「……よし!今日はこれで終わり。久々にゆっくりしよっと」
今日の分の仕事は終わったし、先生も朝から居ないから、私がいつもより早く帰ったとしても誰も気にしない
……まだ空が明るい
こんな時間に帰れるのなんていつぶりだろう
何しようかな
これと言って趣味は無いけど、折角早く帰れるんだから普段とは違う事を……
「……ん?」
これ……足音かな?
人が来る予定は無かったけど……誰だろう?
う〜ん……防犯は大事だし、一応鍵を閉めて……
「先生!助けてくれ……!」
「うわっ!?……サオリ?」
何でここに……何でスーツ?
てかドア!?
扉が吹っ飛んでるんだけど!?
「コノミか、先生は……居ないのか。ドアを壊したことは謝る、だが……」
「サオリ様!!」
「え?」
「ッ!すまない、隠れさせてくれ!」
「え??」
隠れる?
危ない人なの?
サオリが怯える相手って、大分限られると思うんだけど
机の下か……
確かに、入口からは見えないけど
「サオリ様!!……居ない。コノミさん、サオリ様が何処に行かれたのか知りませんか?」
「え?えっと……君らは……なに?」
一人一人は見覚えがある
トリニティとアリウスの子が大半か……
「私たちは、執事・メイド喫茶『ヴァニタス』で働くサオリ様のお御姿に心奪われた『サオリ様に貢ぐ会』。サオリ様に金品、もしくは自らを捧げる事を目的とした生徒で構成された組織だよ」
「……は?」
意味不明な事を早口で捲し立てないでほしい
普通じゃ聞き取れないよ
「貴方も分かるでしょ?あの顔面、スタイル、そして性格……あの声で囁かれたらもう……ね?」
『ね?』じゃないよ、分からないよ
確かにサオリは顔もスタイルも声もいいけど、それで私が貴方たちと同じ思考回路になるかと言われればそんな事ないし
「よく分からないけど、それで?そんな人たちが大勢で押しかけて何しに来たの?」
「ここにサオリ様が来られたでしょう?にお……ふふっ、空気で感じますもの」
新手の変態だ。匂いって言おうとしてたよね?
大人としてこの子を正しい方向に導かなきゃなんだけど、関わりたくない気持ちがブルンブルン出てる
そりゃあサオリも逃げて隠れるね
私だってそうするもん
「……いや……来てないけど」
「あら、そうですか。それではその吹き飛ばされた扉は?」
「あ〜……今日の当番の子が荒っぽい子でね。蹴っ飛ばして入ってきたんだよ」
「それでしたら日中に業者を呼べば良かったのでは?」
「ついさっき、その子が忘れ物を取りに来たんだよ。ノートだったかな?連絡したらすっ飛んできて、その時に壊されちゃったんだ」
「……ここまで、誰とも会いませんでしたが?」
「……」
不味いなぁ……
状況も悪いし、私の嘘が下手すぎてバレバレだろうし
幸いタブレットは手元にある。これでなんとか……出来るかなぁ……
どうにかして奥に誘導するか、帰らせるかしないと
あ、そうだ
「やはり何か隠していますね。立ち入らせてもらいます」
「強引だなぁ……ん?」
ドッ
ガン!
パリン!
