今回は花音さん生誕祭記念回をお届け致します。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりお楽しみください。
(注意)
本編中にて実際のヴァンガードのユニットとの邂逅が描写されていますが、本作品は現在公開中となっている作品「幻真赫月天 〜Phantom or Truth〜」と繋がりはございませんので、ご了承ください。
「えっ、花音ちゃんもヴァンガードを?」
「う、うん……。この前の対抗戦を見てたら、私もやってみたいなって」
5月も半分が過ぎる手前まで来たある日の事、私は自分の目の前に座っている同級生の女の子……花音ちゃんから相談を受けていた。彼女曰くこの前のsumimiとのチーム対抗戦を、観客席から見てたみたいで……ハロハピの中でもその話題が増えて来たから、自分もそれに乗りたいと言う旨だった。
花音ちゃんとは同じバイト先ではあるものの、バイト中だと他に誰の目があるか分からないし……お仕事もバイトも無い、オフの日を見つけて、彼女の相談に乗る事にしたのだ。
「……うん、じゃあやってみようよ!」
「ふぇっ!?」
「あっ、ちょっとだけ待ってね。今必要な物を出すから」
そう言って私は自分の横にあったポーチから、ケースを1つ取り出して、その中からカードを6枚取って広げて見せた。もちろんどんなユニットなのかは分からないように、事前に裏向きにはしたんだけど。
「じゃあ、花音ちゃん。好きなカードを1枚選んでみて」
「か、カードを……?」
「そう。これは颯樹くんからの受け売りなんだけど、今から選ぶその1枚は、花音ちゃんの先導者になってくれるんだって。まあ、私も……そして勇くんも、颯樹くんのスパルタ指導で強くなれた節があるんだけどね、あはは」
本当に大変だったよ……颯樹くん、始めたばかりの私と勇くんに情け容赦無しでぶつかって来るんだもん。勝ち星をあげるのはもちろんの事、彼に必死に喰らいつく事すら至難の業。何度本領発揮する前に沈められたのか……今思い出しても背筋が凍るほどに。
「じゃ、じゃあ……これにしようかな……?」
そう言って花音ちゃんが選んだのは、私から見て右から二番目にあるカードだった。その選んだカードを確認する為に、私は花音ちゃんの了承を貰って見る事にしたんだけど……。
(……え? 確かこのカードって、勇くんが似た様なカードを持ってた様な……?)
花音ちゃんの選んだカードを見てそう思った私は、直ぐ様勇くんの番号に電話を掛けた。あっ、その時にキチンと選んだカードは花音ちゃんに返したんだけどね。
「……もしもし、勇くん?」
『あっ、彩? どうしたの、いきなり電話なんて』
「あのね、勇くん。今私……花音ちゃんとカフェに一緒に居るんだけど」
『うんうん』
私は先程起こった事を事細かに勇くんに説明した。
その背後でガサガサと音がしてたけど、何か作業をしてる最中だったのかな……? 何だろう、何か入れ物の封を開ける様な音が聞こえたんだけど……。
『ごめん、そのカードに関しては俺の持ってるカードの中に無いかも。彩も知っての通り、颯樹に譲ってもらった物が殆どだし』
「そっか……」
……あ、それならもしかして?
『ただ、颯樹だったら力になれるかも。今ちょうど俺の近くに居るし、何だったら……カートンを剥いた後の片付け作業の手伝いをしてたから』
「か、カートン……?」
『話を聞くにさ、コイツ……最新弾を三箱買ったみたい。んで開けたは良いけど収納に少し手間取るから、って事で俺を呼び出したんだよ』
そ、そうなんだ……。
カートンとか箱って、聞き馴染みの無い単語が聞こえて来たけど……さっきの背後から聞こえてた音は、もしかしたらそれなのかも?
「それなら、私……花音ちゃんを連れてそっちに行った方がいいかな? ちょうどこの後どうしようか考えてた所だから」
『ああ、それ良いかも。……颯樹、鍵自体はあるのか?』
『ん、あるよ。ってか、花音にはスペアを渡してたから、それを使えば入れるよ』
……え?
