僕のヒーローアカデミア ヒノカミ英雄譚 作:枝那
というわけで、8話です。
「では、講評の時間だ!」
戦闘訓練を終えて、全員がモニタールームに集まる。
皆未だに言葉が出ない。先の戦闘訓練にて縁壱の実力を確認した。
彼の個性は一体何なのか。どうしてあそこまで強いのか。
疑問が尽きない。頭の中でいくつもの思考が浮かび上がり、入り乱れる。
ただ、一つだけ言えることは。
最強
この二文字のみ。
オールマイトが続ける。
「両チームともよくやった!特に火神少年は重りというハンデ、核兵器・敵の両方確保という厳しい条件の中で見事勝利してみせた!」
縁壱・轟・障子のことを褒めたたえる。だが、敵チームの2人は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。オールマイトは今回の訓練におけるそれぞれの生徒の評価を、今度は生徒たちにやってもらうことにした。
「轟くんは核兵器を氷で守るだけでなく、全滅を避けるために二手に分かれるなど最低限の堅実な作戦をしていました」
「障子は自分の個性で火神の動向を逐一確認して、轟との連携を怠らなかった」
「火神さんは敵チームの確保を最優先に動いていて、戦闘は最低限に収めていました。それに対し、敵チーム…特に轟さんは火神さんと戦い、勝利することに拘っているように思えましたわ」
飯田・爆豪・八百万の順番で話す。特に八百万は前の戦闘訓練の講評でもかなり正確な分析を行っていた。「加えて」と彼女は続ける。
「これが訓練ではなく実戦であるならば、轟さんは核兵器発動までの時間稼ぎに徹するべきでしたわ。氷という足止めに向いている個性ならば、尚更です。特に最後の自分を氷で囲むというのは下策もいいところ。結果的に、自ら視界を塞ぎ、
「……返す言葉もねぇ」
八百万の厳しい評価に、轟は悔しさを表情に滲ませながら返事をする。
そんな彼を見てオールマイトはサムズアップをして彼に語りかける。
「まぁ、轟少年も凄かったぜ!氷を出すスピードや仲間を避けてビル全体を凍らせる精密性。あとは、派手な個性に依存して近接が弱いから、それは今後の課題としていこう!」
「……はい」
轟は今回の訓練で得られた学びを胸にしかりと刻み込んだ。
「ねーねー」
ピンク色の肌の女子が手を上げる。
「結局火神の個性ってなんなの?」
「俺も気になる」
「やっぱ増強型?」
「いや、刀を作る個性じゃね?」
縁壱はそこでようやく自分の個性を明かしてなかったことに気づく。皆が縁壱の個性について自分なりの考察を口にしている中で、彼はついに口を開く。
「俺の“個性”は『赫刀』。見ての通り、刀を生み出す個性だ。」
そう言いながら彼は自分の“個性”である赫刀を出現させる。
「「「………それだけ??」」」
全員の言葉が重なった。
刀を生み出す個性というのは分かる。もう一人似たような個性を持つ者がいるし、戦闘訓練でも刀を出現させて戦っているのを見た。
だが、彼の“個性”が刀を生み出すこと
昨日の個性把握テストと今日の戦闘訓練で見せた超人的な身体能力。あれはまさか素の身体能力とでも言うのか。
「少しいいだろうか」
飯田が全員の疑問を代弁するように手を挙げる。
「火神くんの“個性”が刀を生み出すというのは分かった。だが、それならあの身体能力は一体何なんだ?“個性”に由来しない身体能力と言うには……あまりに逸脱しているように見える」
全員がうんうんと心の中で頷く。オールマイトも表情にこそ出さないが、彼のその強さの理由が気になるため耳を傾けている。
飯田のもっともな質問に縁壱は口を開く。
「俺は生まれつき呼吸の方式が他人と違うんだ。その呼吸の力によって、身体能力を引き上げることができるんだ」
その言葉に皆がまた疑問符を浮かべる。
「それって“個性”じゃないの?」
「いや、コレは“個性”ではない。努力を積み重ねれば身に付けることのできる“技術”だ」
その言葉に部屋がざわめく。身体能力を引き上げることができる特殊な呼吸法なんて、今まで見たことも聞いたこともなかったからだ。
「呼吸の仕方を変えるだけで本当に身体能力が上がんの?」
「俺の幼馴染も、呼吸を修めることで格段に強くなった」
「へぇー……俺たちも使える?」
上鳴が聞いた。他の生徒も、その『呼吸』というものに興味津々だ。
「あぁ。皆も使えるようになるだろう。無論、相応の鍛錬は必要だが」
彼のその力の秘密は分かった。皆が口々に言葉を紡ぐ。
「なんか漫画みたいだなーー」
「呼吸だけであんなパワー出せるとかヤバいね」
「私たちも呼吸使えたらあんな風になれるかな?」
「流石にそれは無理でしょ」
呼吸の力が空想上の世界のもののようだという感想を抱く者。あの力に戦慄する者。縁壱が見せた呼吸による力を見て、心を踊らせる者がいる。
一気に騒がしくなり、収集がつかなくなりそうなので、オールマイトがオホン、と咳払いをする。
「さて、火神少年の強さの理由も分かったことだし、そろそろ授業も締めだ!!」
ーーーーー
全員の訓練が終わり、モニタールームから出た。
「お疲れさん!!緑谷少年以外は大きな怪我もなし!しかし真摯に取り組んだ!!初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!」