「今の……ガラスが割れた音か?」
「あっちには窓があるけど……」
「まさかそこから……!すぐに追いましょう!」
「……はぁ」
何とか騙せた
後はここからサオリを逃がすだけだけど……
「コノミさん」
「どうしたの?皆行っちゃったけど、行かないの?」
「サオリ様を匿っているのなら……正直に言ったほうが良いですわよ。争い事は嫌いでしょう?」
「確かに困るね。でもそれは、君たちもじゃないかな。いくら盲目でも、此処が何処かは分かるでしょ」
「……すぐに戻りますので、怪しい行動はしないように」
……前に会った時は、あんな子じゃなかったんだけどな
恋は人を変えるとは言うけど……まぁ、私には分からないね
「サオリ、出てきていいよ」
「あぁ……すまない。私のせいで……」
「いいよ別に。で、次はどうするの?あの子たちすぐ戻ってくるよ」
「今なら正面から出られる。急げば間に合うはずだ」
正面、ねぇ……私なら……
監視カメラをハックして確認する
……やっぱり
「駄目、玄関に見張ってる子が居る。この調子じゃ……うん、他の出口も張られてるね」
「くっ……シャーレで騒ぐ訳には……何より、彼女たちに怪我させる訳にもいかない……どうすれば……」
……仕方ないか
「サオリ、こっちから出るよ」
「こっち?……まさか」
「落とさないでね?何とかなる……というより、何とかするけど」
割れた窓から下を、周囲を見渡す
「この高さからは降りられない。足場も無ければ、飛び移れる建物も無い……やはりブラフでしたか。戻りましょう」
協力者が居たような形跡も無く、外から割られた訳でもない
方法は不明ですが、コノミさんならどうとでも出来るでしょう
「まぁでも、逃げ道は塞いであるから逃げられる心配は無いよ。じっくり追い詰めていこう」
……この子は、何を能天気に
私たちが追っている人物、私たちを妨げている人物が誰か分かっているのでしょうか
「……ですが、サオリ様と、先生と並び立てる人物であるコノミさんが揃えば。私たち程度、出し抜く事は容易でしょう」
「心配性だなぁ……大丈夫だって」
……本当に、能天気ですね
私が他の会員に呆れていると、
バリィン!!
と、大きな音が聞こえた
「今のは……!」
ガラスの割れる音……しかも先の小窓とは音からして違う
もっと大きく、厚みのある……
「まさか……外壁のガラス!?」
「この高さから飛び降りる気!?死んじゃうよ!?」
「ヘリが来てる訳でもない……何のために?」
「パラシュートなんてシャーレにあるの?」
「ある訳無いでしょ、多分……」
そんな無駄口を叩きながら、たかだか数メートルの距離を急ぐ
コノミさんが居て、サオリ様が何処かに隠れて居たはずの執務室は、
「……もぬけの殻、だね」
誰も居らず、割れたガラスの破片がそこかしこに散らばるだけだった
「逃げられましたか……包囲班。誰か、もしくは何かが通りませんでしたか?」
『いえ、何も……ガラスが割れたような音がした以外には特に……あ』
「『あ』?何かあったのです……か……?」
視界の端で何かが動く
白く機械的な見た目の……
「……ドローン?」
『あ、そうです!ドローンがさっきから沢山飛んでて……』
通話を止め、散ったガラスの破片を片付けるドローンを拾う
そこには、シャーレのロゴが刻まれていた
外を見上げる
「あ、見つかった。サオリ急いで」
「急ぐと言っても……ふん!……こうも揺れては……」
ドローンを足場に、空を歩くサオリ様と、
そんなサオリ様に抱きかかえられながらタブレットを操作し続けるコノミさんの姿があった
「あぁ!サオリ様!お待ちください!」
「そんな……サオリ様に抱きかかえられるなんて……なんて羨ましい……独り占めは許さないぞ!紡百合コノミ!!」
……あぁ、本当に。貴方は……
今側に居る生徒は、貴方の大切な人を殺そうとしたのですよ?
今貴方を追っている生徒たちは、職場を滅茶苦茶にした上に、受けた恩を忘れ、罵詈雑言を投げつけるような愚かな存在なのですよ?
なのに……どうして。どうして恨み言の一つも言わないのですか?
