存在が敵側に知られることを懸念した雄英教師陣は火神の強さの秘密をそのように誤魔化すことにしたのだ。
『マジかよ!あのパワーとスピードに加えて武器まであるとか、てんこ盛りすぎだろ!!』
『ただ身体能力が高いだけじゃない。洗練された剣術。優れた動体視力がもたらす未来予知にも等しい先読みの力。それらが火神をあの強さまで至らしめている』
わざとらしく驚くプレゼントマイクを無視して、相澤は淡々と火神について説明していく。彼の強さの理由は分かったが、だとしてもプロですらない一介の学生があそこまでの実力を持っているという事実を受け入れるのには時間がかかった。
ステージのちょうど中央で、二つの影がぶつかり合う。正確無比なオールマイトの拳を、縁壱は刃で受け止め押し返そうとする。しかし、両者の力は拮抗している。この状態では決定打に欠ける。故に、と二人が到達した結論は同じだった。
足で地面を削りながら、後方へ下がって互いに距離を取る。ステージから剥がされないよう下半身に力を込めながら、同時に構える。
オールマイトと縁壱が繰り出したのは、秒間数百発にも渡る連撃。拳と赫刀の切先が、空気が破裂するような音と共に衝突し合う。
『なんっじゃこりゃぁーーー!!?』
実況のことも忘れ、絶叫するようにプレゼントマイクの口から本音が出る。
ガトリング砲のように放たれた両者の乱撃。毛髪一本も入る隙間もないほど高密度のラッシュと刺突がぶつかり、相殺し合うその姿はさながらステージに一面の壁が建てられたかのよう。
衝突し合う攻撃の余波はじわじわとセメントで構築された戦場を削っていく。
『両者拮抗!このまま千日手になっていくかぁ!?』
『……いや』
縁壱はその違和感に気付いていた。
(力が強くなっている?)
切先から伝わるオールマイトの力と、ラッシュの勢いが上がっていってるのを感じる。
「全ての攻撃に対応されるというのなら!より速く!より強く!打ち続ければいいだけのこと!」
上がり続けるスピードとパワーに縁壱は難なく対応する。けれども、オールマイトの勢いは留まる所を知らない。
「少年よ!この言葉を君は知っているはずだ!!」
両者の力が拮抗していたが故に出来上がった衝撃波の壁。それが徐々に徐々に縁壱の方へ押し出されていく。
そして。
「更に向こうへ!Plus Ultra!!」
遂に両者の均衡が崩れる。
限界を超えたオールマイトのスマッシュを赫刀は受け止め切ることが出来ず、そのパワーに押し返され、縁壱は後方へ吹き飛ばされた。
「火神が……」
「押し負けた!?」
彼が初めて見せた敗北の兆し。クラスメイトたちが驚きの声を挙げる。
吹き飛ばされた縁壱はそのまま場外へ一直線――とはならず、地面に刀を突き刺してそれをアンカーとすることでステージに留まる。
しかし、オールマイトは彼が復帰する隙など与えず、すかさず追撃を掛ける。
がら空きの胴体に、容赦なくスマッシュがぶち込まれる。
「何っ……!?」
だが、オールマイトの拳が縁壱に当たることはなかった。
スマッシュは縁壱の胴体をすり抜け、さっきまでそこにいた筈のその姿は霞と消えた。
「日の呼吸 幻日虹」
背後から聞こえる彼の声。オールマイトが咄嗟に振り向くと、そこには空中で刀を構えている縁壱の姿があった。
日の呼吸の型の一つ、幻日虹は回避に特化した技である。体を高速で捻ることで生み出される残像は、視力の良い者ほど騙される。
空中から迫りくる縁壱に対して、オールマイトが取った行動は迎撃ではなく――
「TEXAS SMASH!!」
ビュォオオオーーッ!!