「相澤先生の後でこんな真っ当な授業…何か拍子抜けというか…」
「真っ当な授業もまた私たちの自由さ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!着替えて教室にお戻り!!」
そう言い残し、オールマイトは急いでその場を去った。
◇
放課後。
空が赤く染まり帰り始めている生徒たちもいる中で、A組の生徒たちは教室に残っていた。
というのも、互いの親交を深めるために交流会を兼ねた訓練の反省会を開こうという話になったからである。
その最中、縁壱は他の生徒から質問攻めに合っていた。
「なぁなぁ、今度俺たちにも『呼吸』ってやつ教えてくれるか?」
「ああ。時間があればすぐにでも教えよう」
「刀が赤くなってたけどあれなんだったの?」
「こう…ギュッと強く握るとグワーッて赤くなるんだ」
「戦う時に炎が見えた…あれは一体何なのだ?」
「さぁ………?」
矢継ぎ早にやって来る質問に答えていると、訓練の時に手を挙げたピンク色の肌の女子生徒・芦戸三奈がニヤニヤした表情をしながら聞いてきた。
「ねぇねぇ、昨日見ちゃったんだよねぇ……」
「何がだ?」
「火神が女子と一緒に下校してるとこ!あの子誰!?」
彼女がそう言った瞬間、他の生徒たちの目の色が変わった。それから話が『そういう』方面へとシフトチェンジした。
「そういや今日食堂で女子と一緒に飯食べてたよな?」
「私も見た!あーんされてた!」
思わぬ方向からの援護射撃により、女子たちがにわかに色めき立つ。ヒーロー志望といっても年頃の学生。こういう恋愛話には興味津々なのだろう。
なぜそこまで騒ぎ立てるのか分からないが、縁壱は芦戸の質問に答える。
「芦戸が見たという女子生徒は、俺の幼馴染だ」
「OSANANAJIMI!!」
男女の幼馴染という、ラブコメでしか見ないような存在に皆が更に興奮している。
ブドウのような頭をした生徒の峰田実が血走った目で彼を見ている。もはや眼力だけで人を殺せてしまいそうだ。
「あ!もしかして『呼吸』を教えた幼馴染って!」
「想像の通りだ」
会話が盛り上がっている中、教室の扉が開く。入ってきたのは保健室で休んでいた緑谷だ。
それに気づいた彼らは待ってましたと言わんばかりに緑谷のところに集まる。
「俺ぁ切島鋭児郎。今皆で訓練の反省会してたんだ!」
「私芦戸三奈!よく避けたよーーー!」
「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「俺!砂藤」
緑谷は大勢に詰め寄られあたふたと戸惑っている。
「あれ!?デクくん怪我!治してもらえなかったの!?」
そんな彼に麗日が声をかける。腕の骨折が治っていないのを心配している。
「あ、いやこれは僕の体力のアレで……」
緑谷はキョロキョロと教室を見る。そこで静かに座っていた爆豪と目が合った。視線を交わしたのはほんの一瞬で、爆豪は顔をそっぽ向き、カバンを持って立ち上がる。
「帰る」
「えー、早くね!?もっと話そうぜ!?」
切島が彼を引き止めるが、それを無視して教室から出ていってしまった。
それを見て、緑谷は。
「ぼ、僕行って来る!!」
「あっ、ちょ、緑谷も!?」
制止も聞かず、彼も教室を走って出ていってしまった。
「なんだったんだ………」
「男の因縁ってやつだ!」
「まぁ、そこまで険悪なことにはならないだろう」
それから、爆豪と話をして戻って来た緑谷を交えて、反省会を再開した。
この数日後。
彼らは知ることになる。
『オールマイト 雄英の教師に!』
「見たかコレ?教師だってさ……」
オールマイトの言っていた。
「なァ、どうなると思う?平和の象徴が……敵に殺されたら」
真に賢しい敵の恐怖を。
───緑谷が爆豪を追い教室を出てから。
「かっちゃん!!」
「……あ?」
緑谷に呼び止められ、爆豪はゆっくりと振り向く。
「これだけは君には言わなきゃいけないと思って……!」
緑谷出久には秘密があった。大切な母にも言っていない秘密が。
ようやく覚悟を決めて、口を開く。
「
それは、緑谷出久の“個性”が他人から与えられたものだったということ。
「誰からかは絶対に言えない!言わない…でもコミックみたいな話だけど本当で…!」
緑谷出久の口から放たれた予想外の言葉に、さすがの爆豪も驚きを隠せない。
「おまけにまだろくも扱えもしなくて……全然モノに出来ていない状態の“借り物”で……!」
『他人から個性を与えられた』。聞く人が聞けば一笑に付す話だろう。だが、緑谷の言葉なぜだか真に迫るものがある。
「だから…使わず君に勝とうとした!けど結局勝てなくてソレに頼った!僕はまだまだで…!だから───」
爆豪は何も言わず、緑谷の言葉を聞いている。
「いつかちゃんと自分のモノにして、“僕の力”で君を超えるよ」
そう力強く宣言した緑谷に対して、爆豪は感情をむき出しにして噛み付くわけでもなく。
「…そうかよ」
それだけ言い残して、再び歩き出した。
緑谷の知る爆豪からは出たものとは思えない反応に、心の中で首を傾げながらも、彼は小さくなっていく幼馴染の背中を見つめていた。
そして彼は教室に戻り、反省会に加わった。