貴方にはその権利があるはず
ですのに、どうして……
「……これ以上の追跡は無意味です。皆さん、引き上げますよ」
……思いもしないのでしょうね。貴方は
何処までも優しく、それでいて愚直な貴方だからこそ、私をあの地獄から救ってくださったあの時から、
私は、貴方の事が……
……どうか、お幸せに
「……なんとか、渡りきれたか。空を歩く日が来るとは夢にも思わなかったが……悪くない」
「お疲れ様。あの子たちも追ってきてる様子は無いし、ようやく一息つけるね」
道路を挟んだ向かいの建物の屋上に降りる
ここはまだ囲まれてないから、追ってきててもすぐ逃げれるはず
「サオリはこれからどうする?私は家に帰るけど」
「それなんだが……一晩、泊めてはくれないだろうか。今寝泊まりしている場所は、彼女たちに突き止められてしまっていてな」
住所までバレてるのか……確かに怖いね
「いいよ。そんなに広くないし、何も無いけど、ゆっくりしていって」
「何から何まで、すまな……いや、ありがとう……だな」
「うん。じゃあ、もうちょっと歩こうか。詳しい話は家で、ゆっくり聞くよ」
「着いたよ、上がって上がって」
「失礼する……ここが、コノミの家か」
……普段人を呼んだりしないから、自分の家に誰かが居るとこう……変な感じがする
埃も溜まってなさそうだし、ちゃんと掃除してて良かった
「ここならしっかり休めるはずだよ。誰かに見られる事も、誰に聞かれる事も無いし。何より、私が守れるからね」
「……あぁ、心強いな」
「あ、お風呂入ってていいよ。帰りながら沸かしたから、今ならいい湯加減になってるはず」
「帰りながら……?そんな事ができるのか、コノミは凄いな……」
「そんな事は無いけど……そうだ、お風呂は抜かないでね?私も入るから」
「あぁ、分かっ……いや待て。家主より先に入るのは失礼ではないのか?」
「そんなの気にしなくていいのに。う〜ん……私もご飯の用意とか洗濯物とかもあるからなぁ……」
あ、そうだ
「一緒に入る?」
「正気か!?……あ、すまない。つい……」
正気かどうか疑われたんだけど
私そんなおかしいこと言ったかな
「確かに二人で入ったらちょっと狭いかもしれないけど、入れない事は……」
「いや、そういう事では……」
ん?じゃあなんだろう……
!?しまった!!
「もしかして裸見られるの嫌だった?ごめんね、デリカシー無かった」
「そういう事でも……」
なんだかずっと苦々しい顔……
サオリって結構天然だから、変なふうに考えてたのかな
「女同士なんだから、そんなに気にする事でもないと思うよ?」
「いや、だが、その…………ああ分かった!先に入らせてもらう……」
「ごゆっくり〜」
さて、今の内に冷凍してた作り置きのおかずを取り出して自然解凍させて……
お米は……これいつののお米だっけ。すっごいカピカピ
流石に新しいの炊かなきゃ
取り敢えず、3合もあれば十分かな
エンジニア部の試作品で、5分で炊き上がるって聞いたけど……爆発とかしないかな、大丈夫かな
洗濯物はドローンに任せるとして、後は……
「上がったぞ……良い湯だった」
「え?もう出たの?早いね。ちゃんと肩まで浸かって100秒数えた?」
「私はそんな歳では……むしろ今日は時間を掛けたほうだぞ。……なぁ、コノミ」
「?どうしたの?」
「あんなに沢山の種類のシャンプーやボディーソープを置いておくのが普通なのか?」
「あぁ、あれはね、私の家に泊まりに来た生徒たちのだよ」
「……また泊まりに来た時に使えるように、か?」
「そういうこと。じゃあ私も入ってくるね。私が出る頃にはお米も炊けてるはずだから、お腹減ってたら先に食べててもいいよ。おかずは好きなのレンジで温めてね」
「……そうか」
「そうか……」
さ〜てお風呂お風呂
一日の疲れを洗い流して、休憩モードに切り替える命の洗濯……
サオリはシャワー派か
シャワーも嫌いじゃないけど、私は断然掛け湯派かな
それにしても……サオリが入った後だからか、いつもと匂いが違う
……あんまり匂いがどうとか言うのは良くないね
今の時代、こういう発言もセクハラって言われるし、女同士でもセクハラは成立するらしいから、今後も気をつけなきゃ
