「【ギミック・パペット-ジャイアントキラー】のエクシーズ素材を1つ取り除き、効果発動! 【竜輝巧-ファフμβ’】を破壊する! 受け取れ、オレのファンサービスを!」
巨大な操り人形、その胸の刃が光の機構竜を呑み込んでいく。自身のモンスターが無慈悲に無機質にスクラップにされていく光景に腕が震えた。
「更に! 破壊したモンスターがエクシーズであった場合、その元々の攻撃力分のダメージを与える! これでトドメだ、『ファイナル・ダンス』!」
追撃の効果ダメージ。迫るソリッドビジョンを受け切る札は、無い。
「ぐ、ぐああああああ!!!」
──────…………
俺の敗北を示すリザルトが現れて、そして消えた。ARビジョンが役目を終えて崩れても、まだ腕の震えが止まらない。
「……ま、悪くねェデュエルだったな」
「あ、ま、待って!」
俯く対戦相手と己のデッキ、そして最終盤面へと交互に目を向けてからそう言い、踵を返そうとした男の──IVの前に、俺は立ち塞がる。
「生のファンサービス最高でした!!! サインください!!!!」
「……ええ、構いませんよ」
「アイツも変なファンの一人かよ……」
先程の凶悪ヅラが嘘のようなにっこり営業スマイル。二面性の切り替えの速さ、流石としか言えない。テンション爆上げによる全身の震えが止まらないし止める気もない。
でもってカウンター席に座ってる一番のファンの呆れ声は気にしない。というか今のIVのファンは7割近くがこうだから変なファンには分類されない。多数派なんだ俺は。
「常に紳士として振る舞っていた時期も良かったですが、デュエル中に見せる獰猛さがなんというかカチッとハマるというか……おっと、すみません。先に注文をお聞きしますね! 決闘に勝利されたのでお連れ様も半額となります! あっサインは後で頂けますか?」
「ええ、もちろん」
「ついでに俺の分も半額にしといてくれ」
「オイコラ偶然居合わせただけだろ凌牙は。いいけどよ」
IV。本名をトーマス・アークライト。
元の世界ではファンサービスを別の意味に変えた某サティスファクション並の決闘者であり、この世界では極東デュエルチャンピオン。
少し前までは紳士的な立ち振る舞いでプロの舞台に上がっていたが、原作終了後は吹っ切れたようで素をあまり隠さなくなった彼。その衝撃にファンクラブは一度解散し、ショックを受けたファンが減ったりギャップに刺されたファンが増えたりの過程を積み──結果的にファンクラブは復活したし会員は増えた。何故それを知っているかと言うと俺もファンクラブ会員だからである。遊戯王好きなら誰だって入ると思う、だってIVのファンクラブメンバーって肩書き面白すぎるから。
そんな有名人が何故ウチの店に来たかと言うと、デュエル前に『友人が強い相手だと話題にしていたので気になりまして』などと話していたため、これもまた神代凌牙のツテだろう。今日は家族連れでやってきたらしく、ここにその友人が居合わせていることは想定外だったようだが。
「話し込んでないで早く注文取って手伝ってー! さっきの決闘でお客さん増えてくれたんだから!」
……と。キッチンの方からヘルプの声が飛んできた。確かにデュエル前よりも賑わいが増している。以前のように相手以外客がいないという状況でもなし、そりゃ有名人がデュエルしたら客だって集まるか。
青い長髪とピンク頭、仮面の少年(見た目だけ)がいるボックス席に戻り、注文を受ける。オムライスにサラダ、サンドイッチ、ケーキ……うおっ誰が頼むのか皆目見当も付かなかったボトルの高級紅茶を頼まれた。流石高貴なる一族。
「凌牙に勝ったと聞いて、どんな方なのかと思ってましたが……勝てちゃいましたね、兄様」
少女と見紛うような顔立ちをしたピンク髪の少年──ミハエル、あるいはIIIがお冷のグラスを口元に運びながら言う。
「ハッ、確かに強くはあったがオレの敵じゃなかったってワケだ。……なァ悔しくてカウンター席からわざわざ着いてきた凌牙クン?」
弟に称えられたIVは肩を竦めながら、言葉の棘をわざとらしく強調する。その矛先はライバルの彼、挑発混じりの視線をソファの横に立つ凌牙に投げ掛けた。
「一回の勝利くらいで勝ち誇るのかよプロデュエリストが。俺の勝ち数には全く届いちゃいねえってのによ」
「そうですかあ? 白星をいくら重ねようが目立つのは黒星の数。一個とゼロ個、いやあ小さくも大きな差ですよねえ」
「……ここは客同士でもデュエルスペースを借りていいんだぜ?」
「上等だ、受けて立ってやる!」
「「デュエル!!」」
「兄様……」
わだかまりを解消した次男とその友人の戯れを横目に、長男は仮面の少年──彼ら三兄弟の父であるトロン、もしくはバイロン・アークライトの様子の変化に気付く。じ、と、先程の店員が消えていったキッチンの方を眺めているのである。
「どうされました?」
「いや、うーん……さっきの店員、なんか変な感じが……気のせいかな」
曖昧な返事はもやもやとした不可解な感覚のせい。紋章の力やアストラル世界のようなものとも異なり、そして微弱なそれは警戒心を抱くほどではないにしろ、違和感として残る。
