僕のヒーローアカデミア ヒノカミ英雄譚 作:枝那
モニター越しに雄英の教師陣が試験の様子を見ている。
「今年は中々豊作じゃない?」
「いやーまだわからんよ」
「真価が問われるのは…」
そう言いながら、1人の教師があるスイッチを押す。
「ここからさ!」
◇
実技試験も後半に差し掛かり、受験生の疲弊が顔を見せ始める頃。
『ソレ』は突然現れた。
どしん、どしん、と1歩踏み込む度に地響きが鳴る。建物を壊しながら姿を現したそれは、
圧倒的脅威。
その巨体を認識した瞬間、受験生たちは一目散に逃げる。
倒してもポイントは得られない、そういうギミックだと最初に説明された。
ここは逃げるのが最善手。誰もがそう考えるし、逃げても誰も責めない。
だからこそ、色濃く浮かび上がる。
ヒーローの大前提、自己犠牲の精神。
人の波に逆らって、一筋の紅炎が駆ける。逃げている者たちは振り返るが、そこにはもういない。
そこにいる者は皆目撃する。
紅い炎の龍が、巨大な鉄の塊に食らいつく姿を。
「日の呼吸 日暈の龍・頭舞い」
龍はロボットの巨大なアームを刻みながら、重力に逆らいながら頭上に駆け昇る。
頭部に着地する。ロボットは異物を振り落とそうと暴れるが、彼はビクともしない。
両手で柄を持ち、下へ向ける。
「日の呼吸 碧羅の天」
腰を回し、空に円を描くように刀を振るう。大きなダメージを食らったロボットはバランスを崩し、転倒する。縁壱は倒落に巻き込まれる前に高く飛び上がる。そして、
「火車」
身体を垂直方向にぐるりと一回転、とどめと言わんばかりにロボットの頭部を一刀両断した。
ロボットと共に、縁壱は落ちていく。かなりの高度だったのにも関わらず、難なく着地する。
そして、それと同時に、
『終了〜!!!』
試験終了の合図が高らかに鳴り響いた。
◇
「マジであのデカブツを倒しちまった………」
「増強系の個性なのかな?」
「一瞬炎が見えたし炎熱系じゃない?」
試験が終了し、撤収や片付けが始まっている中で、縁壱は受験生たちの視線を独り占めにしていた。
彼は持っていた刀を消滅させて、怪我人の運搬などを手伝っている。
「はいお疲れ様お疲れ様〜〜〜ハリボーお食べ」
小柄な老婆が受験生にグミを渡しながら現れた。
彼女は看護教諭のリカバリーガール。雄英の屋台骨であり、雄英がこのような試験を敢行できるのも彼女の存在によるものが大きい。
縁壱はリカバリーガールの元に駆け寄り、怪我人の場所を伝える。
「あちらに怪我人が」
「おぉそうかい。ありがとうね。……ん?アンタ、もしかして他の受験生を助けてた子かい?何人か言ってたよ。『顔に痣のある人が助けてくれた』って」
「はい。恐らく自分でしょう」
「若いのに立派なことだね。はい、ハリボーお食べ」
「ありがとうございます」
その後、筆記試験も滞りなくこなし、雄英高校入試は幕を閉じた。
「あ、いた。縁壱〜〜〜!!」
校舎を出ると、先に外に出てた一佳が待っていて、彼に向けて手を振っている。
わざわざ後戻りして縁壱の元に駆け寄り、並んで歩く。
「試験お疲れ様」
「お互いにな」
「実技試験どうだった?まさかロボットと戦うなんて。雄英はスケールが段違いだなー」
「どうだろう。かなりの数は狩れたと思うが……そちらはどうだ?」
「こっちは問題なし。1年間鍛えた甲斐があったな!呼吸使える時間も伸びてきたし」
「それは重畳だ」
「あとは筆記試験か…こっちが駄目かもしれないし」
「一佳なら受かってるだろう」
「そうかなー」
とりとめのない会話をしながら2人は家へと帰っていく。
◇◇◇◇◇
───1週間後。