……しまった、思ったより時間掛けちゃった
急いで髪乾かして……ちょっと伸びてきたな、また切らなきゃ
「ごめんね、遅くなっちゃった……あれ?まだ食べてなかったの?」
「いや、遅くなどない。それに、食べるなら誰か一緒に食べたほうが美味しい、だろう?」
「……ふふっ、そうだね。じゃあ、食べようか」
「ご馳走様でした……美味かった。コノミは、料理も得意なんだな」
「お粗末様でした。レシピ通りに作っただけだよ」
「簡単な調理程度は経験してきたが……一度、本格的な料理に手を出してみるのもアリだな」
「ホント?味見は任せてね。……さて、それじゃ、寝る準備をしようか。サオリは「床かソファで」は無しね。来客用の布団があるから、それでよろしく」
「あぁ、分かった。……二人分、か」
「じゃあ一つにするね」
「違うんだ……どうしてこう、危機感というものを持たない……」
「サオリさえ良ければ、私は気にしないよ。むしろ、添い寝をねだる生徒も多いからね」
歯も磨いて、寝る前の水分補給もして、布団に入る
電気を消し、目を閉じる
なんだかんだ今日は忙しかったな
色々あったけど、一応生徒の助けにはなれたはずだし
あとはあのトリニティの子をどうするか……あぁ駄目だ。人肌の温もりで、すぐに眠気が……
布団の中で、コノミの体が真隣にあるのを感じる
……小さい
こんな小さな体に、私は守られていたのか
腕を回して抱き寄せる
脚を絡めて密着する
此処までしても、コノミは何も抵抗しない
……コノミは、魅力的な女性だ
生徒の中に、コノミに好意を持つものは少なくない
だが、その中には純粋な好意では済まない者も居る
コノミは私の恩人だ
アリウスの復興に尽力し、私たちが居ない間も、スバルと共にアリウス生の面倒を見てくれていた
何より、コノミがエデン条約の時に支援をしてくれたお陰で、死者は一人として出なかった
もし一人でも出ていたら、私は今、この場には居ないだろう
……そんな恩人が、望んでいない相手に無理矢理、なんて事は、私の命に代えてでも防いでみせる
コノミには、コノミが選んだ相手と幸せになって欲しい
その為に、私が出来る事なら何でもしよう
叶うのなら、その相手が私であれば良いのだがな
「ありがとう、コノミ。昨日は助かった。この礼は、いつか必ず返す」
「気にしないで。私も、なんだかんだ楽しかったし。それで、あの子たちはどうするの?接触禁止命令も出せないことはないけど」
「コノミは手を出さないでくれ……邪魔という意味ではない。これは私の問題だ、私が解決してみせる。真摯に向き合って、きちんと説得する。それが出来るだけの勇気は、十分に貰ったさ。……ところで、その……」
「?どうしたの?」
「……また、来てもいいだろうか。今度は、姫たちも一緒に」
「うん、いつでもおいで」
そうして、サオリは帰った
あの変た……個性的な子たちは手強そうだし、苦労するのは目に見えるけど、まぁ……
「サオリが『解決してみせる』って言ったんだ。私が信じなきゃね」
シャーレの廊下を歩く
なんだか清々しい気分。心なしか、空気も美味しいし
執務室のドアを開けようとして気付いた
「あ、そうか……ドア、無くなったんだ」
セキュリティが崩壊した執務室に入り、そして
「……壁のガラス、割ったんだった……」
セキュリティの欠片もない部屋で立ち尽くす
「あ〜……えっと、取り敢えず連邦生徒会経由で業者に連絡して……財務室に修理費を請求を……ん?」
これ……足音かな?
こんな朝早くに誰だろう
今なら廊下に顔を出せば簡単に確認できるね便利だね
……あれ?
「スバル?……何でメイド服?」
「コノミさん!?いや、その、これは違うんです。趣味とかじゃなくて、あでもコノミさんが望むなら……ってそうじゃなくって!助けてください!」
「また……?」
ちなみにサオリとスバルのコノミに対する考え方は、
サオリ:恩人・無防備すぎるので守ってやりたい。出来れば隣で、出来れば一生・先生と同じくらい好き
スバル:恩人・ベアトリーチェもアリウススクワッドも居なくなった後のアリウスを、幾ら拒んでも支援してきた聖人・半歩後ろぐらいの距離で添い遂げたい・先生よりも好き
ぐらいで考えてます