「花音ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど……」
「うん、話は聞こえてたよ?」
「良かった……。もしかして、花音ちゃんって」
「う、うん……。千聖ちゃんを除くと、私が一番颯樹くんの家にお邪魔した事があるから、もし何かあった時の為に、って預けてくれてるんだ」
それなら、大丈夫かな。
「私たちは今からお会計をしてそっちに向かうから、勇くんは颯樹くんの家に居て貰っても良い?」
『わかった。それじゃあ、またあとで』
そんな話をした後に勇くんとの通話を終えて、私は花音ちゃんを連れて颯樹くんの自宅に向かう事にした。私たちが頼んでいたのは、紅茶とジュースが一杯ずつと、値段もそこまでしない物だったので、二人で個別にお支払いをする形で納める事が出来た。
花音ちゃんは迷子になりやすいから、私が彼女の手を引いて先導する形で暫く歩き……目的の場所に着いた頃合で、後は花音ちゃんにお任せする事にした。
「じゃあ、花音ちゃんお願い」
「う、うんっ」
そう言う花音ちゃんの手には、颯樹くんからの話にあった合鍵が握られていて、迷いの無い歩みで解錠作業を行なっていた。そして少しした後に解錠音が聴こえたので、彼女からの合図を貰って私は颯樹くんの家の中に入った。
「待ってたよ、彩」
「勇くん、お待たせっ」
「え、えっと……颯樹くんは?」
「ああ、それなんだけど……。あ、そんな事を言ったら」
勇くんが出迎えた傍で、颯樹くんが軽く私たちに手を振って答えた。彼の傍には遠目でしか見えなかったけど……何か、袋に包まれたものが鎮座していた。
「待ってたよ、二人とも。少しお茶にしようか。勇、少し手伝って」
「了解。……こう言う時はグラスが良いのか?」
「そうだね。確か食器棚の所に……あ、二人はリビングでゆっくりくつろいでて。あとで飲み物とお菓子を持っていくから」
颯樹くんからの指示を受けて、私と花音ちゃんはリビングに足を踏み入れた。そこはキレイに片付いていて、彼の真面目な性格と几帳面な一面が現れている様だった。
そうして少しした後……飲み物とお茶菓子を載せたお盆を持った二人が合流して、私たちは今日訪れた本題に移る事にした。
「ねえ颯樹くん、このカードの事、知ってたりする?」
そう言って私が彼にカードを手渡すと、颯樹くんは何か思い出した様に近くにあった箱(後に勇くんから聞いたんだけど、それはストレージと言うみたい)から、何枚かのカードを手に取って一つに纏めた状態でテーブルの上に置いた。
「こ、これは……?」
「花音が選んだカードは《時の宿命者 リィエル﹦オディウム》。さっき纏めて置いたのは、そのデッキを作るのに必要なカードだよ」
「と、時の……宿命者……」
「颯樹、コイツって俺の使ってるのと同じ……」
「そうだね。名前は似てるけど、所属してる国家や主とする戦法は違う。運命者と対を成す宿命者のカードだ」
しゅ、宿命者……。
私と勇くんで使っているのが、運命者って言うカテゴリに属していて、花音ちゃんがこれから使う事になるのが宿命者……そう考えると、かなり意外なカードを選んでるのかも?
「リィエル﹦オディウム……」
花音ちゃんは手に取ったリィエル﹦オディウムのカードを眺めていて、今にも惹き込まれてしまいそうだった。私はあまりそのカードの事についてよく知らないんだけど、もしかして颯樹くんはその事についても知識が……?
そして私が気になった事を聞こうとした……その時。
「えっ!?」
「ふぇぇっ!?」
あ、あれ……?
私……確か、さっきまで颯樹くんの家に……。
「こ、ここは……」
私は自分の居る場所が何処なのか探ろうと、辺りを軽く見渡してみた。足元は煉瓦のタイルが連なっている地面で……何処か周りの雰囲気は重たくて苦しいくらい。目の前には不気味なまでに存在を主張する山々があって、空は暗く澱んでいた。
「私、一体何で……」
そう思っていた私の元に、大きく影を落としながらゆっくりと誰かが降り立つ姿があった。その外見は傍から見れば天使と思える存在で……でも、その翼は真っ黒に染まっていた。何も知識が無ければ、それはそう言う存在なんだと思ってしまいかねない程に。
……そして、私は……意を決して問いかけた。
「あ、貴女は……?」
『私の名はリィエル。時の宿命者 リィエル﹦オディウム』
「リィエル、オディウム……あっ、それって!」
彩ちゃんから受け取ったカード……その名前が、確かそう言う名前をしていたはずだ。勇くんの使うリィエルと似た姿をしているって。
『そう。私はアモルタとは違う、また別の存在』
「そ、そうなんですね……」
『ところで、貴女の名前は?』
「ま、松原 花音……です」
リィエルから名を聞かれた私は、まだ信じられない思いを持ちながらも自らの名を答えた。……まさか、私がヴァンガードのユニットと会話している、なんて。昨日までの私に説明したとしても、早々信じてくれないかもしれない。
『よろしくね、カノン。貴女の事は既に聞いてるわ』
「……ふぇ?」
『私と繋がったのは、サツキに続いて二人目よ。これも何かの巡り合わせなのかしら』
そ、そうなんだ……。颯樹くんから、話は既に通っていたんだね……。
『……不思議よね』
「え?」
『私、これでも目醒めて直ぐの頃は……有無を言わさず恋人を殺そうとしてた。ただ、誰も悲しまずに幸せな時間を取り戻したかっただけなのに』
「……」
『それが今では誰かを導く存在になって、そしてその存在が二人になるなんて。当時の私が聞いたら呆れても仕方ないわね』
……そ、そんな事が……。
『大丈夫、怖がらなくても良いわよ。まあこんな姿だし、ちょっと気が引けちゃうかしら?』
「あ、あはは……」
『さてと。……カノン、私の手を取って』
「え?」
『これから私たちはパートナー。私の全てを、貴女に教えてあげる』
そう言われて、私はリィエルの手に触れて……。
「花音ちゃん、花音ちゃん!」
「……あ、あれ? 彩ちゃん、勇くん、颯樹くん……私、今何が起きたの?」
「よ、良かったぁ……。急に静かになったからビックリしちゃった……」
花音ちゃんは微睡みから目覚める様に、ゆっくりと目を覚ました。未だに夢現な表情で、心ここに在らずと言った具合で……あれ?
