貴方は外なる神に されている。生まれたその時から朽ちたその先まで、貴方はどこまでも神に付き纏われる。
強制取得技能
《クトゥルフ神話不感症(先天性)》・《ヨ = トー の視点(50)》・《 ュブニ スの寵愛(70)》・《ウボ= の叡智(20)》・《 ャ ト プの悪戯(80)》・《 = ー の盲目(99)》
■ ■
降りしきる雨の中、探索者はゆったりとした足取りで帰路を辿っていた。
朝は酷く良い天気だったというのに、気が付けば土砂降りの大雨だ。学校に傘を忘れていたのが、まさかこんな所で役立つとは思わず、探索者は役得した様な気分になっていた。
他の学生は、殆どが大粒の雨に体を打たれながら走っていたり、何処かに雨宿りしていたりしている中、探索者である貴方だけは優雅に雨の中を歩いていた。
こういうくだらない事に多少の優越感を感じる当たり、やはりまだまだ子供なのだと、貴方は自戒して窘める。
貴方は決して畜生などではない。もしも同級生が困っているならば、この傘を差し出すくらいの優しさは貴方は持ち合わせている。
そりゃ、
いや。もはや、それも正しい意味ではないのかもしれない。
現実という認識、事象から最も乖離した存在に常日頃から付き纏われ、遂には意識と宇宙の境目すらも曖昧となり、一種の悟りへと認識がすり変わっているにも関わらず、未だ人間性を保っているという矛盾自体が、もはや探索者という存在が人としての在り方を欠損している事の証明だ。
まぁ、
暫く歩いていると、探索者はふと足を止めた。目の少し先のバス停に、何やら見慣れた制服―――もとい、自分と同じ学校の制服を着た女性を発見したのだ。
探索者はここで《目星》を振る事が出来る。
《目星(76)》→37(成功)
《目星》に成功した探索者は気付くだろう。バス停で雨宿りをしている黒髪の女子生徒は、貴方の同級生「
かなり濡れてしまっている。どうやら彼女も傘を忘れてしまった生徒の一人らしい。
貴方は暫く考えて、決心した様にバス停へと近付いていく。
「四谷さん」
「えっ?」
名前を呼ぶと、彼女はびくっと肩を震わせて貴方の方を見るだろう。
「あ、えっと……確か、
「うん、
「う、うん。傘忘れちゃって…それで、雨宿りしてた所なんだけ、ど………………」
流暢だった言葉が、何処か詰まっていく。白い肌は真っ青に染まり、まるで石になってしまったかの様に、彼女の体が固くなっていく。
探索者は再び《目星》を振る事が出来る。
《目星(76)》→75(成功)
一見すると雨に濡れて体温が低下して寒がっている様だったが、目を凝らすと彼女が何処か恐怖しているのが分かる。
《オカルト》、もしくは《クトゥルフ神話》で判定が出来る。
《オカルト(15)》→53(失敗)
《クトゥルフ神話(??)》→??
―――
『へぇ? これは凄い。
それは、もはやこの世の生き物ですらない何かだった。
黒一色で構成された黒い体は3m近くの巨躯を誇り、手足と呼べるものはおろか顔すらも存在しない。ただ代わりの様に黒い触手がうねって形を作っているだけだ。
無い貌には
冒涜的な存在の片鱗を認識してしまった四谷みこは、1D100のSAN値チェック。
「
1D6→5
MP:??→??
SAN減少を一時無効。
貴方は魔術を使い、彼女の記憶を一部封印してどうにか発狂を抑え込む。
間一髪だった。あと少しでも判断が送れていれば、彼女は間違いなく廃人になってしまっていただろう。大した関わりが無いとは言え、同級生が自分の所為で永久発狂してしまうのを見過ごすのは、流石に気が引けた。
「あれ…?」
『ヤダ〜、やーさーしーいー♡ 相変わらずちょろ甘ですねぇ
うるさい。相変わらずうるさい。真隣だと言うのに遠慮なしに脳が理解を拒む声で嗤う邪神に、貴方はあからさまに肩を落として溜め息を吐いた。
とりあえず離れた方が良い事だけは確かだ。貴方はそう確信し、自分の傘を彼女に押し付ける様に手渡した。
「使っていいよ、これ」
「えっ? いや、それだと見盲くんが…」
「僕は大丈夫だから。それじゃ、また学校で」
「あ、ちょっと!」
全てを聞く前に、貴方は駆け出した。土砂降りの雨の中へ。
探索者はここで《聞き耳》を振れる。
《聞き耳(53)》→9(成功)
「結構、優しいんだ…」
土砂降りの雨に掻き消された声が、僅かに耳に届く。どうやら好印象を持ってくれた様だ。
クラスの中では不思議系とやらに分類される貴方は友達が少ない。それこそ片手で数えられる程度の数しか居ない。
これを機に、彼女と友達になれたら良いな。貴方はそう思いながら、雨に濡れて重くなる服に逆らいながら走り続けた。
◆
「おかえりなさい。まぁ、随分と濡れましたね」
『相変わらずのチョコラテが発動しちまったんですよー、シュブの奥様。まぁそれは置いといて。一応ツッコムんだけどよ、その明らか《ご飯よりお風呂よりわ・た・し♡》を隠そうともしない裸エプロンは何ぞ?』
「文字通りですよ?」
『うひゃー、こっちも相変わらずだな。どうするどうする? びしょ濡れの体でお相手さんのぐちょ濡れ上書きしちまうかい!? しかも玄関で! きゃー!』
《目星(76)》→99(ファンブル)
《聞き耳(53)》→67(失敗)
《SAN(??)》→??
