ガトランティスVSゼントラーディ 作:増えることに飽きたプラナリア
「彼ら」がそこに居合わせたのは、全くの偶然だった
先の大戦を奇跡的に生き残った人類がその種を存続させるために実行しようとしている人類播種計画を始めるため、移民船団の航路の事前調査を目的として行動していたところをプレナータが指揮する船団と遭遇してしまったのだ
更に間の悪いことに彼らはオーバーロードが試射を行う瞬間に遭遇してしまったのである
SDFN級と呼ばれる、メガロード級の量産艦のうちの一つ「アレクサンドリア」内に設けられたブリーフィングルームのうちの一つ、大学の講堂を想起させるその部屋の中にアレクサンドリアの運用上の重要な地位に立つものが全て集められていた
彼らが見ていたのは先日撮影できたプレナータ艦隊の旗艦たるオーバーロードの試射によって爆砕される直前の小惑星帯の写真であった
『なんて火力だ、あの大きさでボドル旗艦に迫る火力じゃないか』
『信じられん…あんなものが生み出せるのか?』
ブリーフィングルームに集ったクルーたちが口々にオーバーロードの圧倒的な火力に慄く中、艦長を務める「クローディア・ラサール」少将の声がそれらを黙らせた
『現状、所属不明のこの超大型艦艇に関するあらゆる情報が不足しています。我々は、その正体を知る必要性がある』
と、そう話すクローディアは、続けて写真をオーバーロードの後方で待機する護衛艦隊と、その更に後方に位置するレッドアースと言う構図のものに切り替え、それを見たクルーたちはさらなる動揺を見せた
『まさか…あれはSDF-1…!?』
『ありえない! 我が軍の最新鋭艦だぞ!?』
『見ろ! メルトランディとゼントラーディの艦艇が同じ艦列の中にいるぞ!?』
『デ・カルチャー…信じられん。我らのような奇跡を起こせる異星人がいたとでもいうのか?』
と、皆が口々に狼狽え、中には混乱してしまっている者もいる中、クローディアは静粛に、と言うその一言で再びブリーフィングルーム内を静寂へと導き
『我々の人類播種計画実現のためにも、このような強大な武力を持つ集団の実態把握は不可欠です。…重ねて申し上げますが我々は彼らの正体を知る必要性が…責任があるのです』
と、強い言葉でそう断言して見せたクローディアに、居並ぶクルーたちは誰一人意見を挟まない。なぜならばそれは純然たる事実であり、クローディアと同様の想いを皆が持っていたからでもあった
『…よろしい。それではアレクサンドリアは新統合政府に対して現時点で収集した情報を送信後に、正体不明の集団とのコンタクトを試みます』
と、クルーたちの様子から問題が無いと言う確信を持ってクローディアは決定を伝え、このブリーフィングを終わらせる最後の言葉を発した
『これは先の大戦にも勝る人類の危機であり。そして…ともすれば光明をもたらす好機にもなりうる重要な岐路であると考えます。各員のより一層の働きを望みます』
と、クローディアはそう言ってクルーたちに敬礼し、ブリーフィングルーム内にいた全員が彼女の命令に対して直立、答礼を持って賛成の意を示すのだった
一方プレナータ艦隊は事態が判明して以来前衛艦隊の一部とエグゼクター級の早期警戒機による警戒網を構築して万全の警戒態勢を敷いており、損傷による影響で変形が不可能となったオーバーロードはレッドアースの艦首の手前に待機する形で最後衛に位置していた
そして艦隊司令官たるプレナータはレッドアースの運営を副官のドミトスに一任して護衛艦隊の指揮統制に専念しており、睡眠などの本当に最低限必要な時間以外は全ての時間ブリッジに張り付き、有事に備えていた
[……]
艦長席で支給されたチューブ型の栄養食に口をつけながら正面を睨むプレナータ。彼女は船団を預かる最高指揮官としての責務と、デメテーラとカイザの二人を含めた群れの同胞たちとの間に立てた誓いを果たさねばならないと言う信念を糧にして、並の指揮官型ならば過労で倒れる程の激務の中で職務に従事出来ていた
そんな彼女の姿に触発されて護衛艦隊の兵士たちも必ずやレッドアースを守り抜こうと士気を上げて職務に従事している。その頼もしい姿に安堵を覚えながらも、いまだに見えぬ正体不明な勢力の到来を、彼女はぬぐえぬ不安を持って待ち構えていた
そんな緊張の最中、ブリッジクルーの一人が緊張した声質で報告を上げた
[艦隊前方の空間に二次元振動を感知! 何者かがデフォールドして来ます!!]
