空の雲も居眠りしてしまいそうな、呆れ返るほど平和なプププランドの昼下がり。青々と生い茂った草原の一画で、星の戦士の子ども、カービィは浅い眠りについていた。
爽やかな晴れ空の下、伸び伸びと仰向けに寝転がるカービィ。季節的なものもあって、風はやや冷たいが それさえも心地良く感じる。
このまま夕方まで寝込んでやるか、それとも夜までか、はたまた明日の朝までか。どうせ明日も明後日も平和で、ただただ退屈な日々を過ごすだけなのなら、その際怠惰を貪ってもよいだろう。
そんな怠けた思考に頭を巡らせているのもさることながら、カービィの聴覚に叱咤の声が響いてきた。
「カービィっ!」
ゆっくりと目を開け、カービィは声のした方へ視線を向ける。その双眸に映ったのは仮面の剣士、メタナイトがこちらに向かって走ってきている姿だった。
「なんだ、メタナイトか」
そう言って カービィはまた眠りにつこうとする。メタナイトはそれを阻止するように剣を持っていない方の手で彼の額をこつんと小突く。
「なんだではない! まったく……訓練中にちょっと目を離した隙に逃げ出したかと思えば、挙句の果てに呑気に昼寝とは……根性はたるんでるのではないか?」
やれやれというような調子でメタナイトは呆れて頭を抱える。対するカービィは、反省した様子を全く見せず、ただ その場しのぎの屁理屈だけを言い述べた。
「いいじゃん別に。どうせプププランドはこの先もずっと平和なんだし、この期に及んで訓練なんかする必要無いって」
呑気にあくびをするだらけた星の戦士を前に、メタナイトはうんざりして大きな溜め息を吐く。
果たしてこれが本当に この星、ポップスター及びプププランドを何度も救った星の戦士なのだろうか。今し方の言動だけを見れば、単なるぐーたらでしかない。
ポップスター侵略を企む道化師マルクとの戦いや暗黒の支配者ダークゼロの撃退。魔神官ハイネスが復活させた邪神エンデ・ニルをも倒し、宇宙の安泰を取り戻す。
今まで沢山の冒険や戦いを繰り広げ、様々な功績を収めてきた星の戦士は惰眠を謳歌している。だからこそ、その状況を案じた戦友 メタナイトは彼のスキルを落とさぬよう訓練を仕込んでいたのだが、当のカービィはサボり気味だ。というかそもそもやる気が無い。
何が起こっても不思議ではない今の時代、万が一に備えて戦力だけは鍛えておいた方が良いだろう。だが、本人のやる気、ましてや実感が無いのであればどう動かすのが適切なのであろうか。
メタナイトが唸って悩んでいると、何やら玉乗りをしながらこちらに歩み寄ってくるものがいた。
「よう! カービィ! 暇だから会いに来てやったのサ!」
「マルク!?」
飄々とした口調で声を掛けてきたのは、かつてカービィと対峙した、今となっては好敵手のマルクだ。彼の突然の登場に、メタナイトは驚きの声を上げた。
「あー、マルクじゃん。どしたの急に」
興味があるのかないのか。ぐでっと寝そべるカービィは、まるで他愛も無い話題を聞き流すかのように対応する。
「暇だからサ! ボクの喧嘩相手になって欲しいのサ!」
へらへらと笑いながらサラッと物騒なことを言うマルク。言葉と表情が一致していない。しかも暇だから喧嘩相手になれとは、振られる側からすれば意味が分からない。
だが、怠けきったカービィの勘を取り戻させるには寧ろちょうどいい機会だと思い直したメタナイトは、期待の眼差しを彼に向ける。
するとカービィは そのままの体勢でマルクを見詰め、もっともらしいことを言う。
「無理」
たった2文字の返答だけをし、カービィは再び目を閉じる。これにはメタナイトだけでなくマルクも拍子抜けした
「フザけるんじゃないのサぁぁぁぁ!」
発狂しつつ、マルクは口から極太のレーザーを発射し、遠くの山1つを吹っ飛ばした。
(いや フザけているのはどっちだ……!?)
傍から見ていたメタナイトも、心中でそんな突っ込みを入れる。誘いを断られて山を消すとは一体どんな我がままだ。いや、そもそも誘いの内容も内容でどうかと思うのだが。
「もぉ、しょうがないなぁ……」
これには流石のカービィにも応えたのか、だるそうにしながらその身を起こす。
「そうこなくっちゃ面白くないのサ! まっ、派手に怪我しても許してちょーよ! こっちもこっちで腕を上げ」
「コピー能力、ボム!」
マルクが言葉を言い終えるよりも先に、カービィはコピー能力を発動。ボムという名の通り、手に持った爆弾を次々にマルクへ投げる。
「ちょっ…待…! そんな不意打ちはっ…! 求めてないのサっ…!」
カービィが投げたボムが、マルクに当たっては爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる。大体10発ぐらい投げた頃には、ボロボロになったマルクがその場で伸びていた。
「ふぁあ、もういいでしょ? もう一眠りしよ」
あまりにも呆気無く終わり、カービィは能力を解除して寝に入ろうとする。メタナイトはこの結末に、ただただ呆然としていた。
(いや仮にもラスボスだよな…? というか犠牲になった山は……?!)
突っ込みが追い付かない中、一方のマルクは重い腰をあげて お決まりの台詞を吐いて飛び去る。
「おっ…覚えてるのサっ!」
どうにせよ、こんなにも忖度も何も無い星の戦士が居れば やはりプププランドはずっと平和か。何とも言えない心情を抱きつつ、メタナイトはたじたじ気味にカービィの寝顔に目を向けるのだった。