貴方は何も見ていないし何も聞いていない。正気がどうであるかもどうでもいい。
とりあえず先にお風呂に入ろう。目の前の黒山羊は無視してお風呂で暖かくなろう。痴女の相手なんぞしてられない。
「 ャルが相手するから」
『おい、華麗に
「そんなこと気にしないでしょ」
『それはそうですね! 仕方ねぇなー、じゃあ一発キメてやりますわよ〜!』
貴方はそうして邪神を供物にして置き去り、ささっとバスタイムへと突入する。
バスタイムと言っても、シャワーで済ませる程度だが。風呂が沸くまで待っていれば、それこそ風邪を引きかねない。
そして風邪を引くと看病とか称して黒山羊に襲われる可能性があるので、出来るなら風邪を引きたくない貴方は、素早くシャワーを浴びる。
体の芯から暖まり、血流が良くなる感じに堪えながら、シャンプーとボデイーソープ、洗顔を順にこなしていく。
「という訳で
「《ヨ = トー のこぶし》」
「ちょマジ????」
MP:??→??
1D6×??→2600
《 = ー の盲目(99)》→57(成功)
《CON+STR対抗(??)》→ファンブル
探索者のすぐ傍で空間が揺らぐ。
まるで本来開かない筈の扉が開かれたかの様な重圧が、風呂場を押し潰す。
全にして一、一にして全なる者。
門にして鍵。
原初の言葉の外的表れ。
外なる神の副王。
制限をもたらす数学や論理をも超越した、無そのもの。
その力の一端が、無数に顔を出す。あらゆる時間、空間にも縛られず、しかし同化し、なおも超越した物質の様な何かが動き出した。
回避は出来ない。防御も出来ない。あらゆる全ての行動は、まるで産まれたばかりの赤子の如くに制限されている。
黒い髪に黒い肌を持った裸体の少女は、呆気なくその腹を貫かれ、その臓物の悉くをさらけ出した。
「うわっ、なんて事をするだい! こーんなに可愛い女の子に手を出すなんて最低よ!」
少女はあくまで平然としていた。まるで蚊に刺された事を気にする程度の、そんな程度の認識だった。
散らばった臓物はそのままに、空いた穴が黒い何かによって覆われ、遂には元の形へと戻っていく。
その言動とは裏腹にケラケラと笑う、少女の姿をした邪神に、貴方は気にもせず言葉を紡ぐ。
「僕は何もしてないよ。ヨ さんがやったんだ」
「本当に毎回思うけど、そうやって簡単にヨ = トー に罪擦り付けようと行動出来るの
「 ュブさんの相手は終わったの?」
「そらぁもうサクッとね〜。
「そっか」
「反応うっすいのー。へいへい男子ー、もうちっと初々しい反応が
「期待するだけ無駄じゃないかな」
「あぁん厳しい! 不敬過ぎだけど草原産まれそう!」
言っている意味をよく理解せず、探索者はシャワーを止めて洗面所へと出る。
その後を追って少女もまた洗面所に出向けば、ありのままの姿にはパーカーとスカートが身に着けられていた。
異様な光景だが、探索者は既に何度もこの光景を見慣れている。SAN値チェックは無し。
「んでんで、
「別に、何も。ただ、視えたのは驚いたかな」
「それなー。しっかり隠れてたつもりだったんだけど、まさか見破られるたぁな。
「それは普段からでしょ」
「うーん不遜☆ やっぱ交渉技能に《毒舌(99)》とかあったりするんじゃねぇですの? つーかPOWが高過ぎるよねって話か、この場合。まぁ表記されないんだけどよ」
話が続かない。このままだと無駄話で時間が尽きてしまうだろう。
《言いくるめ(13)》→9(成功)
探索者は分かりやすく咳払いをして、軌道を元に戻す。
「 ャルはどう思う?」
「どうと言われてもなー。面白そうって感じ? あれは他にも視える様になっちゃったパターンだろうにゃー。どう苦しんでどう行動するのか、観察するのも一興かもしれん」
「……」
余計な事を言ったかもしれない。貴方は心の内でそう後悔した。
他にも視える様になった、と言うと、つまりはオカルト的なものなのだろう。仮に神性の場合はまた話が大きく変わってくる。
「四谷さん、大丈夫かな」
申し訳ないと思いつつ、探索者は同級生を心配しながら洗面所から出た。
本日の探索は以上です。お疲れ様でした。