状況を変化させるための一手。
オールマイトが上空に向けて放ったスマッシュにより、上昇気流が発生する。踏ん張りが効かない空中にいる縁壱は為す術なく風圧に巻き込まれて上空へと吹き飛ばされる。
『オールマイト、火神を上空へ放り投げるゥ!これが彼の狙いだったのかァ!?』
その通り。
透き通る世界を持つ縁壱には、どんな攻撃も防がれるか避けられてしまう。全盛期ならばともかく、衰えたこの身体では分が悪い。そう判断したオールマイトは、地上と比べて隙が出来る空中へと彼を飛ばすことに決めた。
オールマイトの目論見通り天空へと投げ上げられた縁壱は、空中でありながらも体勢を立て直す。彼を追うようにしてオールマイトも空へ飛び立つ。
重力に逆らい天へ昇る流星が、太陽へと近づかんとする。
「DETROIT SMASH!!」
「日の呼吸 火車」
空中にいる縁壱が繰り出した一手は、垂直方向の回転斬撃。再びオールマイトの拳と縁壱の刀がぶつかり合う。
タイヤのように空中で回転する縁壱は、ぶつかった時の反動で更に上空へ。オールマイトはそのまま追撃することはせず地上へ一旦戻る。
ステージ上で体勢を立て直したオールマイトは、再び縁壱に狙いを定めて跳躍する。
一瞬、されど引き伸ばされた時間の中で縁壱は思案する。火車による防御を見せた以上、同じ手はオールマイトには通用しないだろう。故に彼が至った結論は防御ではなく迎撃。
空中に居ながら彼は柄を両手で握り、突撃してくるオールマイトを射貫く。
いわゆる下段脇構えで、オールマイトを待ち受ける。足場がない?否、縁壱の世界は既に捉えていた。
それは大地と同様、当たり前に存在するもの。
「DETROIT…」
「日の呼吸」
金と赤。二つの閃光が空中でぶつかり合う。
「DETROIT SMASH!!」「円舞
ドォォォン!!
雷鳴のような音とともに、地面に衝撃が走る。
ステージは中心から場外にかけて蜘蛛の巣状に罅が入っている。
もう何度目か分からない、ごくりと息を呑む。瞬きをするのも忘れている観客たちの目に映っているのは――
「…終わりです」
クレーターの中心でオールマイトの巨躯に跨り、刀を首のすぐ隣に突き刺している縁壱の姿と。
「――そのようだね!」
晴れやかな笑みで、自身の敗北を認めるオールマイト。
次の瞬間、怒号にも近い歓声が、会場を揺らす。
『オールマイト降参!雄英体育祭エキシビションマッチを制したのは――』
『火神縁壱だーーー!!』
歓声と共に、万雷の喝采が二人に向けられる。その中で、縁壱は立ち上がり、倒れているオールマイトに手を差し伸べる。
「立てますか?オールマイト」
「ああ、ありがとう」
彼の手を借りてオールマイトが立ち上がると、二人は向き合う。
「強いな、君は」
「お褒めに預かり光栄です。ですが俺が勝てたのは貴方が老いていたから……」
「モウ!君はナンセンス界でもトップを張る気かい!?」
ナンセンス界とは?というツッコミを心の中でする縁壱に、オールマイトは観客席の方へ手を伸ばした。
「見たまえよ、少年」
オールマイトに促され、縁壱は観客たちの方に視線を向ける。
観客席には新たな英雄の誕生を祝福する者、彼の圧倒的な強さに魅せられた者、二人の激闘を見て涙を流す者までいる。
「君の力は、技は、多くの人の心を動かし、明るく照らしたんだ。この勝利は、君自身の力で勝ち取ったものだ。謙遜は美徳だが過ぎれば嫌味となる!胸を張りたまえ!この栄光は、他の誰でもない、君にこそ相応しい!!」
「…はい。ありがとうございます」
こくりと小さく頷く彼を見た後、オールマイトは観客席に向けて声を張り上げる。
「ご覧になりましたか、皆さん!未来を築き上げる若者の勇姿を!!」
「
「てな感じで最後に一言!!皆さんご唱和ください、せーの……」
体育祭の締めに、全員が一斉に口を開く。
『プルs「おつかれさまでした!!」
「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」
「ああいや、疲れたろうなと思って……」
こうして、波乱の雄英体育祭は幕を閉じたのであった。
単純な身体能力で二人を比べたら
全盛期オールマイト>縁壱
残り火オールマイト≦縁壱
くらいの気持ちで書いてます。
もし全盛期の二人が戦ったら身体能力ではオールマイトが上ですが、全集中の呼吸で疲れない体、透き通る世界による先読みなどで縁壱にも十分勝ち目があるくらいをイメージしてくれれば。
制服アカネちょうど200連目で出ました……
もうすぐ限定の時期だから2、30連くらいで撤退しようと思ってたのに何故自分はここまで回してしまったんだろう