合格発表までの間、縁壱は相変わらずの平常運転だった。その一方で、一佳はソワソワしていて落ち着きがなかった。ちなみに、一番緊張していたのは一佳の両親である。
「一佳、そろそろ落ち着いたらどうだ」
ソファに座っている縁壱が、リビングをグルグル回っている一佳に声をかける。
「落ち着けるわけないでしょ!?もうそろそろ合格発表なのに…」
「そんな状態では合否なんて見れないぞ。お茶でも飲むといい」
「あ、うん。ありがとう」
ズズッとお茶を飲む。フゥ、と息をつき心身が落ち着いていく。
「筆記の方は合格ラインを超えたけど、後は実技だよなぁ。あ〜〜!!緊張する!!!」
ちなみに縁壱は満点だった。すごい。
一旦落ち着いたと思ったら、いきなり叫びだしまた体を震わせる。忙しないやつだ。
「いいいい一佳!縁壱くん!!」
慌ただしく、一佳の母がリビングに入ってくる。
「来てたよ!雄英から!2人とも!」
腰を抜かした彼女の手に握られているのは、2通の手紙。差出人は雄英高校と書いてある。
◇
合否は各々の部屋で見ることになった。
縁壱は机の上で封筒を丁寧に開く。
中には紙と、小型の機械が入っていた。
「…?」
その機械を机に置くと、突然それから光が放たれた。
部屋に投影されたのは、
『ネズミなのか犬なのか熊なのか、その正体は───校長さ!』
テーマパークのマスコットのような、スーツを着たナマモノだった。
彼は根津校長。雄英高校の校長であり、動物が個性を得た結果人間を上回る頭脳を持った世界で類を見ない存在である。
『時間もないことだし、早速結果から伝えよう』
『火神縁壱くん。筆記試験は満点、実技試験も96Pと文句なしの合格さ!だが、』
『私たちが見ていたのは
『ヒーローを養成する学校が、人救けをした人間を排斥するなど、あってはならないことだ』
『
『
『敵P96に加えて、救助活動P84!!ぶっちぎりの首席合格さ!!』
『
無意識に立ち上がっていた縁壱は、その言葉を噛み締めている。
すると、ドタドタと喧しい音が廊下から聞こえる。乱暴に扉を開けて、涙に顔を濡らしたまま入って来た。
「縁壱!受かってた!受かってたよ!!」
「そうか、おめでとう。1年間の努力が報われたな」
「うん…良かったぁ…本当に……グスッ」
一佳はその場にへたり込んで、再び泣き出してしまった。縁壱はどうしてよいか分からずオロオロした後、彼女の背中をさすってあげた。
しばらくして涙が落ち着いた後、晴れやかな笑みで彼女は見上げる。
「これで、2人とも雄英に行けるな!」
「俺はまだ合格したとは言ってないが………」
「え?縁壱が合格しないわけないじゃん」
「…そうか。ありがとう」
「お父さんとお母さんにも報告しないと!」
2人で一緒に一階に降りる。
「お父さん、お母さん!合格したよ!私と縁壱、2人とも!!」
それを聞いた2人は数秒ほど処理落ちした後、ガラスが割れるほどの声量で狂喜乱舞。
母に至っては虹が出るほど涙を流した。
「よぉし!今日は合格祝いだ!外に食べに行こう!どこに行きたい!?」
「俺はどこでも」
「私お寿司がいい」
「じゃあ寿司屋に行こう!2人とも着替えてきなさい」
「はーい」「分かりました」
その後、拳藤家は寿司に舌鼓を打った。
とある墓地にて。
「所長、みんな。雄英高校に合格した」
「俺はヒーローになって、みんなのように理不尽に奪われる命を減らしてみせる」
「だから、天国で見守っててくれ」
手を合わせた後、彼はその場を立ち去る。その時、
『頑張ってね、縁壱』
振り返った先には何も無かった。それは彼の心が生み出した幻聴か、それとも彼の想いが成し遂げた一刹那の奇跡か。
どちらにせよ──
「ええ、行ってきます。所長」
彼は墓地に微笑みかけながら、その場を後にした。