首を傾げ、研究者でもある彼は後で仲間に話してみるか、と結論付けた。
──────…………
「いやーまさか有名人がデュエルしに来てくれるとはね! キミ目当てだっけ? ホント雇って良かった良かった!」
「ええ……でも負けちゃったんですけど……」
「いいのいいの気にしなくて! 元々ちょっと割高だから、一団体半額くらいじゃ収益には影響しないしね」
キッチンに入るなりカラカラと笑う店長に労われる。しかし段々負けたことの反省により内心複雑になってきたので、反応は愛想笑いに留まった。
「ぐぬ、最近はずっと勝ててたのに……」
手を動かしつつ愚痴を吐く。以前神代凌牙に勝ってからというもの、この半額を賭けた決闘に負けることはなかったのだけれど。
「そういえばそーね。でも今日はデッキちょっと変えてたでしょ? そのせいじゃない?」
「あーまあ。前より弱くなるような構築にはしてないと思うんですが」
……流石、よく見てるなこの人は。
デュエルカフェなんてものを開くからには、デュエルモンスターズに対して相応の愛と造詣の深さがなければならない。店長である彼女にはその双方が備わっていた。本人曰く実力は並程度、かつ感覚派なせいで理論はさっぱりらしいが。
「エクシーズ主体に傾けた構築にしてみたんです。机上じゃ前より安定性が増すはずだったのに、今日は実践の魔物にやられましたねー」
「へー。せっかく儀式なんて珍しめな召喚方法使ってるんだから、ソレをもっと活かせばいいのに」
「はは、サポートカードが中々なくて……」
オレンジのポニーテールを揺らしてこちらを振り向いた店長に苦笑い。
今は完全にエクシーズの時代である。融合や儀式は召喚方法としてきちんと存在しているが、所謂下火。エクシーズサポートほど汎用カードが充実している訳でもなく、カードショップにも置かれにくい。エクシーズに関しては前の世界ではOCG化されてないカードだの全く知らないこの世界特有のテーマだのが沢山あったのに、と嘆くことも最近は少なくなった。人はそれを諦めと呼ぶ。
それでも俺が儀式デッキを使う理由はシンプル。愛着と相性である。
まず愛着。前世で最初に組んだデッキが儀式だったのだ。といっても親戚の兄ちゃんから貰ったカードを突っ込んだだけの箱のストレージから、シナジーがありそうなものを子どもなりに集めてみただけの、言ってしまえば紙束だったが。初めて触れたカード群にはどうしたって愛着が湧くものである。
次に相性。自身の運命力の無さに絶望した俺は一時期自分で様々なデッキを組んで対戦し、統計を取り続けるというデータ厨みたいな行動をしていたことがある。その結果、儀式デッキは少し、ほんの少しだけ勝率が他の物よりも高かったのである。
そういう訳で、たまに今日のようにエクシーズや、はたまた融合にデッキの性質を傾けることもあるが基本的には儀式が主体。
「……やっぱり前の構築に戻そうかな」
運命力を手に入れたことで、僅かな勝率の差が顕著になったりもするんだろうか。
「うんうん、その方がいいと思うよ。【デミス】と【ルイン】だっけ? その二体、キミによく似合ってるし!」
「どういう意味だソレ」
そのカードが冠してるの終焉と破滅だぞ。
などと言っている間に料理が盛られていく。そろそろ持っていかなければなるまい。
ウェイターも俺の仕事である。器用に両手に数枚の皿を持ち、フロアへと向かった。
──料理を持っていく店員の背中を見送った後。厨房に残った店長が、小さく息を吐く。
「はあ……その精霊が憑いてる、なんて。言っても信じてくれないよねえ」
──────…………
からん、とドアベルの音。新しいお客さんのようだ、これで店内はほぼ満員になるか、と頭の片隅で次に行うべき業務を浮かべつつ、接客用の声を張り上げる。
「いらっしゃいま、せ……」
「二人で頼む」
正確には、張り上げようとした。
その声は入店者の姿を見た瞬間しぼんだ。
瑠璃!? 瑠璃が何故ここに……逃げたのか? 自力で脱出を? ……じゃない!! いや、そうなんだけど!
「あー……と、二名様ですね、お席案内いたします」
脳内で暴れ回るネタと動揺を抑えてなんとか返答した。大丈夫だったかな、不自然じゃなかっただろうか。
──あまりに特徴的すぎる、暗めの薄緑と黒の混ざった髪の青年。紫髪に明るいメッシュの入った少女。
どこからどう見ても遊戯王ARC-Ⅴの黒咲兄妹じゃん! 黒咲隼と黒咲瑠璃じゃん!
服装はアニメとは違って普通だけど。記憶にある程の表情の険しさや声の低さはないけど。ここが平和な世界(当社比)である以上当然だろうが。
……アレ、ここZEXALの世界じゃないの? えっエクシーズ次元だったりする? ……融合次元の侵攻、来ないよね?
一挙放送で久しぶりに見たトロン一家が最高だったので書きました。
やっぱりZEXALは最高だぜ!
ミステリアス風ポンコツお姉さんが好きです。あなたはどうですか?
主人公の名前も決められてないのにまた名前決めてないオリキャラ増やしてどうするんですか? それはそう。