「ん、花音。何かあった?」
「えっ?」
「涙が流れてるよ。……ちょうどハンカチ持ってるから、これで拭いて」
「あ、ありがとう……」
颯樹くんにそう言われて、花音ちゃんはハンカチを受け取った後に目尻を軽く撫でて涙を拭いた。そうして少しした後に、もう一つ渡したい物があると言って、颯樹くんはリビングを後にして行った。
「花音ちゃん、一体何があったの?」
私がそう質問すると、花音ちゃんは体験したままの全てを話してくれた。……あまりにも突拍子も無い事だし、全てが信じられる訳じゃなかったけど、彼女の涙は本物だった……。つまり、花音ちゃん自身がその場に居て、そう言う経験をしたと言う事実を物語っている。
「……恐らく、花音はリィエル﹦オディウムの記憶を見たんだと思うよ。その涙から察するのなら、ね」
「颯樹くん!」
「どう言う事だよ、記憶を見たって」
「どう言う事も何も……現在に至るまでのリィエル﹦オディウムの記憶、その全てを見たんじゃないかな。自分が宿命者として産まれ落ちた頃からの、ね」
……な、なんでそんな事……。
「そう言えば、リィエルが私に……『私の全てを、貴女に教えてあげる』って言ってた……」
「そして、その涙を流すのは……今回が初めてじゃない。過去にもあるんでしょ。似た様な経験が」
その言葉に花音ちゃんは静かに頷いた。
……か、花音ちゃん……私たちの知らない間に……。
「そうだ。お前確か、花音に追加で渡す物があるって言ってたけど……見つかったのか?」
「ちょうどね。まずは座らせてくれ」
そう言われて私たちは先程と同じ態勢になり、彼の話を聞く事にした。そうしてテーブルの上に置かれた物は……。
「……こ、これって……」
「お、おいそれ。俺の記憶が確かなら、今とんでもない需要があるヤツじゃないか?!」
「話が早いね。《決意と罪を抱く者 リィエル﹦アニムス》と《刻天想命 ウルト&ルエル》。各4枚セットだ。……これを花音に渡したい」
「い、良いの……? そんなカードを、私に……」
私が花音ちゃんの立場でも、全く同じ反応になったかもしれない。確かさっきまでカートンを剥いた後の片付けをしてた、って言ってたから、そこから出てきたんだろうけど……。
「良いよ。僕も同じのをもう1セット持ってるし、これは勇にも渡そうかと思ってたから、今のうちに渡しておくね」
「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて」
「悪いな、俺までお零れに預かるなんて」
「構わないよ、僕の方で持ってても持て余すだけだから」
あ、あはは……。
そんな話をした後に、四人で軽く新しく作ったデッキの試運転をしようと言う話になり……地下のファイトスペースを使って、暫し対戦を行なう運びになった。
勇くんや颯樹くんのアドバイスで、花音ちゃんのデッキが完成した。特に颯樹くんのアドバイスは……いつもより熱が入ってた気がする。
「みんな、ありがとう!」
花音ちゃんはそのデッキを大切そうに持ちながら、私たちにそういった。
「いいよ、まあ俺も色々と勉強になったしね」
「だね! 面白かった!」
私と勇くんはお礼を言う花音ちゃんに「気にしないで」という感じで声をかけた。
「花音」
「……颯樹くん?」
「リィエルの事、よろしく頼む」
「……うん!」
颯樹くんは真剣な眼差しで、花音ちゃんにそう伝えた。
リィエル=オディウムと繋がった者同士、何か思う事があるんだよね……。
「じゃあ花音ちゃん、私とファイトしない?」
そんな中、私はデッキケースを取り出して花音ちゃんにファイトを申し込んだ。
「……うんっ! やろう!」
花音ちゃんも調子が乗ってるのか、二つ返事で承諾の旨が返ってきた。
「じゃあ場所を用意するよ。勇、手伝ってくれ」
「オッケー」
颯樹くんは私たちの会話を聞くなり、対戦用にテーブルを整えてくれた。そしてお互い山札のシャッフルや、マリガンチェックを済ませて対戦準備を終えた。
「花音ちゃん、準備はいい?」
「うん! 負けないよ!」
私たちは前列中央に置いたカードに手を伸ばす。
これから花音ちゃんにとっても、私にとっても新しいステージが始まるんだ。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の本作品の更新予定日は未定となっておりますが、続報をお楽しみにお待ちください。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。
最後に……このお話の投稿日である、5月11日はハロー、ハッピーワールド!のドラム担当である、