その報告を聞いたデメテーラは飲みほしたチューブを握りしめたままに立ち上がると、もう片方の手を正面に突き出しながら命令を下す
[前衛艦隊現在位置にて待機! 全艦戦闘配置へ移行並びに全艦載機発艦用意!]
その命令は素早く艦隊へと伝わり、マクロス級は突撃形態へのトランスフォーメーションを始め、エグゼクター級並びに従来艦艇は一斉に砲門を開き、全ての火器のハッチが解放され、艦載機の第1陣を素早く発艦できるようにカタパルトが艦外に展開していく
その最中に護衛艦隊の正面に突如としてアレクサンドリアがデフォールドする
[あれは…文化の記憶データにあったマクロスのようだな?]
と、現れたアレクサンドリアを見たプレナータがそう言った直後、ブリッジクルーからこのような報告が上がった
[プレナータ司令官閣下、正面の艦よりフォールド通信が入っております。全周波数帯で呼びかけを行っている模様です]
[回線を私の正面に繋げろ]
と、プレナータは命令を下し、それにクルーは素早く命令を遂行し、プレナータの正面に空中投影ディスプレイが現れてそこにクローディアが映し出される。彼女は微かに眉を揺らしながら、プレナータに対してプレナータたちが使用する言語で
『こちらに交戦の意思はありません。私は新統合政府所属、第8調査艦アレクサンドリア艦長のクローディア・ラサール少将であります』
と前置きをした上で敬礼と共に自己紹介を行う。それを受け、プレナータもまた礼を示すために提督席から立ち上がり
[私は試験航海船団及び護衛艦隊司令官のプレナータ0434である。クローディアと申したな…?貴公らの目的はいったいなんだ?]
と、堂々たる立ち姿を以ってそう尋ねる。それにクローディアは手を下ろしてから答える
『我々は大規模な移住計画を推進しており、本艦はそのための事前調査をしに…』
その答えに目を細めたプレナータは
[移住計画だと…?]
とつぶやく。それを受けてクローディアは
『我々は争いを求めません。もし叶うのであれば戦いではなく、相互理解のための対話を…我々人類は求めます』
と、まっすぐにプレナータを見つめながらそう答える。それを受けてプレナータは即座に
[我らの群れもまた、争いを好まない。貴公の申出に対し、少なくとも私に否、と言うべき要素は存在しない]
と回答する、それにクローディアの表情に微かな安どと喜びの色が着き
『では…!』
と、プレナータに言葉をかけるが、彼女はそれを遮る形で
[ただし、我々はあくまでも群れの一部にすぎん。群れ全体の今後に影響しうる貴公の要請に軽々しく首を振る権限は我らには存在しない]
とはっきりと言い切ったプレナータに、クローディアもまた
『そうですね。我々も同様です』
とプレナータの言葉を肯定する。それを受けてプレナータは
[だが、対話のための窓口は常に開かれているべきだ。よって私は貴公らの事を一度群れに持ち帰り、今後の対応について協議するための猶予を求めたい]
と、妥協案を提示する。それにクローディアは頷き
『もちろん、願っても無いお話です』
と、妥協案への同意を示す
そこからプレナータとクローディアは次回の接触に向けての段取りを協議し合うこととなった。それは相応に長い時間を要したが、最終的に双方は半年後にクローディア側が発見した恒星の指定座標で再度の接触を行うことで合意を見た
[貴公のような強かな女と語らう時間は実に有意義だった。礼を言おう]
と、プレナータは別れ際に添うクローディアに声をかける。それにクローディアは笑顔で
『それは私も同じ思いです。もし叶うならば、また出会いたいものです。今度は互いに私的な話が出来ることを祈っています』
と答える。それにプレナータは快活に笑いながら
[同感だ]
と返す。このやりとりを別れの合図としてプレナータが率いる船団は直ちに群れへの帰還を決断。同時にクローディアもまた地球の新統合政府に事態を報告するため帰路に着いた
本来であればあり得ざる邂逅の果てに、何がもたらされるのか…それはまだだれにもわからない